<J-CRAFT SAKE蔵元探訪その③>青森県八戸市・八戸酒類 クラシカルな酒造蔵で地元産の米を醸

<J-CRAFT SAKE蔵元探訪その③>青森県八戸市・八戸酒類 クラシカルな酒造蔵で地元産の米を醸

今年の春に誕生、飲食店で料理とともにたのしめる“生酒(なまざけ)”ブランド『J-CRAFT SAKE』。非加熱・無濾過という難易度の高い清酒造りに取り組む蔵元を訪ねる連載で訪れたのは、風格がにじみ出る蔵を有する「八戸酒類」です。

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天明6(1786)年創業。9代続いてきた老舗の蔵元

天明6(1786)年創業。9代続いてきた老舗の蔵元

メインストリート沿いに位置していることを感じさせない、静かなたたずまい。

天明6(1786)年創業。9代続いてきた老舗の蔵元

案内してくださったのは、杜氏の加藤貴大(かとう・たかひろ)さん。

八戸酒類は現在2つの蔵を有しています。『J-CRAFT SAKE』を醸しているのは、『八鶴(はちつる)』という青森県八戸市の中心に位置する蔵。こちらの創業は古く、約230年前の天明6(1786)年創業。初代の橋本八右衛門(はしもと・はちえもん)さんが、酒屋を買い取って酒造りを始めました。

大正時代に大蔵省(当時)から勅任の技師・江田謙治郎氏を招いて技術指導を受け、酒造りを本格化。醸造技術が進歩して、他県に劣らない品質の酒を造れるようになり、八戸の地酒として幅広く認知されるようになったそうです。

大正8(1919)年までは『老(おい)の友』という銘柄を名乗っていたのですが、以降は江戸時代に八戸藩を治めていた南部氏の家紋「向かい鶴」と、地名の「八」を掛け合わせた『八鶴』の名に。県内外で有名な銘柄となりました。

ちなみにもうひとつの蔵『如空(じょくう)』は、五戸町にあります。こちらは昭和19(1944)年の戦時企業統制令により、近隣の蔵元5社が集まり八戸酒類を共同設立した際に誕生。「如空の蔵では軟水で仕込んでおり、ピュアでふくよかな旨味があります。昔ながらのしっかりとしたタイプの『八鶴』とは、また違った味わいですね」と加藤さん。

鑑評会で収めてきた実績が、高い技術力を裏付けています。

鑑評会で収めてきた実績が、高い技術力を裏付けています。

『八鶴』の文字は、画家・横山大観氏の筆によるもの

『八鶴』の文字は、画家・横山大観氏の筆によるもの

気品の高さと、躍動感をあわせ持つ『八鶴』の文字

現在使用されている『八鶴』の字を描いたのは、近代日本画壇の巨匠である横山大観氏。大の酒好きとして知られる氏が、「飲んだこともない酒の字を書けとは、見たことのない風景を描くがごとし」と言ったことから、筆書き料として清酒四斗樽を送ったというエピソードも残されています。

蔵のそこかしこに、『八鶴』の文字が…。

蔵のそこかしこに、『八鶴』の文字が…。

見事な木造建築に悠久の歴史を感じる

醸造設備のすべてが入っている蔵の建物は、前の建物が大正時代の八戸大火(1924年)によって焼失したあとに、築かれたもの。「多少のひずみは出ましたが、東日本大震災にも耐えてくれました」という蔵は、クラシックな趣で訪ねてくる人々を魅了。年季の入った木造建築ですが、どこもピカピカに磨きこまれていて、代々の蔵人たちにいかに大切にされてきたのかが伝わってきます。

もし現地に行く機会があったら、ぜひ蔵見学(要予約)に参加して、造りの学習や試飲とともに、ノスタルジックな雰囲気を味わってみてはいかがでしょう。ちなみに元は蔵の事務所であり、現在は国の登録有形文化財に指定されている建物も隣接し、郷土料理を提供するレストランとして営業中。見学の前後に立ち寄るのがおすすめです。

風雨から遮断しているのは、今でも木製の窓枠と和硝子。

風雨から遮断しているのは、今でも木製の窓枠と和硝子。

黒光りする階段を昇ると、大きな古時計が待ち受けています。

黒光りする階段を昇ると、大きな古時計が待ち受けています。

青森県産の米と、敷地から汲み上げた水から醸す

手前が『華想い』。右上が『山田錦』で、左上が『華吹雪』。

手前が『華想い』。右上が『山田錦』で、左上が『華吹雪』。

青森県産の酒造好適米や、“酒米の王様”とされる『山田錦』を原材料とする『八鶴』ですが、ここでは『純米大吟醸』や『純米吟醸無ろ過生』、そして『J-CRAFT SAKE』にも使用している『華想い』を紹介しましょう。

じつは『華想い』に先駆けて『華吹雪』という耐冷性、耐病性に優れた県産品種があり、おもに純米酒に使用されているのですが、「吟醸レベルまで精米していくと割れやすいという性質があります。そこで『山田錦』と配合したところ、磨きに強い『華想い』が誕生したのです」と加藤さん。

この品種から醸された酒は、香りのバランスがとてもよく、総合的には『山田錦』に匹敵するほど、酒造米としてのポテンシャルが高いとまで評価されるようになりました。

『八鶴』の酒造りの要である「蔵井戸」。

『八鶴』の酒造りの要である「蔵井戸」。

蔵自慢の湧水は、地下100メートルから汲み上げた清冽な自然水。酒造りの邪魔となる鉄やアンモニアを含まず、適量の塩分と硬度(軽度の軟水)を有する水で造った酒は、「夏を越すと味が落ちる “秋落ち”をせずに、味が一段と冴え、より豊醇になるのが特徴です」。

また発酵の際に大きな役割を担う酵母についても、驚きの話がありました。おもに使用している『協会10号酵母』は、酸が控えめで吟醸香が高くなることで有名なのですが、じつはこの酵母の発祥蔵が、この『八鶴』だという説が有力視されているのだそうです。

文字通り地産地消が詰まった『八鶴純米吟醸無ろ過生』

文字通り地産地消が詰まった『八鶴純米吟醸無ろ過生』

伝統の造りを、後進へと継承していく

櫂の動かし方の違いで、酵母の増殖が左右されるそう。

櫂の動かし方の違いで、酵母の増殖が左右されるそう。

平成27年度の造りから杜氏を務める加藤さん。これまでの4名の杜氏に仕えてきたそうなのですが、加藤さんがこうした先輩杜氏と異なるのは、『八鶴』を運営する八戸酒類株式会社の社員であること。

一般的な酒蔵の例にもれず、敏腕の南部杜氏と単年ごとの季節契約を行ってきたのですが、杜氏の高齢化などに伴う人材不足や新しい技術への対応を考え、社員杜氏を中心とした若手中心の酒造りに舵を切ることになったそうです。

「私たちの蔵では、酒造りのかなりの部分で伝統的手法を採用しており、私も先輩の杜氏から学んできました。ただ学ぶと言っても、『勝手に盗め』という職人気質なやり方でしたね」と懐かしい目をして笑う加藤さん。

仕込みのタンクを攪拌する「櫂入(かいい)れ」ひとつ取っても、「押す時と引く時の微妙な力加減の違いで、醪の対流がまったく異なってくるんです。でもそれは杜氏の背後から、手の動かし方などを見て、自分の番でやってみる。そんな試行錯誤を重ねて身に着けていきました」。

タンク内の温度が高い時は、巻きつけたホースに水を通して下げ、逆に低い時には、断熱材を施して上げるそう。そうした加減を習得できるのは現場のみ。

タンク内の温度が高い時は、巻きつけたホースに水を通して下げ、逆に低い時には、断熱材を施して上げるそう。そうした加減を習得できるのは現場のみ。

「でも、これからは違う時代だと思います。私は後進の社員には、言葉で説明して、さらに自らやって見せています。早く一人前になってもらわないと困りますから(苦笑)。あとは本人が向上心をもって努力してくれるかですね」。

ちなみに酒造り担当ではない社員も、繁忙期は蔵の仕事を見学しながら、手伝うことも多いのだとか。社員全員が酒造りを熟知することで、『八鶴』の酒をきちんと理解、自信をもってお客様におすすめできることへと繋がっていくそうです。

現在は来年度の造りに備えて、設備をリフレッシュしています。

現在は来年度の造りに備えて、設備をリフレッシュしています。

『J-CRAFT SAKE 萌木(もえぎ)ねこ』

女子飲みで人気が出そうな、ねこのラベル。

女子飲みで人気が出そうな、ねこのラベル。

取材時には上槽が完了して、瓶詰めが始まった頃。ラベルの萌木色とグリーンの瓶がマッチして、とてもスタイリッシュな印象です。精米歩合55%の純米吟醸生原酒で、「ありのままをさらけだした」無濾過。使用米は前述の『華想い』100%です。

仕込みタンクから、晴れて瓶に。

仕込みタンクから、晴れて瓶に。

「まだ少し荒々しいですが、少し時間が経って落ち着けば、目指していたようなバランスが取れ、キレの良い後味の酒になりそうです」と加藤さん。利き猪口からはフルーティーな香りが立ち昇り、口に含むと心地よい酸味と米の旨味が広がっていきます。

じつはこちらに使用している酵母は、蔵ゆかりの10号ではなくて18号。食との相性に配慮して、酸が表現されやすい18号を採用したのだそうです。

まるでライムのような、淡いグリーンを帯びていました。

まるでライムのような、淡いグリーンを帯びていました。

さて、『萌木ねこ』に合わせるとしたら、どんな料理がおすすめなのか?をうかがいました。「ほどよい酸味に合わせて、まずは酢の物といただくのがいいでしょう。ちなみに青森県は食用菊の生産が盛んで、菊の花びらを酢漬けしたものをよく食べるんですよ」。

そしてやはり海に近いところで醸された酒なので、魚介。新鮮な刺身など生ものとの相性が良さそうとのこと。「ハマチやマグロ、ちょっと癖がありますがホヤもおすすめ。あとは有名なサバ。締めサバなら酸味と酸味でぴったりですね」。お聞きしているだけで、食と杯が同時にぐいぐい進んでいく光景が、想像できました。

新しく導入された冷蔵室で、出荷の時を待っています。

新しく導入された冷蔵室で、出荷の時を待っています。

『萌木ねこ』

『萌木ねこ』
■純米吟醸 無濾過生原酒
■使用米/華想い
■精米歩合/55%
■アルコール度数/17度


八戸酒類の詳細はこちら

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ会員。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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