<“Urban”ワインを巡る⑤> 大阪・中央区/島之内 フジマル醸造所「“大阪発”にこだわったワイン

<“Urban”ワインを巡る⑤> 大阪・中央区/島之内 フジマル醸造所「“大阪発”にこだわったワイン

近年都心にワイナリーが続々とオープンしていることをご存じですか?生産者と語らいながら、その醸したワインを試飲する――以前なら遠出をしないと叶わなかったことが、身近で実現できるようになったのです。こうした都会の=Urban(アーバン)ワイナリーを巡る連載が復活。第5回は、大阪・中央区にある『島之内 フジマル醸造所』です。

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街中のワイナリーで、地元で育てたブドウを醸す

松屋駅から歩いてすぐ。石材やセメントを扱う会社のビルに入っています。

『フジマル醸造所』という名前を見て、ピン!ときた方もいらっしゃるでしょう。そうこの連載の3回目に登場していただいた『清澄白河 フジマル醸造所』 と今回の『島之内 フジマル醸造所』は、経営母体が同じワイナリー。ちなみに清澄白河のオープンは、2015年。島之内は2013年で、フジマル醸造所の数ある店舗の中でもパイオニア的存在です。

一部第3回のおさらいとなりますが、フジマル醸造所のルーツは大阪にあります。国内外のワインを取り扱うワインショップを営んでいた株式会社パピーユが、自らワインの醸造を始めたのは2010年のこと。当時は創業100年を超える老舗『カタシモワイナリー』への委託醸造という形で生産していました。やがて扱うブドウの量も増えて手狭になったため、自社ワイナリーを構えることになったのです。

お話を伺ったのは、店長でソムリエの河端浩史(かわばた・ひろし)さん。

「じつは委託醸造と並行して、大阪府柏原市の耕作放棄地を中心にブドウの栽培もスタートさせていました」と河端さん。半年前の取材時には管理する畑は2ヘクタールほどでしたが、「現在は2.5ヘクタールに増えています」。そう、これまでレポートさせていただいた“アーバンワイナリー”とこちらのワイナリーが決定的に違う点が、契約農家だけではなく自社畑で栽培したブドウも使用していること。そうなるとブドウの運搬などの利便性を考えると、畑の近くにワイナリーを創設したほうがよさそうですが、やはり2軒目の清澄白河と同様、都会のど真ん中に建てられています。

柏原市にある自社畑で、精魂込めてブドウを育てています。

「街の中に創るのは、代表である藤丸智史(ふじまる・ともふみ)が掲げる理念に“ワインを日常に”に基づくものです」と清澄白河の取材時と同じ答え。産地と造り手と消費者が一体になれるような場所を創ることによって、ワインが工業製品でなく農作物でもあることを伝えたいという藤丸さんの考えは、働くスタッフ全員に浸透しているようです。

清澄白河は元々鉄工所で造りが頑丈な物件でしたが、こちらはセメントや石材を扱う会社の1・2階に。背後に流れる川を利用した水運が盛んだった頃に建てられた倉庫で、こちらも負けず劣らず頑丈。ワインの醸造に適しています。

“Made In Osaka”をとことん追求

「醸造用器材についても、大阪オリジナルにこだわっています」。

大阪は日本でも屈指のワイン造りの歴史を有していて、1930年代の最盛期にはブドウ栽培面積は山梨を凌ぐほど。ワイナリーも110軒を超えていたという記録があります。耕作放棄地での栽培に真正面から取り組む姿勢に、伝統産地を復活させ、次世代に引き継いでいきたいという強い思いを感じるのは、私だけではないでしょう。

「大阪で栽培されたブドウを大阪で醸して瓶詰めするのですから、原産地呼称“大阪”を堂々と名乗ることができますね?」と河端さんに話しかけたら、ちょっと悪戯っ子のような笑みを浮かべて、「もっともっと大阪にこだわりたいんですよ」との返答。そしてシルバーに輝くブドウ圧搾機の前に移動して、「じつはこの機械、大阪の八尾市にある工場に発注したオリジナルなんですよ」と愛しそうに撫でたのです。

日本では海外のメーカーのものを購入して使用するケースが多いのですが、「都市型ワイナリーだと家賃も高いので、複数台は置けません。もし修理になると海外のメーカーの場合は時間がかかって、醸造作業がすべてストップしてしまいます。地元の知り合いなら、すぐに駆けつけて動けるようにしてくれますから」。さらに「でもまだ一度も故障していないんです。さすがですね、日本の町工場の技術は」と付け加えました。

1階にあるコンパクトなワイナリーの全景。左手のステンレスタンクも八尾市の工場製だとか。

こうした都市型ワイナリーは世界でも珍しく、オープン時から縁のあった海外の醸造家が何人も見学に訪れたそうで、「みなさん、ワイナリーの壁にサインを残していくんですよ」。詳しくお聞きすると、初めてサインされたのは、ブルゴーニュの自然派ワインの巨匠フィリップ・パカレ氏。ワイナリー見学をした人には、驚きの眼差しで撮影する人も少なくないようです。

フィリップ・パカレ氏の名前の下に、2013年を表す日付も入っています。

醸造のコンセプトは、食中酒として食卓に寄り添う優しいワイン。すべてが無濾過で、ナチュラルな味わいなのが特徴です。最近取り組んでいるのが、“オレンジワイン”で知られるジョージアから取り寄せたクヴェヴリでの熟成。クヴェヴリとは、ジョージアで古くからワイン作りに用いられてきた、内側を蜜蝋でコーティングした卵型の素焼き甕(かめ)のことで、より自然な熟成感が期待できるそうです。

“甕熟成”と表現したほうがイメージしやすいクヴェヴリでの熟成。

取材当日のラインナップ。価格は2000円台から3000円台前半が中心でした。

次章のレストランで提供されている『工場直送生樽ワイン』。ちなみにこのサーバーも八尾市の工場のオリジナル。

2階には“秘密基地”のようなレストランが

木と石が組み合わさった、温かな雰囲気の空間です。

さて、ここからは2階にあるレストランの紹介。東京もそうですが、ダイニングとワイナリーが同居しているのがフジマル醸造所の特徴。まずはそのロケーションから見ていきましょう。

最寄り駅の駅名となっている「松屋町(まつやまち)」ですが、関西では親しみを込めて、“まっちゃまち”と呼ばれています。松屋町筋沿いには、人形や菓子などの卸問屋が店を連ねていて、近くの長堀橋や心斎橋といった繁華街とはまったく異なる趣です。

すぐそばの「末吉橋西詰」の交差点。街路樹の間に見えるのは阪神高速。その下を東横堀川が流れています。

入居しているのは昔ながらの質実剛健なビル。看板が出されなければ、気づかずに通り過ぎてしまいそうで、実際、開店前の取材の際には通り過ぎてしまいました。「ほかに飲食店があるようなエリアでもないので、一見の方は皆無。当店を目指してわざわざ足を運んでくださることに感謝です」と河端さん。清澄白河のレストランも、町工場が建ち並ぶ地域にあって賑わっていましたが、こうした意外な立地もまた、フジマル醸造所の魅力なのかも知れません。

13時のオープンで看板が登場。

ややスリリングな階段を上ったらレストラン。

隠れ家的なレストランのように紹介すると、重厚な空間を想像されるかも知れませんが、じつは自然光がふんだんに差し込む明るい空間。道路側だけに窓があるのではなく、東横堀川に面している反対側にも窓が。また1階のワイナリーが吹き抜けのように造られていて、店内から一望できます。席によって眺めが変わるので、何度リピートしても飽きることはないでしょう。

通りに面した窓からは、名所である「住友銅吹所(すみともどうふきしょ)跡」が。

リバーサイドも人気の席。

タイミングが合えば、醸造作業を見学しながら食事ができます。

提供されるのは、“ワインを呼ぶ料理”

たのしいペアリングの時間を過ごすことができます。

遊び心を感じるレストランで供されるのは、地元関西の食材を中心に用いた創作料理。シェフの岡学(おか・まなぶ)さんは、リストランテとトラットリア両方で働いてきた経験があり、「普段使いしていただいても、ハレの日に来ていただいても、満足してもらえるような料理をお出しできるように努めています」。

ワインとのペアリングについて尋ねると、「ワインと料理、どちらかに主体があるとは考えてはいなくて、いわばお互いありき。ともに高みを目指して作っていけば、自然にマリアージュが完成するのではないでしょうか」。こうした岡さんの料理は、“ワインを呼ぶ料理”と評判。13時オープンという変則的な営業時間ながら、昼下がりからワインを傾けるゲストで賑わっているそうです。

右が岡シェフ。河端さんとはオープン時からのコンビです。

ここからは、定番の料理をふた品紹介。河端さんにおすすめの自社ワインを合わせていただきました。

前菜からは、『大羽鰯(おおばいわし)のマリネとペペロナータ フロマージュブランのクロスティーニ』。脂ののった鰯と甘いパプリカのコンビネーション。パンに塗った山羊のチーズが優しく全体をまとめているという印象です。

ワインは『キュベ パピーユ レイトボトル デラウェア2017』。「大阪の自社畑で育てたデラウェア100%。ボトリングするタイミングを遅めにしていることで熟成感があり、ボディに厚みもあって酸味も豊かな白ワインです。青魚独特の風味にも力負けせず、チーズのフレッシュな酸味にもぴったりです」。

『大羽鰯のマリネとペペロナータ フロマージュブランのクロスティーニ』(1300円)。岡山の『ルーラルカプリ農場』のシェーブルチーズを使用。

大阪の土着品種といってもよいデラウェアを醸した『キュベ パピーユ レイトボトル デラウェア2017』(ボトル3500円)。

続いてメインから、『なにわ黒牛のグリル アグレッティのサラダ添え』。大阪の銘柄牛を厚めに切り、じっくりと時間をかけてグリル、表面はカリッ!で中身はジューシー。島之内フジマル醸造所のスペシャリテ的な料理です。

「和牛の脂はキメが細かいので、タンニンの多いワインとは相性があまりよくありません」と選んだのは、『バリック メルロー2017』。ボジョレー・ヌーヴォーに採用するマセラシオンカルボニック法を25%のブドウに使用していて、「フルーティーさと旨味があり、肉の複雑な味わいと調和。樽のニュアンスは、肉の表面のロースト感に重なると思います」。

『なにわ黒牛のグリル アグレッティのサラダ添え』は、100gからオーダーできます(2400円~)。

フレンチオーク樽を用いた『バリック メルロー2017』は、長野県産メルロー100%。

ちなみにレストランで食事をするかワインを購入すれば、ワイナリーの見学が可能。醸造作業中で忙しい場合を除いて、随時対応していただけます。
※金額などはすべて取材時のもの(税抜)。

ブドウ生産者、醸造者、そしてワイン愛好家がつながる幸せを願うアーバンワイナリーの訪ね歩く企画。今回の大阪でのレポートはいかがでしたが? あらためてワイナリーが身近にもあることを理解していただければ幸いです。ぜひ訪問して“顔の見えるワイン”を味わう幸せを実感してみてください。

島之内 フジマル醸造所
大阪市中央区島之内1-1-14 三和ビル1・2F
TEL/ 06-4704-6666
営業時間/13:00~23:00(22:00 L.O.)
定休日/火・水
アクセス/大阪メトロ長堀鶴見緑地線松屋町駅より徒歩2分

島之内 フジマル醸造所の詳細はこちら
<“Urban”ワインを巡る①>はこちら
<“Urban”ワインを巡る②>はこちら
<“Urban”ワインを巡る③>はこちら
<“Urban”ワインを巡る④>はこちら

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。日本旅のペンクラブ理事。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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