「ピスコ」とは?ペルーで発祥したブドウの蒸溜酒の特徴からおいしい飲み方まで

「ピスコ」とは?ペルーで発祥したブドウの蒸溜酒の特徴からおいしい飲み方まで
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「ピスコ(Pisco)」は南米のペルーやチリで造られる蒸溜酒。ブドウを原料としたグレープブランデーの一種で、近年はカクテルのベースとしても注目を集めています。今回はピスコの歴史や名前の由来、製造方法、おすすめの飲み方などを紹介します。

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「ピスコ」は南米ペルーやチリで造られる蒸溜酒。伝統的なカクテル「ピスコサワー」が欧米で人気を博し、日本でも注目を集めています。

「ピスコ(Pisco)」とはどんなお酒?

日本ではまだあまり知られていないお酒「ピスコ」

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お気に入りのバーでカクテルリストやバックバーに並ぶボトルを眺め、常に「次に挑戦すべき1杯」を探している人なら知っているかもしれない「ピスコ」。

ピスコとは、いったいどんな種類のお酒なのでしょうか。すでに味わったことのある人も、まだの人も、まずはピスコというお酒の基本情報からおさえておきましょう。

「ピスコ」はブドウを原料に造られるグレープブランデー

「ピスコ」とは、ブドウを原料に使った蒸溜酒で、グレープブランデーの一種です。

グレープブランデーは、新鮮なブドウ果汁を発酵させてワインにし、それを蒸溜したあと、熟成して瓶詰めするのが一般的。多くは、良質なブドウの産地、すなわちワインの銘醸地で造られています。

ブドウを使ったワインから造られるグレープブランデーにはピスコのほかにフランスの「コニャック」や「アルマニャック」、スペインの「シェリーブランデー」などがあり、広義では、ワインの製造に用いたブドウの搾りかすを原料とするイタリアの「グラッパ」やフランスの「フィーヌ」や「マール」、スペインの「オルホ(オルーホ)」などの蒸溜酒もグレープブランデーの仲間に含まれます。

ピスコはブドウを使った南米のブランデー

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「ピスコ」に必要なのは新鮮なブドウと天然酵母

「ピスコ」の製造方法は国によって違いがありますが、ここでは原産国のひとつであるペルーの規定に沿った造り方を紹介します。

◆搾りたての新鮮なマスト(果皮や果肉などを含む圧搾したばかりのブドウの果汁)のみを使用
◆発酵したマストを1度だけ蒸溜
◆品質を向上させるため最低3カ月間熟成する


※ピスコの蒸溜には「ファルカ」と呼ばれる伝統的な旧式の蒸溜器や、より近代的なポットスチル(単式蒸溜器)に近い「アランビック」などが使われます。
※蒸溜後、水、砂糖、香料や着色料などを加えることは禁止されています。
※最終製品のアルコール度数は38〜48%と決められています。
※熟成にはピスコの有機的な特性、香りや風味を変化させないよう、ガラスやステンレス、またティナーハやボティーハと呼ばれる伝統的な素焼きの瓶が使われます。木の樽の使用は認められていません。

ペルーとチリではピスコ造りの規定が異なります

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「ピスコ」はおもに南米のペルーとチリで生産されるお酒

「ピスコ」と呼ばれる「ブドウを原料とした南米のブランデー」を造っているのは、ペルーとチリの2カ国。2つの国のピスコにはブドウの品種や蒸溜の回数、熟成などさまざまな規定の違いがあり、それぞれ個性あふれるピスコを生み出しています。

両国は互いにピスコの起源を主張し、原産地呼称をめぐる論争が何十年もの間続いていますが、日本は両国とのEPA(経済連携協定)において、「ピスコ・ペルー」と「チリ産ピスコ」という地理的表示の相互保護に合意しています。

<ペルーのピスコの規定>
◆生産地は以下の5地域に限られる
リマ、イカ、アレキパ、モケグアの沿岸部と、タクナの渓谷(ロクンバ、サマ、カプリナ)
◆使用できるブドウの品種は以下の8種
芳香系(4種)…イタリア、モスカテル、アルビラ、トロンテル
非芳香系(4種)…ケブランタ、ネグラクリオラ、モラー、ウビナ

<チリのピスコの規定>
◆生産地は以下の2地域に限られる
アタカマ、コキンポ
◆使用できるブドウの品種は以下の13種
モスカテル・ロサダ、モスカテル・デ・アレハンドリア、モスカテル・デ・オーストリア、トロンテル、ペドロ・ヒメネス、モスカテル・テンプラナ、アマリージャ、カネリ、フロンティニャン、ハンブルゴ、
ネグラ、オレンジ、シャスラ・ミュスク・ヴライ

なお、ペルーでは蒸溜は1度きりとされていますが、チリ産ピスコは繰り返しの蒸溜が認められています。また、ペルーでは貯蔵に木樽の使用が認められていませんが、チリではアメリカンオークやフレンチオーク、チリ原産の「ラウリ」というブナの樽などが可能です。

「ピスコ」の歴史と名前の由来

スペイン人の入植から始まったピスコの歴史

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「ピスコ」の発祥についてはさまざまな説があり、いまだ明確な決着はみられません。しかし「16世紀に入植したスペイン人が南米の地にブドウの木を持ち込んだこと」がピスコのルーツであることは間違いないでしょう。

カナリア諸島から輸入されたといわれるブドウの木は長い年月をかけて独特の土壌と乾いた気候に適応し、新大陸でのワイン造りが始まります。そしてそのワインを蒸溜するようになったのは17世紀初頭ごろ。あとにピスコと呼ばれるようになる透明なブランデー「アグアルディエンテ(aguardiente|直訳すると燃える水)」の誕生です。

ペルーでは、ピスコという名前の由来はペルー南部にある同名の港町にあるという説が有力です。ピスコという言葉そのものの語源は先住民の言葉ケチュア語で「小鳥」を意味する「pisqu」。現在「ピスコ港」となっている地域はインカ時代から陶芸が盛んで、ここで造られていた液体を貯蔵するための土器もピスコと呼ばれていました。

その後、陶工たちが住んでいた谷、谷を流れる川、河口の湾にある港町にも同じ名前がつけられ、そこから出荷される蒸溜酒アグルディエンテが、原産地の港の名前である「ピスコ」と呼ばれるようになったといわれています。

「ピスコ」の香りや味わいの特徴とアルコール度数

ペルーとチリではピスコの分類も異なります

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「ピスコ」は、「ボデガ(bodega/スペイン語でピスコ蒸溜所の伝統的な呼び方)」ごとのスタイルやテロワール、蒸溜器の種類、ブドウの品種などによって、驚くほど多彩な表情を見せてくれます。

ペルーでは蒸溜強度が低く、蒸溜器から出てきたプルーフ(アルコール濃度)のまま何も加えずに製品化されるため、とくにブドウの個性や香り、風味を感じられる味わいになります。
なお、ペルーのピスコのアルコール度数は38〜48%と決められています。

ペルーにおけるピスコの分類は以下のとおりです。

◇Pisco puro(ピューロ/プロ)
単一のブドウ品種100%で造られるピスコ

◇Pisco mosto verde(モストヴェルデ)
発酵途中のマスト(醪)を蒸溜して造られるピスコ

◇Pisco acholado(アチョラード)
2種類以上の異なる品種のブドウやマストをブレンドして得られるピスコ

一方チリのピスコには複数回の蒸溜と木の樽での熟成が許されている分、ペルーのピスコとはまた違ったフレーバーやアロマを感じることができます。

チリのピスコは、アルコール度数によって以下のようなカテゴリーに分けられています。

◇Pisco Corriente o Tradicional(コリエンテ オ トラディシオナル)
アルコール度数30~35%

◇Pisco Especial(エスペシャル)
アルコール度数35~40%

◇Pisco Reservado(レゼルヴァド)
アルコール度数40%

◇Gran Pisco(グラン)
アルコール度数43%以上

「ピスコ」のおいしい飲み方

ピスコカクテルの大定番「ピスコサワー」

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ここからは「ピスコ」のたのしみ方を紹介しましょう。

「ピスコ」の人気カクテル「ピスコサワー」「チルカーノ」

アメリカ人のバーテンダー、ビクター・ヴォーゲン・モリスがリマに開いたバーで1920年代に発明したとされるカクテル「ピスコサワー」。ピスコのもっともポピュラーな飲み方であるピスコサワーは、英国の飲料専門誌「Drinks International」が世界のトップバー100店舗を調査して発表する「The World’s Best Selling Classic Cocktails」で毎年ランクインするほどの人気カクテルです。

クリーミーで甘酸っぱい独特の味わいが特徴で、近年日本でも注目度が高まっています。


◇ピスコサワーの作り方
<基本レシピ>
ピスコ…45ミリリットル
ガムシロップ…15ミリリットル
ライム果汁(またはレモン果汁)…15ミリリットル
卵白…1個分
氷…3〜4個
ビターズ…数滴

<作り方>
ミキサーにピスコ、ガムシロップ、果汁、卵白、氷を入れ、氷が砕けるまで30秒〜1分ほど混ぜてグラスに注ぎ、泡の上にビターズを数滴落とせばできあがり。

ジンジャーエールを使うピスコカクテル「チルカーノ」

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ピスコをベースにしたもうひとつの人気カクテルは「チルカーノ」。こちらはバーではなく家々のホームパーティーなどでたのしまれていたカクテルで、ミキサーやシェーカーがなくてもたのしめるさわやかな味わいが特徴です。

◇チルカーノの作り方
<基本レシピ>
ピスコ…20ミリリットル
ライム果汁…20ミリリットル
ジンジャーエール…60ミリリットル
氷…適量

<作り方>
グラスに氷を入れ、ピスコとライムを注いで混ぜ、ジンジャーエールを加えてさらに少し混ぜます。好みでビターズやライムのスライスをプラスしてできあがり。

ピスコはストレートやロックで飲むのもおすすめ

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「ピスコ」は定番の割り方でもおいしく味わえる

「ピスコ」はブランデーの一種なので、芳醇な香りを存分に堪能できるストレートで飲むのもおすすめです。ストレートでは強すぎると感じるときは氷を入れたオンザロックや水割り、ソーダ割りにしても、ブドウ由来の深い香りや味わいが失われることはありません。

ピスコのアルコール度数は低くても38%、高いものでは48%なので、ストレートで飲むときは少しずつ味わい、水などのチェイサーを用意してゆっくりたのしみましょう。

「ピスコ」のおすすめ銘柄

「ピスコ」は今のところ「どのお店にも置いてある」というタイプのお酒ではありませんが、日本のECサイトなどで比較的手に入りやすいおすすめ銘柄を紹介します。

タベルネロ ピスコ ラ・ボティーハ・ケブランタ

ペルー産のピスコ

5PH / Shutterstock.com

「タベルネロ」はペルーの老舗ブランド。ケブランタ種100%の「puro」(単一のブドウ品種100%で造られるピスコ)で、この品種ならではの豊かな香りが特徴です。野菜やハーブを想わせるアロマとフルーティーでまろやかな味わいを存分にたのしめます。
アルコール度数は40%。

国内販売元:株式会社 G&C CORPORATION
公式サイトはこちら

カペル モアイ・ピスコ・レセルバード

ユニークなモアイ像型のボトルが特徴のチリ産ピスコ

画像提供:株式会社モトックス

チリ国内で圧倒的なシェアを誇る名門「カペル」が手がけるこのピスコは、2種のマスカットの新鮮な果汁だけで醸造したワインを蒸溜し、オーク樽で約5カ月熟成。マスカットの風味に樽由来のバニラやバナナの香りが混じり、ほのかな苦味も心地よいアクセントになっています。
アルコール度数は40%。

国内販売元:株式会社モトックス
公式サイトはこちら

ピスコ・ワカー

手摘みのマスカットを使ったチリ産ピスコ

出典:ジャパンインサイト株式会社ホームページ

5代にわたってピスコを造り続けるチリのカンボサーノ家が、手摘みした2種のマスカットをワインにし、少量ずつ1度だけ蒸溜したプレミアム感あふれるピスコ。輝きのある透明な液体の中に甘味と酸味の調和があり、さっぱりとした優雅で心地よい余韻が続きます。
アルコール度数は40%。

国内販売元:ジャパンインサイト株式会社
公式サイトはこちら

「ピスコ」はほとんどが無色透明なせいか、同じ蒸溜酒で透明なウォッカやジン、テキーラなど「スピリッツ」の棚に並べられていることがあります。酒屋さんで探すときは、ブランデーとスピリッツ、両方の棚をチェックしてみてください。

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