クラフトビールと普通のビールの違いは?定義や歴史、製法、味わい、価格など多方向から徹底解剖

クラフトビールと大手ビールメーカーが大量生産する普通のビールは、定義や歴史、原材料、製法はもとより、ビール造りに対する考え方にも明確な違いがあります。今回は、クラフトビールと普通のビールの違いやクラフトビールの人気の秘密、健康面への影響について紹介します。
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クラフトビールと普通のビール(一般的なビール)の違いを、さまざまな角度からみていきます。
そもそも、クラフトビールって何?

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クラフトビールとは、比較的小規模なブルワリー(醸造所)のブルワー(醸造士)がホップや麦芽、酵母の種類、製法などにこだわり、自由な発想と情熱をもって小ロットで生産する多様なビールのこと。日本で広く飲まれている大手ビールメーカーのビールに比べると、「個性的」「バラエティ豊か」「価格がやや高い」などの印象を抱く人が多いかもしれません。
ここでは、日本の大手ビールメーカーが大量生産するビールを便宜的に「普通のビール」と定義。クラフトビールとの違いを多角的に検証していきます。
クラフトビールと普通のビールの違い【6つの視点】

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クラフトビールと普通のビールの違いを、定義や歴史、製法、原材料、色や香り、味わい、のどごしなど五感で感じる特徴、価格といった6つの視点からひも解きます。
【定義】キーワードは「規模」「独立性」「地域性と個性」
「クラフトビール」という言葉に酒税法上の厳密な決まりはありませんが、日本では「全国地ビール醸造者協議会(JBA)」が以下のように定義しています。
出典 日本地ビール醸造者協議会(JBA)|クラフトビールとは1.酒税法改正(1994年4月)以前から造られている大資本の大量生産のビールからは独立したビール造りを行っている。
2.1回の仕込単位(麦汁の製造量)が20キロリットル以下の小規模な仕込みで行い、ブルワー(醸造者)が目の届く製造を行っている。
3.伝統的な製法で製造しているか、あるいは地域の特産品などを原料とした個性あふれるビールを製造している。そして地域に根付いている。
つまり、クラフトビールは「小規模」「独立性」「地域性や個性」を大切にして造られるビールといえるでしょう。
「クラフトビール」と同様に「普通のビール」も酒税法上の定義は存在しません。違いを知るにあたり、「規模」「独立性」「地域性や個性」の観点から比較してみましょう。

クラフトビールと普通のビールの定義の違い
上で紹介したクラフトビールの定義は、あくまで小規模醸造所の業界団体としてのJBAが策定したもので、すべてのメーカーに対して適用されるものではありません。
実際、普通のビールを手がける大手ビールメーカーもクラフトビールを製造・販売しており、ビール好きの注目を集めています。「規模」と「独立性」はJBAの定義を満たしていませんが、仕込みの規模や地域性・個性、そしてなにより、自由な発想やこだわり、情熱といったクラフトビールの哲学の部分は反映しているといえるでしょう。
ちなみに、クラフトビールの本場アメリカでは、クラフトブルワリーの業界団体であるブルワーズ・アソシエーション(Brewers Association/通称「BA」)によって、以下のような定義づけがされています。
1. 小規模であること
2. 独立していること
3. 酒造免許を持って醸造していること
以上、3つの条件を満たしたブルワリーが造るビールをクラフトビールという。
特筆すべきは、「小規模」のスケール感。アメリカにおける「小規模」の定義は「年間の生産量が600万バレル(約70万キロリットル)以下」。日本の基準である「20キロリットル以下」とはケタが違いますね。

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【歴史】クラフトビールのルーツはアメリカ
現在、クラフトビールとして注目を集めているビアスタイルの多くは、ドイツやベルギー、イギリスなどのビール大国で誕生し、伝統的に飲まれてきたものですが、「クラフトビール」という概念は20世紀のアメリカで確立しました。
◆アメリカ禁酒法(1920〜1933年)の影響
1920年に禁酒法が施行される以前のアメリカでは、地域に根差した小規模ブルワリーが数多く存在し、それぞれの個性や技術を生かして多様なビールを造っていました。しかし、禁酒法によってアルコールの製造・販売・運搬・輸出入が禁止されると、醸造所の多くは閉鎖に追い込まれてしまいます。
◆大手メーカーの台頭
禁酒法の廃止後も小規模ブルワリーの多くは再開のめどが立たず、ビール市場は大手メーカーの寡占が進みます。こうして大量生産に適したビールばかりが流通した結果、バドワイザーやミラーなどのアメリカン・ラガーが市場を席巻。味わいの多様性は失われていきました。
◆クラフトビールムーブメントの勃興〜世界への波及
アメリカでクラフトビールが注目を集めるようになったのは1970年代のこと。大手メーカーが造るビールの画一的な味に飽きた愛好家たちが「もっとうまいビールを」と立ち上がり、小規模醸造所向けの消費減税に続いて自家醸造(ホームブルーイング)が合法化されたのを機に、ビール造りに着手。小規模ブルワリーが続々と生まれます。
以後、大手のビールとは一線を画す多様で個性的なビアスタイルが次々と登場。クラフトビールブームは、さらなる選択肢と個性を求める消費者のニーズと相まって、大きなムーブメントに発展し、ヨーロッパや日本をはじめとする世界各国に波及していきました。

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日本で小規模ブルワリーが誕生したのは、1994年の酒税法改正以降のこと。ビールの年間最低製造数量が2,000キロリットルから60キロリットルへと大幅に引き下げられたことをきっかけに、これまで大手ビールメーカーしか参入できなかったビール市場への道筋が開けたのです。
当初は「地ビール」と呼ばれた少量生産のビールは、一時は衰退の気配をみせたものの、2010年代前半、本場アメリカのクラフトビールが上陸したのを機に人気が再燃。「クラフトビール」の呼び名で日本中に浸透していきました。
一方、日本で親しまれている普通のビールは、ドイツをはじめビール大国の技術を積極的に吸収しながら、日本の市場や食文化に合わせて発展。クラフトビールとは異なる歴史を刻んできました。
日本のビールの歴史について、もっと知りたい人は、以下の記事も読んでみてください。

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【製法】個性&多様性か、一貫した味わいか
自由な発想と造り手の情熱で個性と多様性を追求する「クラフトビール」と、ブランドの信頼性と安定的な供給が重要視される「普通のビール」とでは、製法も変わってきます。
それぞれの特徴をみていきましょう。
<クラフトビールの製法・醸造方法の特徴>
◇比較的小規模な設備を使用した少量生産
◇醸造士による手作業は多めで、手間を惜しまない
◇原料の自由度が高い
◇多種多様なビアスタイルを扱い、ビアスタイルに合わせた製法を柔軟に使い分ける
◇酵母の種類や発酵温度・期間は目指す味わいに合わせてそのつど調整
◇ろ過や熱処理を行わないこともある
<普通のビールの製法・醸造方法の特徴>
◇大規模かつ最新の技術を導入した設備を使用した大量生産で、製造工程を標準化
◇多くの工程を自動化
◇原料の配合や発酵条件を徹底的に管理し、品質の安定化を図る
◇ピルスナーなどのラガービールが主流
◇ビールの品質を保持し、安定した流通を目指すべく、ろ過や熱処理を行うのが一般的(熱処理を行わず、ろ過で酵母を取り除いた生ビールが人気)

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【原材料】ポイントは副原料
ビールに使用できる原料や、原材料として認められている物品は酒税法によって定められています。発泡酒についても同様です。詳細は国税庁のサイト等で確認できます。
(参考)
国税庁|ビール・発泡酒に関するもの
「クラフトビール」も「普通のビール」も、主原料麦芽(モルト)とホップ、酵母、水ですが、コンセプトの違いから、原料やバリエーションや使用量、セレクト基準などに違いがあります。特筆すべきは、副原料。普通のビールでは、米やコーンスターチなどを使用することがありますが、クラフトビールでは理想とする香りや味わいに近づけるために、フルーツやハーブ、スパイスなどの副原料を積極的に使用します。たとえ「ビール」の定義から外れ、「発泡酒」と表記することになったとしても、目指す香味や飲み口を優先するケースが多い印象です。

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それでは、クラフトビールと普通のビールの原材料の違いを具体的にみていきましょう。
【クラフトビール】
◇麦芽
ビアスタイルによっては、ベースの麦芽に加えて、カラメル麦芽やチョコレート麦芽などのロースト(焙煎)麦芽を使用。色や香り、コクを調整する。
◇副原料
フルーツやハーブ&スパイス、コーヒー、チョコレートなど、多彩な副原料で香りや風味を添えることで、個性や複雑さを追求。地域を象徴する花や特産品を副原料に使用することで、唯一無二の味わいを出すこともある。
◇ホップ
苦味が特長のビアスタイルでは、ホップをふんだんに使用。また、目指す味わいに合わせて特定の産地のホップをチョイスしたり、配合を調整したり、添加するタイミングを変えたりすることも。
◇酵母
ビールのスタイルに応じて多種多様な使い分け。独特の味わいや地域性を出すために、酵母を独自に開発する醸造家もいる。

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【普通のビール】
◇麦芽
目指す味わいと品質に適した麦芽を厳選。契約農家と連携し、品質管理を徹底しているケースも少なくない。
◇副原料
米やコーン、スターチ、糖類といった主要なものを使用。これらは味をスッキリさせ、香味を整える役割を担っています。
◇ホップ
ビールに爽快な香りと苦味を与え、泡持ちをよくするのがホップの役割。普通のビールではクリアな味わいを重視し、厳選された品種を比較的少なめに使用するのが一般的。
◇酵母
おもにラガー酵母が使われます。

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【五感で感じる特徴】色や香り、味わい、のどごしは千差万別
「クラフトビール」は、比較的小規模で独立したブルワリーが、地域性や個性を大切にして造る、多種多様なビールの総称。小規模な仕込みで造られるビールであれば、あらゆるビアスタイルが当てはまり、色や香り、味わい、のどごしには無限の広がりがあります。
たとえば、ビールの色は黄金色や琥珀色、黒色まで幅広く、なかには白く濁ったものも存在します。
香りは穏やかなものから、フルーティーで華やかなもの、コーヒーやビターチョコレートを思わせる焙煎香が特長のものまで多種多様。複雑なアロマが幾重にも折り重なったものもあります。
味わいは、濃厚で複雑ものから、スッキリ淡麗なもの、苦味が少なくほのかな甘味が感じられるものまで、じつに多彩。
のどごしも、重厚なものから滑らかで舌に残るものなど多様な個性が味わえます。
一方、「普通のビール」の多くの場合、「ピルスナー」というチェコ発祥のビアスタイル(ラガービールの一種)を指します。透き通った黄金色と、雑味の少ない味わい、スッキリとしたキレのあるのどごしが特長で、ホップの香りはやや控えめです。
「ピルスナー」といえば、日本の消費者がもっとも「ビールらしい」と感じるビールですが、実際はクラフトビールとして提供されることもあります。

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【価格・流通】クラフトビールが割高になるのはなぜ?
「クラフトビール」は「普通のビール」に比べるとやや割高。クラフトビールは価格の幅が広く、また普通のビールはオープン価格を採用しているケースが多いため、正確な比較はできませんが、2025年9月現在、クラフトビールの価格は同容量の普通のビールの1.5〜3倍ほど。高いクラフトビールになると普通のビールの5倍を超えるものもあり、価格差が際立つ印象です。
というのも、大手ビールメーカーのビールは大量生産で効率的な製造が可能ですが、クラフトビールは1回あたりの醸造量が少なく、手間暇もかかっています。オートメーション化が基本の普通のビールに比べると、製造効率が低く人件費もかかります。
原料費をとってみても、普通のビールは厳選した原材料を定期的かつ大量に仕入れるため、コストを下げることができます。一方、ビールの個性を重視するクラフトビールは仕入れの量が少ないうえ、高品質で多彩な原材料を使用するケースもあります。結果的にコストがかさみ、単価に反映されるのです。
流通コストの違いも顕著です。普通のビールは常温による流通が基本ですが、クラフトビールは品質保持のために「要冷蔵」とするケースも多く、流通ロットも少ないため、輸送コストが割高になり、結果的に普通のビールとの価格差が開きます。
なお、クラフトビールと普通のビールは、販路も異なります。スーパーマーケットやコンビニ、一般酒販店などで販売しているクラフトビールはごく一握りの知名度の高い銘柄。多くのクラフトビールは、ブルワリーや直営のブルーパブ、地元のレストランなどで販売しており、遠方の飲み手はオンラインショップや通販で購入するのが一般的。道の駅やイベント会場で売られていることもありますが、お目当ての銘柄に出会えるとは限りません。
対する普通のビールは、それぞれのメーカーが築き上げてきた大規模な流通網で効率的に配送され、全国のスーパーやコンビニ、一般酒販店、ドラッグストア、ディスカウントストア、そしてオンラインストアなどで販売されます。
クラフトビールを選ぶ理由は?人気の秘密を探る

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いつもは「普通のビール」をたのしんでいるけれど、たまには贅沢に「クラフトビール」を飲みたい! そんなふうに思ったことはありませんか?
クラフトビールの人気の秘密に、普通のビールにはない個性と多様性、選ぶたのしみ、そしてとっておきの1杯に出会ったときに得られる体験価値などが挙げられます。クラフトビールはじっくり味わいながら飲むことが多いため、同じ空間にいる人とのコミュニケーションも生まれます。また、気になる銘柄を求め、苦労して手に入れたときの達成感もひとしおです。
クラフトビールを選ぶ理由は人それぞれ。たとえば、以下のような理由が考えられます。
◇個性的で多様な味をたのしみたい
◇初めて飲むビアスタイルを飲み比べてみたい
◇味や品質へのこだわりに触れたい
◇地元や旅先で中・小規模ブルワリーに立ち寄って、地域の発展に貢献したい
◇酵母が生きた新鮮なビール(熱処理をしていないビールや無ろ過のビール)をたのしみたい
◇郷土料理とのマリアージュを堪能したい
◇日本一おいしいビールに出会いたい
クラフトビールは、種類も多様なら、たのしみ方も千差万別。その深い世界観に興味を惹かれている人は、きっかけを探して飛び込んでみてください。
クラフトビールは健康によい?適量を知っておいしく味わおう!

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クラフトビールは、造り手が放つ個性や多様な味わいに加えて、栄養面においても普通のビールとは一線を画す側面があります。とくに、製法や原材料のこだわりから、体に必要な成分がより豊富に含まれているといわれています。
クラフトビールのなかでも、非加熱かつ無ろ過で造られるビールには、ろ過工程で酵母などを取り除いている普通のビールに比べて、ビタミンB群やポリフェノール、ミネラルといった栄養成分が多く残る傾向があります。
◇ビタミンB群
おもに酵母に由来。疲労回復や代謝促進に役立つといわれています。
◇ポリフェノール
麦芽やホップ由来の成分。強い抗酸化作用があるとされ、生活習慣病の予防や老化防止につながる可能性が指摘されています。
◇カリウム、マグネシウムなどのミネラル成分
体の調子を整える役割があります。
こうした成分はビールを適量飲む場合に、健康にプラスの影響を与える可能性があるといわれています。
しかし、どんな食品や飲料にもいえることですが、健康効果を享受するためには、適量を守ることが重要です。1日あたりのお酒の適量は、純アルコール量で約20グラム。アルコール度数5パーセントのビールなら500ミリリットルですが、適量には個人差があり、飲みすぎは健康を損なう原因となります。
クラフトビールの栄養成分の恩恵を受けつつ、普通のビールにはない個性的な味わいをじっくり、「適量」の範囲内でたのしむことこそが、真に健康によい飲み方といえるでしょう。
(参考)
厚生労働省|みんなに知ってほしい飲酒のこと
公益社団法人アルコール健康医学協会
クラフトビールと普通のビールは、定義や歴史、製法、原材料、五感で感じる特徴、価格面などに違いがありますが、それぞれが魅力にあふれ、豊かなビールライフを彩ってくれます。この記事で違いを確認したら、ぜひ両者を飲み比べてみてください。
※今回お届けした情報は、2025年10月現在のものです。ご利用の際は状況が異なる場合がありますのでご注意ください。

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