クラフトビールとは? 定義や歴史、地ビールとの違い、種類などを簡単に紹介
クラフトビールとは、「大資本から独立した小規模なブルワリー(醸造所)が、ブルワー(醸造家)の目が届く範囲で、伝統的な製法で醸造する、あるいは地域の特産品などを原料とした個性あふれるビール」で、地域に根ざしているのも特徴です。定義や地ビールとの違い、人気の秘密などとあわせてご紹介します。
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目次
クラフトビールとはどんなビールなのか、詳しくみていきましょう。
クラフトビールとは、おもに小規模ブルワリーでブルワーが情熱を注いで造るビール
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クラフトビールとは、個性あふれるビールを少量生産している小規模ブルワリーで、ビール職人がこだわりをもって造るビールのこと。酒税法上の決まりはありませんが、日本では「全国地ビール醸造者協議会(JBA)」が、2018年に以下のように定義しています。
出典 日本地ビール醸造者協議会(JBA)◆酒税法改正(1994年4月)以前から造られている大資本の大量生産のビールからは独立したビール造りを行っている。
◆1回の仕込単位(麦汁の製造量)が20キロリットル以下の小規模な仕込みで行い、ブルワー(醸造者)が目の届く製造を行っている。
◆伝統的な製法で製造しているか、あるいは地域の特産品などを原料とした個性あふれるビールを製造している。そして地域に根付いている。
これは「全国地ビール醸造者協議会(JBA)」の定義で、クラフトビールの本場アメリカの定義とは異なります。
日本では、キリンビールが
「SPRING VALLEY 豊潤<496>」
「SPRING VALLEY シルクエール<白>」などを
サントリーが
「東京クラフト〈ペールエール〉」
「TOKYO CRAFT(東京クラフト)〈ヴァイツェン〉」などを
サッポロビールが、セブン&アイグループ限定で
「COCORO CRAFT 流れ星ゴールデンエール」
をクラフトビールとして製造・販売中です。
(批判的な意味合いではなく、2023年8月現在、ビール大手4社などは全国地ビール醸造者協議会(JBA)会員企業ではありません)
(ご参考)
全国地ビール醸造者協議会(JBA)
日本地ビール協会(CBA)
日本ビアジャーナリスト協会(JBJA)
日本クラフトビール業界団体連絡協議(クラビ連)
クラフトビールの発祥はアメリカ
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クラフトビールはアメリカで発祥したビールです。誕生秘話をみていきましょう。
クラフトビール誕生のきっかけはアメリカ禁酒法
クラフトビールの歴史は、アメリカ禁酒法時代までさかのぼります。
1920年に施行された禁酒法によって小規模ブルワリーが淘汰されたアメリカでは、禁酒法廃止後の数十年間、資本力のある大手ビールメーカーが市場を独占していました。
1960年代になると、ラガービール一辺倒の市場にうんざりした愛好家たちが、飲みたいビールを造るべく立ち上がります。19世紀に生まれたスチームビールや、ドイツのビール純粋令にもとづく本格ビールなど、伝統的な味わいを生み出すマイクロブルワリーが誕生したのです。
1970年代後半には自家醸造(ホームブルーイング)が合法化され、多くのビール愛好家たちが「飲みたい味わい」を追求するべく、ビール造りに着手します。このムーブメントは新しいカルチャーとしてアメリカ全土に伝播し、ビールに独自の発想を加えながら造られるクラフトビールとして世界へと広がっていきました。
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本場アメリカのクラフトビールの定義と日本との規模感の違い
アメリカにおけるクラフトビールは、クラフトブルワリーの業界団体であるブルワーズ・アソシエーション(Brewers Association/通称「BA」)によって、以下のように定義されています。
1. 小規模であること
2. 独立していること
3. 酒造免許を持って醸造していること
以上、3つの条件を満たしたブルワリーが造るビールをクラフトビールという。
定義の3つめは、以前、大手ビールメーカーのライトなラガービールを除外する目的から「伝統的であること」とされていましたが、その後2018年に現在の定義に変更されました。
この定義は一見、日本のクラフトビールにも当てはまるように思えるかもしれませんが、実際はそうではありません。
日本とアメリカのクラフトビールのもっとも顕著な違いは、「小規模」が表すボリュームです。
アメリカにおける「小規模」の定義は「年間の生産量が600万バレル(約70万キロリットル)以下」。一方、日本ではJBAの定義で「1回の仕込単位(麦汁の製造量)が20キロリットル以下」とされています。
国税庁が公表する「令和3年度 統計年報」によると、令和3年度の日本国内のビール消費量は187万キロリットル。
アメリカの定義「年間の生産量が600万バレル(約70万キロリットル)以下」の規模感を日本に当てはめてみると、ひとつのクラフトビール醸造者が国内で消費されるビールの約37%を製造できることになってしまいます。
また、2022年のアメリカのブルワリー数は9,709、同年の日本の醸造所数は大手ビールメーカーが経営するブルワリーを含めても677※と、大きな差があります。
こうした数値からも、アメリカと日本のクラフトビール市場は規模が桁違いだということがわかります。
※2022年12月末時点 きた産業株式会社 全国醸造所リストより。
日本のクラフトビールの歴史
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日本で小規模ブルワリーによるビール造りが始まったきっかけは、1994年の酒税法改正にありました。それまでは、ビールの年間最低製造数量が2,000キロリットル(350ml缶で約571万缶・1日あたりにすると約15,700缶)と酒税法で定められていたため、事実上、大手ビールメーカーしかビール市場に参入できなかったのです。
酒税法改正で、年間最低製造数量が60キロリットル(350ml缶で約17.1万缶・1日あたりにすると約470缶)へと引き下げられたことで、大手ビールメーカーのような醸造設備や販売力がなくてもビールを造れるようになりました(発泡酒の年間最低製造量は6キロリットルに)。
これをきっかけに、全国各地に小規模ブルワリーがオープン。「地ビール」と呼ばれる少量生産のビールが続々と登場し、それまで大手メーカーが造るピルスナーが主流だったビール市場に多様性が生まれました。
地ビールブームは地元の産業も巻き込みながら日本中に広がり、1999年にはブルワリー数が300を超えました。ところが2001年ごろから減少に転じ、2009年には200ほどに減少してしまいます。
当時は地ビールブームが衰退した原因として、
◇価格が高い
◇消費者が安価な発泡酒や第三のビールに流れた
◇おいしいビールが少ない
◇消費者がピルスナー以外のビールに慣れていなかった
◇お土産用のイメージが強い
◇醸造に関する十分な知識がないまま参入した醸造所があったり、一部、味わいや品質に課題のある醸造所もあった
などの理由が挙げられていました。
日本でビール醸造所数が再び増加に転じたのは、2012年のこと。時を同じくして、本場アメリカの上質なクラフトビールが上陸し、小規模ブルワリーの造るビールに再び注目が集まります。やがて「クラフトビール」の名が日本全国に広がり、かつての「地ビール」は「クラフトビール」と呼ばれるようになりました。
小規模ブルワリーが手掛けるビールは、一度は衰退期を迎えましたが、創業以来一貫して質の高いビールを造ってきた醸造所は、その間も世界で通用する高品質なビールを追求し続けていました。
そのような醸造所が2012年ごろから国内や海外のコンテストで高く評価されるようになると、クラフトビール業界全体の品質も向上。また世界的なクラフトビール人気も相まって、小規模ブルワリーが造るクラフトビールのさらなるブームが巻き起こりました。
クラフトビールと地ビールの違い
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小規模ブルワリーがこだわって造るビールという意味においては、「クラフトビール」も「地ビール」も同じ意味合いで使われています。
黎明期に地ビールとして注目を集めたものが、ブーム衰退を経て起死回生のタイミングでクラフトビールと呼ばれるようになったと考えれば、ほぼ同義といえるかもしれません。しかし、クラフトビール人気がヒートアップしている現在も、「地ビール」という呼び名にこだわるブルワリーや、どちらの呼び名も否定し、単に「ビール」と表現するブルワリーが存在するのもまた事実です。
ちなみにクラフトビール(Craft Beer/クラフトビア)の「クラフト」は、「職人的技術」や「工芸」を意味する英単語。クラフトビールを直訳すると、「職人技で造るビール」「工芸的なビール」という意味になります。
一方、「地ビール」を辞書で引くと、「その地方で造られるビール」「その土地の需要を満たす目的で造られる生産量の少ないビール」といった解説が目に飛び込んできます。
どちらも醸造家がこだわりをもって造る個性あふれるビールであることに変わりはありませんが、職人の手で造る工芸的なビールと、地域の素材や産業と密接に関わるビール。どちらに重きを置くかで、呼び名が変わってくるのかもしれません。
クラフトビールの人気の秘密【1】 種類が豊富!
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ここからは、近年盛り上がり続けるクラフトビール人気の秘密をみていきます。
クラフトビールの魅力はなんといっても、種類の豊富さにあります。
世界には150を超えるビールの種類(ビアスタイル)が存在する(※)といわれていますが、同じ種類のビールでも原料の産地や水、副原料、造り方が違えば味わいが変わってくるので、まさに無限の選択肢があるといえるでしょう。
同一ブルワリーのビールをビアスタイル別に飲み比べる、別のブルワリーの同一ビアスタイルを飲み造り手ごとの魅力をたのしむ。料理に合わせてビアスタイルをチョイスするのも興味深いです。
アルコール度数の高いものや低いもの、個性が強いものやスッキリ飲みやすいもの、フルーティーなものなど、多様な選択肢から好みに合わせてチョイスできるので、ビールを飲み慣れていない人も自分のペースでたのしめます。
※前述の「BA(Brewers Association)発行の「2021年度版ビアスタイルガイドライン」には159のビアスタイルが登録されている。
クラフトビールの人気の秘密【2】 希少価値が高い
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クラフトビールの魅力のひとつに、希少価値の高さがあります。以下はその一例です。
◇少量生産である
◇大手ビールメーカーの商品と比べると、購入・飲用手段が限定的
◇ビール職人のこだわりと手造りの魅力が感じられる
◇特定の場所でしか飲めないビールがある
◇数量限定、期間限定、季節限定、地域限定など、限定商品も豊富
一部には入手が難しい銘柄もありますが、希少価値の高いビールを飲むことでちょっとした達成感を得られるほか、ごほうび感覚でもたのしめそうですね。
日本酒の老舗蔵元が手掛けるクラフトビールが熱い
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数あるクラフトビールのなかでも注目を浴びているのが、日本酒(清酒)の老舗蔵元が立ち上げたクラフトビールブランドです。
日本酒造りで培った醸造技術や原料を見極める力、コンセプトワークのスキルは、クラフトビール造りにも存分に活かされます。また、ビール造りには大量の水が必要になりますが、蔵元が日本酒の仕込み水に使う地元の名水は、ビールの醸造にも大いに役立つといいます。
数ある銘柄のなかでも一度は飲んでみたいのが、文政6年(1823年)創業の老舗蔵元・木内酒造(茨城県)が製造する「常陸野ネストビール」と大正7年(1918年)に岩手県で創業した世嬉の一(せきのいち)酒造を中心に、地元企業5社で立ち上げた「いわて蔵ビール」。日本酒造りの技術と地元の素材を活かしたクラフトビールは、国内外のコンテストで高い評価を受けています。機会があったら、ぜひ味わってみてください。
全国のビールイベント・ビアフェスでクラフトビールを飲み比べ
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とっておきのクラフトビールを探している人や、飲み比べをたのしみたい人、飲んだことがないビアスタイルを試してみたい人には、複数のブルワリーが集まるビールイベントがおすすめ。おいしい料理と一緒にビールを味わって、クラフトビールの奥深い魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
気になるイベントの内容や日程については、開催地や期間がわかるイベントカレンダーで確認してください。
一口にクラフトビールといっても、種類は驚くほど豊富です。「たのしいお酒.jp」では、国内にある数多くの小規模ブルワリーのこだわりや魅力、おすすめ商品などを紹介しています。ビアバーやビアフェス、おうち飲みで飲み比べをたのしんで、とっておきの1本を探してみてください。
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