焼酎の本場、鹿児島生まれの「黒千代香(くろぢょか)」って知ってる?
「黒千代香(黒ぢょか/黒じょか)」は、焼酎文化が根づく鹿児島で、古くから焼酎のお燗用に使用されてきた鹿児島の伝統的な酒器です。お酒を雰囲気から楽しめる「黒千代香」について、人気の秘密や使い方などをご紹介していきます。
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焼酎ツウならこだわりたい!「黒千代香」の正体とは?
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「黒千代香」とは鹿児島県の伝統的な酒器
「黒千代香」は焼酎の本場・鹿児島で伝統的に使われてきた焼酎の燗酒用の酒器です。「黒千代香」は「くろじょか」と読み、「黒ぢょか」「黒じょか」と表記されることもあります。「黒千代香」は、平べったいボディーに蔓(つる)を巻きつけた持ち手で、注水用の口に小さめの蓋がついているのが特徴で、漆黒の色合いが目を引きます。直火にかけられる燗酒用の酒器ですが、近年では焼酎を温める用途以外にも、お酒の雰囲気をたのしむための酒器としても注目を集めています。
ちなみに鹿児島の方言で土瓶のことを「ちょか」といいます。かつては、陶磁器製の土瓶のほか、急須や鉄瓶なども「ちょか」と呼ばれていたようです。
「黒千代香」は鹿児島の伝統工芸「黒薩摩」から生まれた
鹿児島には「薩摩焼(さつまやき)」という伝統工芸品があり、薩摩焼の「黒千代香」はとても人気があります。
400年以上の歴史を誇る「薩摩焼」は、陶工たちが磨き高めてきた匠の技を集結した焼き物で、陶器と磁器が造られています。なかでも陶器製品は「白薩摩(白もん)」と「黒薩摩(黒もん)」の2種類あり、繊細かつ優美な姿が特徴の「白薩摩」は藩主への献上品として、野趣あふれる重厚な面持ちの「黒薩摩」は大衆の日用雑器として発展してきたといわれています。
漆黒の光沢を放つ「黒千代香」は、鉄分を多く含んだ火山性の土で作られる「黒薩摩」から生まれた酒器。焼酎を入れて温めると遠赤外線効果で角がとれて、まろやかな口当たりに変化するといわれています。また、使い込むほどにまろやかな燗酒を作れるようになり、酒器自体にも深い味わいが生まれるといわれていて、多くの焼酎ファンに重宝されています。
「黒千代香」の名づけ親は有山長太郎氏
「黒ぢょか(黒じょか)」は、江戸時代から使われてきたといわれていますが、「黒千代香」という名前の歴史は、鹿児島市谷山にある黒薩摩の名窯(めいよう)、「長太郎焼本窯」から始まりました。初代・有山長太郎氏は、錦江湾に桜島のシルエットが浮かぶ様子にヒントを得て、そろばん玉のような鋭角な胴体の酒器を考案。これに「焼酎が千代に香る」という意味を込めて、「黒千代香」と名づけたといわれています。
ちなみに、「黒千代香」と名付けられる前は、有山氏の「黒千代香」と比べて胴体の長い形状のものが多かったようです。
陶器製の「黒千代香」ってどうやって使うの?
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「黒千代香」はとろ火で温めるのが基本
どっしりとした重厚感を持つ「黒千代香」を温める際は、強火ではなく、とろ火でじわじわと温めるのがコツ。ガスコンロは火力が強いので、できれば電気コンロのほうがベターです。
ちなみに、コンロがない時代は、「黒千代香」を囲炉裏で時間をかけて温めながら、ゆっくりと味わっていたそう。囲炉裏がなくてもキャンドルや固形燃料、火鉢や七輪などを使えば当時の雰囲気を味わえるかもしれませんね。
なお、「黒千代香」のなかには直火にかけられないものもあるので、使用する前に必ず確認してください。
「黒千代香」は使い込むほど味が浸み込むので洗わないのが鉄則
「黒千代香」で焼酎を飲んだあとは、水洗いせずそのまま保管するのが正しい取り扱い方。「黒千代香」の表面には無数の小さい穴が開いていて、使えば使うほど焼酎の旨味や香りが器に浸み込んでいくといわれています。これが次に飲む焼酎の味わいを引き立て、味をまろやかにさせるのだとか。そのため、洗剤とタワシを使ってごしごし洗うのはご法度です。
とはいえ、濡れたままにしておくと臭いやカビの原因にもなります。使用後は蓋を開け、しっかりと自然乾燥させてから保管しましょう。
表面の水気はヒビ割れの原因になるので拭き取る
「黒千代香」を火にかける際は、必ず表面の水気を拭き取ってから使い始めましょう。表面が濡れたままの陶器を火にかけたり、熱いうちに冷たい水を入れたりすると、低温から高温の急速な温度変化によってヒビ割れすることがあります。
これは、コンロでも火鉢の炭でもストーブにかける場合も同じで、「黒千代香」だけでなく土鍋や土瓶などでも起こり得る現象です。火の強弱も関係ありません。「とろ火にかけるから大丈夫」などと思い込むのはNGです。
「黒千代香」は水洗いしませんが、焼酎を入れるときにこぼしたり、濡れているところに置いてしまったり、キッチンで水仕事をしていてたまたま水がかかることも考えられます。「黒千代香」を火にかける前に必ず、表面や底面に水滴がついていないかを確認して、少しでも濡れている場合は完全に拭き取ってから火にかけるようにしましょう。
「黒千代香」を使って焼酎の燗酒をたのしもう
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「黒千代香」で燗酒を作るなら「前割り」がおすすめ
「黒千代香」で燗酒を作る際、通常は水で割った焼酎を使いますが、「前割り」した焼酎を使うとさらに風味が増すのでおすすめです。
「前割り」とは、あらかじめ水で焼酎を好みの濃度に割り、冷蔵庫などで一晩から2~3日ほど寝かせておく作業のこと。「前割り」することで焼酎と水が分子レベルで馴染み、まろやかな味わいに変化するといわれています。
「前割り」するときは、きれいに洗ったガラス瓶やペットボトルなどの容器を使います。数日置く場合は遮光性のある陶器ボトルや焼酎サーバーなどを利用するとよいでしょう。焼酎と水の割合は好みにもよりますが、アルコール度数25度の焼酎で作る場合、一般的には焼酎と水を6:4くらいで割るのがよいといわれています。
「黒千代香」で温めるときは人肌程度に
「黒千代香」で火にかけるときは、温めすぎに注意。焼酎の燗酒の理想の温度は、36~37度前後の人肌程度です。熱々にすると、せっかくの焼酎の風味が失われてしまうので、とろ火でも火にかけすぎないようにするとよいでしょう。
なお、直火で温度調節するのが難しい場合は湯煎で温める方法もあります。鍋などにお湯を沸かして、徳利などに入れた焼酎をお湯につけて温め、「黒千代香」に移し替えればOK。なかには、直接「黒千代香」をお湯につけて温める人もいるようです。
ふだん飲んでいる焼酎でも、「黒千代香」で燗をつければ、より贅沢な気分が味わえるでしょう。表面加工やデザインにこだわったものも流通しているため、自分好みの「黒千代香」を探すのもたのしそうですね。ただ、直火で温めたい場合は、火にかけられるタイプかどうか忘れずにチェックしてくださいね。