〜世界の乾杯シーンでawa酒を〜 業界初・自然発酵で透明なロゼスパークリング純米酒を醸す滝澤酒造
グラスに注ぐと一筋の泡が美しく立ち上がり、口に含むと舌の上で上品に弾け、心地よい味わいが広がるスパークリングタイプの日本酒が近年注目されています。シャンパンに勝るとも劣らない品質といわれる一定の商品基準をクリアした認定酒「awa酒」のなかで、唯一のロゼタイプを醸す滝澤酒造を訪ね話をお聞きしました。
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創業から160年、深谷の地酒「菊泉」
東京駅に似た煉瓦造りの駅舎で知られる埼玉・深谷駅から徒歩数分の場所にある滝澤酒造は、かつて中山道六十九次の江戸から9番目の宿場として栄えた街道沿いに酒蔵を構えています。
良質な土が採取できることから深谷市は“煉瓦の街”として知られていますが、滝澤酒造も、酒蔵のシンボルとして市民に親しまれている全高20mの高さを持つ煙突をはじめ、麹室など酒蔵内の一部に煉瓦が使用され、懐かしさや風情を感じる佇まいです。
江戸時代末期に埼玉・小川町で創業したのち、明治33年に現在の場所へ移転。落ち着いた佇まいはかつて宿場町だった頃の雰囲気が漂います。
煉瓦の街・深谷市を象徴する煉瓦造りの20mの煙突。
酒蔵の煉瓦づくりの外壁は、撮影にもよく利用される人気のスポット。
保温性、保湿性にすぐれ、酒造りの環境に適しているといわれています。
旧中山道に面した酒蔵の正面入り口には直営店を設け、日本酒や酒粕などを販売していますが、かつて、地元の方たちが「通い徳利」を持ち、酒を買いに通った雰囲気がそのまま残っていて、長く地域の地酒として親しまれ続けていることがうかがえます。
銘柄は「菊泉(きくいずみ)」。丁寧な手作業と伝統的な製法で、地域の風土が生きた日本酒を醸しています。
日本酒や酒粕、甚吉袋が並ぶ直営店。
地元の常連客が酒の量り売りに使用していた「通い徳利」。
直営店内には「通い徳利」を洗うのに使用していた水道が今でも残っています。
代表銘柄は「菊泉」。大吟醸や純米酒など幅広いラインナップです。
6代目の蔵元杜氏が魅了された「奇跡の味」
酒造りの最高責任者である杜氏を務めるのは、社長の滝澤英之さん。家業である滝澤酒造へは、大学を卒業し、東京都内の酒造会社での修行期間を終えた1998年に入社しました。
(滝澤社長)「酒蔵の敷地内に自宅があるので、日本酒がとても身近にありましたが、子どもの頃は酒蔵を継ぎたいとはまったく思わなかったんです。酒は大人が飲んで酔うもので、人によっては人格が変わることもある。子ども心に“お酒”が理解できなくて。蔵人のみなさんが朝早くからたいへんな作業をしているのも見ていたので、酒造りの仕事にどこか抵抗がありましたね」。
高校卒業後は早稲田大学へ。教職に就くことを考えていたそうですが、ある時、思いがけず出会った本によって思いが一変し、酒蔵を継ぐことを決意。卒業後は福生市の石川酒造へ入社しました。
(滝澤社長)「大学4年の時に、日本酒の酒蔵が舞台の漫画『夏子の酒』を読んだのですが、本のなかでのさまざまな描写が自分の子どもの頃の経験と被っていて、突如、自分のなかの“酒造りスイッチ”がONになったんです」。
東京の酒造大手の石川酒造で酒造りを1から学び始めた滝澤さんは、さまざまな工程を習得すると同時に、醸造の世界に魅了されていきました。微生物の活動と向き合い続けるなかで、日本酒が“あるタイミング”に生み出す味わいに強く惹きつけられたそうです。
(滝澤社長)「タンクにお酒を仕込んでから毎日、醪(もろみ)の成分を細かく分析していたのですが、発酵が始まって10日目あたりの味わいが際立っておいしいなと感じました。アルコール発酵で生まれた炭酸ガスで微かにシュワッと感じる飲み口と、甘味と酸味のバランスが絶妙で、『この味わいを商品化してみたい』という強い思いが芽生えました」。
石川酒造で3年間酒造りを学び、滝澤酒造へ入社した滝澤社長は、前任の高橋杜氏に「菊泉」の味を生む酒造りの教えを受けながらさらに技術を磨き、高橋氏が高齢で引退したタイミングで杜氏に就任。連日酒造りに励みながら、ついに念願の発泡性日本酒の商品化に向けて動きはじめました。
(滝澤社長)「研究を重ね、2010年に『彩のあわ雪』をリリースしました。微炭酸で甘酸っぱい飲み口で、“飲みやすい”との声を多くいただきましたが、一方で、発泡感のバラつきがあったり、醪(もろみ)が残っていることで泡が見えにくいなど、改善点も見えてきました。
また、生酒なので、瓶内で活性しすぎて開栓がスムーズにできないなど、お客様からのクレームも多かったんです。そういった声をすべて商品開発のヒントにして改良を重ねていきました」。
「彩のあわ雪」 270ml 594円(税込)
アルコール度数は8度。飲みやすさから日本酒初心者には特に人気。
「一般社団法人awa酒協会」の発足と「10%の壁」
「彩のあわ雪」をよりよい商品にするために、発泡性日本酒についての研究を重ねていた頃、以前から親交が深かった、群馬県・永井酒造の永井社長から、「一緒に日本酒をシャンパンと肩を並べられる存在にしていかないか」との話を受けました。永井社長は当時、グラスの底から真っ直ぐに細やかな泡が立ち上がり、グラスに醪が残らない、透明感のある「MIZUBASHO PURE」を完成させ、スパークリングタイプの日本酒が、海外でも広く乾杯酒として親しまれるシーンの実現に向け、同じ志を持つ酒蔵と協会の結成を思案していました。
(滝澤社長)「永井社長から“シャンパンのような日本酒を造って一緒に世界を目指さないか”との相談を受けました。自分も、より高品質で見た目にも美しい発泡性日本酒を極めたい思いもありましたし、世界に羽ばたける可能性も感じていたので、協会の立ち上げに加わることにしました。
永井社長ほか、数名の蔵元の方々と、協会を立ち上げるための準備を進めていくなかで、協会では商品の品質に厳格な基準を設け、すべてクリアしたものだけを認定酒とすることにしました」。
1.米・米こうじ及び水のみを使用し、日本酒であること
2.国産米を100%使用し、かつ農産物検査法により3等以上に格付けされた米を原料とすること
3.醸造中の自然発酵による炭酸ガスのみを保有していること
4.外観は視覚的に透明であり、抜栓後容器に注いだ時に一筋泡を生じること
5.アルコール分は10度以上
6.ガス圧は20℃で3.5バール(0.35メガパスカル)以上
(一般社団法人awa酒協会HPより https://awasake.or.jp)
(滝澤社長)「滝澤酒造でも、この基準を満たした新たな商品の開発に取り組み始めました。
ちょうど『彩のあわ雪』の見た目に透明感がないことが気になっていて、もっとスマートさを出したいと思っていたことや、理想のガス感にしたい改善点があったので、その部分をクリアするべく改良に努めました。
発泡性の高い日本酒を造るには、炭酸ガスを人工的に瓶内に加える手法と、酵母の発酵によって生まれた自然の炭酸ガスを封じ込める技法がありますが、私はずっと後者の、瓶内での二次発酵にこだわって発泡性日本酒を造っていました。しかし、アルコールの度数が高くなるとどうしても醪の活性が弱くなってしまい、理想とするガス感を出せないんです。
『彩のあわ雪』はアルコール分8度。これまでよりアルコール分を高くし、さらに自然発酵による炭酸ガスでガス圧を高め、透明に仕上げるにはどうしたらよいのか。アルコール分10%の壁が大きく立ちはだかり、かなり悩みました。
試作を繰り返すなか、二次発酵の期間や温度が重要なポイントであるのがわかり、また、フランスの伝統的なシャンパンの製法を応用するなど、改良に改良を重ね、2016年、ついに商品化することができました」。
「菊泉 ひとすじ」 720ml 4950円(税込)
透明感のある瓶内二次発酵の発泡性日本酒。2019年に製法特許を取得しています。
世界初・透明なロゼタイプのawa酒が誕生
2016年に「一般社団法人awa酒協会」が設立し、滝澤社長は副理事長に就任。awa酒(スパークリング日本酒)の普及に努めます。さらに、2018年にはロゼタイプのawa酒の商品化を実現させました。
「菊泉 ひとすじロゼ」 720ml 9,900円(税込)
(滝澤社長)「シャンパンと同じように、日本酒にもロゼタイプがあってもいいのではと思いました。色合いも華やかなので、ハレの日に飲むお酒として親しんでもらいたいなと。
薄いピンク色を出す技法は、古代米の使用、紅麹の使用、赤色酵母の使用、と3つのパターンがあるのですが、古代米は精米の工程で色が抜けてしまいますし、紅麹は味わいにクセが出てしまうので、品質も安定してきれいな色が出せる赤色酵母を使用することにしました。ただ、酵母の特性で、単体で使うとベリー系の香りが強く際立ってしまうので、程よい香りと味わいになるように新たに別のお酒を開発して、赤色酵母のお酒とブレンドして調整しています」。
泡のキメが細かく、ほのかにイチゴのような甘い香りがあり、甘味と酸味のバランスがよく乾杯酒として人気。
「菊泉 ひとすじロゼ」の開発について語る滝澤社長。
見た目の美しさに加え、甘く爽やかな飲み口の「菊泉 ひとすじロゼ」は、味わいの評価も高く、2019年にフランスで開催されたKura Masterスパークリング部門で金賞を受賞。2021年にはロンドンで開催された世界最大規模のワインコンペティションIWC(インターナショナルワインチャレンジ)のSAKE部門スパークリングの部でゴールドメダルを受賞し、その上のトロフィーの栄誉も与えられ、国内のみならず海外からも高い評価を得ています。
IWC(インターナショナルワインチャレンジ)の賞状。
きめ細かい泡が綺麗に立ち上がる「ひとすじ」「ひとすじロゼ」に注目が高まっています。
伝統は革新の連続、新たなawa酒の開発も
awa酒について「じつはまだ完成形ではないんです」と語る滝澤社長。毎年、酸の重さや日本酒度、ブレンドの比率など、細かな部分まで丁寧に見直し、より品質の高いawa酒を生み出しています。
(滝澤社長)「9蔵で発足したawa酒協会も、今では30蔵の加盟になりました。オンラインなどで全国の蔵元たちと技術や情報を惜しみなく共有し合うことが相乗効果となって、どの酒蔵も進化し続けています。
日本酒造りは伝統産業ですが、“伝統は革新の連続”だと思っています。どんどん新しい取り組みにチャレンジして伝統をつなげていきたいですね」。
左から蔵人の永田充さん、滝澤社長、蔵人の中座大輔さん。
チームワーク抜群の3人で酒造りに取り組んでいます。
(滝澤社長)「2023年春以降には、大吟醸の風格を持った、よりスマートなawa酒「菊泉 ひとすじレイ」をリリースする予定です。どんな味わいなのか、ぜひたのしみにしていてください」。
“日本酒の力ですべての人を幸せにしたい”と語る滝澤社長。
ひとすじの泡が口の中で爽やかにはじける心地よさを感じた時、誰もが間違いなく幸せな気持ちを味わえることでしょう。
滝澤酒造株式会社
366-0826
埼玉県深谷市田所町9-20
TEL 048-571-0267
HP
https://kikuizumi.jp
オンラインショップ
https://shop.kikuizumi.jp
ライタープロフィール
阿部ちあき
全日本ソムリエ連盟認定 ワインコーディネーター