島根のおすすめ地酒10選【島根の日本酒】
島根県は、八百万(やおよろず)の神が集うとされる出雲大社を擁する地。古くから伝わる神話の数々でも知られます。その神話にはお酒が登場するものも多く、その流れをついで島根県では現在も日本酒造りが盛んです。島根県の日本酒の歴史や、注目銘柄を見てみましょう。
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島根の酒造りは弥生時代からの歴史をもつ
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島根県は出雲大社をはじめ、神話にまつわる史跡が数多く残り、その歴史の深さは現代にも語り継がれています。出雲の神話には、お酒が重要な役割を果たすものも多く、日本酒もまた、古くより島根県とは密接な関係にありました。
たとえば、英雄スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治した際に、「八塩折(ヤシオリ)之酒」を飲ませて酔っ払わせたというのは有名な話です。また、出雲市小境町の佐香(さか)神社では、多くの神々が集まって酒を造り、酒宴を開いたとの伝承があり、今も秋の例祭では参拝客にどぶろくがふるまわれます。
神話に伝えられるだけでなく、出雲で発見される遺跡からも、弥生時代には酒造りが行われていたと推測されています。そのため、奈良県や兵庫県といった全国有数の酒処と並んで、島根県を「日本酒発祥の地」とする説もしばしば見られます。
そんな島根県に色濃く根付く酒文化は、出雲杜氏、石見(いわみ)杜氏らの手によって豊かに発展。地域ごとに独自のスタイルを確立し、今に伝わっています。
島根で開発された多彩な酒造好適米
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島根県では数種類の酒造好適米が栽培されています。そのうち「改良八反流(はったんながれ)」「佐香錦(さかにしき)」「改良雄町(おまち)」「神の舞(かんのまい)」の4つは、島根県内で独自に開発された品種です。
もともと「八反流」は栽培が難しく、一度は栽培がストップしていた幻の酒米。これが島根の人々の努力により、復活を遂げたのが「改良八反流」です。「佐香錦」は高級酒の原料として開発された品種で、島根県の気候で栽培しやすいように改良が重ねられました。この酒米を使った酒は、現在も高級酒として市場に出回っています。
「改良雄町」は、良質な酒造好適米ながら、稲の倒れやすさが難点だった「雄町」を改良したもので、島根県の日本酒に広く用いられています。最後に「神の舞」は、ともに名の知れた酒造好適米「五百万石」と「美山錦」を交配し、寒さや病気に対する耐性を高めようと開発された経緯があり、おもに山間地帯で栽培されています。
このように島根県は、オリジナルの酒造好適米に富んでいるのが大きな特徴です。島根の酒造りでは、これら地元の酒米にくわえて、古くより伝わる醸造法を取り入れることで、唯一無二の味わいを実現しています。
島根の人気銘柄
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島根県には長い歴史に裏づけられた、酒好きをもうならせるような日本酒がたくさんあります。下記では、とくに人気の高い銘柄を5つピックアップしました。
酒の入門銘柄に最適な飲みやすさ【月山(がっさん)】
「月山」の蔵元である吉田酒造は、1730年(享保15年)創業という300年近い歴史をもつ老舗蔵です。蔵を構える安来市は、戦国時代に難攻不落の城として名を馳せた月山富田城のお膝元。この地では、毎年、もっともできのよかった酒を「月山」と名づけ、城主に献上していたという伝承があり、これにあやかって銘柄名としているのだとか。
「月山」は、硬度0.3という日本屈指の超軟水と、島根県産の良質な酒米を使用して造られるお酒。すっきりときれいな印象で、あとに残らないクリアな飲み口が魅力です。その飲みやすさから、これから日本酒をたのしみたいという初心者向けの入門銘柄としてもおすすめできます。
製造元:吉田酒造株式会社
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縁起が悪い名前もクセになる【死神(しにがみ)】
「死神」は、造り手である加茂福酒造自らが“日本一縁起の悪い酒”と語るほどの異色の名をもつ日本酒です。大正11年(1922年)創業のこの蔵元では、縁起のいい名が好まれる日本酒業界にあって、あえてその流れに逆行すべく、落語「死神」から命名したのだとか。
加茂福酒造では。高齢化を背景に熟練の技をもつ杜氏が次々と引退するなか、当主自らが蔵元杜氏として指揮を執り、独自の個性ある酒造りに挑戦。枯れ葉のような色合いと、強い甘味のなかにスッキリしたキレを感じさせる純米酒「死神」を完成させました。縁起が悪くともクセになるというその独特の味わいは、全国新酒鑑評会で6年連続金賞を獲得するなど、高い評価を得ています。
製造元:加茂福酒造株式会社
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世界各国で日本食とともに愛される【李白(りはく)】
「李白」は、明治15年(1882年)創業の李白酒造が造る定番酒。蔵名と同じその銘柄名は、中国で“詩仙”と称される唐代の詩人、李白に由来します。酒をこよなく愛し、酒にまつわる詩を多く残し詩人の想いを受け継ぐべく、「李白」は誕生したのです。
李白酒造では「酒文化を普及し、後世に継承すること」をモットーに、出雲杜氏伝来の醸造技術を大切に守り続けるとともに、国内にとどまらず、海外への輸出も盛んに行っています。日本料理と抜群の相性をもつ「李白」は、日本の食文化とともに世界中に愛好者を増やしています。
製造元:李白酒造有限会社
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魚介類との相性がよく燗もおすすめ【出雲富士(いずもふじ)】
「出雲富士」は、出雲平野に蔵を構える昭和14年(1939年)創業の蔵元・富士酒造の代表銘柄。日本を象徴する名峰・富士山のように、出雲の人々から愛される酒を造りたいとの願いを込めて命名されたものだとか。
富士酒造は「酒造りの細部に神様は宿る」をコンセプトに、妥協なき酒造りに定評があり、「出雲富士」のランナップも実力派ぞろいです。「出雲富士 純米」は、原料米である「山田錦」の旨味を十分に引き出した1本。「青ラベル」や「赤ラベル」といった定番商品は、豊かな香りとキリッとした飲み口が特徴です。とくに魚介類の料理との相性がよく、燗で飲むのがおすすめです。
製造元:富士酒造合資会社
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七冠を獲得した競走馬をイメージ【七冠馬(ななかんば)】
「七冠馬」を醸す簸上(ひかみ)清酒は、江戸時代初期の正徳2年(1712年)創業という歴史ある老舗蔵。冬には雪が深く積もる仁多郡に蔵を構え、「泡無酵母」の発祥蔵としても知られています。
代表銘柄である「七冠馬」の名は、かつて競馬の名だたるレースで七冠を獲得した名馬「シンボリルドルフ号」をイメージしたもの。流星を思わせる鮮やかな走りを、酒の印象に重ね合わせています。辛口でキレのあるのどごしにくわえ、口当たりもすっきり。口に含めばほんのりと香りが広がり、食事と一緒に味わうにもぴったりです。
製造元:簸上清酒合名会社
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島根のそのほかの注目銘柄
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島根県の地酒は、いずれも奥深い味わいとともに、歴史を感じさせる銘柄ばかり。入手困難になる前に飲んでおきたい、島根の注目の日本酒を紹介します。
流通ルートが限られたレア銘柄【智則(とものり)】
「智則」は、「月山」と並ぶ吉田酒造の代表銘柄です。「月山」が定番品であるのに対し、「智則」は全国でも流通ルートが限られたレアな銘柄。現当主である吉田智則氏の酒造りにかける想いを込め、自身の名前を銘柄名としています。
「智則」が原料とするのは、島根県で独自に開発された酒造好適米「佐香錦」。その酒質は、米の旨味と香りが凝縮され、口に含むと微細な炭酸が感じられます。ふくよかで芯のある豊かな風味は、肴がいらないほど贅沢な味わいだと評されます。
製造元:吉田酒造株式会社
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燗にすると主役級の存在感を放つ【玉櫻(たまざくら)】
「玉櫻」は、冬には雪深い風景が広がる県中部の邑智(おおち)郡に蔵を構える玉櫻酒造の代表銘柄です。明治25年(1892年)創業のこの蔵元では、燗酒向きの純米酒にこだわり、温めて飲むことを想定した酒造りに注力。発酵がもたらす複雑で野性味ある味わいと、時間が経つほどに深みを増す「強さ」、そして料理との相性のよさを併せもった1本に仕上がっています。
定番商品は「玉櫻 純米 五百万石」ですが、「玉櫻 生酛(きもと)純米 改良雄町」「玉櫻 生酛純米 山田錦」など、原料米ごとの個性を活かしたラインナップがたのしめます。
製造元:玉櫻酒造有限会社
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大正天皇の側近に賞賛された酒【十旭日(じゅうじあさひ)】
「十旭日」を醸すのは、1869年(明治2年)の創業以来、出雲の地に根差した酒造りを続けてきた旭日酒造。原料米は県内産にこだわり、さらに自家製米することで味に磨きをかけています。
代表銘柄である「十旭日」は、もともとは「白雪」の名で流通していましたが、山陰地方を巡幸されていた大正天皇に随行の侍従長に献上したところ、その味を絶賛され「旭日」の揮毫を授かります。これに、当主が信仰していた妙見山の紋章「矢筈十字」を組みあわせ、「十旭日」と名づけられたのだとか。
昔ながらの生酛(きもと)造りや無ろ過の生原酒など、1本1本が豊かな表情を見せてくれるラインナップで、飽きのこない銘柄です。
製造元:旭日酒造有限会社
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伝統の「酒槽」を使った贅沢な醸造法【天穏(てんおん)】
「天穏」を造るのは、1871年(明治4年)創業の板倉酒造。150年近くの歴史のなかで、「味と香りが活きた手造りの酒」をモットーに、酒造りの技術を磨き続けてきました。
代表銘柄である「天穏」は、仏典にある「無窮天穏(天が穏やかなら窮することはない)」という言葉からきています。その特徴は、手間暇をかけた贅沢な製造法による豊かな旨味。自家製米で磨き上げられた原料米に手洗いでていねいに水を含ませたうえで、少量の麹でじっくりと時間をかけて発酵。そして昔ながらの「酒槽(さかぶね)」を使用し、醪(もろみ)からじっくりと絞り出すのです。主張しすぎず食事にそっと寄り添い、飲めば心が安らぐようなほっとできるお酒です。
製造元:板倉酒造有限会社
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地元産の原料米と処理にこだわる【奥出雲(おくいずも)】
「奥出雲」の造り手は、大正15年(1926年)創業の奥出雲酒造。原料米はすべて地元・奥出雲町産を使用するなど、とことん地元に密着した酒造りが特徴ですが、これは地元への愛着だけでなく、清らかな雪解け水や寒暖差の大きさなど、奥出雲町が良質な米を育てるのに適した風土であることも理由です。
製造工程においても妥協を許さず、外は固く、内部はやわらかい絶妙な米の蒸し加減や、徹底した衛生状態のもと行う発酵など、随所に独自のノウハウが込められています。地元の恵みと杜氏の技が融合して生まれる奥出雲は、まさに“米の結晶”と呼ぶにふさわしい1本です。
製造元:奥出雲酒造株式会社
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島根県に伝わる日本酒にまつわる神話や伝承から、この地がいかに酒と密接なかかわりをもってきたかがうかがえるでしょう。その伝統を受け継がんとする蔵元の想いが、県内外から愛される島根の日本酒文化を形成しているのですね。
島根県酒造組合