焼酎の「産地呼称(地理的表示・GI)」って? 個性の異なる4カ所の生産地域を知ろう
地理的表示(GI)とは、世界貿易機関のトリプス協定によって認められた産地保護指定のこと。「正しい産地」で「一定の基準」を満たして造られたことを示すもので、焼酎では現在4つの地域の焼酎が承認されています。ここでは、各産地の焼酎の定義や特徴、おすすめ銘柄を紹介します。
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目次
WTOに認められた国内4地域の焼酎とは
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トリプス協定に基づき、知的財産権のひとつとして地理的表示(GI:Geographical Indications) を焼酎の4つの生産地域で認められています。まずは地理的表示(GI)に関する基本情報をみていきます。
WTOに認められたGI指定焼酎は国内で4地域だけ
焼酎のなかには、世界貿易機関(WTO)の「トリプス(TRIPS)協定」により、知的所有権のひとつとして地理的表示(GI:Geographical Indications)が認められている焼酎の生産地域があります。
地理的表示とは、商品に使用範囲が保護された生産地名称を用いることで「正しい産地であること」や「一定の基準を満たした品質であること」を示すもの。ウイスキーのスコッチやバーボン、ブランデーのコニャック、ワインのボルドーやシャブリ、シャンパーニュなどが有名で、これらはWTO加盟国の領域内では知的財産権が保護されています。
WTOの「トリプス協定」によって地理的表示が認められているということは、これらのお酒と同じく保護すべき個性・品質であることが認められているということ。つまり、日本の4カ所の焼酎生産地域は、名だたるお酒と肩を並べる存在だと世界的に認められているのです。
今後増える可能性もありますが、2022年5月時点で地理的表示が認められている焼酎は、「壱岐焼酎」「球磨焼酎」「薩摩焼酎」「琉球泡盛」の4つ。これらの焼酎は国内外から注目を集めています。
WTOのトリプス協定によって認められた地理的表示は、あくまで海外で、それもWTO加盟国間でその地理的表示を保護するためのもの。じつは日本国内でもさらなる保護に向けた働きかけが行われています。
日本独自の地理的表示についても知っておこう
WTOで地理的表示が認められている4カ所の焼酎生産地域は、日本国内においても、国税庁長官によって地理的表示の指定を受けており、不正競争防止の観点から地理的表示を保護したり、日本のお酒の地理的表示が適切に保護されるよう国際交渉を通じて働きかけたりといった国税庁のケアが受けられるのです。
日本国内における酒類の地理的表示については、「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」に規定されていて、名称だけでなく原料や製法等についても細かく言及されています。国税庁が定める製法の基準を満たさないものは、たとえ4産地で製造された焼酎だとしても、産地を示す地理的表示を使用することはできません。
地理的表示指定焼酎(1):長崎県の「壱岐焼酎(いきしょうちゅう)」
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「壱岐焼酎」は、麦焼酎発祥の地といわれる長崎県の壱岐島(いきのしま)で育まれた麦焼酎。その定義や特徴、おすすめ銘柄を紹介します。
壱岐焼酎の定義と特徴
壱岐焼酎は、大麦と米麹、壱岐市内で採取した水を原料に造られる本格麦焼酎です。麦と米麹を2:1の割合で配合し、仕込みから瓶詰めまでの工程を壱岐市内で行ったものしか、壱岐焼酎の名を冠することはできません。
大きな特徴は、麦のやさしい香りと米麹由来の甘味。仕込みや割り水に使われるミネラル豊富な地下水も、壱岐焼酎の厚みのある味わいとキレのよさに一役買っています。
壱岐焼酎のおすすめ銘柄
壱岐焼酎のおすすめ2銘柄を紹介します。
天の川(あまのかわ)
出典:天の川酒造株式会社ホームページ
常圧蒸溜と貯蔵にこだわる天の川酒造の主要銘柄。芥川賞作家の開高健が愛したことで知られるこの焼酎は、麦の風味と米の甘味に加え、コクと旨味が感じられる逸品です。定番の「天の川」のほか、地元産の米と大麦で醸した「天の川 壱岐づくし」、樫樽熟成の「天の川 金印」、30年古酒「天の川 VERY OLD」もおすすめです。
製造元:天の川酒造株式会社
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むぎ焼酎「壱岐」
出典:玄海酒造株式会社ホームページ
壱岐島で一番高い山の麓で蔵を営む玄海酒造が明治33年(1900年)の創業当初から大切に育んできたのが、むぎ焼酎「壱岐」です。約500年の伝統を持つ壱岐焼酎独特の製法で醸される雫は、麦の風味と米由来の天然の甘味が特徴。その軽快な香りとまろやかな味わいは、どんな料理とも絶妙にマッチします。
製造元:玄海酒造株式会社
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地理的表示指定 焼酎(2):熊本県の「球磨焼酎(くましょうちゅう)」
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「球磨焼酎」は、熊本県内有数の米処、人吉球磨地方に伝わる米焼酎。その定義や特徴、おすすめ銘柄を紹介します。
球磨焼酎の定義と特徴
球磨焼酎は、良質な米の産地で知られる熊本県人吉球磨地方で古くから飲まれてきた本格米焼酎。国内産の米と国内産米から造った米麹、人吉市または球磨郡で採取した水のみを使用し、仕込みや蒸溜、貯蔵、瓶詰めまでの工程を人吉球磨地方で行った信頼のブランドです。
球磨焼酎の特徴は、米由来のさわやかな香味とまろやかな甘味。冬季の平均気温が低く寒暖差の大きいこの地域の気候と、球磨盆地を流れる球磨川水系の軟水が、このような魅力を際立たせています。
球磨焼酎のおすすめ銘柄
球磨焼酎のおすすめ2銘柄を紹介します。
武者返し(むしゃがえし)
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明治23年(1890年)創業の寿福酒造場が手がける、熊本県産ヒノヒカリ100%使用の米焼酎。昔ながらの常圧蒸溜で抽出した原酒を2年間じっくり熟成。まろやかでやさしい味わいに、コクや旨味も兼ね備えた温かみのある1本です。甘味やまろやかさを存分にたのしむには、お燗がおすすめ。
製造元:合資会社寿福酒造場
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吟香鳥飼(ぎんかとりかい)
400年前から人吉で酒造りを営んできた老舗蔵元・鳥飼酒造が、精魂込めて育む唯一無二の米焼酎。精米歩合を58%まで磨き上げた吟醸麹と自家培養酵母で醸されるこの酒の特徴は、まろやかな味わいと吟醸酒を思わせる華やかで上品な香りにあります。
製造元:鳥飼酒造株式会社
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地理的表示指定 焼酎(3):鹿児島県の「薩摩焼酎(さつましょうちゅう)」
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「薩摩焼酎」は、鹿児島県産の良質で新鮮なさつまいもで造られる芋焼酎。その定義や特徴、おすすめ銘柄を紹介します。
薩摩焼酎の定義と特徴
薩摩焼酎は、鹿児島県産のさつまいもと鹿児島県内で採水した水を原料に、鹿児島県内で製造・瓶詰めされた本格芋焼酎。一般的に、米焼酎には米麹、麦焼酎には米麹や麦麹を使いますが、芋焼酎にはおもに米麹や芋麹を用います。芋麹を使って芋100%の薩摩焼酎を造る場合は、麹の原料となるさつまいもも鹿児島県産でなければなりません。
※上記「鹿児島県内」に奄美市と大島郡は含まれません
シラス台地が広がる鹿児島県は、さつまいもの栽培に適した土地。その生産量は日本一を誇ります。またこの地では、明治時代に酒税法が施行されたのを契機に、黒瀬杜氏や阿多杜氏といった杜氏集団が活躍し、焼酎の製造技術を確立。その技を現代に受け継ぎ、官民一体となってさらなる研鑽を積んできました。
良質で新鮮なさつまいもと長年磨き上げられた技術で醸される薩摩焼酎の魅力は、華やかで芳醇な香りと甘く濃厚な味わいにあります。もちろん、香味やコク、キレなどは蔵によってさまざまです。
薩摩焼酎のおすすめ銘柄
薩摩焼酎の一押しは「魔王」「村尾」「森伊蔵」に代表されるプレミアム芋焼酎ですが、入手が困難な銘柄が多いため、比較的手に入りやすいもののなかから異なる麹で仕込んだ3銘柄をピックアップしました。飲みやすさで選ぶなら白麹仕込み、芋の個性を堪能するなら黒麹仕込み、華やかな香りをたのしむには黄麹仕込みがおすすめです。
薩摩宝山(さつまほうざん) 白麹仕込
1845年(弘化2年)の創業の西酒造が手がける芋焼酎「宝山」ブランドの原点ともいうべきロングセラー銘柄。鹿児島県産の良質な黄金千貫と国産米の白麹を原料に、飲みやすさのなかにもしっかりとした芋の個性を封じ込めた、やわらかな飲み口の1本です。
製造元:西酒造株式会社
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黒麹仕立て 桜島(さくらじま)
出典:本坊酒造株式会社ホームページ
濃厚でとろりとした甘さと焼き芋を思わせる香ばしさがたまらない、黒麹仕立ての薩摩焼酎。黄金千貫の深い味わいをまろやかな口当たりとともに堪能したい人は、厳選した原酒をじっくり貯蔵・熟成させた「別撰熟成 桜島」もおすすめです。
製造元:本坊酒造株式会社
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海
出典:大海酒造株式会社ホームページ
芋焼酎「さつま大海」で知られる大海酒造が、地元の契約農家で栽培されたベニオトメを原料に減圧蒸溜で造りあげた黄麹仕込みの芋焼酎。その特徴はなんといっても、クセの少ない飲みやすさとフルーティーな香りにあり。焼酎ビギナーやアルコールを飲み慣れていない人も安心してたのしめます。
製造元:大海酒造株式会社
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地理的表示指定 焼酎(4):沖縄県の琉球泡盛(りゅうきゅうあわもり)
Sean Pavone/ Shutterstock.com
「琉球泡盛」は、琉球地方に古くから伝わる蒸溜酒。その定義や特徴、おすすめ銘柄を紹介します。
琉球泡盛の定義と特徴
琉球泡盛は、500年以上前に琉球地方に伝来したといわれる沖縄の特産物。酒税法では単式蒸溜焼酎(本格焼酎)に分類されますが、その製法は独特です。
琉球泡盛の原料は米。同じく米から造られる球磨焼酎が国産米を使用するのに対して、琉球泡盛に米の産地に関するルールはなく、多くはタイ米が使われます。また、黒麹菌を用いて原料の米をすべて米麹にしてから、一度きりの仕込みで発酵させる「全麹仕込み」も琉球泡盛ならではの特徴です。このような独特の製法によって、濃厚な香りと芳醇な味わいが生み出されるのです。
こうして仕上がった泡盛のうち、沖縄県の水を使用し、発酵から蒸溜、貯蔵、瓶詰めまでの全行程を県内で行ったものだけに、琉球泡盛のブランド名を冠することが許されています。
なお、3年以上熟成させた泡盛は「古酒(クース)」と呼ばれ、愛飲家に親しまれています。
琉球泡盛のおすすめ銘柄
琉球泡盛のおすすめ2銘柄を紹介します。
残波(ざんぱ)
出典:有限会社比嘉酒造ホームページ
沖縄本島の絶景スポット、残波岬の近くで蔵を営む比嘉酒造の冠銘柄。人気商品に、黒麹仕込みならではの深い味わいとコク、芳醇な香りで人気の「残波ブラック30度(通称「ザンクロ」)」、フルーティーな香りと軽快な味わいが魅力の「残波ホワイト25度(ザンシロ)」などがあります。
製造元:有限会社比嘉酒造
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瑞泉(ずいせん)
造り手の瑞泉酒造は、琉球王朝時代に王府から泡盛製造を認められていた首里三箇をルーツに持つ老舗蔵元。その主力銘柄である「瑞泉」は、長年受け継がれてきた伝統製法で造られた原酒を、貯蔵年数や貯蔵法別に展開しています。定番商品「30%瑞泉」は、ふくよかな風味と芳醇な旨味が特徴のロングセラー。水割りやソーダ割りはもちろん、カクテルベースにもおすすめです。
製造元:瑞泉酒造株式会社
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地理的表示指定焼酎は、一定の品質を満たしていることが認められた世界レベルのお酒。ここで紹介した銘柄以外にもおいしい4地域の焼酎はたくさんあるので、いろいろ飲み比べてとっておきの銘柄を見つけてみてください。