“恵みの百年水”で醸す 金沢・福光屋「生冷 KIREI やわらか、するする」
この春登場した、搾りたてのフレッシュさをそのまま味わえる日本酒、「生冷 KIREI」。それぞれに個性のある3つのタイプの中で、「生冷 やわらか、するする」を醸すのは「金沢 福光屋」。厳選した酒米と、百年の歳月を経た水で造られる、福光屋が生み出す「生冷」とは・・・?
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金沢でもっとも長い歴史をもつ酒蔵、「福光屋」
ハウスブランドの「福正宗」は、地元でナンバーワンのシェアをもつブランド。食の国・金沢で多くの方に愛されています。
加賀百万石で知られる前田家の城下町として栄えた石川県金沢市。この地でもっとも長い歴史をもつ酒蔵が、1625年(寛永2年)創業の福光屋です。390有余年の歳月に渡り、伝統の技術を受け継ぎながら、時代の変化をしなやかに受け止め、日々新しい伝統を創造していく柔軟な酒造りを続けています。時とともに変化する人々の価値観や嗜好を敏感に感じ取り、時代にあった酒を世に送り出すことで、全国から注目を集めている人気の酒蔵です。
女性に親しんでもらえる酒造りを
柔軟な発想やインスピレーションで未来を見据える福光社長。日本酒業界の中でも、革新的なさまざまなチャレンジを行ってきました。
現在、社長を務めるのは、十三代目 福光松太郎さん。1985年に社長に就任以来、家訓である「伝統は革新の連続」の言葉のとおり、未来を見据えた大胆な展開や挑戦を積み重ね続けています。就任後、低迷を続ける日本酒の消費を回復するために、会社としてどのような取り組みをしていくべきかを思案。その結果、「女性にとって親しみやすいお酒=女性に飲んでもらえるお酒」を大きなテーマと捉え、女性が飲みやすく、おいしいと思う酒への酒質の見直し、さらに、醸造アルコールを使用しない、米と米麹と水だけを原料にした「純米酒」のみを製造する「純米酒化」へ向けて始動するなど(2001年より全量純米化)、さまざまな改革を行いました。
「女性は男性に比べて味や香りを識別する能力に優れていますし、料理に合わせてお酒を味わうたのしみ方もよく知っています。日本酒の食中酒としてのポジションをいかにキープしていくかがポイントでした。」と、福光社長は33年前の当時の様子を振り返りました。
地元金沢出身、板谷和彦杜氏
趣味の写真や釣りはプロ級の腕前の板谷杜氏。感性の素晴らしさはおいしい酒造りに生かされています。
福光屋の伝統の酒造りを受け継ぎ、蔵人たちを率いるのは、地元、金沢出身の板谷和彦杜氏(醸造の最高責任者)。農業大学で土壌肥料学を専攻し、福光屋へ入社。当時は京都・伏見にも福光屋の酒蔵「伏見蔵」があり、そこから酒造りをスタートし、金沢へ。2012年より杜氏としてチームを牽引しています。
「伏見蔵では丹後杜氏の酒造りを学び、金沢では、現代の名工にも選ばれた、越前糠出身の大浦満名誉杜氏と能登杜氏の混合チームで酒造りを行っていたので、その両方の技術を学ぶことができました。3つの流派を経験している珍しい『ハイブリッド杜氏』です(笑)」と、板谷杜氏。就任以来、酒類鑑評会で優等賞を5回受賞している実力派の杜氏を中心に、20歳から59歳までの社員16名、平均年齢約38歳のメンバーで酒造りを行っています。
機械に頼らない「手造り麹」へのこだわり
福光屋の酒造りで特徴のひとつに挙げられるのが、すべて手造りで行う「麹造り」。蒸した米に「種麹(たねこうじ)」と呼ばれる麹菌をふりかけて繁殖させる「製麹(せいぎく)」の工程は、手造りで行うと、2~3日間、ほぼ不眠不休で菌の状態を管理しなくてはならず、蔵人にとっては手間と時間のかかる大変な作業です。
造られた麹には、米のデンプンを糖分に変える役割があり、また、たんぱく質をアミノ酸に分解する酵素も含まれることから、お酒の味わいに大きな影響を与えるため、日本酒の製造において、もっとも慎重に取り組まなくてはならない大切な工程といわれています。一般的に出荷量の多い酒蔵では、近代化にともなって「自動製麹機」と呼ばれる機械を導入し、一度に大量の麹を、コンピューターによる管理のもとで造る方法が主流となっていますが、福光屋は年間14,000石(一升瓶で140万本)という、県内トップの出荷数を誇るにもかかわらず、すべて「手造り」にこだわり、伝統的な手法で造り続けています。
「手造りで麹を造るのはたしかに大変です。でも、だからこそ、酒造りの中で一番おもしろい部分だと思っています」と語る板谷杜氏。「そのおもしろい部分を機械に任せてしまうなんてできないです(笑)。私たちが造る純米のお酒は、糖化と発酵のバランスにとことんこだわっています。バランスによってお酒が甘くなったり辛くなったり、いろいろな味わいになりますが、思い通りの麹を造ることがとても重要です。そのためには、人間と微生物がタッグを組んで、24時間休むことなく働く微生物をしっかり見守っていくことが大切なんです」。今後も機械を導入する予定はなく、手造りの麹で伝統の味わいを守り続けていきます。
蔵を見学される方には、できたての麹を展示して麹造りを解説しています。
昭和35年から始まった契約栽培米への取り組み
酒造りに使用するお米は、生産農家と契約栽培することによって、高品質の酒造好適米を安定確保しています。福光屋が契約栽培へ取り組み始めたのは他蔵に比べると早く、昭和35年に兵庫県中町(現中区)と「山田錦」の契約栽培を結んだのを皮切りに、現在は、長野県木島平と「金紋錦」、兵庫県出石と「フクノハナ」、富山県福光と「五百万石」をそれぞれ契約栽培しています。
「お米を育ててくれている農家の方とは、生産地を訪ねたり、逆に蔵に来ていただいたりと行き来をしています。私たちも土づくりの研究に参加するなど、おいしいお酒になる酒米を収穫するために、活発に意見交換をし合っています。」と板谷杜氏。もともと大学で土壌肥料学を学び、福光屋に入社後は精米師として酒造りをスタートしていたことから、酒米へは人一倍強い思い入れがあり、お米を育ててくれている農家の皆さんも含めてみんなでお酒を造っているという気持ちが、それぞれの励みに繋がっていると話してくれました。
酒米の個性を見極め、仕込みごとに使い分けています
仕込み水は「恵みの百年水」
日本酒の成分の8割を占め、酒の味わいに大きく影響する「水」ですが、福光屋は、「生まれたて百歳の水」を仕込み水に使用しています。金沢大学の調査で、水のトリチウム濃度により百年の歳月をかけて福光屋にたどり着いていることが判明。霊峰白山のふもとに、一世紀前に降った雨が地中深く浸み込み、幾重にも重なる貝殻層をくぐり抜ける間に、カルシウムやマグネシウムなど、酒造りに欠かせない成分をゆっくりと溶け込ませながら、酒蔵の地下150メートルの地中から湧き出ています。
水質はやや硬水なので、本来はミネラルを感じる味わいのはずなのですが、百年かけて湧き出てくるまでの間に「やわらかい口当たり」に変化しているのが福光屋の仕込み水の特長で、「恵みの百年水」として大切にされてきました。「水は日本酒にとって一番多く使う原料であり、さらに、飲むだけじゃなく、道具やタンクを洗うなど大量に必要です。酒造りにとって、酵母の活動に必要なミネラルを含んでいる恵まれた水が豊富に湧き出るこの地で、390年ずっと酒造りを行ってきました」と福光社長。酒蔵にとって命ともいえる水に恵まれたのは「ありがたい財産」と語ってくれました。
敷地内の湧水は地元の方たちからも親しまれ、無料で採水することができます。 「恵みの百年水は地域のものですから」と福光社長。
美しい酒、「生冷 KIREI」
こだわりの酒米「五百万石」と、百年の歳月をかけて蔵へ辿りついた水によって生み出された「生冷 KIREI やわらか、するする」。板谷杜氏に、味わいを設計する際に一番大切にされたことをお聞きしたところ、「やっぱり、“キレイ”というネーミングでした」とのお答えが。「商品名が『生冷 KIREI』と聞いて、まず“美しさ”を意識しました。つい女性に例えてしまいますが(笑)、同じ美しさでも、クールビューティーなのか、ふんわりとした美しさなのか・・・いろいろありますよね。福光屋の生み出す「生冷」は、やわらかさと、無垢な美しさの印象を大切にしました」。
酒米の五百万石は、富山県産よりもやわらかさを感じられる印象がある石川県産のものを使用し、酵母は上品な吟醸香が現れる自社培養酵母を使用。口に含むと、そよそよと口の中で酒が泳ぎ、ゆっくりと米の旨味が広がります。「欠点(オフフレーバー)をなくすことも意識しました。敢えて主張するような個性を消して、どんな料理にも寄り添える酒に仕上げました」と板谷さん。「女性でいうと、男性よりも一歩引いて、そっと傍にいるような・・・そうですね、若い頃の吉永小百合さんのような、しっとりとした正統派の美人でしょうか。男性を料理とするなら、そんな存在になると思います」。
相性のよいお料理は、薫りのよい春の山菜や、白和えなどがオススメと話す板谷杜氏。「どんなお料理にも寄り添える万能酒ですが、お酒がやわらかく仕上がっているので、強い味わいの料理よりも、風味や食感をたのしめる食材の料理がより合うと思います。“蕎麦がき”なんかもよいですね」。
「生冷 KIREI やわらか、するする」(金沢 福光屋)
石川県産五百万石を60%精米した純米吟醸酒。アルコール度数は14度と飲みやすく、「恵みの百年水」由来のやわらかな飲み口と生酒のフレッシュさが印象的です。ボトルには福光屋の標し「打出の小づち」のマークが記されています。
搾りたてのフレッシュな味わいをそのままに
「酒造りは、醪(もろみ)の発酵が健全な状態で終了することがとても大切です。状態を見極め、発酵を終えると間髪入れずに搾ります。酒だけに限らず、食材は健全な状態のものが一番おいしいですから、私たちはタイミングに合わせてしっかりと仕事をすることに力を注いでいます」と板谷杜氏。生冷は搾りたての生酒をそのまま瓶詰めし、酒蔵からお店まで10℃以下の温度を保って運ぶ「チルド輸送」によって、できたてのフレッシュさを味わえる贅沢なお酒。福光屋から届けられる「生冷 KIREI やわらか、するする」の味を、ぜひ味わってみてはいかがでしょうか。
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ライタープロフィール
阿部ちあき
全日本ソムリエ連盟認定 ワインコーディネーター