モルトウイスキーとはどんなウイスキー?ブレンドによって変わる呼び名と代表的な銘柄を紹介!
「モルトウイスキー」とはどんなウイスキーかご存知でしょうか?モルト(大麦麦芽)を原料に、産地や生産者・製法などの違いによって多彩な個性をたのしめるのが魅力のウイスキーです。今回は、モルトウイスキーの定義や製法、代表的な銘柄について紹介します。
- 更新日:
「モルトウイスキー」は大麦麦芽で造られるウイスキー
Africa Studio/ Shutterstock.com
「モルトウイスキー」はどんなウイスキーなのでしょうか。まずは定義や特徴をおさらいしましょう。
「モルトウイスキー」の定義は国によって変わる?
「モルトウイスキー」とは、一般的に、原料のモルト(大麦麦芽)を発酵させてできたもろみを、単式蒸溜機で2~3回蒸溜して造るウイスキーのこと。「モルトウイスキー」には原料由来の香りや味わいが色濃く残っているのが特徴で、シングルモルトウイスキーやブレンデッドウイスキーにはこの原酒が用いられています。
「モルトウイスキー」と一言でいっても、その定義は国によってさまざま。ウイスキーには国際的に統一されたルールがないため定義が異なるのです。
たとえば、スコットランドやアイルランド、日本などでは、「モルトウイスキー=モルト100%」と定義されていますが、アメリカンウイスキーでは、原料の51%以上がモルトであれば「モルトウイスキー」と名乗ることができます。
またブレンデッドウイスキーが主流のカナダには、「モルトウイスキー」という定義はありません。モルトを原料としたもの(モルト100%とは限りません)は香りづけのための「フレーバリングウイスキー」として用いられるのが一般的です。
「モルトウイスキー」にモルト(大麦麦芽)を使用する理由
「モルトウイスキー」の原料であるモルトは、製麦という工程で大麦を発芽させて作りますが、わざわざ麦芽にしてから使う理由は、収穫したままの大麦では糖化しにくいからです。
ウイスキーの原料の大麦はデンプンを多く含みますが、デンプンの状態のまま、酵母を加えてもアルコールは作られません。それは、デンプンだと、酵母が取り込める大きさより結晶構造が大きいためです。ですが、大麦を発芽させることにより、デンプンを酵母が取り込めるサイズの糖に分解する酵素を生成することができます。この大麦を発芽させたものを麦芽(モルト)と呼び、この麦芽を使って、デンプンが糖に分解されて、アルコール発酵が行われます。
同じくモルトを原料とするビールとの違いは?
「モルト」と聞いて、ウイスキーではなくビールを思い浮かべる人もいるかもしれません。
ビールもまた、「モルトウイスキー」と同じくモルトを主原料にしていますが、なぜ風味もアルコール度数もまったく違うお酒になるのでしょう? ごく単純にいえば、同じ原料から造られるお酒でも、造り方が大きく異なるからです。
知ってのとおり、「モルトウイスキー」をはじめとしたウイスキーは「蒸溜酒」、ビールは「醸造酒」に分類されます。それぞれの製造工程における大きな違いは、蒸溜工程の有無。ウイスキーは蒸溜機で蒸溜して造りますが、ビールには蒸溜工程はありません。
両者の製造工程を見ると、前半はほぼ同じで、大麦を発芽させてモルトを造る製麦から始まり、糖化、発酵へと進みます。その後の工程は異なり、ビールは発酵してできたもろみをろ過して瓶詰め・出荷されますが、ウイスキーはもろみを蒸溜してアルコール濃度を高め、じっくりと樽熟成したのちに、多くはブレンディングや加水などの工程を経て完成となります。
「モルトウイスキー」の味わいを決めるのは?
barmalini/ Shutterstock.com
「モルトウイスキー」の風味は銘柄によって異なりますが、その個性は複数の条件が重なり合うことで形作られています。ここでは香りや味わいを決めるポイントを確認しましょう。
仕込み水の違い
仕込み水の水質は、国や地域によってさまざまです。たとえば硬度を例に取ると、日本は軟水、欧州やアメリカなどは硬水が主流。欧州のなかでもスコットランドは、日本と同様にほとんどが軟水です。
この硬度は、水に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分の度合いを表すもので、WHOのガイドラインによると、硬度60未満は軟水、硬度60~120未満は中軟水、硬度120~180未満は硬水、硬度180以上は超硬水に分類されます。 一般的に軟水は口当たりがやわらかく、硬水は飲みごたえがあるのが特徴です。
同じ国内でも水源(取水地)によって水質は異なり、ウイスキーの仕上がりも違ってきます。つまり仕込み水の違いは、「モルトウイスキー」の個性に影響するといえるでしょう。
製造方法の違い
同じ「モルトウイスキー」でも、製法を変化させることで多彩な香りや味わいを持つウイスキーが生まれます。原料のモルトひとつとっても、大麦の種類や発芽させる方法、乾燥にピート(泥炭)を使うか否かなどで、目指す「モルトウイスキー」の方向性が変わるため、各蒸溜所ではさまざまな工夫が凝らされています。
また蒸溜機の種類や蒸溜回数でも酒質は違ってきます。回数でいうと、スコットランドや日本では2回蒸溜が主流で、アイルランドの伝統なウイスキーでは3回蒸溜が採用されていますが、後者のほうがよりライトな酒質になりやすいようです。
なお、アメリカンウイスキーでの定義は「モルト51%以上」なので、60%や80%などモルトの使用量によっても風味は違ってきます。
樽の違い
貯蔵樽の種類は、「モルトウイスキー」の香りや味わいに大きく影響します。スコッチウイスキーの貯蔵には古樽が使われますが、もともと詰められていたお酒がバーボンかシェリーか、はたまた別のお酒なのかによって、風味に差が出ます。
また樽の材質も影響します。おもにアメリカンホワイトオークやヨーロピアンオークなどが使われていますが、日本では日本特有のミズナラが用いられることもあります。それぞれの木材の個性が「モルトウイスキー」に、バニラのような風味やフルーティーな香り、スパイシーな香り、オリエンタルな香りなどを付与します。
貯蔵環境の違い
モルトウイスキー原酒は熟成樽に詰められ、長い熟成の時を経て完成しますが、貯蔵環境もウイスキーの風味に影響を与えます。
たとえば、潮風が吹きつける貯蔵庫に寝かせれば潮っぽさを感じる「モルトウイスキー」に、山中の貯蔵庫なら森林のような香りが感じられる「モルトウイスキー」に仕上がりやすくなります。
また寒暖差の激しい環境下に置くと熟成が早く進み、比較的短期間で熟成された奥深い味わいに仕上がるといわれています。
このように、貯蔵庫が置かれている環境風土の違いも、「モルトウイスキー」の個性の形成に役立っています。
「モルトウイスキー」の種類と代表的な銘柄
Evgeny Karandaev/ Shutterstock.com
「モルトウイスキー」にはいくつか種類があります。代表的な銘柄とともに、それぞれの特徴を紹介します。
シングルモルト
単一の蒸溜所で造られた「モルトウイスキー」だけを瓶詰めしたウイスキーが、シングルモルトウイスキーです。同じモルトウイスキーでも樽ごとに風味が異なるため、一般的には複数種類の「モルトウイスキー」をブレンディング(ヴァッティング)して、味わいを整えたうえで瓶詰めされます。
産地や蒸溜所ごとの個性が色濃く表れた銘柄が多く、多彩な魅力にあふれているため、ウイスキー愛好家の興味を惹きつけています。
シングルモルトウイスキーの代表的な銘柄としては、世界的な知名度を誇る「ザ・マッカラン」が挙げられます。「シングルモルトのロールスロイス」とも評されるスペイサイドモルトで、華やかかつ上品な味わいをたのしめます。
シングルカスク
単一の蒸溜所で熟成した1樽のモルトウイスキーを、そのまま瓶詰めしたものをシングルカスクといいます。カスクとは樽のことですが、バレルということもあるため、シングルバレルと呼ばれることもあります。
シングルカスクがリリースされることは稀なうえ、瓶詰めできるのは1樽分なので本数も限定的。高価ですが希少性が高いため、マニア垂涎の至高のウイスキーとなっています。
このようななかで、毎年リリースされているのが「ザ・グレンリベット シングルカスク」。2021年もシリーズ第7弾として、「ザ・グレンリベット シングルカスク 2021(#16809) 22年」が日本限定、450本限定でリリースされています。22年熟成の、複雑でバランスのよい味わいと、ドライで長い余韻がたのしめる1本。本数限定なので、見つけたら早めに入手することをおすすめします。
ブレンデッドモルト
複数の蒸溜所で造られたモルトウイスキー原酒をブレンドしたものが、ブレンデッドモルトです。モルトウイスキー原酒をブレンドすることをかつては「ヴァッティング」と呼んでいたことから、「ヴァッテッドモルト」と呼ばれることもあります。
代表的な銘柄には「モンキーショルダー」があります。世界のバーで愛される この銘柄は、3種類のモルトウイスキー原酒のみで造る「トリプルモルト」が特徴。軽快でリッチな味わいが魅力となっています。
ピュアモルト
ピュアモルトは、日本だけで使われているウイスキーのカテゴリです。「モルトウイスキー100%のピュア(純粋)なウイスキー」という意味ですが、銘柄によってシングルモルトを指す場合もあれば、ブレンデッドモルトを指す場合もあり、その定義は明確ではありません。
なぜ日本で「ピュアモルト」という言葉が使われるようになったかというと、世界で流通しているウイスキーの多くがブレンデッドウイスキーのため。そこで、あえて「モルト」を強調し、差別化するために、製造者や販売元が独自に使用するようになったのです。
ピュアモルトの代表的な銘柄には、「竹鶴ピュアモルト」や「富士御殿場蒸留所 ピュアモルトウイスキー」などがあります。いずれも数量限定販売で人気が高く、現在は定価で入手するのは困難になっていますが、機会があれば日本を代表するピュアモルトの味わいを、ぜひ味わってみてください。
「モルトウイスキー」は、生産者や製法などの違いによって多彩な個性をたのしめるのが魅力。シングルモルトウイスキー以外にも希少な種類の「モルトウイスキー」が複数あるので、それぞれの香りや味わいをじっくりと堪能してみてはいかがでしょう。