<“Urban”ワインを巡る④> 横浜・中区/横濱ワイナリー「生産者と消費者がつながるワインに」
近年都心にワイナリーが続々とオープンしていることをご存じですか? 生産者と語らいながら、その醸したワインを試飲する――以前なら遠出をしないと叶わなかったことが、身近で実現できるようになったのです。こうした都会の=Urban(アーバン)ワイナリーを巡る連載の最終回は、横浜・中区にある『横濱ワイナリー』です。
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2017年に誕生、日本で一番海に近いワイナリー
「オープン時は最小だったと思いますが、現在はどうでしょう…。でも海に一番近いのは間違いないはずです」(町田佳子さん)
横浜発のクラフトワインが世に送り出されたのは、2017年11月のこと。仕掛け人は、『横濱ワイナリー』のオーナーである町田佳子(まちだ・よしこ)さん。ワイン醸造はもちろん、免許申請などの手続き、機材の購入にブドウ栽培農家との交渉まで基本ひとりでやってきました。
じつは町田さん、ワイナリー開設まではワイン業界とは無縁。新卒で証券会社に入社した後に外資系金融機関に転職。その頃から「金融業界で働きながらも環境問題に関心があって、会社員でありながら『WWF(世界自然保護基金)』の会員になっていました」。
ボランティアやアルバイトなどで、WWFの活動に関わっていくうちに縁があって職員に。約20年、政府や企業に環境保護を訴える活動に携わってきたそうです。やがて「自分で実践していくことが必要、何かアクションを始めなければ」という想いに駆られて行動した結果、ワイナリーの創業につながったのだとか。
形が悪いというだけで捨てられる果物などの食料廃棄を無くしたいと、農家の方々と接するうちに、生産現場と消費現場が乖離していることが大きな問題だと気づいた町田さん。「生産者と消費者をつなぎ、地球環境に貢献できることを模索していたら、辿り着いたのがワインだったのです」。
世界の食料問題を解決するために活動してきた町田さんなりの解決方法が、都市型ワイナリーでした。
しかしどうしてワインだったのでしょうか? 「お酒が好きなんです」と相好を崩した町田さん。都心で生産者の顔が見えるお酒で消費者とつなげられないかと考えたところ、「日本酒は規模的にひとりでは厳しいですし、ビールはもう多くの方が手がけています。そこで思いついたのが、ワインだったんですよ」。
まるでカフェや雑貨店のような店構え。この建物の奥に醸造施設があるのです。
写真右の釣り船の手前辺りがワイナリー。醸造所の窓を開けると、そこは海なのでした。
“横浜ワイン”を造ることが将来の目標
ワイナリー前の道路標識からも、まさに“ハマ”的な立地なのがわかります。
続いてお聞きしたのは、横浜という地についてのこだわり。じつは町田さん、東京のど真ん中、高校を卒業するまで文京区で生まれ育っています。
「でも横浜で暮らすようになって20年が経ち、この古き良き時代の面影が残る街にとても愛着を感じています。文明開化の時代に開港した横浜に多くのワインが入ってきて、それが現在の日本のワインにつながっていったはず。私が都市型ワイナリーを興すのなら、この地以外に考えられなかったですね」
原料を産するブドウ畑とともにあるのが、ワイナリーの一般的な姿。畑を持たずに営む都市型ワイナリーには、前例が少ないこともあり困難がたくさんあったとか。「かなり幅広く情報を収集しました。先達を訪ねて教えていただき、実現にこぎつけることができたんです」。訪ねた先をお聞きしたなかに、第1回で取り上げさせていただいた『東京ワイナリー』 の名前もありました。
バックラベルには、そのワインのイメージに合った横浜の風景が描かれていて、“ハマ愛”が伝わってきます。
じつはファーストリリースのラベルから、外されてしまった文字があります。それは、『元町』『山手』『本牧』といったワインに冠した横浜の地名。そう、原産地呼称に関わってくるため、使用できなくなってしまいました。簡潔に言えば、もし『元町』を付けようと思ったら、元町の畑で育ったブドウを原料にしないといけないのです。
したがって県外の生産農家のブドウから醸している現在は、『横浜ワイン』とは名乗ることはできません。「現在の『hama wine』は、お役所に咎められないギリギリのラインなんです」と町田さんは苦笑い。さらに「横浜で育んだブドウを用いて堂々と『横浜ワイン』と世に出すことが、大きな目標ですね」と地産地消への想いと合わせて明かしてくれました。
これらのワインに、『yokohama wine』が加わる日が待ち遠しい。
ブドウをリスペクトしているのが、『hama wine』
光り輝くなかにも、ほんのり霞を感じるのは無濾過の証し。
ワイン造りでもっとも重要と言っても過言ではないのが、原料であるブドウ。でも、先述してきたように、このワイナリーには畑はありません。まず町田さんが取り組んだのは、提携するブドウ栽培農家探し。低農薬栽培に精を出している農家や放置された農地の再生に尽力している農家などを中心に日本全国を回って、今は約10軒の生産者からブドウを仕入れています。
「県も山形、長野、山梨、岩手、青森と多岐にわたっています」。信頼のおける生産者が丹精込めたブドウに敬意を表して、その持ち味を活かすために加糖や濾過は行わず、樽も使用していないそうです。「どれもブドウの香りを大切にした、やさしい、すっきりとした味わい。和食や家庭料理にそっと寄り添えるワインなのではないでしょうか」。
「アルコールは10%ほどと低め。お酒が苦手という方も美味しく飲んでいただけると思いますよ」。
やさしい色合いのワインが多いラインナップ。フルボトルで2700円が中心。
テイスティングは一杯500円~ですが、複数を少量試飲できるお得な飲み比べセット(4種1000円。6種1500円)も。ちなみに町田さんがひとりで切り盛りしているにも関わらず、「製品になったワインだけでなく、生産の現場もぜひ見て欲しい」という思いから見学にも応じてくれます。約1時間のプログラムで、4種試飲が付いて2000円。都合が合えば、ぜひ見学することをおすすめします。
※商品価格は記事執筆時点のものとなります。ご購入の際には価格が異なる場合がありますのでご注意ください。
ワイナリー見学の詳細はこちら
以下、取材時に試した4本を紹介させていただきます。
Koshu 2018(山梨県産甲州)/老夫婦が大切に育てた南アルプス市の甲州は、穏やかな香りにみずみずしさが表現されています。
Kyhou Rose 2018(長野県産巨峰)/白ワインと同じ製法で造り、桜のようなピンクに。生食用ブドウの巨峰ならではの甘やかな香りが。
Steuben 2018(青森県産スチューベン)/ニューヨーク生まれ津軽育ちのスチューベン。甘い香りながらもドライな飲み口。
Yamabudou 2018(岩手県産山ぶどう)/自然農法に近いスタイルで栽培された山ぶどう。甘酸っぱく濃厚で、力強いボディが特長です。
週末・休日は、コミュニケーションスペースに
白を基調とした明るいテイスティングコーナーは、多目的に利用されています。
ワインをテイスティングしたり販売したりする空間は、醸造所と隔てられています。「ワイナリーに来ていただいた方や地域の人々との交流の場にしたいと思っています」と町田さん。海がそばということからか、『.blue(ポイントブルー)』なる愛らしい名前が。潮風を感じてワインを楽しむことができる場所なのです。
「ふだんはテイスティングと販売ですが、週末や休日はおつまみとワインを合わせて味わっていただけます。ランチを出すこともあるんですよ」。おつまみメニューは、日替わりで一律500円とリーズナブル。でもしっかり手が込んでいるので驚きです。
「平日はお花などの習い事にも貸し出しています。ここでちょっとしたイベントなどをやりたいという方がいらっしゃれば、気軽に問い合わせて欲しいですね」。散歩中に「何をしているお店なの?」とのぞいたことで、常連になった人もいるとか。横浜観光のついでに、少し足を延ばして寄ってみてはいかがでしょうか。
港町・横浜の新たな情報発信の場になることを目指しています。
愛犬とお散歩の方も、気がねなく入店できます。
晴れていれば、軒先の樽がテーブル代わりに。
取材当日のおつまみメニューがこちら。
取材当日のおつまみメニューから、『大根と厚切りベーコンのステーキ』。辛口のスチューベンなら料理の脂もすっきり。
桃の節句にお邪魔したので、『鱒の手毬寿司』も。お米と相性の良い甲州を合わせるのをすすめられました。
※金額などはすべて取材時のもの(税込)。
4回にわたって続けてきましたが、ブドウ生産者、醸造者、そしてワイン愛好家がつながる幸せを願うアーバンワイナリーのレポートはいかがでしたか? 訪問しやすいのがこれらワイナリーの最大の特長。ぜひ実際に出かけて造り手の想いを確かめ、そのワインを味わってみてください。
横濱ワイナリー
神奈川県横浜市中区新山下1-3-12
TEL/045-228-9713
平日12:00~18:00
日祝11:00~18:00
不定休
アクセス/横浜高速鉄道みなとみらい線元町・中華街駅より徒歩5分
※営業時間や休みは頻繁に更新されるので、お出かけ前にサイトや電話で確認しましょう。
※テイスティングバーでおつまみを提供するのは、週末と土日祝が基本ですが、こちらもしばしば更新されるので、お出かけ前にサイトや電話で確認しましょう。
横濱ワイナリーの詳細はこちら
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