『帝松』で有名な『松岡醸造』/都心から日帰り可能。仕込み水にこだわった酒蔵で、学ぶ・飲む・食べる

『帝松』で有名な『松岡醸造』/都心から日帰り可能。仕込み水にこだわった酒蔵で、学ぶ・飲む・食べる

池袋駅から最寄りの小川町駅まで約1時間、都心からのアクセス至便な日本酒蔵『松岡醸造』。『帝松(みかどまつ)』の銘柄名で知られる埼玉県の老舗です。水にこだわっているという酒造りについてお聞きした後は、試飲そして併設のレストランでの“蔵元料理”をたのしむことができました。

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酒処・越後から、より高みを目指し移転して創業

歴史と風格を感じる正門。江戸時代にタイムスリップしたような気分です。

歴史と風格を感じる正門。江戸時代にタイムスリップしたような気分です。

『帝松』のブランドで愛されている『松岡醸造』があるのは、埼玉県比企(ひき)郡小川町。最寄り駅は、東武東上線とJR八高線が乗り入れている小川町駅です。駅からはタクシーで約5分、徒歩だと約30分。天気がよければ、散策がてらてくてく歩くのもよいでしょう。

池袋から1時間ほど。のどかな佇まいの小川町駅。

池袋から1時間ほど。のどかな佇まいの小川町駅。

ちなみに1,300年も昔から、和紙作りが盛んだったという小川町。なかでも楮(こうぞ)を原料とした手漉き和紙「細川紙」は「和紙:日本の手漉和紙技術」として、2014年にユネスコ無形文化遺産に登録されています。

商店街のそこかしこに、和紙のふるさとを謳うのぼりが。

商店街のそこかしこに、和紙のふるさとを謳うのぼりが。

「じつは祖先は酒処の越後(現在の新潟県)で、酒造りに関わっていたようです。越後生まれの初代・松岡祐エ門が“求める酒造り”に適した地を探していたところ、当地に辿り着きました」とは、今回ガイド役をお願いした専務の松岡奨(まつおか・しょう)さん。父・良治さんの後を継ぎ次期7代目となることが決まっています。

初代が創業したのは、約170年前の1851(嘉永4)年。実家の造り酒屋で使われていた蔵の柱や梁を持ち込み、この地へ移り住んだそうです。当時この辺りは、江戸と秩父、八王子と上州(現在の群馬県)を結ぶ街道が交錯。遠近問わず商人が集まる場として栄えていたほか、米穀の少ない秩父と米の生産が多い平野部を繋ぐ穀物商も数多く、米の集積地でもあったとか。

賑わう地なので酒の大きな消費が見込め、原料の米の入手も可能。しかし初代が目を付けたのはそれに留まらず、
「何より酒造りに欠かせない良質の水に恵まれていることが、大きかったですね」。
場所を移し、帝松の酒造りを支える水について詳しくお聞きすることになりました。

「幅広い方々に日本酒の素晴らしさを伝えていきたい」と専務の松岡奨さん。

「幅広い方々に日本酒の素晴らしさを伝えていきたい」と専務の松岡奨さん。

国の最高位の“帝”と、変わらぬ緑から繁栄のシンボルである“松”を結び付けた銘柄『帝松』。

国の最高位の“帝”と、変わらぬ緑から繁栄のシンボルである“松”を結び付けた銘柄『帝松』。

秩父山脈の石灰岩で濾過された硬水を活用

仕込み水は試飲できるのはもちろん、容器を持参すれば持ち帰ることもできます。

仕込み水は試飲できるのはもちろん、容器を持参すれば持ち帰ることもできます。

直売所の隣に設けられた給水場へと移動。ここでは酒造りに使用されている水を誰でも自由に飲むことができます。表示板には地下130mからくみ上げられた天然の硬水である旨が。硬度(水1000ml中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量)は、149.6mgと書かれていて、これは硬水で知られる灘の「宮水」を上回る数値です。

「硬いとは思っていましたが、全国の酒蔵においてもトップクラスの数値だとは私たちもびっくりしました。でも硬いんですけど、まろやかさが感じられる不思議な水なんですよ」と意味ありげな笑顔。

確かに口に含んでみると、引き締まったなかに、なぜか柔らかな印象がありました。

「鉄分等を含む鉱山系の硬水は、酵母の発育を妨げてしまうのですが、この水は石灰岩系なんですよ」。
小川町の西側に連なるのは、海が隆起してできた石灰岩質の秩父の山々。ここに降った雨が石灰岩で濾されて伏流水となり、結果カルシウムなどのミネラル分が豊かな硬水となるのだそう。

さらに「源流では50mgの軟水なのが、石灰岩質を通っていくうちに150mg近くの硬水になるんです」と聞けば、自然の営みがもたらす奇跡に驚きが隠せません。この水に目を付けた初代の慧眼も素晴らしいですね。

酒蔵見学で、日本酒造りの現場を知る

酒蔵見学のスタートは製造蔵の入口。杉玉が存在感を放っています。

酒蔵見学のスタートは製造蔵の入口。杉玉が存在感を放っています。

「大人はもちろん、小さなお子様まで日本酒造りの現場を知っていただくために、酒蔵見学は積極的に行っています」。
 ガイド役はできる限り松岡さんが担当。参加者の知識レベルなどに応じて、説明する内容は臨機応変にアレンジしてくれるそうです。見学は無料で所要時間は約40分で、終了後には無料の試飲付き(運転者や子どもは仕込み水)。問合せフォームから簡単に申し込めるのも嬉しいですね。
酒蔵見学の詳細はこちら
「仕込みなど蔵の状況に応じて、ご案内する施設や内容が変わります。年中受け付けていますから、時期を変えてリピートすれば、より広く酒造りを学んでいただけますよ」。

創業時から使用している和釜を用いた甑(こしき)。170年以上にわたり米を蒸し上げてきた貴重なもの。

創業時から使用している和釜を用いた甑(こしき)。170年以上にわたり米を蒸し上げてきた貴重なもの。

自慢の仕込み水が勢いよく噴き出していました。

自慢の仕込み水が勢いよく噴き出していました。

とくに注目したのは、発酵タンクです。仕込み水の特徴である豊かなミネラル分は、酵母の栄養となるため、短時間で発酵が進み酸の多い辛口タイプ、いわゆる“男酒”になりがち。
「日本酒のフルーティーな香りは、酵母が飢餓状態になった時に生成されます。その状態を創り出すため、より低温で発酵させるようにしているのです」。

杜氏が設定した温度帯をキープできるように、最新の低温発酵タンクとコンピューターを用いて、温度管理を徹底。発酵をコントロールすることで、硬水から香りのよいふくよかな清酒を醸しているのです。

1996年に誕生した『新蔵』。ずらりと並んだ低温発酵タンクは二重構造、外側部分に冷水が回る仕組みになっています。

1996年に誕生した『新蔵』。ずらりと並んだ低温発酵タンクは二重構造、外側部分に冷水が回る仕組みになっています。

1897年建造の『明治蔵』では、少量の仕込みに加えて熟成酒の貯蔵も行っています。

1897年建造の『明治蔵』では、少量の仕込みに加えて熟成酒の貯蔵も行っています。

長年にわたり使用されてきた小部屋が、何に使用されていたかは秘密。当日のおたのしみで。

長年にわたり使用されてきた小部屋が、何に使用されていたかは秘密。当日のおたのしみで。

試飲を通して、アイテム数の多彩さを体感

取材時の見学後の無料試飲。定番の『社長の酒』のほか、雄町や10年熟成酒、ワイン酵母を用いたものなど多種多彩。

取材時の見学後の無料試飲。定番の『社長の酒』のほか、雄町や10年熟成酒、ワイン酵母を用いたものなど多種多彩。

見学が終わると、直売所にてお待ちかねの試飲タイム。正直無料なのでそれほど期待していなかったのですが、目の前には数種類のボトルや缶がずらりと並びます。

「本数を絞り、『これがうちのおすすめのスタイル。美味しいですよ』と、おしつける感じではなく、いろんなお酒を試してもらい、ご自身が美味しく思える1本を見つけてもらえればと」。

なるほど、味わいや香りなど選択肢が多いと好みの日本酒が見つけやすい。グループで訪れても、「私はこれが好き」的に会話が弾むことでしょう。

味わいや香りなど選択肢が多いと好みの日本酒が見つけやすい試飲タイム

試飲会場の直売所では、地元の特産物も購入できます。

試飲会場の直売所では、地元の特産物も購入できます。

縁起のよい“出世酒”として親しまれている『社長の酒』。香りと味わいのバランスの取れた吟醸酒です。

縁起のよい“出世酒”として親しまれている『社長の酒』。香りと味わいのバランスの取れた吟醸酒です。

英字のラベルがユニークな『純米にごり酒』。刺激があって、香りはとても爽やかです。

英字のラベルがユニークな『純米にごり酒』。刺激があって、香りはとても爽やかです。

どれも特徴のある酒も試飲していくうちに、ふと「なぜ、こんなに種類があるのだろう?」という疑問が浮かんできました。尋ねると約50カテゴリー、ボトルのサイズなどのバリエーションも含めると、約150アイテムもあるとか。

「大きな理由のひとつが、やはり仕込み水ですね。普通に発酵させれば酸の多い辛口、低温管理してやればフルーティーな香りと、温度管理などを調整することで。いろんなタイプのお酒が醸せるんです」。

さらに原料として、兵庫県産「山田錦」、岡山県産「雄町」、山形県産「山酒4号(通称:玉苗)に埼玉県「さけ武蔵」など、目指す酒質に合わせて全国から多くの酒造好適米を厳選。地元で育てた無農薬の「こしひかり」を用いて、食米での酒造りにも取り組んでいるので、自ずとアイテム数が増えていったそうです。

パンフレットの商品一覧表。種類が多くて目移りしてしまいますね。

パンフレットの商品一覧表。種類が多くて目移りしてしまいますね。

庭園の食事処で、“蔵元料理”のランチを味わう

酒造レストラン『松風庵(しょうふうあん)』は、明治時代に新潟から移築された蔵を改修・増築して造られています。

酒造レストラン『松風庵(しょうふうあん)』は、明治時代に新潟から移築された蔵を改修・増築して造られています。

試飲を重ねると、お腹が空いてきました。ということで敷地内にある『松風庵』へ。
「お酒、仕込み水、麹、酒粕などを使用した蔵元ならではの料理を提供しています。ゆっくりとたのしんでくださいね」と、奨さんの弟で松風庵代表としてお店を切り盛りされている松岡卓さん。

『酒と麹の宇和島風鯛めし』(1,870円)など味わってみたいメニューが多く悩みましたが、地元のブランド豚を用いた看板料理『むさし麦豚のしゃぶしゃぶ』(2,035円)に。日本酒と仕込み水の昆布出汁に豚肉をくぐらせ、塩麹と仕込み水で仕上げたポン酢や大吟醸の酒粕と米麹を合わせた胡麻ダレでいただくという趣向です。

「むさし豚は下からモモ、ロース、肩ロース、バラの順に重ねてあります。上からは脂の多い順になりますので、ポン酢から胡麻ダレの流れで召し上がっていただくのがおすすめですよ」。ポン酢のさっぱり、胡麻ダレのコクと味の違いをたのしみつつ、そこにもちろん日本酒も。どちらも進んでしまうのは仕方のないことですね。

『むさし麦豚のしゃぶしゃぶ』

4部位が重なった豚肉の手前、右が胡麻ダレで左がポン酢。

4部位が重なった豚肉の手前、右が胡麻ダレで左がポン酢。

『帝松の3種の利き酒セット』は1,650円。内容は時期によって変わるそう。庭園を観ながらの飲むのは最高です。

『帝松の3種の利き酒セット』は1,650円。内容は時期によって変わるそう。庭園を観ながらの飲むのは最高です。

最後はデザートで締めることに。いただいた『イチゴ&抹茶の甘酒ティラミス』(703円)のほか、『吟醸 水わらび』(385円)『大吟醸アイス』(440円)など、酒にちなんだデザートが充実しています。でもすべてノンアルなので、アルコールに弱い方や20歳未満も大丈夫。グループや家族みんなでたのしめる貴重なランチスポットです。

『イチゴ&抹茶の甘酒ティラミス』は、ビタミンや酵素がたっぷり。まさに“食べる美容スイーツ”です。

『イチゴ&抹茶の甘酒ティラミス』は、ビタミンや酵素がたっぷり。まさに“食べる美容スイーツ”です。

都心から気軽に行ける松岡醸造さんのレポートはいかがでしたか? 見学はもちろん、料理やスイーツも充実しているので、テーマパーク的にたのしめるのが魅力です。かつて鎌倉幕府の御家人だった比企一族が治めていたという史実もあるので、歴史好きの方も誘ってみるのもよいですよ。

※価格などは取材時のものとなります(消費税込み)。

松岡醸造
埼玉県比企郡小川町大字下古寺7-2
TEL/0493-72-1234
※問合せは、平日9:00~17:30まで
営業時間/酒蔵 : 平日 9:00~17:30、直売店 : 9:00~17:00(土日祝も営業)
定休日/酒蔵 : 土日祝、直売店 : 1/1~3
アクセス/東武東上線・JR「小川町駅」より徒歩25分、タクシーで5分

松岡醸造の詳細はこちら

酒蔵レストラン 松風庵
※酒蔵の庭園内で営業
TEL/0493-74-1234
営業時間/平日11:00~15:00(L.O.14:30)、土日祝11:00~17:00(L.O.ランチ14:30、デザート・ドリンク16:00)
定休日/木

酒蔵レストラン 松風庵の詳細はこちら

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ会員。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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