国内外からの注目が高まる「北海道産ワイン」 独自性にあふれ、個性輝くワイナリーの魅力に迫る <前編>
食の王国・北海道で注目を集める新たな名産品が“北海道産ワイン”。かつては寒さでブドウが育たないとされていましたが、研究と技術の進歩で高品質なワインが生まれるようになりました。今では日本を代表する一大ワイン産地となった北海道のワイナリーを、2回の連載に渡ってご紹介します。
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目次
増加する日本国内のワイナリー、注目度が増す北海道
北海道で開設されたワイナリーは37軒。主に空知エリア、余市エリアに多く存在しています。
画像提供:悠悠北海道® http://www.uu-hokkaido.jp/index.shtml
2000年以降、増加の傾向が続く日本国内のワイナリー。現在、北海道から九州まで約300軒近く存在していますが、ワイナリー数がもっとも多い地域は、日本におけるワイン醸造の発祥の地である山梨県。次いで、ほぼ同数なのが長野県と北海道です。
とくに北海道はここ数年の増加が著しいエリアで、雨量が少なく、湿度が低く、昼夜の寒暖の差が大きいことから、ヨーロッパ系のブドウの栽培に適しているといわれ、大手メーカーや外資系ワイナリーなどがブドウ畑の取得や醸造所の開設を発表するなど、ワイン業界内で注目が高まっています。
北海道でのワイン醸造は、昭和38年に日本で初めての自治体経営によるワインとして誕生した「十勝ワイン」から始まり、その後、民間のワイナリーが相次いで誕生。ここ数年は、個人が立ち上げる小さな規模のワイナリーも増え、現在では37軒のワイナリーが、個性あふれる豊かな味わいのワインを生産しています。
本格的なワイン造りを目指して生まれた「北海道ワイン」
ワイナリー内に展示されている、創業当時に使用していたドイツ製の除梗・破砕機。
北海道小樽市に本社を置く「北海道ワイン株式会社」は、1974年(昭和49年)に設立されたワイナリー。創業者は現名誉会長の嶌村彰禧(しまむらあきよし)さん。山梨県で生まれ育った嶌村さんは、仕事で訪れた北海道の気候風土に触れ、「この地なら、ヨーロッパで造られるような本物のワインができる」と直感し、ワイナリーの開設を決意。寒い気候のドイツで育つ品種なら、寒冷地である北海道でも耐え抜いて育ってくれると考えた嶌村さんは、土着の山ブドウではなく、寒冷地用の外国種をワイン造りの基礎と決めてブドウ栽培に取り組み始めました。
しかし、原野を開拓し、ドイツから輸入した苗木でブドウを栽培できるようになるまでの道のりは、病害や野ウサギによる被害など、さまざまな苦難との闘いが続き、決して平坦なものではなかったそうです。ドイツ人のケラーマイスターを招聘し技術指導を仰ぎ、また、地元の農家と共に栽培方法の試行錯誤を繰り返すなど、努力を積み重ねました。
「会長は、決めたことは必ずやり通す推進力と、ゼロから新しいことを生み出すパワーが強い人。軌道に乗るまでにはかなりの時間がかかりましたが、決して諦めずにワインと向き合い続けていました。」と話すのは、現社長で長男の公宏さん。
「父は山梨のブドウ農家の生まれだったこともあり、ブドウを栽培してくれる農家の方々の生活を守りたいという思いがとても大きかったです。“ワイン造りは農業”と話し、この土地の皆さんと共に農産物を造りたいという強い信念がありましたね」。
現在、北海道内の30近くの市町村、約300軒の農家と提携し、北海道ワイン株式会社は、北海道で生産されているワインのおよそ半分量を出荷するほどの一大ワイナリーとなりました。
現在社長を務める嶌村公宏さん。
樽の中でワインが熟成する熟成庫の様子。
直轄農場「鶴沼ワイナリー」、余市町の「葡萄作りの匠」
ボトルに大きく名前が記された「葡萄作りの匠シリーズ」。
札幌から車で1時間ほどの浦臼町にある、北海道ワイン株式会社の直轄の農場「鶴沼ワイナリー」。北海道ワイン株式会社の設立当時、小樽の醸造所周辺以外にもブドウを栽培できる場所を探していた際に出会い、農場として開墾しました。
土壌の改良や品種の選定などに熱心に取り組み、醸造所での厳しい管理による品質基準を設け、現在では約20品種のヨーロッパ系ワインブドウを栽培し、この地で栽培したブドウのみを使用した「鶴沼シリーズ」としてブランド化。
社内外での官能検査で基準に満たない年のワインは「鶴沼」としては販売せず、また、ワイナリーから出荷されるまでの熟成期間を収穫年から2年後と定めるなど、こだわりを持つ上質なワインを生み出しています。
価値のある原料を供給してくれる契約農家の単独仕込みのワイン「葡萄作りの匠」シリーズは、北海道を代表するブドウ産地である余市町の3人の栽培家の名を冠したワイン。
高品質のブドウを栽培する3人に敬意と感謝の気持ちを込めて醸造したワインは、同じ地域の同じブドウ品種であっても、それぞれに味わいの個性があり、ワインの奥深さを感じさせてくれます。
ブドウの個性が生きるワイン造りを目指して
約20名で行うワイン造りのリーダーの河西さん。
北海道一の出荷量を誇る北海道ワインの醸造を任されているのは河西由喜さん。山梨大学で発酵やブドウ栽培について学び、卒業後に入社。20年目を迎えた今期から製造本部部長に就任しました。
「大切にしているのは、ブドウのよさを損なわずに、いかによいワインに仕上げるか。ブドウに合わせて酵母を選択したり、発酵や熟成方法など、個性をより強く引き出すための醸造を心掛けています」。
現在扱っているブドウは約40品種。アッサンブラージュ(数種類のブドウ品種をブレンドすること)なども行い、さまざまな味わいのワイン造りに取り組んでいます。
「“鶴沼シリーズ”は、ドイツ系の高級品種のブドウを使用しているので、爽やかさや清涼感を生かしています。ミュラー・トゥルガウやミュスカなどはアロマティックな香りを、また、アロマが出にくいピノ・ブランは食事との合わせやすさを意識しています。ブドウの個性が生きているので、年によって味わいが違う、ワインならではの面白さをたのしんでもらいたいです。
一方、“北海道シリーズ”は、気軽に親しんでもらえるワインを目指し、味のバラつきのない安定した味わいに整えています。また、“おたるシリーズ”は生食用のブドウを使用しているので、ブドウ自体の香りをしっかり出すこととフレッシュさを第一に考え、熟成に気をつけています。シリーズごとにその味わいをたのしんでもらえるとうれしいですね」。
左から「おたるシリーズ」「北海道シリーズ」「鶴沼シリーズ」。
“スパークリングワインの産地、北海道”へ
今後は北海道を“スパークリングワインの名産地”としたいと語る嶌村社長。
「北海道で育つブドウは良質な酸を持つのが特長でスパークリングワインに適しています。気候もシャンパーニュ地方と似ていますよね。国内外から「北海道=スパークリングワインの産地」と認知してもらえるようになるとうれしいですね」。
北海道のワイン業界を牽引し続けてきた北海道ワイン株式会社は、社名の通り、北海道を代表するワイナリーとして、これからも北の大地の恵みを届け続けます。
北海道ワイン株式会社
北海道小樽市朝里川温泉1丁目130番地
TEL 0134-34-2181
http://www.hokkaidowine.com
山梨の名門ワイナリーが設立した「千歳ワイナリー」
かつて千歳市農協が倉庫として使用していた、札幌軟石を使った石蔵のワイナリー。
新千歳空港にほど近い千歳市内にある「千歳ワイナリー」は、1988年に、山梨県の中央葡萄酒株式会社の第2ワイナリーとして誕生しました。
千歳市は国内でも北海道でのみ栽培されている果実「ハスカップ」の名産地であることから、ハスカップを使用した醸造酒の製造に力を入れたいと考え、山梨県勝沼町(現・甲州市)で古くからワイン造りを行っていた中央葡萄酒が、千歳市農協からハスカップ酒造りの加工を受託し、製造を始めたのがはじまりです。
その後、ワインの製造も開始し、93年からは余市町の契約畑でブドウの栽培も始めました。
木村農園との出逢い、ピノ・ノワールへの挑戦
ボトルには「KIMURA VINEYARD」(木村農園)の文字。右は2016年の「プライベートリザーブ」。
当時社長を務めていた三澤茂計さんは、フランス・ブルゴーニュの銘酒を生むブドウ品種「ピノ・ノワール」の栽培を、山梨とは地理的な条件が異なる寒冷地の北海道で挑戦してみたいと思い、日本のピノ・ノワール栽培の第一人者である、余市町の「木村農園」の木村忠さんと出会い、取り組み始めました。しかし、なかなか簡単には満足のいくブドウ造りができず、何年も試行錯誤を繰り返したそうです。
「父でもある先代社長のピノ・ノワールへの思いはとても深いものがあります。それだけに、なんとしても成功させたかったのでしょう。木村さんとは強い信頼関係のもと、共に苦難を乗り越え、諦めずに夢を持ち続けました。二人の努力が実り、現在、千歳ワイナリーでは、木村農園産のピノ・ノワールとケルナーの二つのブドウ品種のワインを、メインブランド「北ワイン」として販売しています」と語るのは、現在社長を務める三澤計史さん。
「白ワインのケルナーは、アロマティックな香りの特長を生かし、北海道のイメージと一致するような清涼感や爽やかさを表現しています。酸がある状態で糖分が上がってくるので、甘口もとてもよい味で評判です。一方、赤ワインのピノ・ノワールは、やわらかさやエレガントなニュアンスが素晴らしく、渋味、酸味もバランスがよい。今では樹齢が、15年、25年、35年のものが揃いました。2012年からは、樽熟成中のバレルテイスティング(官能検査)の結果から優れた数樽を選抜して造る「プライベートリザーブ」の展開を開始し、北海道産のピノ・ノワールが持つ可能性に挑戦しています」。
「ピノ・ノワール」を越える黒ブドウには出逢ったことがないと話す三澤計史社長。「今後もこの奥深いブドウを極めていきたいですね」。
地元の名産「ハスカップ」への思い
千歳ワイナリーの開設のきっかけとなったハスカップのお酒。
千歳ワイナリーの開設のきっかけとなったハスカップのお酒は、引き続き現在も「フルーツワイン」として販売しており、瓶内で二次発酵させて仕上げた「ハスカップスパークリング」は、美しい色調とクリーミーな口当たりで評判を呼んでいます。
ワイナリーのある千歳市が大切にし続けてきたハスカップは、“地域の方々にとって大切な農産物”と語る三澤社長。
今後も誇りを持っておいしいお酒にしていきたいと話しています。
千歳産のハスカップのみを使用した「ハスカップスパークリング」は色合いが鮮やか。
父の代から息子たち世代へ
ワインやグッズの販売を行うギャラリーでは、ティスティングも可能。
社長に就任した2012年当時に比べると、北海道産ワインの認知度が全国的に高まっているのを感じるという三澤社長。
千歳ワイナリーは空港から近いという立地もあって、地元の方だけでなく、北海道外、あるいは海外の観光客が直売所を訪れるほか、ティスティング付きの見学ツアーに参加される方も増えているそうです。
「父と木村さんが築いてくれた千歳ワイナリーと木村農園の関係は、今、私と、木村さんの息子の幸司さんの代にバトンタッチされました。今後は二人で、さまざまなことにチャレンジしていきたいと話しています」。
父たちが切り開いた道を受け継いで歩く二人が、どのような展開をみせてくれるのか、今後がたのしみです。
北海道中央葡萄酒・千歳ワイナリー
北海道千歳市高台1丁目7番地
TEL 0123-27-2470
http://www.chitose-winery.jp/
後編では、さらに3軒のワイナリーについてご紹介します。
https://tanoshiiosake.jp/4703
ライタープロフィール
阿部ちあき
全日本ソムリエ連盟認定 ワインコーディネーター