「減圧蒸溜(減圧蒸留)」とは? 仕組みや常圧蒸溜との違い、おすすめ銘柄を紹介

「減圧蒸溜(減圧蒸留)」とは? 仕組みや常圧蒸溜との違い、おすすめ銘柄を紹介
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「減圧蒸溜」とは、焼酎を造る際の蒸溜工程における手法のひとつ。減圧蒸溜で蒸溜した焼酎は雑味が少なくスッキリとした味わいに仕上がる傾向があります。今回は、減圧蒸溜の原理や「常圧蒸溜」との違い、減圧蒸溜で造られるおすすめの銘柄などを紹介します。

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「減圧蒸溜(減圧蒸留)」は、飲みやすい焼酎を探すうえで外せないキーワードのひとつ。その仕組みからみていきましょう。なお、本記事では「減圧蒸溜」の表記を使用します。

「減圧蒸溜」は焼酎の蒸溜方法のひとつ

蒸溜の仕組み

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まずは「蒸溜」という工程の概要や「減圧蒸溜」の仕組みについて確認していきます。

「蒸溜」とは、そもそもどんな工程?

「蒸溜」とは、液体を熱してその一部を蒸気にし、再び液化して精製・分離を行う操作のこと。液体中の沸点の低い成分や揮発性の高い成分ほど早く蒸発することから、香水や石油製品、蒸溜酒の製造に利用されています。

お酒のなかには蒸溜工程を必要とするものとしないものがあり、前者を「蒸溜酒」、後者を「醸造酒」といいます。アルコール含有物を蒸溜して造られる焼酎やウイスキー、ブランデーなどは「蒸溜酒」に分類されます。日本酒やワイン、ビールなどは「醸造酒」の仲間です。

蒸溜酒造りにおいては、「もろみ(醪)」と呼ばれる発酵液を熱し、より純度の高いアルコール分を抽出する工程を「蒸溜」と呼んでいます。

なお、焼酎は酒税法上、昔ながらの単式蒸溜機で1〜2度蒸溜を行う「単式蒸留焼酎」と、連続式蒸溜機で繰り返し蒸溜を行う「連続式蒸留焼酎」に大別されます。

前者は「本格焼酎」や「乙類焼酎」と呼ばれるもので、後者は「甲類焼酎」の名で親しまれています。
「減圧蒸溜」は「本格焼酎」をはじめとする「単式蒸留焼酎」の蒸溜に使われる手法のひとつです。

蒸溜という技術について、さらに詳しく知りたい場合は、以下の記事が役に立ちます。

減圧蒸留装置とその原理

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「減圧蒸溜」は蒸溜機内を減圧し沸点を下げて蒸溜する方法

「減圧蒸溜」とは、(単式)蒸溜機内の圧力を下げて低めの温度で蒸溜する手法です。

地上付近の気圧(1気圧)における水の沸点は約100度(厳密には99.974度)ですが、富士山の山頂では、87度程度で沸騰するといわれています。これは、富士山頂の気圧が地上付近の気圧の3分の2程度しかないため。気圧が低いので、水の分子が動きやすくなり、より低い温度で沸騰するのです。

アルコールの沸点は約78.3度。地上付近の気圧でもろみを沸騰させるには、これより高い温度で熱する必要がありますが、蒸溜機内の気圧を下げることで、50度程度と比較的低い温度でアルコール分を抽出することが可能になります。これが「減圧蒸溜」の基本的な仕組みです。

「減圧蒸溜」で造られる焼酎がクリアな味わいに仕上がる理由

蒸溜機内の圧力によってもろみが沸騰する温度が変わりますが、この温度次第で焼酎の風味の傾向が変わってきます。

もろみにはさまざまな成分が溶け込んでいますが、低めの温度で熱している間は沸点の高い成分や揮発性の低い成分が蒸発しにくいため、アルコールと一緒に抽出されずにもろみのなかに残ります。このため、できあがった焼酎は、雑味がほどよく取り除かれたクリアな味わいに仕上がります。

また、「減圧蒸溜」では比較的沸点の低い華やかな香りの成分が先に抽出されるため、フルーティーな香りの焼酎に仕上がる傾向があります。

「減圧蒸溜」と「常圧蒸溜」の違い

減圧蒸溜と常圧蒸溜の違い

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「単式蒸溜」には、「減圧蒸溜」のほかに「常圧蒸溜」という手法があります。両者の違いをみていきましょう。

「減圧蒸溜」と「常圧蒸溜」の仕組みの違いは蒸溜機内の圧力

蒸溜機内の圧力を下げ、低めの温度で蒸溜する「減圧蒸溜」に対して、「常圧蒸溜」では蒸溜機内が外気と同じ圧力のまま蒸溜を行います。

蒸溜機内の圧力が違えば、アルコールなど、もろみに含まれる成分の沸点も変わってきます。

◆減圧蒸溜
蒸溜機内の圧力を下げて蒸溜を行う。もろみが沸騰する温度は50度程度。

◆常圧蒸溜
外気と同じ圧力で蒸溜を行う。もろみが沸騰する温度は90度前後。

「減圧蒸溜」と「常圧蒸溜」は焼酎の味わいの傾向も異なる

先述したように、「減圧蒸溜」で造られた焼酎は、クリアな味わいに仕上がる傾向があります。
一方、「常圧蒸溜」で造られた焼酎は、原料の個性が現れやすく、香味が豊かになるといわれています。

もろみのなかには、一定の温度まで上げないと抽出されない成分や、加熱によって生成される成分も存在します。原料由来の風味や、味わいに重厚感をもたらす成分は、高温で蒸溜を行う「常圧蒸溜」ならではの魅力といえるでしょう。

蒸溜機にはそれぞれ個性があり、「常圧蒸溜」で造られる焼酎のなかにも淡麗な味わいの商品があるので、一言でくくることはできませんが、以下をひとつの傾向として覚えておくと、好みの焼酎を選びやすくなります。

◆雑味が少なくスッキリとした飲み口の焼酎なら「減圧蒸溜」
◆原料の個性が生きた芳醇な味わいの焼酎なら「常圧蒸溜」

「減圧蒸溜」で造られるおすすめ焼酎5選

「減圧蒸溜」ならではの魅力が感じられる飲みやすい焼酎銘柄を原料別に紹介します。

魔王|フルーティーで飲みやすい芋焼酎

魔王はフルーティーな芋焼酎

tokomaru7 / PIXTA(ピクスタ)

「魔王(まおう)」はプレミアム芋焼酎「3M(スリーエム)」のひとつに数えられる黄麹仕込みの芋焼酎。芋くささを感じさせない華やかな香りと熟成酒ならではのまろやかな風味が魅力です。

人気の高さから入手が難しく、定価で購入するには何カ月も待つ根気が必要です。飲食店などで出会ったら、ぜひ味わってみてください。

製造元:白玉醸造株式会社
公式サイトはありません

大分むぎ焼酎二階堂|本格焼酎ブームを牽引した麦100%焼酎

「大分むぎ焼酎 二階堂」

出典:二階堂酒造有限会社サイト

「大分むぎ焼酎 二階堂(にかいどう)」は、麹にも麦を使った麦100%の麦焼酎を開発し、麦焼酎ブームの火つけ役となった二階堂酒造の代表銘柄。減圧蒸溜で焼酎独特のクセを抑えつつ、麦の甘味をしっかり引き出した飲み飽きしない1本です。

より芳醇な香りとまろやかな飲み口をたのしみたい人には、「大分むぎ焼酎 二階堂」をじっくりと熟成させた「吉四六(きっちょむ)」もおすすめ。陶器製ボトルに入った「吉四六 壺」はギフトにも重宝します。

製造元:二階堂酒造有限会社
公式サイトはこちら

吟香 鳥飼|華やかな吟醸香が魅力の米焼酎

米焼酎「吟香 鳥飼」

出典:株式会社鳥飼酒造サイト

「吟香 鳥飼(ぎんか とりかい)」は、400年以上前から熊本県人吉市で酒蔵を営む鳥飼酒造が、吟醸麹と自家培養の酵母で造る香り豊かな米焼酎。吟醸酒タイプの日本酒を想わせる華やかな吟醸香と上品な味わいが魅力です。

「吟香 鳥飼」は、人吉球磨の地名を冠した日本が世界に誇る焼酎ブランド「球磨焼酎」の1銘柄です。

製造元:株式会社鳥飼酒造
公式サイトはこちら

れんと|豊かな香りと軽やかな口あたりの黒糖焼酎

黒糖焼酎「れんと」

画像提供:株式会社奄美大島開運酒造

「れんと」は黒糖と米麹を原料に奄美大島の霊峰「湯湾岳」の清冽な水で仕込み、減圧蒸溜したあと、クラシック音楽の音響振動を与えてゆるやかに熟成させた黒糖焼酎。豊かな香りとまろやかな味わいが特長です。

「れんと」はさまざまな割り方でたのしめますが、軽快な味わいをたのしみたいときは水割りや炭酸割りで、黒糖の甘い香りや繊細なのどごしを堪能するならストレートやロックがおすすめです。

製造元:株式会社奄美大島開運酒造
公式サイトはこちら

残波|飲みやすさにこだわった泡盛

残波ホワイトと残波ブラック

出典:有限会社 比嘉酒造サイト

「残波(ざんぱ)」は沖縄県の比嘉(ひが)酒造が、「泡盛が苦手な人にも親しんでもらいたい」という思いから試行錯誤を重ねた末に生み出した泡盛ブランドです。

定番は、泡盛独特の香りを抑え、フルーティーかつ透明感のある味わいに仕上げた「残波ホワイト」(通称「ザンシロ」)と、泡盛らしい香味とキレのある味わいが特徴の「残波ブラック」(通称「ザンクロ」)。どちらも減圧蒸溜らしい軽快な飲み心地が魅力です。

製造元:有限会社 比嘉酒造
公式サイトはこちら

「減圧蒸溜」は焼酎の蒸溜手法のひとつで、焼酎に華やかな香りと雑味の少ない軽快な味わいをもたらすといわれています。フルーティーな香りやスッキリとした飲み口のお酒が好きな人は、「減圧蒸溜」を銘柄選びのキーワードに加えてみてはいかがでしょうか。

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