蒸溜酒にはどんな種類がある?世界で広く飲まれている蒸溜酒の名前と特徴を紹介

蒸溜酒(蒸留酒)とは、醸造酒(醸造液)を蒸溜して造られるお酒の総称。醸造酒よりもアルコール度数や保存性が高いのが特徴で、ウイスキーやブランデー、焼酎などさまざまな種類があります。今回は、世界で飲まれている蒸留酒の種類をそれぞれの特徴とともに紹介します。
- 更新日:
まずは蒸溜酒とはどんなお酒なのかをおさらいしていきます。
蒸溜酒(蒸留酒)とは?

5PH / Shutterstock.com
世界で造られるお酒は、その製造方法によって「醸造酒」「蒸溜酒」「混成酒」の3種類に大別されます。蒸溜酒はこの大分類の1カテゴリーです。
◆醸造酒
穀類や果実などの原料を酵母でアルコール発酵させたもの。日本酒やビール、ワインなどがこれに該当します。アルコール度数は5〜15パーセント程度のものが多く、水などで割らずにそのまま飲むのが一般的。
◆蒸溜酒(蒸留酒)
原料をアルコール発酵させた醸造酒(醸造液)を蒸溜して造られるお酒。代表的な蒸溜酒に、焼酎やウイスキー、ブランデー、ウォッカ(ウオツカ)、ラム、ジン、テキーラなどがあります。
蒸溜とは、混合物の成分における沸点の違いを利用して精製・分離を行う手法。醸造液を熱すると、水よりも沸点の低いアルコールが先に蒸気になります。これを冷却して液体化したものが蒸溜酒。水の沸点よりも低い温度で熱すれば、水を残したままより純度の高いアルコール分を抽出することができます。
もとの醸造酒(醸造液)よりもアルコール度数が高くなるのが特徴で、多くの場合は加水してアルコール度数や酒質を整えたのちに出荷されます。
市販の蒸留酒のアルコール度数は20~60%程度が一般的。そのまま飲まれるほか、水やソーダで割ったり、カクテルのベースとして使われたりするなど多彩な飲み方で親しまれています。
◆混成酒
醸造酒や蒸溜酒をもとに、互いに混合したり、色素や香味料、糖類などを加えたお酒。梅酒やゆず酒などの甘味果実酒やリキュール類、酒精強化ワイン(フォーティファイドワイン)、フレーヴァードワインなどが代表的で、合成清酒、みりんなどもこのカテゴリーに分類されます。

JanTrautscholdPhotography / Shutterstock.com
なお、日本の酒税法では、「連続式蒸留焼酎」「単式蒸留焼酎」「ウイスキー」「ブランデー」「原料用アルコール」「スピリッツ」を「蒸留酒類」と定義していますが、世界では焼酎もウイスキーもブランデーも、酒税法でいう「スピリッツ」も、「スピリッツ(蒸溜酒)」と表現するのが一般的。この記事ではいったん日本の酒税法を離れ、世界で飲まれている多様な蒸溜酒の種類とその特徴を確認していきます。
蒸溜の歴史や蒸溜酒全般の特徴については、以下の記事でも詳しく紹介しています。
蒸溜酒の種類一覧

Igor Normann / Shutterstock.com
世界各地で造られている蒸溜酒の種類を一覧でみていきましょう。
【焼酎】
◇おもな産地:日本
◇おもな原料:穀類や芋類
【ウイスキー】
◇おもな産地:スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本など
◇おもな原料:大麦やライ麦、トウモロコシなどの穀類
【ブランデー】
◇おもな産地:フランス、イタリア、ペルー、チリほか
◇おもな原料:ブドウやリンゴなどの果実
【ウォッカ】
◇おもな産地:ロシアほか
◇おもな原料:小麦やライ麦、トウモロコシなどの穀類、ジャガイモなど
【ラム(ラム酒)】
◇おもな産地:カリブ海諸国
◇おもな原料:サトウキビの廃糖蜜や搾り汁
【ジン】
◇おもな産地:オランダ、ベルギー、イギリス、アメリカほか
◇おもな原料:トウモロコシ、大麦、ライ麦などの穀類、サトウキビ、ジュニパーベリーをはじめとしたボタニカルなど

master1305 / PIXTA(ピクスタ)
【テキーラ】
◇おもな産地:メキシコ
◇おもな原料:アガベ・アスール・テキラーナ・ウェーバー(リュウゼツランの一種)
【白酒(パイチュウ/バイジュウ)】
◇おもな産地:中国
◇おもな原料:トウモロコシ、小麦などの穀類
【ピンガ】
◇おもな産地:ブラジル
◇おもな原料:サトウキビ
【アクアビット(アクアヴィット)】
◇おもな産地:北欧諸国
◇おもな原料:ジャガイモ
【コルン】
◇おもな産地:ドイツ
◇おもな原料:小麦や大麦、ライ麦、ソバなどの穀類
蒸溜酒のおもな種類を産地や原料、特徴とともにチェック
ここから先は、おもな蒸溜酒について、産地や原料を再確認しながら、さらなる分類や特徴を深掘りしていきます。
焼酎

dorry / PIXTA(ピクスタ)
焼酎は、日本の伝統的な蒸溜酒。製法の違いで「単式蒸留焼酎」と「連続式蒸留焼酎」に大別されます。
「単式蒸留焼酎」とは、昔ながらの単式蒸溜機で蒸溜した焼酎で、かつては「乙類焼酎(焼酎乙類)」とも呼ばれていました。単式蒸留焼酎のなかも一定の条件を満たすものは「本格焼酎」と呼ばれ、原料由来の豊かな個性をたのしめる蒸溜酒として広く親しまれています。代表的な本格焼酎に、「芋焼酎」や「麦焼酎」「米焼酎」「泡盛」「黒糖焼酎」などが挙げられます。
伝統的な製法で造られる銘柄も多く、長崎県の「壱岐(いき)焼酎」、熊本県の「球磨(くま)焼酎」、鹿児島県の「薩摩焼酎」、沖縄県の「琉球泡盛」については、諸外国との間で地理的表示(GI)を相互保護する協定が交わされています。
一方、「連続式蒸留焼酎」は連続式蒸溜機で繰り返し蒸溜したクセの少ない焼酎のこと。「甲類焼酎(焼酎甲類)」とも呼ばれ、サワーやチューハイ(酎ハイ)のベースのお酒として親しまれています。
焼酎のアルコール度数は酒税法によって、「単式蒸留焼酎」は45度以下、「連続式蒸留焼酎」は36度未満と定められていますが、20度または25度のものが一般的。ストレートやロックのほか、水割りやお湯割り、ソーダ割りなど多彩な飲み方があります。
(参考)
国税庁|焼酎に関するもの
ウイスキー

Nishihama / PIXTA(ピクスタ)
ウイスキーとは、大麦やライ麦、小麦、オート麦、トウモロコシなどの穀類を原料に、糖化・発酵・蒸溜の工程を経て原酒を抽出し、木樽で熟成させた蒸溜酒のこと。世界各地で造られ、細かい定義は国によって異なります。
スコットランドの「スコッチウイスキー」、アイルランドの「アイリッシュウイスキー」、アメリカの「アメリカンウイスキー(バーボンウイスキーとテネシーウイスキー、ライウイスキー、コーンウイスキーなどが有名)」、カナダの「カナディアンウイスキー」、日本の「ジャパニーズウイスキー」を合わせて「世界五大ウイスキー」と呼ぶことがあります。
ウイスキー特有の琥珀色や香味は、木樽熟成に由来するもの。ストレートやロックで独特の風味をたのしむ人も多いですが、アルコール度数が40〜43度程度とやや高めのため、水割りや炭酸で割ったハイボールにして飲まれることもあります。
なお、ウイスキーの原酒は、大麦麦芽(モルト)を原料に単式蒸溜機(ポットスチル)で2回または3回蒸溜した「モルトウイスキー」と、トウモロコシや小麦、大麦、モルトを主原料に連続式蒸溜機で繰り返し蒸溜した「グレーンウイスキー」に大別されます。これらの原酒をブレンダーがブレンドすることで多彩なウイスキーが生まれています。
ブランデー

Billion Photos / Shutterstock.com
ブランデーとは、ブドウやリンゴなどの果実を原料に造られる蒸溜酒。大きくブドウが原料の「グレープブランデー」、リンゴやサクランボを原料にした「フルーツブランデー」に分けられます。
ブランデーの個性は国や産地によって異なり、ウイスキーと同様に木樽熟成を行う琥珀色で芳醇な味わいのものから、樽熟成を行わない無色透明でフルーティーな味わいのものまで種類はさまざま。アルコール度数は40度程度が主流で、ストレートやロック、水割り、ソーダ割り、カクテルなど、幅広い飲み方がたのしめます。
おもな産地はフランス。ブドウを原料に造られる「コニャック」と「アルマニャック」、リンゴを原料にした「カルバドス」は世界三大ブランデーに数えられ、いずれもA.O.C. (Appellation d’Origine Contrôlée/アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ)と呼ばれるフランスワインの認証制度によって厳しく統制管理されています。
広義では、ワインを造ったあとのブドウの搾りかすで造るフランスの「マール」やイタリアの「グラッパ」、スペインの「オルホ」などの「粕取りブランデー」、基準に満たなかったブドウや澱引き後に余ったワインを蒸溜して造られるフランスの「フィーヌ」、南米のペルーやチリでブドウを原料に造られる「ピスコ」などもブランデーの仲間に含まれます。
ウォッカ

DumitruVeres / Shutterstock.com
ウォッカ(ウオツカ/ウオッカ)は、おもにロシアやポーランド、スウェーデン、アメリカなどを産地とする蒸溜酒。小麦やライ麦、トウモロコシなどの穀類、ジャガイモなどの芋類を糖化・発酵・蒸溜し、白樺などの活性炭でろ過して造られる「世界4大スピリッツ」のひとつです。
無色透明でクセのないレギュラータイプと香草や柑橘類などで香りづけをしたフレーヴァードタイプに大別され、いずれもカクテルのベースとして親しまれています。
ラム(ラム酒)

Paulo Vilela / Shutterstock.com
ラム(ラム酒)とは、サトウキビの糖蜜や搾り汁を原料に造られるカリブ諸島(西インド諸島)生まれの蒸溜酒。「世界4大スピリッツ」のひとつで、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』でカリブの海賊たちがガブ飲みしていたお酒として話題を集めました。アルコール度数は40〜50度程度とやや高め。甘い香りが特徴です。
色の違いで「ホワイトラム」「ゴールドラム」「ダークラム」、風味の違いで「ライトラム」「ミディアムラム」「ヘビーラム」のように分類され、淡色または無色透明で軽快な味わいのラムはおもにカクテルベースに、樽熟成された風味豊かなラムは洋菓子の風味づけにも使われます。
ジン

5PH / Shutterstock.com
ジンは、大麦やライ麦などの穀類、ジャガイモなどの芋類で造った純度の高いスピリッツに、ジュニパーベリーなどのボタニカルで風味づけをしたお酒。こちらも世界4大スピリッツのひとつです。
ジンのアルコール度数は40〜47度程度とやや高め。ハーブの香りとスッキリとした味わいが特徴で、「ジントニック」や「ジンバック」「マティーニ」など有名カクテルのベースとしても広く親しまれています。
ちなみに、ジンの発祥はオランダですが、世界の主流となっている「ドライジン」はイギリス生まれ。近年のクラフトジンブームで、日本でも和のボタニカルを使用した銘柄が注目を浴びています。
テキーラ

Igor Normann / Shutterstock.com
テキーラはアガベ(アガヴェ)という多肉植物を原料に造られるメキシコ原産の蒸溜酒で、世界4大スピリッツのひとつ。「コニャック」や「アルマニャック」のように地理的表示(GI)が保護されていますが、メキシコ国内の指定5州でしか製造が認められておらず、ほかにも「アガベ・アスール・テキラーナ・ウェーバー(ブルーアガベ)を51%以上使用」「蒸溜は2回以上」「アルコール度数は35〜55%」など厳格な規格が設けられています。
原料の使用割合と熟成期間によって数種類分類され、ショットで飲むスタイルからカクテルまで、飲み方も多彩です。
白酒(パイチュウ/バイジュウ)

kunkun2018 / Shutterstock.com
白酒は中国の伝統的な蒸溜酒で、宴席には欠かせないポピュラーなお酒。モロコシの一種で「高粱(コーリャン)」と呼ばれるイネ科の一年草を中心に、小麦や豆類、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモなどさまざまな原料を使用し、「個体発酵」という中国独自の製法で造られます。
無色透明の見た目と強い香りが特徴で、アルコール度数は50度以上と高め。生産地は中国全土に分布しており、土地特有の多様な個性がたのしめます。
ピンガ(カサッシャ/カシャーサ)

RHJPhtotos / Shutterstock.com
サトウキビの搾り汁を原料としたブラジル原産の蒸溜酒。ブラジルにはピンガの定義を記した法律が存在し、厳格な条件を満たさなければ「ピンガ(カサッシャ/カシャーサ)」を名乗ることができません。
アルコール度数は38~48度。同じサトウキビを原料とするラム酒に似ていますが、ピンガのほうがより重厚な味わいでクセが強めです。
ブラジルの国民的カクテル「カイピリーニャ」のベースとして有名ですが、ストレートやソーダ割りでもたのしめます。
その他の蒸溜酒

RHJPhtotos / Shutterstock.com
ほかにも多彩な蒸溜酒が存在します。
【アクアビット(アクアヴィット)】
アクアビットは、北欧の代表的な蒸溜酒。ジャガイモを主原料としたスピリッツに、スパイスで風味づけをして造られます。アクアビットとは、「生命の水」を意味するラテン語「Aqua Vitae」に由来。
【コルン】
「穀物」を意味する「コルン」は、小麦、大麦、オーツ麦、ライ麦、ソバなどの穀物を原料に造られるドイツ特産の蒸溜酒。香味づけをいっさいしていないので、クセのない味わいが魅力です。
変わり種でいうと、ココヤシの樹液を原料にしたフィリピンの「ランバノグ」、スリランカの「アラック」などがあります。「アラック」とは東南アジアや中近東、北アフリカなどの広範囲で造られる蒸溜酒の総称で、ココヤシのほかにもサトウキビや米など、地域ごとにさまざまな原料が使われます。
蒸溜酒は醸造酒(醸造液)を蒸溜して造られるお酒の総称。国や地域ごとに多彩な蒸溜酒が造られており、同じ蒸溜酒でも製法や貯蔵方法、熟成年数などによってさらに細かく分類されます。比較的アルコール度数が高いため、割り材を加えたりカクテルにしたりと幅広い飲み方がたのしめるので、いろいろ飲み比べて、とっておきの1本を探してみてください。
