ウイスキーの「ピート」とは何? スモーキーな香りを生み出すピートを知ろう
ピート(泥炭)は、ヘザーやヒースなどの植物が何年もかけて堆積したもの。スコットランドでは、ウイスキーの原料である大麦麦芽の乾燥に使われてきました。今回はピートの概要や、ウイスキーにピート香がつく理由、ピート香が魅力の銘柄について紹介します。
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ウイスキーにスモーキーフレーバーをもたらすピート。知っておきたいピートの基本情報を確認していきます。
ピートとはどんなもの?
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ウイスキーを語るうえで欠かかせないピートについて、おさらいします。
ピート(泥炭)は植物が地中で炭化したもの
ピートは、ヘザーやヒースなどの植物や、コケ類やシダなどの水生植物、海藻などが長い年月をかけて堆積したもので、アイルランドでは「ターフ」、日本では炭化があまり進んでいない石炭を意味する「泥炭」または「草炭」とも呼ばれます。
石炭の一種なので可燃性があり、ピートが豊富なスコットランドでは古くから、よく乾燥させたピートが燃料として利用されてきました。今でも、スコットランドのヘブリディーズ諸島などでは、ピートを熱源にしている家庭があります。
ピートが堆積しているのは、スコットランド北部など寒冷地の湿原で、どこにでもあるわけではありません。日本でもピートは採れますが、北海道など一部地域に限られます。
ピートは15センチ堆積するのに約1,000年かかるといわれ、その土地に授けられた、自然からの貴重な贈り物ともいえます。
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ピート由来のフレーバーは愛好家を魅了
ウイスキーの香味を表す代表的な表現に、「スモーキーフレーバー」というものがあります。その名のとおり煙っぽさを感じる風味のことで、ウイスキー愛好者のなかには、スモーキーフレーバーをこよなく愛する人がたくさんいます。
このウイスキー特有のスモーキーさをもたらすものこそ、ピートです。ピートは、スコットランドのウイスキー造りにおいて大切な材料のひとつであり、ピート由来のスモーキーフレーバー(ピート香)は、スコッチウイスキーを特徴づける香りのひとつとなっています。
といっても、すべてのスコッチウイスキーにスモーキーフレーバーがあるわけではなく、ほとんど感じられないタイプもあります。
ピートの香りがウイスキーにつくのはどうして?
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ウイスキーに、ピート由来のスモーキーフレーバーがつく理由について見ていきます。
モルトの乾燥にピートを使用するから
ウイスキー造りが盛んなスコットランドでは、伝統的にウイスキーの原料となるモルト(大麦麦芽)を乾燥させる工程で、ピートを熱源にしてきました。かつては蒸溜所ごとに製麦(モルティング)を行い、キルンという乾燥塔でピートを焚いて独自のモルトを作っていたのです。
現代では熱源にするためというよりも、ピート由来の香りがついた「ピーテッドモルト(ピーテッド麦芽)」を作るためにピートが焚かれます。ピーテッドモルトはウイスキーのスモーキーフレーバーの源流となるもので、基本的にはピートを焚きしめたモルトを使わなければ、スモーキーさは生まれません。
近年、製麦は「モルトスター」と呼ばれる製麦専門業者に委託するのが一般的になり、手間のかかるモルト作りを行う蒸溜所は数えるほどしかなく、キルンから煙がたなびく昔ながらの光景を見られる蒸溜所は希少な存在となりました。とはいえ、モルトスターに依頼する際はピートを焚く時間や量などを細かく指定したレシピを渡しているので、蒸溜所ごとの個性は保たれています。
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ピートの産地や焚き方で個性の違うウイスキーに
ピートの産地や、乾燥時の使用量、焚く時間の長さ、焚くタイミングなどによって特徴の異なるピーテッドモルトが生まれます。これを使い分けることで、多彩な個性を持つウイスキーができあがります。
ピーテッドモルトには、ウイスキーのスモーキーな風味に関係しているといわれる、「フェノール化合物」という物質が含まれています。その含有量は「フェノール値(ppm)」という数値で表されます。
フェノール値は、ウイスキーのスモーキーフレーバーの傾向を知るのに役立ちます。一般的に、ピートレベル(ピートによる乾燥レベル)が低いものでフェノール値10ppm程度、中くらいで25ppm前後、40ppmを超えるとよく乾燥した「ヘビーピート」が使われているとみなされます。
ただし、フェノール値はあくまでも目安であり、フェノール値が高いほどスモーキーなウイスキーかというと、必ずしもそうではありません。フェノール値は大麦麦芽の乾燥時に測定するもので、ウイスキーの風味はたくさんの要素が絡み合って成り立つため、フェノール値が高くても完成したウイスキーのスモーキーさは穏やかに感じられることもあります。
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ピートがもたらすスモーキーフレーバーは一様ではない
燻(いぶ)したような香りを持つウイスキーを「スモーキーなウイスキー」といいますが、「スモーキー」には複数のニュアンスが含まれています。ブレンダーなどプロの世界では、ウイスキーのスモーキーさを以下の3つに分類して使い分けています。
◇ピーティー
燻したような香りのなかでもとくによい香り。燻香(くんこう)。
◇メディシナル
正露丸など薬品のような香り。ヨード香。
◇ハーシュ
あまり感じのよくない香り。
なお、一般的に、草花が多い地域の植物主体のピートを使うと、アロマティックで甘さを感じるスモーキーさが得られ、海藻などが主体のピートを使うと、ミネラル由来のヨード香を伴った海の香りのするスモーキーさが得られるといわれています。
ピート香がたのしめるスコッチウイスキーの種類
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スコッチウイスキーのなかでも、アイラ島やスコットランド北西に浮かぶ島々のアイランズで造られているシングルモルトウイスキーには、ピート香が特徴的な銘柄が目立ちます。
たとえば、アイラ島の「アードベッグ」や「ラフロイグ」「キルホーマン」「ポートシャーロット」「ラガヴーリン」「カリラ」、ジュラ島の「アイル・オブ・ジュラ」、スカイ島の「タリスカー」などは、フェノール値が高めで力強いスモーキーフレーバーを堪能できる銘柄として知られます。
なかでも、フェノール値がもっとも高く、世界最強のスモーキーさを誇るのがアイラ島の「オクトモア」です。ピートを炊き込む量がもっとも多いといわれる「アードベッグ」のフェノール値が55ppmほどなのに対して、最新の13シリーズの「オクトモア」のフェノール値は137.3ppm。過去に発売された「オクトモア09.1スコティッシュバーレイ」のフェノール値は、驚異の156ppmでした。
ちなみに、「スコッチの女王」と称されるアイラ島の「ボウモア」は、フェノール値20~25ppm程度で、ほどよいスモーキーフレーバーとバランスのよい味わいが魅力となっています。
ピート香とともに味わいたいジャパニーズウイスキー
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ジャパニーズウイスキーにも、ピート香をたのしめる銘柄があります。代表的なのは、北海道・余市町で生産されているニッカウヰスキーの「余市」や厚岸蒸溜所の「厚岸」、グレーンを使わずモルト原酒だけをブレンドした「竹鶴ピュアモルト」です。また、ベンチャーウイスキーの「イチローズモルト」にも、ピート由来のスモーキーさを持つものがラインナップされています。
いずれも人気商品なので、ボトルを入手するのは困難かもしれませんが、オーセンティックバーやモルトウイスキー専門のバーなどでは味わえることもあります。
スコットランドでは伝統的にモルトの乾燥にピートが使われてきました。ピートはウイスキーにスモーキーフレーバーをもたらすもので、その個性がウイスキー愛好家を魅了しています。機会があればスモーキーなウイスキーを飲んでみてくださいね。