「黒千代香(黒ぢょか)」とは?鹿児島生まれの酒器を使って焼酎をもっとおいしく!
黒千代香とは、鹿児島でつかわれる焼酎用の陶磁器の土瓶のことです。厚手で熱に耐えられるので、ガスコンロなどの直火や、囲炉裏の灰で焼酎をじわじわ温めるのに使われてきました。使えば使うほど、焼酎の香りや旨味が染み込む陶磁器なので洗剤で洗うのはご法度。使い終わったらしっかり乾燥させ、保管しましょう。
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黒ぢょか(黒千代香)は鹿児島生まれの焼酎用酒器
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ちょか(千代香)とは
「ちょか(千代香)」とは、焼酎王国鹿児島に伝わる陶磁器の土瓶のこと。土瓶や急須、鉄瓶などを指す鹿児島の方言でもあり、「茶家(ちょか)」と書くこともあります。
薩摩国の伝統工芸品・薩摩焼のなかでも、大衆向けに焼かれる黒薩摩(黒もん)のちょかは「黒ぢょか」と呼ばれ、厚手で熱に耐えられる特徴を活かして、古くから焼酎の直燗(じきかん)用酒器として重宝されてきました。
同素材のおちょこ(猪口、ちょく)や盃とセットで作られることが多く、近年は焼酎を温めるだけでなく雰囲気をたのしむための酒器としても注目を集めています。
黒ぢょかの歴史と名前の由来
黒ぢょかの起源は不明ですが、沖縄で泡盛用に使われていた酒器「酎家(ちゅうかぁ)」と似ていることから、琉球王朝時代に沖縄から伝わったとする説もあるようです。江戸時代に書かれた書物にも「ちょか」という言葉がたびたび登場していて、薩摩国を中心に古くから使われてきたことが窺い知れます。
ちょかの語源には、中国の急須「茶壺(チャフー)」、中国語の甕(かめ)「酒罐(チュウクワン)」、その福建語読み「チュウコワ」からきているという説や、独特な注ぎ口がイノシシの牙に似ていたことから「猪牙(ちょか)」と名づけられ、それが転じて「千代香」になったという説など諸説あります。
今となっては確かめるすべはありませんが、おちょこの「猪口」にもイノシシという文字が使われていることから考えると、イノシシ説も説得力がありますね。
黒ぢょかの種類
ちょかのなかでも黒焼きのものを「黒ぢょか」と呼びますが、かつてちょかにはさまざまな種類があり、用途別に使い分けられていました。
たとえば、鉄製の湯沸かしを「かなぢょか」、お茶を沸かす土瓶を「茶ぢょか」、薬を飲む急須を「薬ぢょか」と呼び、区別していたそう。この時代には黒ぢょかのことを、焼酎に使うちょかという意味で、「焼酎ぢょか」と呼ぶこともあったようです。
黒ぢょかの形状とおもな特徴
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黒ぢょかの形状
黒ぢょかの形状の特徴といえば、平べったいボディと細い注ぎ口、半円状の取っ手。注水用の口には比較的小さめの蓋がついています。そのどっしりと安定感のあるフォルムは、鹿児島のシンボルといわれる桜島をイメージしているとの説もあるほど。
一方、黒ぢょかとセットで作られるおちょこに決まった形状はなく、お椀型や半筒型、桜島を逆さにしたような形のものまでさまざまです。
黒ぢょかの特徴
黒ぢょかは陶芸家が土をこねて成形し、窯でていねいに焼き上げたこだわりの酒器です。鹿児島を代表する「黒薩摩」は、桜島由来の火山性の土などを原料に造られていて、鉄分が多く含まれているのが特徴。漆黒の光沢があり重厚感があります。
「黒薩摩」のように鉄分を多く含む陶磁器には、使い込むほどに酒器としての味わいが増すという特性があります。また、燗をつければつけるほど、焼酎の味がまろやかになっていくともいわれています。取り扱い上の注意点はありますが、コツさえつかめば、焼酎のさらなる魅力を引き出すことができるのも「黒薩摩」の特徴といえるでしょう。
なお、かつては「黒薩摩」が中心でしたが、近年は三重県四日市市の無形文化財である「萬古焼(ばんこやき)」や、岐阜県東濃地方に伝わる伝統工芸品「美濃焼(みのやき)」の黒ぢょかも登場し、選択の幅が広がっています。
黒ぢょかの耐熱性
陶磁器製の黒ぢょかは、一般に耐熱温度が高く、直火にかけられるという特徴があります。焼き物は1,200度以上の温度で焼き上げているため、弱火程度で割れる心配はありません。
ただし、使用している土や釉薬(うわぐすり)によっては、耐熱温度が下がる場合があります。購入の際は、直接火にかけられるのか、直火不可なのかを必ず確認するようにしてください。
ちなみに、黒ぢょかのなかには、電子レンジやオーブン対応の製品もあります。
黒ぢょかを使うと焼酎の燗酒がおいしくなる
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黒ぢょかで焼酎を弱火でゆっくり温めると香りが広がる
黒ぢょかを使って弱火でじわじわと焼酎を温めると、ふわっと広がる香りを引き出すことができます。焼酎通のなかには、遠火で人肌程度に温めながら、立ち上る香りとともにちびちび味わう人もいるようです。
なお、黒ぢょかは直燗に適した酒器とはいえ、皿などの食器と同じで急激な温度変化に弱いため、強火には不向き。そもそも急激に温めると、焼酎のせっかくの香りが飛んでしまうため、温めるときは弱火やとろ火が基本です。
黒ぢょかの遠赤外線効果でお酒がまろやかになる
前述のとおり、黒ぢょかの原料は粘土(火山性の土)で、そのなかには遠赤外線を発生させる成分が含まれています。そのため、好みの濃度に薄めた焼酎を入れておくだけでも、水とアルコールがよくなじみ、角がとれてまろやかな味わいに変化するといわれています。
黒ぢょかは火にかけている間はもちろん、保温している間もおいしさがアップするのが魅力。貯蔵期間の短い焼酎や個性の強い焼酎、アルコールの刺激的な味や臭いが気になる焼酎なら、より効果を実感できることでしょう。
黒ぢょかの使い方
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囲炉裏端で温めるのが昔ながらの使い方
近年、黒ぢょかはガスコンロなどの火にかけるのが定番ですが、コンロがない時代は囲炉裏の灰の熱で温めていました。そうして、時間をかけてじわじわ温めては、おちょこに注いでゆっくりと味わったのです。
また、囲炉裏端で燗つけした焼酎が自然に冷めると甘味や旨味が増すといわれていて、冷やで飲む場合も「燗冷まし」が主流だったようです。
こうした昔ながらの温め方は、今となってはなかなか実践できませんが、火鉢や七輪などを使えば、当時の雰囲気を味わうことができるかもしれません。
黒ぢょかは洗わない
焼酎をお燗しておいしくいただいたあとは、水洗いをせずに保管するのが黒ぢょか流。洗剤を使ってゴシゴシこするのはご法度です。
表面に無数の孔がある陶磁器の黒ぢょかは、使えば使うほど焼酎の香りや旨味がしみ込んでいきます。そのため、次にいただく焼酎の味わいが際立つといわれています。
一方で、汚れがしみ込みやすいのもまた事実。濡れたままにしておくと臭いやカビの原因になるので、使い終わったら蓋を開け、しっかりと自然乾燥させたうえで保管するようにしてください。
黒ぢょかで焼酎のお燗をたのしむコツ
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黒ぢょかで焼酎をお燗するには?
黒ぢょかを使って焼酎をお燗するには、次の手順で行います。
まずは好みのアルコール度数に割った焼酎を用意し、黒ぢょかへ直に注ぎます。表面や底面に水滴がついている場合は、火にかける前に完全に拭き取っておきましょう。
お燗する際はガスコンロや七輪などを使用し、弱火でトロトロ加熱しますが、火が強すぎると黒ぢょかが割れる恐れがあるので注意が必要です。ガスコンロで温める場合は、お餅などを焼く遠火対応の焼き網をかませるのも手。その際は安定感のあるタイプをチョイスするとよいでしょう。
黒ぢょかでお燗するときの飲みごろの温度
焼酎をお燗するうえで気になるのが、でき上がりの温度。基本的には人肌程度がよいといわれていますが、キレのよさを味わうなら50度程度の「熱燗」、香りの個性を満喫するなら40度程度の「ぬる燗」、ふんわりと立ち上る香りを堪能するなら30度程度の「日向(ひなた)燗」がおすすめです。
なお、温めすぎると香りが飛んだり味が変化してしまうことがあるので注意しましょう。
黒ぢょかでお燗するなら前割り焼酎がおすすめ
黒ぢょかで燗をつけるなら、前割り焼酎がだんぜんおすすめです。あらかじめ割り水して好みの濃度に整えた前割り焼酎を一晩から数日間寝かせることで、焼酎と水が分子レベルでよくなじみ、まろやかな味わいに変化します。これを黒ぢょかでほどよく温めれば、香り豊かで口当たりのよい焼酎がたのしめます。通常の水割りと比べても、その違いは歴然なので、ぜひ試してみてください。
前割り焼酎の造り方
最後に、黒ぢょかで焼酎をさらにおいしく飲むために知っておきたい、前割り焼酎の作り方を紹介しましょう。
前割り焼酎の作り方は、きれいに洗浄した清潔な容器に焼酎と水を入れるだけとかんたん。容器は空になった焼酎のボトルやペットボトルで十分ですが、味にこだわるなら遠赤外線による熟成効果が期待できる陶器製の焼酎サーバーがおすすめです。
焼酎と水の割合はお好みで。25度の焼酎の場合、焼酎と水の割合が6:4だとアルコール度数は15度程度、5:5で約12.5度になります。おすすめは6:4ですが、好みに合わせて調節するとよいでしょう。水はミネラルウォーター、それも軟水がおすすめです。
混ぜ合わせた前割り焼酎は、冷蔵庫などの冷暗所で保管し、一晩から2~3日程度寝かせれば完成です。
黒ぢょかは、焼酎をおいしく味わえるだけでなく、焼酎気分も高めてくれる究極の酒器。表面の加工やデザインにこだわったものや、黒以外の焼酎ぢょかなども流通しているので、お気に入りを探して、通常の飲み方とはひと味違った味わいを堪能してください。