ビールの製造方法とは? 工程ごとに詳しく解説
ビールの製造方法は、大きく5つの工程に分けられます。各工程のポイントを押さえておくことで、好みのビールを見つけやすくなります。今回は、ビール造りの5工程「製麦」「仕込」「発酵」「ろ過」「パッケージング」について詳しく解説します。
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目次
ビールの定義をおさらい
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ビールの製造方法を説明する前に、「そもそもビールとはなにか」についておさらいしましょう。
「ビール」をかんたんに定義すると「麦芽、ホップ、水に酵母を加えて発酵させたお酒」となります。ただし、どんなお酒をビールとするかは、各国の法律によって厳密に定められています。
日本では、平成29年(2017年)の酒税法改正によって、次のようにビールが再定義されました(施行は2018年4月1日)。
◇麦芽、ホップ、水を原料として発酵させたもの
◇麦芽、ホップ、水および麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの
◇上記2つの酒類にホップまたは政令で定める物品を加えて発酵させたもの
*その原料中麦芽の重量が、ホップおよび水以外の原料の重量の合計の50%以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の5%を超えないものに限る。
◇アルコール分が20度未満のもの
「政令で定める物品」とは、いわゆる「副原料」のことで、以下のように定められています。
◇麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、でん粉、糖類または財務省令で定める苦味料もしくは着色料
◇果実(果実を乾燥させたもの・煮詰めたもの・濃縮させた果汁を含む)、またはコリアンダー、コリアンダーの種、その他の財務省令で定める香味料
◇ビールに香りや味をつけるために使用するもの
◆香辛料(こしょう、シナモン、クローブ、山椒など)
◆ハーブ(カモミール、セージ、バジル、レモングラスなど)
◆野菜(さつまいも、かぼちゃなど)
◆そば、ごま
◆はちみつその他の含糖質物、食塩、味噌
◆花、茶、コーヒー、ココアもしくはこれらの調整品
◆牡蠣、昆布、わかめ、かつおぶし
以上の条件から外れるものは、見た目や味わいがビールであっても、日本の法律上は「ビール以外のお酒」になるのです。
たとえば、上記以外の副原料を用い、個性豊かな風味や見た目を持つ「ビール」も多くありますが、それらは法律上「発泡酒」であったり、あるいは「第3のビール」(法律上は「その他の発泡性酒類」)であったりするわけです。
ビールの製造方法(1):製麦工程
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大麦を発芽させて麦芽を作る工程を「製麦工程」といいます。
ビールの味や香り、色などは麦芽が大きく関係しています。
ビール造りは、まずどんなビアスタイル(ビールの種類)を目指すかによって、麦芽(モルト)の種類を選定するところから始まります。
浸麦(しんばく)
大麦を15℃前後の水に2日間ほど浸し、発芽に必要な水分を供給する工程。水の中でも大麦は呼吸をしているため、空気を吹き込んだり水を入れ替えたりします。大麦が水を吸うことで発芽の準備が整います。
発芽(はつが)
水を含んだ大麦は発芽室へ。冷風を送って温度を15℃前後に保ち、発芽を促進させると根が出てきます。大麦が呼吸すると炭酸ガスが発生したり熱がこもったりするので、定期的に大麦を混ぜながら発芽を進めていきます。
焙燥(ばいそう)
発芽が一定まで進んだら、成長を止めるため熱風をかけて乾燥させます。これにより、ビールならではの色や香りの成分が作られ、長期間の保存も可能になります。
除根(じょこん)
麦芽から伸びた根は、不快な苦味成分(アルカロイド)のもとになるため、これを除去。麦芽同士をすり合わせると、穀粒と根がかんたんに分離します。淡色ビールの原料となる淡色麦芽を作る場合、製麦工程はここで完了します。
焙煎(ばいせん)
濃色ビールに使われる濃色麦芽を作る場合は、120〜230℃ほどの高温で麦芽を焙煎(ロースト)します。焙煎によって作られた濃色麦芽は、淡色麦芽と組み合わせることで、琥珀色や黒色といったさまざまな色のビールの原料になります。
ビールの製造方法(2):仕込工程
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「仕込工程」の目的は、糖やアミノ酸が豊富に含まれた麦汁を作ること。糖やアミノ酸は、あとの工程で酵母による発酵を促すために必要となります。
糖化(とうか)
麦芽を粉砕機で砕き、お湯と混合して仕込槽や仕込釜に入れます。「もろみ(マイシェ)」と呼ばれる、ドロドロとしたおかゆ状のものを造り、段階的に温度を上げていきます。
ビアスタイルによって多少の違いはありますが、最初は50℃でタンパク質を分解する酵素を働かせます。次に65℃でデンプンを分解する酵素を活性化させてデンプンを糖に変化。さらに70℃以上まで上げて酵素の働きを止めます。
麦汁のろ過
マイシェをろ過して固形物を取り除く工程。糖化の前に粗く粉砕された麦芽の穀皮が、フィルターの役割を果たします。底がメッシュ状になったろ過槽にマイシェを移すと、穀皮のフィルターを通って麦汁がろ過されるのです。
マイシェから最初に流れ出る麦汁を「一番麦汁(第一麦汁)」と呼びます。一番麦汁を使って醸造すると、すっきりとして、より旨味の感じられるビールができあがります。一方、一番麦汁を取ったあとに残された固形分にお湯をかけ、エキス分を抽出したものを「二番麦汁(第二麦汁)」といいます。二番麦汁を使うと、コクのある味わいが加わったビールになります。
煮沸(しゃふつ)
ろ過された麦汁を煮沸釜に移して煮込みます。煮沸は、麦汁の濃度調整や殺菌などを目的としていますが、なかでも重要なのはホップの成分を麦汁に加えることです。ホップは「ビールの 魂」とも呼ばれ、ビールに苦味や香りをつける重要な役目を果たしています。ホップはほかにも、ビールの泡立ちをよくしたり、殺菌効果を高めたりするのに一役買っています。
煮沸の序盤にホップを入れると苦味が出る一方で香りがつかなくなり、終盤に投入すると苦味はあまり出ず、香りが残るようになります。ホップを投入するタイミングと量を工夫することで、ビールの風味に個性が生まれるわけです。
冷却
煮沸が終わった麦汁は、ホップのカスなどを取り除いてから発酵槽へ移して冷却します。これは酵母が活動できる温度まで下げるのが目的。温度の目安はラガー(下面発酵)なら4〜10℃、エール(上面発酵)は16〜24℃ですが、ビアスタイルや使用する酵母によっても異なります。
ビールの製造方法(3):発酵・貯酒工程
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仕込工程を経て作られた麦汁は「発酵工程」へと進み、得られた未成熟の「若ビール」 を「貯酒工程」で熟成させます。いずれもビールの風味が特徴づけられる重要なプロセス。それぞれの工程のポイントを解説します。
発酵
冷却した麦汁に酵母を加えると、すぐに発酵が始まります。発酵とは、麦汁に含まれる糖から、酵母が二酸化炭素とアルコールを作り出すこと。ラガー(下面発酵)では10日間程度、エール(上面発酵)では5日間が発酵期間となります。この期間を「主発酵」と呼び、主発酵で作られた発酵液を「若ビール」といいます。
熟成
若ビールには アルコールが含まれているため「お酒」といえなくもないのですが、味が粗く香りもよくありません。そこで、若ビールを低温で熟成させて味を調えます。これを「貯酒(熟成)工程」または「後発酵」といいます。
若ビールには酵母もわずかに残っているため、ゆるやかに発酵も進みます。炭酸ガスも発生しビールに溶け込んでいきますが、余分な炭酸ガスが放出される際に、不快な香りもなくなっていきます。
熟成期間はビアスタイルによっても異なりますが、エール(上面発酵)では2〜3週間、ラガー(下面発酵)では約1か月 におよびます。
ビールの製造方法(4):ろ過工程
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熟成を終えたビールを製品として出荷するには、あえて酵母を残すビール以外は酵母などの不要物を取り除き、澄んだ液体にしなければなりません。酵母を取り除くには、「熱処理」と「ろ過」の2つの方法があります。
熱処理
19世紀に酵母と発酵のしくみが解明されるまで、ビールは殺菌されずに出荷されていました。長期間保存ができないため、アルコール度数を高めるか氷で冷却して品質を保っていたのです。やがてビールの殺菌法が発明されると、熱処理を施してから出荷されるようになりました。
熱処理の方法は2種類あります。ひとつは瓶や缶などに詰めたビールを容器ごと殺菌する「トンネル・パストリゼーション」、もうひとつは容器に詰める前のビールを殺菌する「フラッシュ・パストリゼーション」と呼ばれるものです。
ろ過技術が発展すると、熱処理を行わずにビールを製品化できるようになりましたが、現在でも熱処理を施したビールが造られています。
ちなみに、「生ビール」とは熱処理をしていないビールを指し、日本のビールはほとんどが生ビールです。
ろ過
酵母や、ビールの濁りの原因となる物質を取り除く工程です。なるべく酸素に触れない状態で、ビールが泡立たないようにゆっくりと流し込んでろ過していきます。こうすることで、きれいな色のビールができあがるのです。ただし、あえて酵母を残して容器の中で二次発酵させる銘柄もあります。
なお、大手メーカーが生産するビールの多くは、マイクロフィルターを使って酵母などを取り除くため、熱処理をしなくても常温保存できるようになっています。一方で、クラフトビールの多くはマイクロフィルターが使われていないため、熱処理されていないものは冷蔵庫に保存する必要があります。
ビールの製造方法(5):パッケージング工程
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ろ過または熱処理を終えるとビールは完成しますが、出荷するためには容器に詰める必要があります。これを「パッケージング工程」といいます。ここでは「瓶詰め」「缶詰め」「樽詰め」の3つについて説明しましょう。
瓶詰め
瓶詰めは、瓶の中の空気を炭酸ガスに置き換え、圧力を加えた状態で行います。これは、ビールを入れる際に泡だらけにならないようにすることと、ビールの劣化の原因となる酸素を追い出すのが目的です。
ビールが温度変化によって膨張し、瓶の中の圧力が高くならないよう、一定の空きを残して充填(じゅうてん)されます。
缶詰め
缶は胴とフタの部分に分かれていて、ビールを充填する際にはビールとフタの間に炭酸ガスを吹き込み、一瞬でフタを装着します。
缶の内側は合成樹脂によってコーティングされています。これにより、ビールとアルミ金属とが完全に遮断され、 味わいが変化しないようになっているのです。
樽詰め
瓶や缶と同様に、炭酸ガスや窒素ガスで樽の中を満たし、圧力を加えてビールを充填します。ビールを入れた樽は、重量を測定し、口金部分に漏れがないかなどを検査。問題がなければ、口金をキャップシールで包装します。
各工場では、瓶、缶、樽のいずれの場合も、おいしさが損なわれないよう、大量のビールを素早く詰め込むためのさまざまな工夫がなされています。
ビールが具体的にどのような工程を経て造られているのかを知ると、よりおいしく味わえるかもしれません。今度ビールを飲む際には、ぜひ製造方法にも思いをはせてみてください。