<“Urban”ワインを巡る②> 東京・江東区/深川ワイナリー東京 「食に寄り添うワインを醸したい」

<“Urban”ワインを巡る②> 東京・江東区/深川ワイナリー東京 「食に寄り添うワインを醸したい」

近年都心にワイナリーが続々とオープンしていることをご存じですか? 生産者と語らいながら、その醸したワインを試飲する――以前なら遠出をしないと叶わなかったことが、身近で実現できるようになったのです。こうした都会の=Urban(アーバン)ワイナリーを巡る連載の2回目は、東京の江東区にある『深川ワイナリー東京』です。

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東京の下町にある“気軽に行けるワイナリー”

東京の下町にある“気軽に行けるワイナリー”

清澄通りを東に入ってすぐ、キュートなピンクの幟(のぼり)旗が目印です。

今回訪問したのは、2016年8月に東京の下町・門前仲町で産声を上げた深川ワイナリー東京。ブドウ畑は有さず、年間生産本数は最大で約2万本という小規模醸造を行っている典型的な“マイクロワイナリー”です。

代表の中本徹さんは、予想に違わぬワイン好き。まったく別分野の事業を営んできたのですが、ワインを通して世の中を豊かにしていきたいと考え、ワイン造りを始めることを決断。「ブドウをしっかり選んで、きっちり醸造する――という当たり前のことを一生懸命にやる」というのが、創業時からのポリシーだとか。

「そうした積み重ねの結果、理屈抜きで私たちのワインを飲んでいただいた方に、『美味しい!』と言ってもらえるワインにつながっていければと思います」。さらに「すごくおこがましいですけど、飲まれる方のちょっと嬉しい日やハレの時間に、私たちのワインを傍らに置いていただけるのが理想ですね」と続けました。

庶民的な空気が漂う下町ではあるものの、やはり都心。狭小とはいえ、それなりのコストはかさむはず。どうしてこの地を選んで開業したのでしょうか? 「気軽に来ていただき、ワイン造りに触れて、惹かれたワインを飲んで、気分よく家路についていただきたい――ふさわしいロケーションを探していたら、このエリアになったのです」。

看板やラベルに登場する愛らしいキャラクター『ワインマン』。ラベルも含めてデザインしているのは中本さん。

看板やラベルに登場する愛らしいキャラクター『ワインマン』。ラベルも含めてデザインしているのは中本さん。

“町中のワイナリー”に興味を抱き、醸造責任者に

“町中のワイナリー”に興味を抱き、醸造責任者に

ワイン醸造歴18年の経験を生かして、1本1本丁寧に醸している上野さん。

現場でワインを醸しているのは、醸造責任者である上野浩輔さん。山梨大学工学部醸造学科で学び、滋賀県で17年半、新潟で5カ月ワインの醸造に携わってきたワイン造りのスペシャリストです。深川ワイナリー東京では、原料のブドウを地方や海外の生産者から調達しているのですが、畑を持たずにワインを造ることに抵抗はなかったのでしょうか?

「いいえ、むしろそこは逆の発想でした。今までの経験から、原料のブドウさえあればどこでもワインは造ることができる。代表から打診を受けた時に、消費者や飲食店と距離の近い町中のワイナリーに新たな可能性を感じて、この事業に参加させていただくことにしたんです」。

加えて、「これまではワインそのものに向き合ってきましたが、近年料理と相性のよいワイン造りをより意識するようになってきたことも大きいですね」と上野さん。当初からワイナリーにはレストランを併設する計画となっていたそうで、そのことも上野さんの背中を強く押したようです。

醸造所の壁には、「ワイナリーVIPサポーター」なる人の名前も。じつは創立にあたり、クラウドファンディングで趣旨に賛同してくれる人から資金を募ったのだそうです。

醸造所の壁には、「ワイナリーVIPサポーター」なる人の名前も。じつは創立にあたり、クラウドファンディングで趣旨に賛同してくれる人から資金を募ったのだそうです。

取材時は青森県産のステューベンの発酵が落ち着いた頃。タンクを開けると、華やかな香りが立ち昇りました。

取材時は青森県産のステューベンの発酵が落ち着いた頃。タンクを開けると、華やかな香りが立ち昇りました。

上野さんには醸造以外にも大きなミッションがあります。それは醸造所見学のガイド役。「代表は体験できるワイナリーであることも目指していました。じつは以前に勤務していたワイナリーでもこの役回りをやっていたんです。足を運んでくださった方々が製造工程のイロハを知って、よりワインを好きになってくださる姿を見るのは、とても元気が出るんですよ」とにっこり。

手作りの教材を駆使して、ワイン造りをレクチャー。仕込み時期と重なっても、「これも大切な時間」とまったく苦にならないそうです。

手作りの教材を駆使して、ワイン造りをレクチャー。仕込み時期と重なっても、「これも大切な時間」とまったく苦にならないそうです。

『テイスティング・ラボ』でワインを利く

『テイスティング・ラボ』でワインを利く

醸造所での作業を見ながら試飲することができることから、『テイスティング・ラボ』と名付けられています。

外観の佇まいからは、醸造所とせいぜい直売所があるぐらいにしか思えないのですが、驚くなかれ、スタイリッシュなテイスティングルームが隠されていました。「ブドウを搬入しやすくするために、通りに面した入口は醸造所直結。ショップやテイスティングルームへは、裏口から入るみたいな形になってしまって(笑) でも秘密基地みたいで気に入っているんですよ」と上野さん。

タンクなどの器材などが雑然と置かれた通路を進むと、飾り気のない通用口が現れるという趣向。

タンクなどの器材などが雑然と置かれた通路を進むと、飾り気のない通用口が現れるという趣向。

在庫状況によって変わるのですが、この日は10種類ほどのワインの試飲が可能でした。

在庫状況によって変わるのですが、この日は10種類ほどのワインの試飲が可能でした。

試飲に先立ち上野さんが醸すワインの特徴を尋ねると、「おもに国産のブドウを使用していますので、ブドウに忠実に造るとあまり重たいワインにはなりません。アルコール度数が11~12パーセントぐらいのワインが多いです。またこのぐらいの軽さのほうが、料理に合わせやすいからというのもありますね」。

さてテイスティングさせていただくと、確かにどのワインもボディはライトで優しい印象。しかし香りには、マスカット・ベーリーAならイチゴキャンディーといったように品種の個性がそれぞれはっきりと表現されていて、すべてテイスティングしてみたいという欲求にかられてしまいました。

もっとも記憶に残ったのは、『コンコード+マスカット・ベーリーA』の無濾過・微発泡でした。とてもフレッシュ&フルーティーなブリュット(辛口)ですが、無濾過ゆえの穏やかな余韻が続くという感想です。「私は無濾過のワインが大好きで、うちのワインは約7割が無濾過。ダシのような旨味があって、料理との相性も抜群なんですよ」。

『コンコード+マスカット・ベーリーA』のスパークリング2300円。『テイスティング・ラボ』での試飲は、100円(20ml)~。

『コンコード+マスカット・ベーリーA』のスパークリング2300円。『テイスティング・ラボ』での試飲は、100円(20ml)~。

お鮨に合うように山形県のデラウェアを醸した『鮨デラ』2376円。日本酒のような吟醸香があって、お刺身や焼き魚にぴったり。

お鮨に合うように山形県のデラウェアを醸した『鮨デラ』2376円。日本酒のような吟醸香があって、お刺身や焼き魚にぴったり。

夕方からはワインバーとレストランに変身

17時からは本格的なワインバーに。会員制のダイニングは隠れ家感たっぷり。

17時からは本格的なワインバーに。会員制のダイニングは隠れ家感たっぷり。

オープニングにまつわるお話の中で、レストランを併設していることに触れましたが、ここで詳しく。夕方17時になると『テイスティング・ラボ』は、シックなワインバーへと装いを変え、ゲストの訪れを待ちます。

こちらで供される料理は、リストランテとトラットリアの両方で料理経験を積んだ渡邊淳シェフによるイタリアン。気軽につまめる前菜(500円均一)から、パスタ、メインとメニューは多彩。さくっと飲むのはもちろん、しっかり食事をすることもできるので便利です。シェフから「こちらがおすすめですよ」とすすめられたのが、『おまかせ前菜盛り合わせ』。その日のおすすめ3品で1人前648円とリーズナブル。外すことができない逸品でしょう。

取材日の『おまかせ前菜盛り合わせ』。この内容でなんと648円。ちなみにグラスワインはそれぞれ756円です。

取材日の『おまかせ前菜盛り合わせ』。この内容でなんと648円。ちなみにグラスワインはそれぞれ756円です。

「上野さんと料理とワインの相性を確認しながら仕事をするのは、とても楽しいしやり甲斐もありますね」と渡邊シェフ。

「上野さんと料理とワインの相性を確認しながら仕事をするのは、とても楽しいしやり甲斐もありますね」と渡邊シェフ。

渡邊シェフの料理が味わえるのは、ワインバーだけではありません。バーの隣には、“開かずの扉”で遮られた『ワインマンズ テーブル』という会員制プライベートレストランが存在しているのです。完全予約制で基本は6皿で構成された4500円のコースのみ。シェフ渾身の料理に、上野さんが厳選したワインペアリングが3800円。そう、このシークレット空間で料理とワインのマリアージュを堪能して、1万円で十分お釣りが来るのです。

ちなみに渡邊シェフのイタリアンは、水曜日~日曜日。月曜日と火曜日は、姉妹店の森谷鶴児料理長による鮨懐石が登場。こちらも4500円。もちろんワインとのマリアージュが堪能できます。遊び心があって、和洋の料理とワインが楽しめるダイニング。ぜひプライベートで利用したくなりました。

『テイスティング・ラボ』にある黒い扉を開けると……。

『テイスティング・ラボ』にある黒い扉を開けると……。

真っ白なテーブルクロスにシルバーのカトラリーが並ぶ瀟洒な空間が。

真っ白なテーブルクロスにシルバーのカトラリーが並ぶ瀟洒な空間が。

『ワインマンズ テーブル』のイタリアンコースから「冷たい前菜」の一例「パテ・ド・カンパーニュ」。

『ワインマンズ テーブル』のイタリアンコースから「冷たい前菜」の一例「パテ・ド・カンパーニュ」。

同じく「本日のパスタ」の一例「愛媛県産イノシシのラグー」。

同じく「本日のパスタ」の一例「愛媛県産イノシシのラグー」。

※金額などはすべて取材時のもの(税込)。

しっかり食事もできるアーバンワイナリーのレポートはいかがでしたか? 深川ワイナリー東京とはまた異なる魅力を持つ都心のワイナリー取材を続けていきますので、続編をお楽しみにお待ちください。

深川ワイナリー東京
東京都江東区古石場1-4-10高畠ビル1F
TEL/03-5809-8058
試飲・販売/13:00~17:00(月~金)・10:00~17:00(土日祝)
バータイム/17:00~22:00(L.O 21:30)
不定休
アクセス/東京メトロ門前仲町駅より徒歩5分。JR越中島駅より徒歩3分

深川ワイナリー東京の詳細はこちら

<“Urban”ワインを巡る①>はこちら
<“Urban”ワインを巡る③>はこちら
<“Urban”ワインを巡る④>はこちら

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。日本旅のペンクラブ理事。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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