「常圧蒸溜」という昔ながらの蒸溜方法の仕組みと特徴、魅力を知ろう【焼酎用語集】

「常圧蒸溜」という昔ながらの蒸溜方法の仕組みと特徴、魅力を知ろう【焼酎用語集】
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「常圧蒸溜」は昔ながらのシンプルな蒸溜方法です。紀元前ころに香料を集めるために用いられ、錬金術として発展してきました。ここでは、焼酎造りに用いられる「常圧蒸溜」の仕組みや特徴に注目。「減圧蒸溜」との違いに触れつつ、その奥深い魅力を探ります。

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「常圧蒸溜」とは?

「常圧蒸溜」とは?

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「常圧蒸溜」は通常の気圧で行う蒸溜方法

本格焼酎をはじめとする乙類焼酎は、原料に酵母を加え、発酵させたもろみを単式蒸溜機で蒸溜することで造られます。蒸溜工程では、もろみを加熱し、気化した成分を冷却して再び液化することでアルコールを抽出します。

単式蒸溜機による蒸溜方法は、大きく「常圧蒸溜」と「減圧蒸溜」の2つに分けられます。このうちの「常圧蒸溜」は、通常の気圧下、つまり減圧も加圧もせず、大気圧下で蒸溜を行うオーソドックスな方法で、本格焼酎ではこの方法が多く用いられています。

「常圧蒸溜」は、気圧を下げて蒸溜を行う「減圧蒸溜」と比べると沸点が高く(約90~100度)、原料由来の成分が蒸溜液に移りやすいのが特徴です。そのため、原料の風味がより引き出された、味わい深い焼酎に仕上がります。

「常圧蒸溜」のルーツ

常圧蒸溜の起源は古く、紀元前3500年ころのメソポタミア文明まで遡るといわれています。メソポタミア文明が栄えた場所は現在のイラク(の一部)にあたりますが、その付近の考古遺跡から、香料の抽出に使われたとされる当時の蒸溜機が出土し、話題を集めたこともありました。

近代的な蒸溜酒の起源は明確にはわかっていませんが、紀元前750年ころのインドやエチオピアでは造られていたことがわかっています。

また、紀元前300年代に活躍した古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、「海水を蒸溜して真水を得られる」ということを、その著書「気象論」で紹介していますが、同著書内でワインの蒸溜についても論じていることから、紀元前4世紀にはさまざまな分野で蒸溜技術が用いられていたことが窺い知れます。

「常圧蒸溜」を起源とする蒸溜技術の発展

蒸溜技術が広まったのは、紀元前300年代のアレキサンダー大王の時代といわれています。当時用いられていた蒸溜技術は、人の流動とともに各地へ伝播し、錬金術の発展とともに進化していきました。

そのうちのひとつである、8世紀のアラビア人錬金術師、ジャービル・イブン・ハイヤーンが考案した蒸溜装置「アランビック」は、現在も蒸溜酒の製造に用いられています。なお、江戸時代の日本では、アランビックの一種である「ランビキ」という名の器具が使われていました。

そうして、蒸溜技術が世界に伝播し、発展・改良されていくなかで17世紀ころに登場したのが、「常圧蒸溜」よりも効率的に蒸溜できる「減圧蒸溜」です。

「常圧蒸溜」と「減圧蒸溜」の違い

「常圧蒸溜」と「減圧蒸溜」の違い

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「減圧蒸溜」が焼酎造りに導入されたのは昭和の時代

1650年にドイツで真空ポンプが発明されると、減圧下での蒸溜が可能になり、「減圧蒸溜」の技術が急速に発達していきました。

「減圧蒸溜」の技術が実用化され、日本の本格焼酎造りに取り入れられたのは、昭和48年(1973年)とごく最近です。しかし、「減圧蒸溜」は時代に合った焼酎の味わいを生むのに適していたことから、導入されてわずか10年ほどで、日本で約450年の歴史を持つ「常圧蒸溜」に取って代わり、主流の蒸溜方法となっていきました。

「常圧蒸溜」と「減圧蒸溜」の仕組み上の違い

前述のとおり、「常圧蒸溜」が圧力をかけずに大気圧下で蒸溜を行うのに対し、「減圧蒸溜」は蒸溜釜内の気圧を下げて蒸溜を行うのが特徴です。

水の沸点は100度ですが、山の上など気圧の低い場所では沸点が下がります。たとえば、標高3,776メートルの富士山頂では、87度程度で水が沸騰するといわれています。

このような特性を活かした「減圧蒸溜」には、低い温度でアルコールを抽出できるという仕組み上のメリットがあるのです。

「常圧蒸溜焼酎」と「減圧蒸溜焼酎」の味わいの違い

「常圧蒸溜」は、雑味なども含めて原料本来の個性を引き出せる蒸溜方法なので、複雑で飲みごたえのある焼酎が生まれる傾向にあります。

一方、約40〜50度と低めの温度でもろみを沸騰させる「減圧蒸溜」では、沸点の高い雑味などの成分が抽出されにくくなるため、軽快でクリアな味わいに仕上がるといわれています。

このような特徴から、素材の個性をたのしむなら「常圧蒸溜焼酎」、クセの少ない飲みやすさを重視するなら「減圧蒸溜焼酎」を選ぶとよいでしょう。

なお、「常圧蒸溜」と「減圧蒸溜」の原酒を混ぜ合わせ、原料の個性と飲みやすさをバランスよく引き出した、「常圧・減圧ブレンド焼酎」も近年人気を集めています。

「常圧蒸溜」で造られたおすすめ焼酎

「常圧蒸溜」で造られたおすすめ焼酎

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「常圧蒸溜」で造られた焼酎の魅力

「常圧蒸溜焼酎」の魅力は、「減圧蒸溜焼酎」にはない豊かな風味。麦焼酎なら麦らしさ、米焼酎なら米らしさ、芋焼酎なら芋の品種ごとの個性を味わえるのが大きな特徴です。とくに芋焼酎は、芋らしい独特のクセが好まれることが多いため、常圧蒸溜で造られることが多い傾向にあります。

「素材の香味はたのしみたいけれどクセが強すぎるものは苦手」という人は、ほどよく熟成された銘柄をチョイスしたり、「前割り」して飲んだりと、商品の選び方や飲み方を工夫するのも手です。

常圧蒸溜のおすすめ銘柄5選

常圧蒸溜で造られたこだわりの本格焼酎を紹介します。

【森伊蔵(芋焼酎)】
「魔王」「村尾」とともに「3M(スリーエム)」と呼ばれるプレミアム芋焼酎。フランス元大統領・故ジャック・シラク氏が愛したことでも知られています。伝統のかめ壺仕込みと常圧蒸溜で仕上げた雫は、香りや風味、味わい、口当たりなど、すべてが絶妙なバランスを勝ち得た逸品。幻の焼酎と名高い銘柄ですが、定価で購入するチャンスもあるので公式サイトはチェック必須です。

製造元:森伊蔵酒造
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【薩州 赤兎馬(芋焼酎)】
淡麗にして重厚、飲みやすさのなかにも芋らしさが感じられる、白麹仕込み&常圧蒸溜で仕上げた芋焼酎。フルーティな味わいが好みの人には、紫芋を使用した「紫の赤兎馬」もおすすめです。

製造元:濱田酒造
公式サイトはこちら

【さくら白波(芋焼酎)】
南薩摩産のさつまいもを黄麹で仕込み、華やかな香りを引き出した芋焼酎。常圧蒸溜のわりに軽快で飲みやすく、さらりとした口当たりがたのしめる1本です。

製造元:薩摩酒造
公式サイトはこちら

【兼八(麦焼酎)】
クセを抑えた飲みやすい麦焼酎に人気が集まるなか、麦チョコのような香ばしさを持つクセのある味わいで評判なのが四ツ谷酒造の「兼八」です。原材料は裸麦と裸麦麹。代々受け継がれた伝統の製法と自家製の常圧蒸溜機によって生まれた、香ばしさとコクのハーモニーをたのしめます。

製造元:四ツ谷酒造有限会社
公式サイトはこちら

【武者返し(米焼酎)】
「常圧蒸溜」一筋を貫く寿福酒造場が手掛けるこだわりの球磨焼酎です。原料米には熊本産ヒノヒカリを100%使用。米焼酎ならではのやわらかさと芋焼酎を思わせるコクを兼ね備えた逸品です。

製造元:合資会社寿福酒造場
公式フェイスブックはこちら

「常圧蒸溜」で蒸溜した焼酎は、原料由来の個性豊かな味わいをたのしめます。近年は「減圧蒸溜」で醸された焼酎が増えていますが、昔ながらの「常圧蒸溜焼酎」の魅力をぜひ味わってみてください。

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