<“Urban”ワインを巡る①> 東京・練馬区/東京ワイナリー「東京の農業を元気にしたい」

<“Urban”ワインを巡る①> 東京・練馬区/東京ワイナリー「東京の農業を元気にしたい」

近年都心にワイナリーが続々とオープンしていることをご存じですか? 生産者と語らいながら、その醸したワインを試飲する――以前なら遠出をしないと叶わなかったことが、身近で実現できるようになったのです。こうした都会の=Urban(アーバン)ワイナリーを巡る連載の初回は、東京の練馬区にある『東京ワイナリー』です。

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東京の農業を盛り上げるため、ワイナリーを興す

飾り気はないけれど、どこか温もりを感じる建物。元々は新聞の配達所だったそう。

“アーバンワイナリー”のパイオニア的存在なのが、2014年創業の東京ワイナリー。オーナー兼醸造家である越後屋美和(えちごや・みわ)さんが、独力で開業させた町中の小さなワイナリーです。大学の農学部で学び、大田市場で仲卸として働いていたという越後屋さん。「東京には意外と農地があって、美味しい野菜や果物を栽培している農家さんがいる」ことを知り、「気づくと東京の農作物を広めていきたいと考えようになっていました」。

自分に何ができるのだろうと突き詰めていった時、閃いたのがワイナリー。「農産物ありきの発想でした。ピクルスやジャムを作ることを思い浮かべていった延長線上でワインに辿り着いたんです。ワインなら原材料は農作物そのものだし、他に野菜などを用いた料理とのマリアージュも楽しめる。大きな可能性を感じたんですよ」。

東京で初めてワイナリーを開業した越後屋美和さん。

開業するにあたり越後屋さんが選んだ地は、東京・練馬区の大泉学園。「東京のブドウを探していた時、最初に知り合ったのがこちらで営む農家さんだったんです。緑が豊かなのと、すぐ近くに牧場もあるなど長閑な感じもするところも気に入っています」と微笑みます。

都会に暮らす人たちに気軽に訪れてもらい、ワインの醸造を見学したり、テイスティングはもちろん、地元の野菜との食べ合わせも楽しんでもらえる場所になることを目指していた越後屋さん。「オープン当初は独りだということもあってかなりバタバタして。なかなか思うようにいきませんでしたが、最近は心強いパートナーも得て、少しずつですが理想のカタチに近づきつつありますね」。

東京23区内にも、このようなブドウ畑があるのです。

表札にも“東京愛”があふれていました。

醸造を学びつつ、ブドウを調達する日々

ステンレスタンクで熟成中。出荷の時期を待っています。

学生の頃からワインは好きでしたが、醸造に関する知識は乏しかったという越後屋さん。山梨大学の講座や酒類総合研究所のセミナーに参加して、ワイン造りを体系的に学びます。一方で「山梨のワイナリーさんなどに頼んで、現場仕事に参加させていただきました」と経験も積みました。「自然の営みのもと、微生物をいかにコントロールしていくか。色素や香り成分などの分析も大切で、『ワインを造ることは化学なんだ』、とその奥深さに感動しました」。

様々な場を活用して、ワイン造りのイロハを学んだそうです。

知識をつけ醸造用の設備を整えていくのと同時並行で、原材料のブドウの仕入れに奔走。現在都内産のブドウから造ったワインは全体の2~3割ほどで、残りは「冷涼な地域のブドウが好き」と山形や長野、北海道、青森などから入荷したブドウから。練馬区はもちろん、もう少し郊外の八王子や清瀬などのブドウ農家さんとのお付き合いをもっと広げていくことで、都内産ワインの比率を上げていけるように努めています。

ブドウが届くと、破砕、除梗、仕込みが始まりますが、「数多くの農家さんと契約しているため、ブドウが一度にまとまって届くことは少ないんです。シーズンになると毎日のように新しいブドウがやってくるので、いろんな工程を同時にやらなければならないのが悩みの種ですね(苦笑)」。独りでは厳しいと思いきや、「いずれワイナリーをやってみたいといった方やワイン愛好家の方が、ボランティアで手伝ってくださるので助かっています」。

近所の子どもたちも参加することも少なくないようで、「目を輝かしながらブドウを潰してくれますよ。発酵する前のジュースを飲ませてあげると、とても喜んでくれます」。多忙を極める仕込み現場は、意外と和気あいあいとしているようで、「プロが集まり専門用語を交わしながらワインを造るのもいいのですけど、たくさんの笑顔が集まって造られるワインもこのワイナリーらしくて良いかなと」。飲む前から優しい味であろうことが察せられるエピソードです。

「ブドウの色素が、手に染みこんでしまうのは仕方がないですね(苦笑)」

健全に熟成が進んでいるかを、真剣な眼差しで確認中。

素朴な味わいが信条のワインがずらり

年間1万本弱と決して多くない製造本数ですが、バリエーションは豊か。

取り扱っているのはもちろんすべて日本産のブドウ。「高尾」「巨峰」「ピオーネ」といった生食用のブドウが多いのですが、「マスカット・ベーリーA」「サンジョヴェーゼ」などの醸造用品種も。最近は「山ブドウ」のような珍しい品種が持ち込まれることもあるそうです。

「ひとつの品種だけで醸す場合もありますし、味わいを補い合って昇華させるためにいくつかアッサンブラージュ(ブレンド)することもあります」。とはいえ、越後屋さんは地域の特徴を何よりも大切にしているため、エリアを超えて複数品種を混合することは行わないのだとか。

ナチュラルな造りを理想としているため、すべて無濾過無清澄の濁りワインで「酸化防止剤も最低限度しか入れていません」。総じてアルコール度数は低めで、素朴で柔らかな味わいです。「昔はしっかりした重めの赤ワインが好きだったのに、今はデラウェアの爽やかな白ワインを愛飲しているんですよ」と好みも大きく変わったようです。

好評のエチケット(ラベル)のイラストは毎年書き手を変更。来年の絵柄が今から楽しみ。

「日本ワインですが、日本料理や和食というより、家庭料理と合わせて飲んでいただきたいですね」と越後屋さん。日々の食事にぴったりなのが、見かけることの少ない“量り売り”ワイン。100CC単位で持参した容器に注いでくれる“直出し”ワインは、酸化防止剤が入っていません。「日持ちがしないので、すぐに飲み干してくださいね」。

赤(コンコード)と白(シャルドネ)の2種を提供(その日の状況で変わる)。

クラフトビールのバーに設置されているようなタップから注がれます。

容器を持参しなくても、キュートなデザインのボトルが購入可能(500円)。

温もりのある空間で、ランチや昼呑みを

ワイナリー内には小ぢんまりとしたカフェとショップが。

開業時からワインの醸造販売だけではなくて、食と合わせてワインを楽しめる空間をプロデュースしたかった越後屋さん。でも初年度はワインの仕込みや醸造との両立が厳しく、スペースはあるものの、クローズせざるを得ないことも多かったそうです。

その歯がゆい状況を救ったのが、福岡由起子さん。越後屋さんのパートナーとしてワイナリー内で、カフェ『アトリエシュクレ』をオープン。無農薬そば粉を使ったガレットや窯焼きのパニーニなどのランチを提供。もちろん、ふんだんに東京産の野菜を用いています。

「このあたりは野菜の無人販売所も多くて、採れたて新鮮なものが手に入ります」。

「やっぱりワインを合わせる方が多いですね。1杯、2杯…。ふたり連れの女性のお客さんが、ボトル1本空けられることもありますよ」と福岡さん。体に負担の少ないワインの証しでしょうか。デザートにはお手製のシフォンケーキが人気のようです。

取材当日のグラスワインのラインアップ。7種もあって迷いそう。

ガレットとスープのランチ(850円)とグラスワイン(500円)。

地元産野菜を使った“本日のシフォンケーキ”。

原則としてランチは平日の週3日営業。土日の昼間は、越後屋さんが昼呑みを仕切っていて、ワインごとに相性の良いおつまみを提案しています。「第4土曜日だけは、私も参加するので食のバリエーションがもっと豊かになります(笑)」と福岡さん。

ワインの話をしながら飲んでいると、ついつい盛り上がって長居してしまうお客さんが少なくないとか。越後屋さんが目指した以上に、ほのぼの感がただよう街のコミュニティースペースとしても、活用されているようです。

昼呑みセットは、グラスワインにおすすめのおつまみで600円とリーズナブル。

※金額などはすべて取材時のもの(税込)。

都心でがんばるアーバンワイナリーのレポートはいかがでしたか? 東京ワイナリーとはまた異なる魅力を持つ都心のワイナリー取材を続けていきますので、続編をお楽しみにお待ちください。

東京ワイナリー
東京都練馬区大泉学園町2-8-7
TEL/ 03-3867-5525
アクセス/西武鉄道大泉学園駅より徒歩10分


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ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。日本旅のペンクラブ理事。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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