福井のおすすめ地酒10選【福井の日本酒】
福井県はミネラル豊富な白山水系の水や、酒造好適米「五百万石」の生産量全国2位を誇る米作りなど、酒造りに恵まれた地域。県内の酒蔵は約40を数え、越前ガニをはじめ若狭湾の海の幸を引き立てる淡麗なお酒を中心に、伝統を守りながら進化しています。
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福井の豊かな自然とおいしい水が育む酒
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福井県は、研究機関や大学などの調査で「住民の幸福度が日本一」というデータもあるほど暮らしやすい県。日本海の絶景、東尋坊や越前海岸をはじめ、その豊かな自然環境も魅力です。
福井県は酒どころとしても有名で、県内には約40の酒蔵が存在しています。一般的に「福井の酒は淡麗」と評されますが、内陸部の奥越と若狭湾寄りの南部では、合わせる食材、気候も違うため、その方向性を一括りにはできません。しかし、共通しているのは、淡麗傾向の酒でも深い味わいがあり、濃醇傾向の酒でもさわやかなキレがあるなど、そのバランスのよさです。
世界的に有名なアメリカのワイン評論家・ロバート・パーカーJr.氏が主筆を務める専門誌「ワイン・アドヴォケート」のWebサイトでは、日本全国から集めた約800点の純米吟醸酒、純米大吟醸酒のうち、福井県の5つの銘柄が100点満点中90点以上という評価を獲得しています。
地元・福井産へのこだわり! オリジナル酵母も開発
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ミネラル豊富な白山水系の上質な水。全国2位の生産量を誇る酒造好適米「五百万石」をはじめとした上質の米。こうした好条件に恵まれ、酒どころとして発展してきた福井県。酒造りに必要なもうひとつの要素「酵母」も純福井産のものにして「すべてが福井産」と胸を張れる銘酒を生み出すことは、福井県の日本酒業界の悲願でもありました。
その悲願を叶えるべく、1994年4月には福井県酒造組合と仁愛女子短期大学(現・仁愛大学)、福井県食品加工研究所の3者がスクラムを組み、福井県独自の酵母開発に着手。その酵母と県産酒米を使用した純福井県産の日本酒造りが始まりました。
福井県初のオリジナル酵母「ふくいうらら」が完成したのは1998年春のこと。以来、各蔵伝統の酒造りと並行して、福井オリジナル酵母を使用した“ザ・福井の地酒”というべき酒も、着実に増えています。
福井の人気銘柄
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福井の日本酒は、地元のみならず、全国的にも、さらには世界的にも高い評価を獲得しています。おいしい水と米を、高度な酒造技術で醸した人気銘柄を紹介します。
国内外にファンをもつ福井の代表酒【黒龍(こくりゅう)】
福井県を代表する酒として全国的に名高く、海外のファンも多い「黒龍」。創業は江戸時代後期の文化元年(1804年)という県内最古の老舗酒蔵・黒龍酒造は、現在、生産量の約8割が吟醸酒という吟醸蔵です。
酒の名は、蔵がある松岡町を流れる九頭竜川の古名・黒龍川に由来し、仕込み水にはその良質な伏流水を使用しています。また、使用する酒造好適米は兵庫県東条地区の特A山田錦と、地元大野産の五百万石。いずれも全国の名のある蔵もうらやむ極上の酒米です。黒龍酒造はそうして水にこだわり、米にこだわり、徹底した品質管理で味わい深い酒を醸します。
初代石田屋仁左衛門の名を冠した「石田屋」や「仁左衛門」のほか、「しずく」「九頭竜」など個性あふれる吟醸銘柄で、地酒ファンをたのしませています。
世界が認めたニッポンの高級酒【梵(ぼん)】
「梵」はサンスクリット語(古代インド語)では「真理」を意味し、英語では「BORN(=誕生)」を意味するなど、世界を視野に入れて命名された日本酒です。昭和天皇御大典の儀で初めて地方選酒として採用され、以来、国内外の重要な席で使用されています。
この国際色豊かな酒を醸すのは、万延元年(1860年)創業の老舗蔵、加藤吉平(きちべえ)商店。地下180メートルの井戸からくみ上げた日野川の伏流水で、兵庫県産山田錦と地元産の五百万石を原料米に、自社酵母で醸しています。添加物を使用せず、国内トップクラスの磨き(精米歩合)で、氷温熟成という伝統を守り、出荷に至るまで細心の注意を払うなど、徹底して「本物のうまさ」にこだわっています。
製造元:合資会社加藤吉平商店
小さな酒蔵の意地とこだわり【白龍(はくりゅう)】
創業文化3年(1806年)、永平寺の地に酒蔵を構え、霊峰白山の雪解け水をたくわえた九頭竜川の伏流水と、その水で生育した米で「白龍」の酒造りをしてきたのが吉田酒造。その酒の名は、白山を望み、九頭竜川が蔵のすぐ近くを流れていることから名づけられたのだとか。
6代目蔵元の吉田智彦氏が、より高みをめざして山田錦の自社栽培に取り組み、地域の農家も巻き込んで、優れた吟醸酒造りに邁進。現在では7代目蔵元の吉田由香里さんの元、杜氏を務めるのは蔵元の次女、吉田真子氏。若さと女性らしい感性で、米と水の新たな可能性に挑戦しています。
なお、「白龍」といえば新潟にある蔵元、白龍酒造の銘柄と混同しやすいですが、別の銘柄ですので注意しましょう。
製造元:吉田酒造有限会社
小さな老舗が挑戦する新銘柄【常山(じょうざん)】
常山(じょうざん)と、その蔵元、常山(とこやま)酒造は、同じ漢字でも読み方が異なるため、日本酒初心者は注意が必要です。蔵元は、文化元年(1804年)に創業した老舗蔵で、県の特産品である織物「羽二重(はぶたえ)」にあやかった「羽二重正宗」が長きにわたって主力銘柄でした。そこに「常山」が加わったのは、1996年と最近のこと。南部杜氏の流れをくむ栗山雅明杜氏が「福井の食材が引き立つ食中酒」をめざして開発した逸品です。地元契約農家との深い信頼をもとに育まれた特別栽培米「越前山田錦」をていねいに磨いた純米大吟醸は、料理を邪魔しない上品な香りと米の深い味わいが特徴です。
製造元:常山酒造合資会社
手造りに徹したピュアな酒【花垣(はながき)】
日本百名水「お清水」に代表される名水の里であり、酒造好適米「五百万石」の日本有数の産地としても有名な越前大野。創業百十余年の老舗南部酒造場による「花垣」は、初代の醸した酒が評判よく、その宴席で歌われていた謡曲の一節にあった「花垣」と名づけられたのだとか。蔵の理念は「手造りに徹して目の届く量をていねいに醸し、より高品位の酒を世に送り出す」。伝統技術を守りながら、新たな日本酒のバリエーションを提案すべく、米作りから取り組み、伝説の酒米「亀の尾」の復活や、有機JAS「五百万石」誕生を実現。近年は熟成酒の研究にも力を入れています。
製造元:株式会社南部酒造場
福井のそのほか注目銘柄
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水と米に恵まれ、ハイレベルな酒を提供する福井には、まだまだ数多くの人気銘柄、注目銘柄があります。そのいくつかを紹介します。
漁師町の蔵の歴史を変えた金賞獲得の酒【早瀬浦(はやせうら)】
早瀬浦は、若狭湾と三方五湖に挟まれた美しい漁港町で、湿地保存のラムサール条約にも登録されています。世界的な観光スポットの名を冠した日本酒を醸すのは、この地で300年の歴史をもつ老舗蔵・三宅彦右衛門酒造。長きにわたり、おもに地元漁師向けの銘柄「澤の井」を主力としていましたが、現在の12代目当主、三宅範彦氏が新たに立ち上げたのが「早瀬浦」でした。
海水のミネラルを含んだ辛口の仕上がりを特徴とするこの酒は、全国新酒鑑評会で金賞を受賞。その評判がたちまち全国の酒販店や日本酒ファンに知れわたりましたが、小さな蔵ゆえの流通量の少なさから“幻の酒”とも呼ばれています。
製造元:三宅彦右衛門酒造有限会社
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清流の町で伝統を守る小蔵の矜持【越前岬(えちぜんみさき)】
清流九頭竜川が流れる永平寺町で明治32年(1899年)に創業した田邊酒造の主力銘柄が「越前岬」。空気の澄んだ極寒の時期に仕込む伝統の「寒造り」で、仕込みは昔ながらの和釜を使用した小規模なもの。長期低温発酵させたもろみは、これも昔ながらの木桶搾り。本醸造から大吟醸に至るまで、酒造りのすべての工程において、大吟醸クラスの手間を惜しまないのが「越前岬」の味の決め手となっています。
看板商品は、兵庫県産の山田錦を40%まで磨いた「越前岬大吟醸」。控えめな吟醸香とやわらかな飲み口で、山田錦本来の旨味の余韻が後を引きます。
製造元:田邊酒造有限会社
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越前の地で、灘・伏見の域をめざす【関西(かんさい)】
福井県中部にあり、三方を山に囲まれた越前市は、古くから和紙、打刃物、たんすなどの工芸が盛んな地でした。片山酒造はこの地で明和年間(1764~1771)に酒造業を始め、当初は「愛宕(あたご)」「男山(おとこやま)」という酒名で親しまれていました。明治42年(1909年)に銘柄を「関西」と改名したのは、灘や伏見など関西が銘醸地とされていたことから、「越前の銘醸になる」との意気込みを込めたのだとか。
主力商品の「関西 佳撰(かせん)」は口に含んだときにはほのかな甘味とコクを感じ、飲み込むとスッと消えるキレのよい味わいで、地元で根強い人気があります。
製造元:片山酒造株式会社
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地元に愛される酒をめざして150年【白岳仙(はくがくせん)】
山岳が並ぶ厳しい雪国の地で、山のように人々に愛される酒をめざして造られた「白岳仙」。その蔵元は、嘉永6年(1853年)創業の老舗蔵、安本酒造です。小さな蔵の少量生産ならではの、量よりも質を求めたていねいな手造りで、理想の食中酒を追求し続けています。
銘柄の顔となるのは福井大野産の五百万石を55%まで磨いた「白岳仙 純米吟醸 奥越五百万石」。吟醸酒でありながら、香りはおだやかで、ほのかな甘味と酸味のバランスがよく、やわらかな風味と透明感あるキレのあるやや辛口です。
製造元:安本酒造有限会社
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小さな蔵が立ち上げた注目の新銘柄【紗利(さり)】
かつて宿場町であった東郷で、先々代の毛利淳吉氏が「天田屋」という酒蔵を継承して毛利酒造を創業したのは昭和13年(1938年)のこと。福井県内では比較的歴史が浅く、小規模生産の蔵ですが、代表銘柄の「越の桂月」を中心に、地元から愛されてきました。
この小さな蔵の名を全国区にしたのが、2013年発売の新銘柄「紗利」。「サリ」とはサンスクリット語で「米」を意味し、寿司めしを指す「シャリ」の語源という説もあります。「紗利」には精米歩合50%の純米大吟醸「五割諸白(ごわりもろはく)」と、精米歩合70%の純米酒「燗左紫(かんざし)」があり、どちらもほどよい酸味が寿司によく合うと評判です。また、世界的に有名な三ツ星シェフ、アラン・デュカス氏に注目されたことで、海外からの問い合わせも増え、急成長をとげています。
製造元:毛利酒造合資会社
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福井県には、ほかにも「伝心(でんしん)」「福一(ふくいち)」「鳳凰源平(ほうおうげんぺい)」「富成喜(ふなき)」「福千歳(ふくちとせ)」など、個性あふれる日本酒があります。
美しくも厳しい自然環境と、極上の水が育む福井の酒は、伝統を守りながら進化を続けています。日本海の冬の荒波を思い浮かべながら、造り手の技と情熱を味わってみてはいかがでしょうか。
福井県酒造組合
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