沖縄の「泡盛」とは?一般的な焼酎との違いから原料や製法、度数、香味の特徴まで徹底解剖
「泡盛」とは、琉球王朝時代から親しまれてきた沖縄を代表する蒸溜酒。酒税法上は焼酎に分類されますが、一般的な焼酎より長い歴史を持っています。今回は、泡盛の定義や歴史、アルコール度数、香りや味わいの特徴、一般的な焼酎の違い、おいしい飲み方などを紹介します。
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「泡盛」は酒税法では焼酎に分類されるお酒で、ある条件を満たした商品のみ、「琉球泡盛」という地理的表示が認められています。まずは「泡盛」の基本情報と一般的な焼酎との違いからみていきましょう。
「泡盛」とはどんなお酒? 基本情報を確認
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「泡盛」とはどんなお酒なのか、まずは酒税法上の分類や歴史、名前の由来、アルコール度数、香りや味わいなどの特徴を紹介します。
「泡盛」は酒税法上「単式蒸留焼酎」に分類される
「泡盛」とは、黒麹菌で造った米麹のみを原料に造られる沖縄の伝統的な蒸溜酒で、酒税法上は焼酎に分類されます。
焼酎はさらに「単式蒸留焼酎」と「連続式蒸留焼酎」に大別されますが、泡盛は芋焼酎や麦焼酎、米焼酎などと同じ「単式蒸留焼酎(焼酎乙類)」の一種とされています。
「単式蒸留焼酎」とは、かんたんにいうと伝統的な「単式蒸留」によって造られる焼酎のことです。昔ながらの「単式蒸留機」で1度(または2度)だけ蒸溜される「単式蒸留焼酎」は、「連続式蒸留機」で繰り返し蒸溜される「連続式蒸留焼酎」に比べて、原料の個性が残りやすいという特徴があります。
酒税法では、「単式蒸留焼酎」に細かい定義を設けていますが、ここでは詳述を省きます。「単式蒸留焼酎」の特徴や魅力を知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。
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「泡盛」の歴史
「泡盛」のルーツには諸説あり、少し前まではタイを経由して15世紀ごろに伝わったという説が一般的でしたが、近年は東南アジアと福建の2方向からその製法が伝わったとする説が有力視されています。
九州で焼酎造りが始まったのは16世紀ごろといわれているので、泡盛のほうが歴史が古いということになります。
沖縄で泡盛造りが始まった時期も明らかにされていませんが、14世紀から19世紀にかけて全1706巻が編纂された朝鮮の史書「李朝実録」に、文明9年(1477年)ごろに琉球本島で蒸溜酒が製造されていたという記述が残されています。
また、天文3年(1534年)に成立した「使琉球録(しりゅうきゅうろく)」のなかに「琉球国には南蛮酒と称し、清烈にして芳、佳味なる酒を醸す」といったくだりがあり、このあとに蒸溜酒を連想させる記述が続くことから、1530年代にはすでに質の高い蒸溜酒が造られていたことがうかがい知れます。
18世紀になると、泡盛造りは赤田、崎山、鳥堀の3町からなる「首里三箇(さんか)」にて、琉球王府の監督の下で行われるようになります。泡盛の製造を認められていたのは、30人(のちに40人)の焼酎職のみ。原料は王府から支給されていましたが、できあがった泡盛のうち、一定量は上納するという決まりがあったそう。
泡盛造りが琉球王府の管理下を離れたのは、1876年以降のことです。
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「泡盛」の名前の由来
「泡盛」の語源には諸説あり、以下の4説が語り継がれています。
◇古くは米と粟(あわ)を原料に造られていたため、「粟盛り」から転じて「泡盛」となったという説
◇古代インドの文語であるサンスクリット語で酒を「アワムリ」と呼んでいた。それが伝来し、「泡盛」に転じたという説
◇蒸溜後の酒が盛んに泡を立てていたことから、あるいは、酒器に注いだ時の泡立ち具合をアルコール度数の目安にしていたことから「泡盛」と命名されたという説
◇徳川幕府に献上する際、ほかの九州の蒸溜酒と区別し、商品価値を高めるために薩摩藩が命名したという説
なお、「泡盛」という名前が公式文書に登場するようになったのは、寛文11年(1671年)以降のこと。由来はどうあれ、このころに命名されたのは間違いなさそうですね。
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「泡盛」のアルコール度数はどのくらい?
一般的な焼酎のアルコール度数は20度と25度が主流ですが、「泡盛」は30度前後とやや高め。
25度程度の商品もありますが、熟成年数が高いものになると、43度程度のものも多く流通しています。
なお、「単式蒸留焼酎」は酒税法において「アルコール分(アルコール度数)が45度以下のもの」と定義されていますが、令和2年(2020年)の租税特別措置法等(間接税等関係)の改正によって特例が認められ、アルコール度数46度以上でも泡盛の製法で造られたものなら、容器や包装に「泡盛」の呼称を表記できるようになりました。
沖縄の特産品のなかには、泡盛の製法で造られるアルコール度数45度以上の蒸溜酒が存在しますが、酒税法が定める「単式蒸留焼酎」の条件を満たしていないことから、以前は「原料用アルコール(スピリッツ類)」に分類されていました。そうしたお酒も、この例外表示認定によって晴れて「泡盛」を名乗れるようになったのです。
ちなみに、与那国島でのみ製造が認められた「花酒」と呼ばれる泡盛のアルコール度数は60度。ハレの日のお酒として親しまれているので、ぜひ一度味わってみてください。
(参考資料)
e-GOV法令検索|酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律施行規則(酒類業組合規則) 第11条の5
「泡盛」の香りや味わいの特徴
「泡盛」は、黒麹菌で造った米麹のみを原料としているため、香味成分が多く濃醇な味わいに仕上がる傾向があります。米麹由来の香りは多くの蔵元が表現に迷うほど複雑かつふくよかで、バニラのような甘い香りといわれることも。熟成酒が多いことも泡盛ならではの特徴で、深い旨味とコク、芳醇な香りが味わえます。
泡盛の香りや味わいの特徴を知るには、沖縄国税事務所と沖縄県工業技術センター、琉球大学、沖縄工業高等専門学校でまとめた「泡盛フレーバーホイール」が役に立ちます。
泡盛フレーバーホイール(国税庁サイト内)
「泡盛」と一般的な焼酎の違いは?
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「泡盛」に明確な定義はありませんが、一般的に以下のような特徴を持つお酒を指します。
◇原料に米を用いる
◇種麹に黒麹菌を用いる
◇仕込みは一度きり、全麹仕込みで行う
◇単式蒸溜機で蒸溜する(「単式蒸留焼酎」である)
ここから先は、芋焼酎や麦焼酎、米焼酎に代表される泡盛以外の「単式蒸留焼酎」との違いをみていきます。
原料米の違い
「泡盛」の主原料はお米。同じくお米を主原料に使った焼酎に米焼酎がありますが、九州以北で作られる米焼酎がおもに国産米(ジャポニカ米)を使用するのに対して、泡盛は伝統的にタイ米(インディカ米)を使います。
これは大正時代に始まり、昭和になって定着したもので、その理由としては、温度管理のしやすさや、作業のしやすさ、アルコール収穫量の多さなどが挙げられます。
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使う種麹の違い
麹造りに用いる種麹に「黒麹菌」を使うのが、「泡盛」の大きな特徴です。
黒麹菌は、雑菌の繁殖を抑えるクエン酸を発酵段階で大量に生成するため、沖縄のような高温多湿な環境下でのお酒造りに適しているといえるでしょう。
一般的な焼酎では、めざす酒質によって白麹菌や黒麹菌、黄麹菌などを使い分けますが、泡盛に黒麹菌以外の麹菌が使われることはありません。
なお、黒麹菌を使うと、芳醇な香りと力強いコクや旨味を持つお酒に仕上がる傾向があります。
造り方の違い
「泡盛」と一般的な焼酎では、仕込みの方法が大きく異なります。
九州以北の焼酎の仕込みは、麹に水と酵母を加えて発酵させる「一次仕込み」と、一次もろみに芋や麦、米などの主原料を加えて発酵させる「二次仕込み」の2段階で行うのが一般的です。一方、泡盛は原料の米をすべて麹にして、一度の仕込みで発酵させる「全麹仕込み」で造られます。
仕込みを二度に分けず、雑菌が繁殖する前に短期間で発酵を終わらせるのは、高温多湿な地域ならではの知恵といえるでしょう。
もっと知りたい!泡盛の基礎知識
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ここからは、「泡盛」をおいしく味わうために知っておきたいプラスαの情報を紹介します。
「泡盛」と「琉球泡盛」は同じもの?
「泡盛」のなかでも、以下の条件を満たしたもののみ、ラベルなどに「琉球泡盛」と明記することができます。
◆麹はAspergillus luchuensis(黒麹菌の学名)に属する黒麹菌の生育した米麹のみを使用していること
◆沖縄県内で採水した水のみを使用していること
◆発酵、蒸溜、貯蔵および瓶詰め(容器詰め)の工程を沖縄県内で行っていること
「琉球泡盛」は、地理的表示(GI)が認められた地域ブランドのひとつ。お酒の地理的表示は「正しい産地であること」「一定の基準を満たした品質であること」を示すもので、国内では国税庁長官によって指定されます。
「琉球泡盛」と同じく地理的表示が認められた焼酎に、「壱岐焼酎」「球磨焼酎」「薩摩焼酎」があります。これらはすべて国内のみならず、WTO(世界貿易機関)のTRIPS(トリプス/トリップス)協定においても認められていて、世界100カ国以上の国で知的財産権が保護されています。
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「泡盛」は大きく「古酒(クース)」と「新酒(一般酒)」に分けられる
「泡盛」は「古酒(クース)」と「新酒(一般酒)」に大別されます。それぞれの特徴をみていきましょう。
古酒(クース)
泡盛のなかでも、3年以上貯蔵したものを「古酒(クース)」と呼びます。
泡盛などの「単式蒸留焼酎」は貯蔵後、時間の経過とともに熟成香と呼ばれる香りが表れ、味わいもやわらかく変化します。とりわけ常圧蒸溜した泡盛は、熟成の時を重ねるごとに黒麹菌の酵素によって米から出る成分に由来するバニラのような香りや松茸を想わせる香りが調和し、複雑かつ濃厚な奥深い香りに仕上がります。
沖縄には貯蔵に南蛮甕(なんばんがめ)を使って年単位で寝かせた長期熟成酒を味わう文化があります。なかには100年を超えるものもあるそうで、おいしく育まれた古酒は年代物のウイスキーやブランデーさながらの評価を得ています。
泡盛の古酒の多くは43度前後とアルコール度数がやや高めですが、長期熟成酒ならではの芳醇な香りと深みのある味わい、まろやかな口当たりは、一度飲むとクセになります。
なお、泡盛の古酒は「仕次ぎ」という手法によって、一般家庭でもおいしく育てることができます。古酒作り用の甕や仕次ぎ用の泡盛も流通しているので、興味がある人は以下の記事を参考に試してみてください。
新酒(一般酒)
一般的な焼酎の「新酒」というと、蒸溜して間もないフレッシュで荒々しい酒質のものをイメージしますが、泡盛では貯蔵年数が3年以内のものを「新酒」と呼んで「古酒」と区別しています。「一般酒」と表記されていたり、単に「泡盛」と呼ばれたりすることもあります。
新酒のアルコール度数は30度程度が一般的。泡盛らしさを引き出した個性の強いものから、フルーティーで飲みやすい銘柄まで幅広くそろっています。
新酒として販売されている商品のなかには、古酒をブレンドしたものや、仕次ぎ用の商品などもあります。
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「泡盛」のおいしい飲み方
「泡盛」はロックや水割り、お湯割り、炭酸割りなど、さまざまな飲み方で味わえるお酒です。まずは定番の飲み方で銘柄独特の香味をたのしんで、料理とのペアリングを堪能してください。銘柄によっては、蔵元一押しの飲み方が存在するので、商品ごとに飲み方を変えてもよいでしょう。
定番の飲み方のほか、お好みの割り材を加えてもおいしくたのしめます。おすすめは、シークヮーサーやマンゴーなどのフレッシュジュース、黒ホッピー、牛乳、そしてコーヒー。なかでも泡盛のコーヒー割りは、那覇市の久米仙酒造が「泡盛珈琲」なる商品で人気に火をつけ、のちに大手コンビニが沖縄限定商品をリリースして大ヒット。泡盛の飲み方の新定番となりました。
また、泡盛はカクテルのベースとしても重宝します。泡盛モヒートや泡盛トニックなど、定番カクテルのベースを泡盛に変えるだけでおいしいカクテルを作れるので、機会があったら試してみてくださいね。
「泡盛(琉球泡盛)」は沖縄を代表する名産品であり、日本が世界に誇るお酒です。悠久の歴史に想いを馳せながら、まろやかで深いコクのある泡盛を、さまざまな飲み方でじっくりとたのしんでみてはいかがでしょうか。