「生ビール」って何? 熱処理ビールとの違いは? 缶ビールや瓶ビールとの関係性や発泡酒との違いも確認

生ビールとは、熱処理をしていないビールのこと。飲食店でサーバーからジョッキに注いで提供される樽生ビールのほかにもさまざまなタイプがあります。ここでは生ビールの定義や「熱処理」「ろ過」など生ビールに関連する用語の意味、ドラフトビールや発泡酒との違い、おすすめの銘柄などを紹介します。
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目次
「生ビール」の「生」って何? と疑問に思ったことはないでしょうか。ここでは「生ビール」について徹底解剖していきます。
生ビールとは?定義をやさしく解説

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生ビールとは、熱処理(加熱処理/加熱殺菌)をしていないビールのこと。熱処理をしているビールに対して、「非熱処理ビール」とする場合もあります。
生ビールの意味:熱処理をしていないビール
「生ビール」は、熱処理をしていないビールの総称。ビールの製造工程は、大きく「製麦」「仕込」「発酵・貯酒」「ろ過」「パッケージング」の5工程に分けられますが、4番目のろ過工程で、熱処理を行わずに製品化したビールを、日本では「生ビール」と呼んでいます。
日本の酒税法のなかには、「生ビール」に関する定義はありません。「生ビール」という言葉の定義が登場するのは、ビール酒造組合が制定した自主規制で、1979年に公正取引委員会の認定を受けた「ビールの表示に関する公正競争規約」。そのなかの「特定用語の表示基準」として、「熱処理(パストリゼーション)しないビールでなければ生ビールと表示してはならない」と明記されています。
(参考)
一般社団法人 全国公正取引協議会連合会|ビールの表示に関する公正競争規約及び施行規則

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【コラム】海外にも生ビールはあるの?
「生ビール」という呼び方や概念は日本独自のものですが、日本だけに熱処理をしないビールをたのしむ文化が根づいているわけではありません。国ごとにビールの定義が異なるうえ、非熱処理かどうかに重点を置いていない地域もあるため、一概にはいえませんが、熱処理をしていないビールが飲まれている国は複数あります。
ドイツやベルギー、チェコなどのビール大国でも熱処理をしないビールは日常的に飲まれていますが、日本とは「生ビール」の概念が異なり、熱処理を行わないことに加えて、生きたままの酵母を残した無ろ過のビールを指すのが一般的。同じビアスタイルでも、樽から提供する場合は非熱処理、瓶や缶に詰めて流通させる場合は加熱処理を行うなど、用途に応じて製法を分けるケースもあるようです。
そもそもビールの「熱処理」とは?

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「生ビール」は熱処理をしないビールのことですが、そもそも「熱処理」とは、ビールの品質や味わいにどのような効果をもたらすものなのでしょうか。詳しくみていきましょう。
熱処理(パストリゼーション)の目的と効果
熱処理の目的や効果を確認する前に、ビールの製造工程をかんたんにおさらいしておきましょう。
1. 製麦工程
2. 仕込工程
3. 発酵・貯酒工程
4. ろ過工程
5. パッケージング工程
製麦工程で得られた麦芽は、仕込工程を経て麦汁になります。これに酵母を加えて発酵させ、さらに貯酒を行って熟成させると、濁りのあるビールができあがります。
この発酵・貯酒を終えたビールには、役割をまっとうした酵母が依然として生きた状態で残っています。このまま放っておくと、酵母は発酵を続けて「過発酵」の状態になり、ビールの風味に影響を与えかねません。そこで一般的なビールでは、ろ過工程で「熱処理」や「ろ過」を行い、酵母の働きを止めることで、品質を一定に保っています。

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ろ過工程のひとつである「熱処理」は、熱殺菌によって酵母を死滅させる方法で、過発酵を防ぐほか、菌の繁殖を抑え、保存性を高めるなどの目的で行われます。
近代細菌学の開祖とも呼ばれる19世紀の科学者ルイ・パスツールの名から「パストリゼーション(パスチャライゼーション)」とも呼ばれる熱処理には、容器ごと殺菌する「トンネル・パストリゼーション」と、容器詰めする前のビールを殺菌する「フラッシュ・パストリゼーション」の2種類があります。
「熱」とつくからには、高温で殺菌するイメージがあるかもしれませんが、実際は60〜70度の比較的低温で行われるもので、パストリゼーションは別名「パスツールの低温殺菌法」とも呼ばれています。

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ろ過技術が進んで生まれたのが「生ビール」
「生ビール」の定義を満たす「熱処理をしていないビール」とは、おもにろ過で酵母を取り除いた非熱処理ビールを指し、現在日本で親しまれている生ビールの多くがこれに該当します。
ビールの「ろ過」とは、濁りの原因となる物質や酵母を取り除く工程のこと。古くはこの工程で酵母を完全に取り除くことができなかったため、熱処理によって酵母の働きを止める熱処理ビールが一般的でしたが、ろ過技術の進化によって酵母を完全に除去できるようになってからは、熱処理を行わない「生ビール」が主流となりました。
ちなみに、ろ過を行わずに出荷される無ろ過(無濾過)のビールでも、非熱処理ならば「生ビール」と呼ぶことができます。
「生ビール」の「生」=「熱を加えていないこと」と覚えておくとよいでしょう。

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生ビールと「生」じゃないビールの違いは“熱処理をしているかどうか”
熱処理を行わない「生ビール」に対して、熱処理を行ったビールを「普通のビール」あるいは単に「ビール」と呼ぶことがあります。
生ビールと普通のビールの決定的な違いは、ろ過工程において熱処理を行っているかどうかにありますが、この熱処理を経るか否かで、味わいなどに違いが生まれます。それぞれの特徴を大まかにみていきましょう。
◆生ビール(非熱処理ビール)
熱処理をせず、ろ過により酵母などを取り除いたビール。ホップの豊かな香りとスッキリした味わいが特徴。
◆普通のビール(熱処理ビール)
発酵・貯酒工程後に熱処理を行ったビール。コクのあるまろやかな味わいに仕上がる傾向。
かつては、生ビールよりも熱処理ビールのほうが保存性が高いとされていましたが、ろ過技術の発展により、その差は縮まりました。現在、大手ビールメーカーが手がける生ビールの賞味期限は、普通のビールと変わらないケースがほとんどです。
なお、熱処理ビールの代表的な銘柄には「キリン クラシックラガー」(キリンビール)や「サッポロラガービール」(サッポロビール)となどが挙げられます。どちらも熱処理ビールならではの厚みのある味わいがたのしめます。機会があったら、生ビールと飲み比べてみてください。
生ビールとほかのビールの違いを確認

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「生ビール」とその他のビールの違いを紹介します。
「生ビール」と「ドラフトビール(ドラフトビア)」は同じもの?
ドラフトビールとは、樽出しビールのこと。「ドラフト」には「汲み出す」という意味があり、世界的には樽詰めビールをグラスに注いだものを「ドラフトビール(ドラフトビア)」と呼びます。
樽から注いだビールというと、日本では「生ビール」を思い浮かべる人が多いかもしれません。実際、日本のビール酒造組合が定める「ビールの表示に関する公正競争規約」では、ドラフトビールを以下のように規定しています。
出典 一般社団法人 全国公正取引協議会連合会|ビールの表示に関する公正競争規約生ビール及びドラフトビール
熱による処理(パストリゼーション)をしないビールでなければ、生ビール又はドラフトビールと表示してはならない。
つまり、日本で販売されている「ドラフトビール」はすべて「生ビール」ということです。
しかし世界的にみると、ドラフトビールは必ずしも生ビールではありません。たとえば、アメリカのように、熱処理済みであっても樽から注いだビールであれば「ドラフトビール」と呼んでいる国もあります。

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「生ビール」と「クラフトビール」の違いは?
「生ビール」は、ビール製法上の分類のひとつです。一方、「クラフトビール」には明確な定義がなく、おもに小規模ブルワリーで醸造家が情熱を注いで造るビールを指します。
「クラフトビール」のなかにも熱処理を行うものと行わないものがあり、熱処理していないビールは「生ビール」と呼ばれます。エールビールでもラガービールでも、黄金色のビールでも黒ビールでも、非熱処理ならばすべて生ビールです。
クラフトビールのなかには熱処理もろ過も行わず、酵母が生きたまま出荷される無ろ過の生ビールもあり人気です。多くの場合は賞味期限が短く設定されているので、入手後は冷蔵庫で保管し、なるべく早めに飲みましょう。

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「生ビール」と「発泡酒」の違いは?
日本の酒税法では、使用する原料や麦芽の使用率によってビールなどの発泡性酒類を「ビール」「発泡酒」「その他の発泡性酒類」の3つに分類しています(2025年5月現在)。
「生ビール」は「ビール」に分類されます。
「ビール」と「発泡酒」の違いを、酒税法上の定義をもとに確認しておきましょう(2025年5月現在)。
出典 国税庁|ビール・発泡酒に関するものビールとは、次に掲げるもので、アルコール分が20度未満のものをいいます。
イ 麦芽、ホップ、水を原料として発酵させたもの
ロ 麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品①及び②を原料として発酵させたもの
ハ イ又はロの酒類にホップ又は政令で定める物品②を加えて発酵させたもの
なお、政令で定める物品とは、①麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、でん粉、糖類又は財務省令で定める苦味料若しくは着色料、②果実又はコリアンダーその他の財務省令で定める香味料をいいいます。ただし、その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の総重量の100分の50以上のものであり、かつ、政令で定める物品②の総重量が麦芽の重量の100分の5を超えないものに限られます。
発泡酒とは、次に掲げるもので、発泡性を有するアルコール分20度未満のものをいいます。
イ 麦芽又は麦を原料の一部としたもの
ロ イ以外の酒類で、ホップを原料の一部としたもの
ハ イ又はロ以外の酒類で、香味、色沢その他の性状がビールに類似するものとして政令で定める一定のもの
「発泡酒」のなかにも熱処理をしていないものは存在し、商品名に「生」とつくことはありますが、缶やラベルの表示は「発泡酒」。ビールではないため、「生ビール」と呼ぶことはできません。
なお、かつては「新ジャンル(第三のビール)」と呼ばれる発泡性酒類がありましたが、2023年10月に「発泡酒②」「発泡酒③」に統合されています。
ジョッキのビールは生? 缶ビール、瓶ビールと「生ビール」の関係性は?

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居酒屋さんで飲むジョッキのビールだけが「生ビール」だと思っている人もいるかもしれませんが、実際は、ジョッキのビールも缶ビールも瓶ビールも、熱処理をしていなければすべて生ビール。逆に、熱処理をしているビールは、どんな容器に入っていても「生ビール」とは呼べません。
居酒屋さんで提供されるジョッキのビールはたいていサーバーから注がれた生ビールですが、缶ビールや瓶ビールの場合は、ラベルで生かどうか、あるいは熱処理か非熱処理かを確認する必要があります。
おすすめの「生ビール(ドラフトビール)」
日ごろおいしいと感じているビールが生ビールかどうか認識していないという人もいるのでは? ここでは、編集部が自信をもっておすすめする生ビールを5銘柄紹介します。
キリン一番搾り生ビール|キリンビール

出典:キリンビール株式会社サイト
「生」がつかないビールの名前でまず思い浮かぶのが「一番搾り」という人も多いのでは? 正式名称は「キリン一番搾り生ビール」。キリン独自の製法で一番搾り麦汁だけを使って造られた贅沢なビールで、雑味の少ないクリアな味わいが特長です。
1990年に「一番搾り麦汁だけで造るビール」として誕生。現在は世界40カ国以上で愛されています。
ちなみに、2025年4月に一番搾りブランドから登場した「キリン一番搾り ホワイトビール」は、小麦の旨味を引き出した軽やかな味わいのホワイトビール。生ビールではありませんが、こちらもおすすめです。
製造販売元:キリンビール株式会社
「一番搾り」ブランドサイトはこちら
アサヒスーパードライ|アサヒビール

出典:アサヒビール株式会社サイト
「アサヒ スーパードライ」は、厳選した酵母を使用した、スッキリ辛口なビール。名前は横文字ですが、缶や瓶には「生」の文字。冷やすほどに飲みごたえがアップし、キレが冴えわたる、のどごし爽快な生ビールです。
2025年5月20日より3カ月連続で、冷たさが一目でわかる、「キンキン冷感タンブラー」付きカートン発売(なくなり次第終了)。
製造販売元:アサヒビール株式会社
「アサヒスーパードライ」ブランドサイトはこちら
サッポロ生ビール黒ラベル|サッポロビール

出典:サッポロビール株式会社サイト
「サッポロ生ビール黒ラベル」は、その名のとおり生ビール。麦のうまみとさわやかな後味の完璧なバランス、そして何より、「生のうまさ」にこだわった、飲み飽きしない1本です。
起源は1957年に東京・横浜などで限定発売された「サッポロ壜生ビール」。改良と進化を重ねたいまも、ビール好きの大人たちに愛されています。
製造販売元:サッポロビール株式会社
「サッポロ生ビール黒ラベル」ブランドサイトはこちら
ヱビスビール(YEBISU BEER)|サッポロビール

出典:サッポロビール株式会社サイト
ヱビス酵母とバイエルン産アロマホップ、長期熟成が奏でる旨味とコクが魅力の生ビール。
ドイツ・ビール純粋令に基づく本物のビールを目指し、1890年に「恵比寿ビール」として誕生。130年以上の歴史のなかで、ビールのたのしみ方の進化と多様性を作り続けています。
香りとコクの「ヱビス プレミアムエール」、芳醇な味わいの「ヱビス プレミアムブラック」、2種類のプレミアムな生ビールもおすすめです。
製造販売元:サッポロビール株式会社
「ヱビスビール」ブランドサイトはこちら
ザ・プレミアム・モルツ|サントリー

画像提供:サントリーホールディングス株式会社
「神泡」で知られるサントリー「ザ・プレミアム・モルツ」、通称「プレモル」も生ビール。しなやかな上質感あるプレミアムビールです。きめ細かくクリーミーな泡と、鮮やかに広がる華やかな香り、深みのあるコクが特徴で、上質な味わいを堪能できます。
グッとくる飲みごたえと、かつてない飲みやすさを両立させた「サントリー生ビール」も人気です。
製造販売元:サントリー株式会社
「ザ・プレミアム・モルツ」ブランドサイトはこちら
「生ビール」とは、熱処理をしていないビールのこと。熱処理ビールとの間に優劣はありませんが、「生」ならではの味わいを追求した商品が多く流通しているので、ジョッキや缶ビール、瓶ビールなどお好みのスタイルで、その魅力を味わい尽くしてみてください。

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