ビールの発酵工程とは? 発酵のしくみを紹介
ビールは原料のモルト(麦芽)を発酵させて造るお酒です。発酵方法にはいくつか種類があり、発酵の特徴を活かしてさまざまなビアスタイル(ビールの種類)が造られています。今回は、ビールの発酵とおいしさの関係に迫りつつ、発酵方法別におもなビアスタイルも紹介します。
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ビール造りにおける発酵工程とは?
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ビールの発酵方法は大きく分けて2種類
ビールの発酵方法には、おもに「上面発酵」と「下面発酵」の2種類があります。発酵方法をかんたんに見ていきましょう。
【上面発酵】
上面発酵は、約15~25度まで冷却した麦汁に、酵母を加えて発酵させる方法で、発酵の際に、酵母が炭酸ガスとともに表面(上面)に浮かんでくるのが特徴です。発酵期間は3~5日ほどと短く、熟成および貯酒期間も短期間で仕上げられます。
【下面発酵】
下面発酵は、上面発酵よりも低い5~10度前後まで冷却した麦汁に、酵母を加えて発酵させる方法で、発酵の際に、酵母が底(下面)に沈殿するのが特徴です。下面発酵の発酵期間は7~10日ほどで、熟成・貯酒に上面発酵よりも長い期間が必要となります。
ビールの発酵に使われるビール酵母とは
ビールの発酵に使われる酵母は「ビール酵母」と呼ばれます。ビール酵母とは、長い年月をかけて繰り返しビールの醸造に使われているうちに、ビール造りに適した特性を保有するようになった酵母のことです。
ビール酵母は何万種類もあるといわれていますが、大きく「上面発酵酵母」と「下面発酵酵母」に分けられます。つまり、上面発酵と下面発酵では、使用される酵母の種類が異なるのです。
なお、酵母のほかにも、原料や発酵方法、副原料などを変えることで、さまざまなビアスタイル(ビールの種類)のビールが造られています。
あえて野生酵母を用いる発酵方法もある
「上面発酵」「下面発酵」のほかに、じつは3つめの発酵方法があります。おもにベルギーで採用されている「自然発酵」という方法で、こちらは醸造所の空気中に漂う野生酵母を利用して発酵させます。
通常、ビールの醸造所は野生酵母や雑菌などが入らないよう厳重に管理されていますが、自然発酵させる場合は、土着の酵母を取り込むため、あえて外気にさらして麦汁を冷却するのが特徴です。このとき、外気から取り込まれる野生酵母は80種類以上ともいわれています。
ビールだけじゃない! すべてのお酒はアルコール発酵によって造られる
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お酒は製造方法によって3つに分類される
お酒の種類は、製造方法によって「醸造酒」「蒸溜酒」「混成酒」の3つに分けられます。それぞれの特徴は以下のとおりです。
◇「醸造酒」
原料に酵母を加えて発酵させ、糖を分解してアルコールと炭酸ガスを生成させることで造られるお酒です。ビールやワイン、日本酒などが該当します。
◇「蒸溜酒」
「醸造酒」を蒸溜して、アルコール度数を高めたお酒です。ウイスキーやブランデー、焼酎など、スピリッツと呼ばれる種類が当てはまります。
◇「混成酒」
「醸造酒」や「蒸溜酒」にフルーツやハーブなどさまざまな原料を加えて、風味や色合いなどを変化させたお酒です。リキュールや梅酒などが、「混成酒」にあたります。
このように、製造方法を見ると、「醸造酒」から「蒸溜酒」や「混成酒」が造られるということがわかるでしょう。
すべてのお酒のもとは「醸造酒」!?
「醸造酒」はすべてのお酒のもとになっていて、それを蒸溜したり別の材料を加えたりすることで、さまざまなお酒を造ることができます。
しかしながら、実際は、ビールを蒸溜してウイスキーを造ったり、ワインを蒸溜してブランデーを造ったり、日本酒を蒸溜して焼酎を造ったりしているわけではありません。
たとえば、ビールもウイスキーも麦芽を原料としていますが、製造工程は両者で異なります。ビールに加えられるホップも、ウイスキー造りには用いられません。
「醸造酒」がすべてのお酒のもとになっているというのは、あくまで理論上の考え方であると覚えておくとよいでしょう。
同じ「醸造酒」でも発酵方法は異なる
「醸造酒」の発酵方法についてもう少し深掘りしましょう。ビールなどの「醸造酒」は、原料に酵母を加え、発酵させて造るお酒です。酵母には糖を分解して、アルコールなどを生み出す働きがありますが、エサとなる糖がなければアルコール発酵することができません。そのため、原料に糖が含まれていない場合は、原料を「糖化」させてから酵母を加える必要があります。かんたんにいえば、「醸造酒」の発酵方法は、原料の糖分量によって違ってくるのです。
なお、「醸造酒」の発酵方法には3種類あります。それぞれの特徴を確認しましょう。
【単発酵】
原料にもともと含まれる糖を利用してアルコール発酵させる方法を、「単発酵」といいます。代表的な単発酵酒はワインで、ブドウにたっぷり含まれる糖を、酵母の力で発酵させて造ります。
【単行複発酵】
原料に糖が含まれていない場合、原料のデンプンを糖に変えてからアルコール発酵させます。これを「単行複発酵」といいます。代表的な単行複発酵酒はビールで、原料の大麦から麦芽を造り、麦芽の酵素でデンプンを糖化させて麦汁を造ったうえで、酵母を加えて発酵へと進みます。
【並行複発酵】
糖化と発酵を同時並行で行う発酵方法を「並行複発酵」といいます。代表的な並行複発酵酒は日本酒です。原料の米にはデンプンが含まれていますが、麹を使ってデンプンを酵母が分解しやすいように糖化させます。そして、同じタイミングで酵母を加えて発酵も進めます。糖化と発酵を同時に進めることで、効率よく発酵できるのが特徴です。
このように、お酒に合わせてさまざまな発酵方法が用いられています。
発酵方法別にビアスタイル(ビールの種類)をたのしもう
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フルーティーな風味のエール(上面発酵ビール)
ビールは発酵方法の違いによって、「上面発酵ビール」「下面発酵ビール」「自然発酵ビール」と、大きく3タイプのビアスタイルに分けられます。このうち、「エール」とも呼ばれる上面発酵ビールは、深い味わいと豊かな香りが特徴で、下面発酵ビールより長い歴史を持っています。
ここでは、上面発酵ビールに分類されるビアスタイルをいくつか紹介しましょう。
【IPA(インディア・ペールエール)】
インドがイギリス領だった時代に誕生したビール。インドで生活するイギリス人のために本国から「ペールエール」というビールを船で運ぶのに際し、長い航海で品質が劣化するのを防ぐため、防腐効果のあるホップを大量に加えたことで生まれました。「IPA」は苦味が強く、アルコール度数もペールエールより高めなのが特徴です。
【スタウト】
イギリス発祥のビール「ポーター」がアイルランドに渡って改良されたビアスタイルです。1778年にアーサー・ギネスによって考案されました。当時、ビールの原料である麦芽に税金がかけられていたため、ギネスは節税のため麦芽化していない大麦をローストして材料に加えました。その結果、コーヒーを思わせるシャープな苦味が生まれ人気となり、世界中に広まりました。
【ヴァイツェン】
材料に小麦を50%以上使用して造られるドイツ発祥のビール。「ヴァイツェン」はドイツ語で「小麦」を意味し、小麦のタンパク質によって白濁するため、「ヴァイス」(ドイツ語で「白」の意)とも呼ばれます。バナナやクローブを思わせる香りが特徴。小麦由来のやわらかな酸味と豊かな泡も魅力です。
スッキリとした味わいのラガー(下面発酵ビール)
下面発酵ビールは長い時間をかけて熟成を行うことから、ドイツ語で「貯蔵」を意味する「ラガー」と呼ばれています。香りはエールビールほど強くなく、スッキリとした味わいが特徴です。
下面発酵ビールには、おもに以下のようなビアスタイルがあります。
【ピルスナー】
ラガービールを代表するビアスタイル。日本の大手メーカーが造るビールのほとんどがこのタイプです。液体は黄金色で、スッキリとしたシャープな味わいや、ホップ由来の軽快な香りと苦味が特徴です。
【デュンケル】
ドイツ発祥のラガービール。「デュンケル」はドイツ語で「暗い」という意味で、その名のとおり、ブラウンからダークブラウンの見た目が特徴です。モルト由来のカラメルっぽさを感じますが、ラガーなので味わいはスッキリとしています。
【アメリカンラガー】
アメリカの地ビールに多く見られるビアスタイルです。のどごしも見た目も極めてライト。炭酸ガスが多く含まれ、炭酸の刺激を強く感じられるのが特徴です。ほのかに麦芽の甘味がありますが、ホップの苦味や香りは控えめです。
野生酵母をあえて使った自然発酵ビール
自然発酵ビールは、あえて工場の空気中に漂う野生酵母を取り込み、発酵させて造るビールで、「ランビック」というビアスタイルが有名です。
【ランビック】
レモンや酢を思わせる強烈な酸味が特徴。ベルギーのブリュッセルとその周辺でのみ醸造されるビアスタイルです。野生酵母を取り込んだ麦汁を木樽に入れ、約3年もの間、発酵・熟成させることで完成します
なお、ランビックがそのまま飲まれるケースは稀で、若いランビックと古いランビックをブレンドさせる「グーズ」、砂糖を加えて飲みやすくした「ファロ」、チェリーを加えた「クリーク」といったビアスタイルでたのしまれています。また、ランビックは、フルーツビールのベースとしても使われます。
上面発酵、下面発酵、そして自然発酵のビールは、それぞれ味わいや香りがまったく異なります。この機会にさまざまなビアスタイルを試して、ぜひお気に入りを見つけてみてください。