<J-CRAFT SAKE蔵元探訪その⑥>静岡県静岡市・三和酒造 吟醸造りの真髄を学ぶ

<J-CRAFT SAKE蔵元探訪その⑥>静岡県静岡市・三和酒造 吟醸造りの真髄を学ぶ

2018年春に誕生、飲食店で料理とともにたのしめる“生酒(なまざけ)”ブランド『J-CRAFT SAKE』。多彩な酒造好適米から純米吟醸酒を醸し出す「三和酒造」を、フードジャーナリストの里井真由美さんとともに訪ねました。

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江戸時代・貞享(じょうきょう)年間創業の老舗蔵

コバルトブルーにゴールドで『臥龍梅(がりゅうばい)』の文字。「とてもスタイリッシュな菰樽(こもだる)ですね」。

「現在の三和酒造株式会社の母体となっているのは、鴬宿梅(おうしゅくばい)の蔵元で、私たち鈴木家がずっと営んで参りました」と社長の鈴木克昌さん。創業はなんと貞享3(1686)年。当時の将軍が「生類憐みの令」で知られる徳川綱吉と聞いて、その歴史の長さに里井さんもびっくりです。

初代である市兵衛さんが酒造用の良水を授け給えと稲荷の神に祈願したところ、満月の夜に稲荷大明神が鶯と化して市兵衛さんを導き、浅間山麓の梅の枝に止まったとの霊夢(れいむ)を被りました。その地を掘り清泉を得て酒造業を始めたと伝えられているそうです。

掘った場所は、本社所在地である静岡市清水区西久保。そう、世界文化遺産に登録されている富士山の構成資産のひとつである三保の松原、街道一の大親分としてその名を馳せた清水次郎長、そしてアニメのちびまる子ちゃんで有名な港町・清水です。

この地で、看板の『鴬宿梅』をはじめ、静岡県民の心の象徴として、ネーミングを一般公募し発売された『静(しず)ごころ』、静岡県清酒鑑評会の純米酒部門で首席に輝いた『羽衣の舞』などの酒を醸し、近隣の住民や県民に愛されてきました。でもそこに甘んじることなく、平成14年に新しいコンセプトの日本酒発売に挑戦することになりました。

鈴木克昌社長は、330年以上続く蔵の16代目に当たります。

応接室には「鴬宿梅」の書が掲げられていました。

新コンセプトの酒銘は、『臥龍梅(がりゅうばい)』

「この名称は中国で発したもので、家康の逸話からも引用しているんですよ」。

16年前に起ち上げた日本酒『臥龍梅』は、現在の三和酒造の代名詞的存在。いったいどのような酒なのかをお聞きする前に、まずはその名の由来から教えていただきました。

「じつは“臥龍”という言葉は古く、その出典は中国の長編歴史小説『三国志演義』なのです」。書の中で主要人物である劉備玄徳(りょうびげんとく)が、諸葛孔明(しょかつこうめい)を自らの軍に迎える「三顧の礼」のエピソードは有名ですが、その際に“臥龍鳳雛(がりょうほうすう)”という言葉が出てきます。これは文字通り “寝ている龍と鳳凰の雛”のことで、まだ世に出ていないが優れた素質を持っている人物を意味、すなわち在野の賢人・諸葛孔明のことを指しているのです。

場所と時を転じて、日本の戦国時代末期。駿河の英雄・徳川家康は幼少時代に、蔵の近所にある禅寺「清見寺」で今川家の人質として暮らしており、その際に庭の隅に一枝の梅を接ぎ木したそうです。やがて家康は、龍が天に昇るごとく天下人に。彼の植えた梅は現在も花を咲かせ、その枝振りがまるで龍が臥したように見えることから「臥龍梅」と呼ばれるようになったとか。

「そんな壮大なストーリーがこの名前に込められていたのですね」と里井さん。なるほど優れたポテンシャルを意味し、かつ地元にも由来。新しい時代を切り開いて、天下の美酒となるに相応しいネーミングです。社長はじめ蔵のみなさんのこの酒にかける想いが伝わってきました。

幼少時代の家康が暮らし、内なる力を養っていた「清見寺」。「臥龍梅」は未だ現役で、毎年3月には高貴な花をつけます。

静岡から全国、そして世界へ発信された『臥龍梅』

『臥龍梅』のバリエーションはとても豊かです。

では『臥龍梅』とはどのような日本酒なのでしょうか?
「簡潔に申し上げると、総米600kg程度の吟醸小仕込み。一切の妥協や手抜きを排して製造したお酒です」。手間のかけ方は、鑑評会出品酒と変わらないというから驚かされます。

また従来の静岡型吟醸酒は、地元の酵母や酒米を使用しているものが多く、穏やかで柔らかな果実の香りが持ち味ですが、『臥龍梅』は味も香りも豊か。インパクトのある酒質を目指し、辿り着いたそうです。

『臥龍梅』のラインナップを眺めながら、「愛山、山田錦、雄町……原料米のバリエーションが豊かなのですね」と感嘆している里井さん。そう、酵母も酒米も地元産に限ることなく、さまざまなものにチャレンジ。結果多彩さも備えた『臥龍梅』の販売は、発売後10数年で北海道から九州にいたる全国へと拡大。平成18年のシンガポール、アメリカを皮切りに、現在では世界各国へ輸出されるようになっています。

「特級や一級といった級別制度に代わり、純米酒や吟醸酒などの特定名称酒が採用されて約30年。その間に消費者の酒への造詣が深まっていきました。より美味しいお酒を求める声に応えるため、蔵をあげて『臥龍梅』に取り組み、その結果が出ていることを誇りに思いますね」と笑顔の社長。この後、里井さんとともに、銘酒『臥龍梅』の醸造作業を見学させていただくことになりました。

全国各地から酒造好適米を取り寄せています。

品質を損ねないように温度管理を徹底。すべてクール便で出荷しているそう。

吟醸小仕込みの現場で、作業を拝見

案内していただいたのは、杜氏の菅原富男さん。

本社を後にして、仕込み蔵へ。こちらで杜氏の菅原富男さんと合流します。菅原さんは昭和18年生まれで、60年あまり酒造に携わってきた大ベテラン。例年9月に岩手県から蔵へ来て酒造り。大役を果たして4月に戻るという南部杜氏(なんぶとうじ)です。

伺った時はちょうど洗米・浸漬・水切りの作業中。吟醸酒に用いる酒米はすべて手洗い。通常ならその後に相当時間、米を水に漬けておくのですが、「吟醸用の白米はかなり乾いているため水を吸い過ぎてしまうのです」(菅原さん)。したがって小単位に分けて、洗米から水切りまでを10分ほどで行う「限定吸水」を施さねばならないそう。秒単位の作業が要求されるため、現場の空気はピンと張りつめています。

10kgごとに分けて「限定吸水」を行います。

仕込み水は、清流と鮎で知られる興津川(おきつがわ)水系の湧き水。

「良質の酒には何も足すべきでない、良質の酒からは何も引くべきでない、というのが私たちの考え方です」と菅原さん、その理想を追求した結果、純米吟醸と純米大吟醸の原酒を製造の中心にすえ、味も香りも豊かで飲み応えのある酒を目指すことになったのだとか。

続いて見せていただいたのは“麹”。酒造りは“一麹二酛三造り”といわれ、そのもっとも大切だとされる工程で、酒米を糖化するという働きを担います。翌日に仕込みタンクに投下される“枯らし”状態の麹を「ちょっと食べてみませんか?」と杜氏。里井さんは滅多にない機会に目を輝かせながら、口に含み満面の笑み。「清々しい香り。そして嚙むと甘味が出てきますね。まるで酵母になった気分です(笑)」。

出来あがったばかりの麹を試食させていただきました。

醪日数は30日以上、長期低温発酵させるのが特徴です。

『J-CRAFT SAKE 山吹(やまぶき)てんにょ』

地元の三保の松原には、天女が舞い降りたという羽衣伝説が残されています。

三和酒造が仕込んだ『J-CRAFT SAKE 山吹てんにょ』は、純米吟醸の無濾過生原酒。「大変出来の良かった」(杜氏)地元産の酒米「誉富士」に、「含み香を表現したい」(社長)と、酸味が控えめで吟醸香が高い酒に仕上がる10号系酵母を使用。

「香りは最初に穏やかさ感じますが、最後はエレガントに鼻に抜けていくイメージ。お米の旨味がしっかり、全体的に豊潤な味わいです」と里井さん。

「芳醇な香りで、余韻が長いのも特徴ですね」。

さて、『山吹』に合わせるとしたら、どんな料理がおすすめなのでしょうか? 「吟醸造りですが、軽やかというよりは、純米らしい厚みのある味わい。温かい料理と一緒にいただきたいなと思いました」と里井さん。

それを聞いた社長は、「そうですね。それなら仕込み水と縁のある鮎の塩焼がいいのではないでしょうか」。「少し肌寒い日には、地元の名物・静岡おでんも良さそうですよ」と付け加えた菅原さん。温かい料理に合わせるなら冷やもいいけど、ぬるめの燗酒もおすすめだそうですよ。

『山吹てんにょ』
■純米吟醸 無濾過生原酒
■使用米/誉富士
■精米歩合/55%
■アルコール度数/16度以上17度未満

三和酒造(臥龍梅)の詳細はこちら

今回ご同行いただいた、里井真由美さん

全国47都道府県、着物で世界20カ国以上を食べ歩くフードジャーナリスト。1級フードアナリストや米・食味鑑定士、唎酒師など多くの食資格を持つ。世界の高級レストランから和食・デパ地下グルメスイーツなど幅広い分野で情報発信し、テレビ出演も多数。現在、農林水産省 食料・農業・農村政策審議会委員、フードアクション・ニッポンアンバサダー、フランス観光開発機構オフィシャルレポーターにも任命され、国際的に活躍中。

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。日本旅のペンクラブ理事。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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