アガベ(アガヴェ)とは? テキーラの原料で知られる植物の魅力を大解剖

アガベ(アガヴェ)とは? テキーラの原料で知られる植物の魅力を大解剖
出典 : FCHM / Shutterstock.com

アガベとは、メキシコを中心とした中南米などに分布する常緑の多肉植物。テキーラの原料としても知られています。今回は、アガベの特徴やテキーラに使われる品種、近年話題のアガベシロップをはじめとした多彩な用途など、アガベという植物を徹底解剖します。

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アガベは、世界4大スピリッツのひとつ、テキーラを造るために必要不可欠な植物。「テキーラ」と名乗るために必ず使わなければならない品種についてはもちろん、テキーラ以外の使いみちにもスポットを当てていきます。

アガベとはリュウゼツラン(竜舌蘭)とも呼ばれる多肉植物

アガベはリュウゼツラン属の多肉植物

Ann May Snz / Shutterstock.com

アガベとはどのような植物なのか、まずは基本的な情報からチェックしていきましょう。

アガベの特徴

アガベは、キジカクシ科(クサスギカズラ科)※リュウゼツラン属に分類される数百種の多肉植物の総称。トゲのついた葉を竜の舌にたとえ、和名で「リュウゼツラン」「アオノリュウゼツラン」と名づけられた品種もアガベの一種です。

メキシコを中心に、北アメリカ南部から中央アメリカ、南アメリカ大陸北部、西インド諸島などの乾燥した場所に自生しているほか、園芸品種としてさまざまなバリエーションが作り出され、観葉植物としても人気を集めています。

品種にもよりますが、アガベの多くは暑さと乾燥に強く、耐寒性もあって丈夫。常緑の多年草で、花をつけるにはとても長い年月がかかります。ロゼット(放射状に並んだ葉)の中心から花茎を伸ばして花を咲かせ、咲き終わると株は枯れてしまうため、「100年(1世紀)に一度だけ花を咲かせる」という意味で「センチュリープラント(センチュリーフラワー)」と呼ばれることもあります。

※分類体系によりリュウゼツラン科、ユリ科とされる場合もあります。

観葉植物として人気のアガベ・チタノタ

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アガベの原産地

アガベの品種は200以上あるとされ、品種によって原産地もさまざまです。先に紹介した「リュウゼツラン」や「アオノリュウゼツラン」という品種はメキシコ原産。葉の周りが歯のように大きく切れ込んだ荒々しいフォルムで近年大人気の「アガベ・チタノタ」も同じく自生地はメキシコです。

また、葉の先端に長く鋭いトゲを持つ「アガベ・ユタエンシス エボリスピナ」はアメリカ・カリフォルニア州のノパ山脈、白い模様と黄色の斑の入った濃緑色の葉から細い巻きひげが出ている「アガベ・パルビフローラ バリエガタ(姫乱雪/ひめみだれゆき)」はアリゾナ州南部付近の高山地など、個性豊かな品種と原産地があるほか、「アガベ ‘スーパー・クラウン’」や「アガベ・イシスメンシス錦」など、日本で作出された品種もあります。

テキーラの原料はメキシコ原産のブルーアガベ

メキシコのテキーラ用アガベの畑

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テキーラの原料として知られているアガベですが、すべてのアガベがテキーラになれるわけではありません。テキーラの原料になれるのは、たったひとつの品種。それが、メキシコの特別な地域で栽培されるブルーアガベです。

テキーラを名乗るには、主原料にブルーアガベを用いるなど複数の条件がある

たくさんの種類があるアガベのなかで、テキーラの製造に使用することが許可されているのは、学名「Agave tequilana weber blue(Azul)|アガベ・テキラーナ・ウェーバー・ブルー(アスール)」、英語で「Blue Agave(ブルーアガベ)」、スペイン語では「Agave azul(アガベアスール)」、現地メキシコでは「Maguey(マゲイ)」と呼ばれるアガベだけです。

というのも、「テキーラ」は「シャンパン」や「コニャック」のように原産地呼称制度で保護されているお酒。使用する原料をはじめとした厳密な条件をクリアしたものでないと「テキーラ」を名乗ることはできないのです。

メキシコのテキーラ規制委員会「Consejo Regulador del Tequila (CRT)」が厳正に管理するメキシコ公式規格「NORMA Oficial Mexicana(NOM)」では、テキーラの原料や産地、製造などについて、おもに次のような基準を設けています。

◇原産地呼称で保護されたメキシコ国内の指定5州(ハリスコ、グアナファート、タマウリパス、ナヤリ、ミチョアカン)で生育したブルーアガベを使用し、製造、蒸溜も指定5州内で行うこと(※1)
◇原料にブルーアガベを51%以上使用すること(※2)
◇2回以上蒸溜すること
◇アルコール度数は35〜55%であること


※1もともとテキーラとはメキシコ中西部・ハリスコ州にある地名で、蒸溜所の多くがテキーラ地区のあるハリスコ州に集中しています。また蒸溜所には前出の公式規格「NOM」による生産者番号が与えられ、テキーラの瓶には必ず、NOMから始まる4桁のナンバーが記されています。

※2発酵前のモスト(原料を搾って採れた糖分)に、ブルーアガベから抽出した糖分を51%以上使用することが求められています。残りの49%を糖蜜などで補糖することは可能ですが、ブルーアガベ以外の品種のアガベを使用することは認められていません。

「ピニャ」と呼ばれるブルーアガベの球茎

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テキーラに使われるのはブルーアガベの茎の部分

テキーラ用のブルーアガベは、種の純粋さや優良な品質を守るため株分けで増やされ、多くが5〜6年、ときには10年以上の歳月をかけて大切に生育されます。放射状に広がる鋭い葉の根元にある球茎は糖分をたっぷりと蓄えて重さ30〜40キログラム、大きなものだと100キログラム近くまで成長。この部分がテキーラの原料となります。

なかば地中に埋まった球茎を掘り起こし、葉を落とすとパイナップルのような見た目になることから、現地ではこれを「ピニャ(スペイン語でパイナップル)」と呼ぶそうです。

テキーラの製法をおさらい

テキーラ造りは、この「ピニャ」を斧で割り、レンガ製のオーブンや巨大な圧力釜で蒸し焼きにすることから始まります。

蒸し焼きにすることで球茎に含まれるイヌリンという物質が発酵性のある果糖に変化するのですが、一説によると、18世紀半ばにハリスコ州テキーラ村近くでおきた山火事のあと、焼け残ったアガベの球茎から甘い香りが漂っていたことがきっかけとなって、アガベの球茎を蒸し焼きにして糖化させる技術が生まれたのだとか。

そんな偶然から生まれた蒸し焼きという工程を経て糖化した球茎を、ローラーにかけて粉砕・圧搾。十分に搾り出した糖液(モスト)をタンクで発酵させ、単式蒸溜機で2回以上蒸溜すると、テキーラのできあがりです。

これを熟成せずに(もしくは60日以内の熟成のみで)瓶詰めしたものを「ブランコ」または「シルバー」、60日以上樽で熟成させたものを「レポサド」、1年以上の熟成が「アネホ」、3年以上の熟成を経たものを「エクストラ・アネホ」などと呼びます。

テキーラの分け方にはもうひとつの指標があり、ブルーアガベに糖蜜などを加えて発酵・蒸溜したものを「ミックス」あるいは「Mixto(ミクスト/スペイン語でミックス)」、何も加えずブルーアガベだけで造ったものを「100% agave(100%アガベ)」といいます。近年、世界の主流は100%アガベになりつつあり、「プレミアムテキーラ」として人気を集めているのもこのタイプが多くなっています。

アガベ100%のテキーラはラベルに必ず次のような表示があるので参考にしてみてください。

◇100% de agave
◇100% puro de agave
◇100% agave
◇100% puro agave

テキーラの原料だけじゃない! アガベの幅広い用途を知ろう

シロップの原料にも使われるアガベ

Brent Hofacker / Shutterstock.com

メキシコの地に豊富に自生し、古くは屋根を葺(ふ)いたり、丈夫な繊維でロープやカゴを編んだり、乾燥した葉を燃料とし、灰を洗剤にするなど、日常生活のなかで有用に使われてきたというアガベ。
テキーラ以外の使いみちについても紹介しましょう。

話題のアガベシロップとは?

美容や健康へのアンテナが高めの人なら、アガベといえばテキーラよりシロップの方を先に思い浮かべるかもしれません。アガベシロップとはその名のとおりアガベから作られる甘味料で、GI値(グリセミック指数)が低く血糖値が上がりにくい自然由来の甘味料として認知度が高まっています。

原料となるアガベはテキーラと同じ「ブルーアガベ」や、「アガベサルミアナ」などの品種。シロップ作りに使われる部分もテキーラと同じで、球茎から採れる液を加水分解して得た果糖を濃縮したものがアガベシロップとなります。

さまざまな種類のアガベが原料となるメスカル

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メキシコ原産の蒸溜酒メスカルの原料としても有名

アガベから造られるお酒といえばテキーラのほかにもうひとつ、「メスカル」があります。

もともとメキシコには、3世紀ごろからアガベの搾り汁を発酵させた「プルケ」という醸造酒が存在していました。16世紀にスペインから蒸溜技術が持ち込まれると、プルケを蒸溜した新しいお酒が誕生します。それがメスカルです。

テキーラもメスカルの一種であり、「テキーラ地区を中心とした指定5州でブルーアガベのみを原料に造ったメスカルがテキーラである」ともいえます。

メスカルにはブルーアガベ以外にもさまざまなアガベが使われ、地域ごとのテロワールや品種の違いが、個性ある味わいを生み出しています。

なお、テキーラ同様、現在はメスカルにも原産地呼称制度が導入されていて、指定9州(オアハカ、ドゥランゴ、サカテカス、タマウリパス、グアナファト、サンルイスポトシ、ミチョアカン、ゲレロ、プエブラ)で生育したアガベを使用し製造・蒸溜したものだけを「メスカル」と呼ぶことができます。

ときには味わい深いテキーラやメスカルとして、ときにはやさしい甘さのシロップとして、そしてときには心を癒やす観葉植物として愛されるアガベ。テキーラをベースにアガベシロップを使ったカクテルも増えているので、機会があればバーでオーダーしてみてはいがでしょうか。

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