“純米吟醸蔵”京都・玉乃光酒造から届いた、フレッシュな味わい 「生冷 KIREIからくち、するする」
創業345年を迎える京都伏見の老舗蔵、玉乃光酒造は、純米吟醸と純米大吟醸だけを醸す、全国でも珍しい“純米吟醸蔵”。酒造りに理想的な水として名高い、良質な京都の伏水をふんだんに使い、伝統的な製法で醸す「生冷 KIREI からくち、するする」とは・・・?
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創業は和歌山県、戦後京都伏見へ
玉乃光酒造の歴史は古く、創業は江戸時代初期にさかのぼります。延宝元年(1673年)に和歌山市寄合町にて、家康の孫にあたる紀州藩の藩主、徳川三貞より酒造免許を受け、酒造りを始めました。
酒銘の「玉乃光」は、初代 中屋六左衛門が、地元紀州の熊野速玉神社に帰依していたことから、速玉の「玉」の字と、主祭神として祀られている「イザナギノミコト」「イザナミノミコト」の子であり、太陽神として知られている「天照大神」を照らす「光」の字を用いて、“イザナギとイザナミの御魂が映える”との意味を込めて命名されたといわれています。
戦災により酒蔵が焼失したことから、戦後、京都伏見に移転を決め、以来、豊かな水に恵まれた京の酒どころで酒造りを続けています。
1980年代から、すべての純米酒を純米吟醸造りにグレードを上げて純米吟醸蔵に。
ロゴマークは“ダイヤモンドリング”
現在社長を務めるのは十三代目の丸山恒生さん。平成20年に玉乃光酒造に入社し、当時の会長で義理の父でもある宇治田福時氏より、会社経営への参画を要請されました。それより以前に、務めていた商社を退職し、実家の繊維商社を引き継いでいたこともあり、二つの伝統産業を率いる形になりましたが、入社後は酒蔵として“多様性のある日本酒のたのしみ方”を伝えられる、さまざまな取り組みを行ってきました。
「まず初めに取り組んだのは、企業ブランディングを明確にしたことと、ブランドイメージの構築です。繊維業界でファッションに携わっていることもあり、やはり、ブランドイメージの重要性は感じていました」と語る丸山社長。会社のシンボルであるロゴマークのデザインを、日食のときに見られる“ダイヤモンドリング”に一新しました。「社名の“玉乃光”をイメージしました。由来となった速玉神社と天照大神に繋がることと、光は全人類にとって必要なものなのでこのデザインにピンときました」。
また、「働く人が幸せである会社」を目指し、福利厚生等の見直しも。「極端にいえば、大切なのはお客様より社員だと思っています。ものづくりを続けていくには、ファミリーのような結束力が必要です。一致団結して造ったお酒を社員全員が大切に思ってくれていたら、その思いがそのままお客様にも伝わっていくと考えています」。創業から345年の老舗蔵でありながらも、意欲的に、今の時代に合わせた取り組みを行い、進化を続けています。
ダイヤモンドリングのロゴが描かれた一升瓶を持つ丸山恒生社長。
いちはやく復活させた「純米酒」への思い
米と米麹と水だけで造られるお酒のみを、私たちは“純米酒”と呼んでいますが、本来、日本酒が誕生してから戦前まで、造られる日本酒はすべて“純米酒”でした。しかし、戦争中および終戦後、日本は食糧難に見舞われ深刻な米不足となり、できるだけ少量の米で日本酒を造る苦肉の策として、米と米麹で造った醪(もろみ)に、2倍の量にあたる水で希釈した醸造アルコールを加え、さらに、ブドウ糖や酸味料などを加えて味を調整し、3倍まで水増しした「三倍増醸酒(三増酒)」と呼ばれる酒が生み出され、流通するようになりました。本来の日本酒とは程遠い味わいにもかかわらず、低コストで大量に生産できることなどもあり、戦後復興期を過ぎても、三増酒は消費者の間に定着し続けていました。
しかし、1964年、玉乃光は業界に先駆けて、「無添加清酒」として純米酒を復活させる動きに踏み切りました。醸造アルコールを添加した酒に比べ、最大で1.8倍もの米が必要な純米酒を造るためには、当然コストがかさむため、その分価格を上げることになりますが、そうすると売れなくなってしまい、経営に大きな影響が及びます。また、醸造アルコールや甘味料、酸味料を添加したお酒が流通の主流だったこともあり、酒屋や消費者の理解も低く、「最初は一滴も売れなかった」という話も残っているほど、純米酒の復活には大きな苦労が伴いました。
しかし、当時社長を務めていた宇治田会長の「米だけで造る酒こそが、本来の日本酒」との思いもあり、実際に飲んでもらえれば純米酒のおいしさをわかってもらえるはずと、居酒屋を経営し、「二日酔いにならない純米酒」をキャッチフレーズにできるだけ多くの人に知ってもらうための啓蒙普及に励みました。
その後、酒税法の改正により三増酒は廃止となり、また、平成に入り「純米蔵宣言」をする酒蔵が増えてくるなど、現在は純米酒の人気が高まっています。「純米酒を認めてもらえなかったときは会長も相当苦労したようでした。でも、努力は報われましたね。今、うちの蔵には消毒用のアルコール以外のアルコールは一切ありません(笑)」と丸山社長。玉乃光の純米酒復活にかけた思いは、日本酒の歴史に大きな功績を残しました。
「ブドー糖入らず」と、甘味料を入れていないことを明記している当時のラベル。
すべて“手造りの麹”で酒造りを
酒造りを行う蔵人を率いる杜氏(最高製造責任者)を務めるのは、白﨑哲也さん。入社以来17年間、玉乃光酒造の生産部で醸造を担当し、3年前に杜氏に就任しました。歴史のある酒蔵の杜氏を30代の若さで受け継ぐことが決まったときには、「自分にはまだ早いのでは」との思いから、一度は断ったとか。ですが、上司や、歳の近い仲間の蔵人たちの支えもあり、現在3期目の造りを迎えています。
玉乃光の酒造りは、麹をすべて“手造り”で行うのが特長。5000石(一升瓶で50万本)クラスの出荷を行う酒蔵では、機械(自動製麹機)を使用して麹を造るのが一般的ですが、年間5500石の出荷を行う玉乃光では、一仕込みごとに設計した酒質に合う麹をつくり、丁寧な酒造りを行っています。
蒸した米に「種麹(たねこうじ)」と呼ばれる麹菌をふりかけ、繁殖させることで完成する麹は、お酒の味に大きな影響を及ぼすことや、麹を手造りすると、2~3日間、ほぼ不眠不休で菌の状態を管理しなくてはならないことから、日本酒の製造のなかでもっとも手間と時間がかかり、かつ慎重に行わなければならない工程といわれていますが、白﨑杜氏は「難しいけれど、だからこそのおもしろさがある」と語ります。
「機械だと平均的に安定した麹ができるかもしれないですが、人の手で造ると、よいときもあれば、そうでないときもある。気温や米の状態の違いがあっても、それを常に同じレベルにもっていく難しさとおもしろさがありますし、うまくできたときの達成感がすごくうれしいですよね」。
今後は、酒米の特長をうまく引き出し、その米のよさが生きた酒造りを行っていきたいと話す白﨑杜氏。玉乃光の伝統の造りを元に取り組む、今後のさまざまなチャレンジがたのしみです。
数年前に、麹室は木造からオールステンレスに改装。 味わいをコントロールしやすくなり、酒質が向上しました。
京都府産の酒米を使用した「生冷 KIREI からくち、するする」
この春、新登場の3つの「生冷 KIREI」のうち、「からくち、するする」を醸す玉乃光。酒米は、麹米に「祝」、掛米(醪(もろみ)に直接仕込む蒸米)は「京の輝き」と、どちらも京都府でしか栽培されていない米を使用しています。米と米麹と水だけで酒を造る玉乃光にとって、酒米への思いは強く、米の品種や栽培環境などにこだわり、生産者別に水分やタンパク質の比率などを調査し、独自の厳しい基準をクリアした米のみ酒造りに使うなど徹底しています。
また、米を削る精米作業も、外部に委託する酒蔵が多いなか、玉乃光ではほとんどを自社で行い管理しています。
京都府だけで栽培されている酒米「祝」は、栽培の難しさから一時作付けが中止されたことも。京都の酒蔵だけが醸すことができる貴重な酒米です。
ほとんどの酒米は自社の精米所で行っています。造りを安定させるため、トレーサビリティを確立し、工程のすべてをしっかりと自分たちで管理することを大切にしています。
日本有数の名水地、京都伏見
「伏水」が京都伏見の語源といわれるほど、質のよい豊富な地下水に恵まれた京都伏見。玉乃光が酒造りに使用している水は桃山丘陵を水源とした伏水です。カリウム、カルシウムなどをバランスよく含んだ中硬水は酒造りにとって理想的な水。古くから、灘の「男酒」に対して、伏見の「女酒」といわれるほど、やわらかく、まろやかな飲み口に仕上がることで評判の伏水で仕込まれた「生冷 KIREIからくち、するする」は、からくちの味わいながらも、しなやかな飲み心地が感じられます。
比較的長い時間をかけてゆっくりと発酵をすすめるのが伏水で行う酒造りの特長。きめの細かい飲み口に仕上がります。
クリームチーズやアボカド、鱧料理にぴったりな「からくち、するする」
厳選された京都産の酒米と、伏水で仕込まれた「生冷 KIREI からくち、するする」は、軽やかな飲み口でどんな料理にも寄り添えるお酒に仕上がっていますが、とくにおすすめなのは、滑らかな食感と酸味が特長の「クリームチーズ」を使った料理。
また、モッツァレラチーズを使用した「カプレーゼ」や「アボカド」とも非常に相性がよく、おいしくいただけます。和食なら、鱧を使った「湯引き」や「白焼き」など。
白﨑杜氏にお聞きしてみたところ、「冷奴と一緒に味わいたい」と話してくれました。
「生冷 KIREI からくち、するする」(京都・玉乃光)
ふわっと香る、若々しい味わいをたのしめるお酒。ボトルには玉乃光酒造のロゴ、「ダイヤモンドリング」が記されています。
「『生冷 KIREI』は、アルコール度数が14度と、玉乃光で製造する生酒のなかでは一番低いアルコール度数です。アルコールの持つ辛味がやわらいでいる分、飲みやすさを感じると思うので、これまであまり日本酒を飲んだことがなかった方にもおいしく飲んでいただいて、日本酒ファンの裾野が広がっていったらうれしいですね」と語る白﨑杜氏。
日本を代表する銘醸地、京都伏見から届けられる、搾りたての「からくち、するする」の味わいをぜひ味わってみてはいかがでしょうか?
「からくち、するする」の詳細はこちら
「やわらか、するする」の詳細はこちら
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ライタープロフィール
阿部ちあき
全日本ソムリエ連盟認定 ワインコーディネーター