<“Urban”ワインを巡る③> 東京・江東区/清澄白河 フジマル醸造所「ワインのある日常を提案」

<“Urban”ワインを巡る③> 東京・江東区/清澄白河 フジマル醸造所「ワインのある日常を提案」

近年都心にワイナリーが続々とオープンしていることをご存じですか? 生産者と語らいながら、その醸したワインを試飲する――以前なら遠出をしないと叶わなかったことが、身近で実現できるようになったのです。こうした都会の=Urban(アーバン)ワイナリーを巡る連載の第3回は、東京・江東区にある『清澄白河 フジマル醸造所』です。

  • 更新日:

東日本産のブドウを醸す、街の中のワイナリー

東日本産のブドウを醸す、街の中のワイナリー

清澄白河駅から歩いて数分。小さな町工場が点在するエリアにあります。

2015年6月、都内で2番目のワイナリーとして誕生した清澄白河 フジマル醸造所ですが、じつはそのルーツは大阪府にあります。「創業100年を超える老舗『カタシモワイナリー』の委託醸造という形で、ワイン醸造をスタートさせたのが2010年のことです。やがて管理する畑が増え、間借りでは追いつかなくなってきたため、2013年に自社ワイナリーを大阪市内に設立することになったのです」と店長の室谷統(むろたにおさむ)さん。

委託醸造とほぼ並行して、大阪府柏原市で耕作放棄地を中心にブドウ栽培も開始。以後、耕作依頼は増え続けて、現在は約2ヘクタールのブドウ畑を管理するまでになったそうです。さらに増える耕作放棄地、契約農家からのブドウの買取り依頼を考慮すると大阪のワイナリーのキャパシティを超えることが予想されたため、東京でワイナリーを創設することになりました。

「お付き合いのある契約農家さんから、ブドウを買い続けていくためにも必要なことでした」。「大阪で2軒目のワイナリーを創るという発想もあったのではないでしょうか?」とお尋ねしたところ、山形県や山梨県など東日本の産地から届くブドウをよりフレッシュな状態で醸したいという考えから、東京を選んだそうです。

「契約農家さんが丹精込めて育てたブドウをきちんとワインに醸すために、東京にワイナリーを創る必要が出てきたんです」。

「契約農家さんが丹精込めて育てたブドウをきちんとワインに醸すために、東京にワイナリーを創る必要が出てきたんです」。

続いて「大阪も含めてどうして街中に創られたのですか?」の問いには、「代表である藤丸智史(ふじまる・さとし)が掲げる『ワインを日常に』という理念に基づくものです」との答え。産地と造り手と消費者が一体になれるような場所を創ることによって、ワインが工業製品でなく農作物でもあることを伝えたいという想いが、このロケーションに込められていたのです。

元々は鉄工所だったという物件。造りが頑丈なのでワイン醸造にも適しています。1階のシャッターは普段は閉ざされていますが、ブドウの搬入時には開かれるそうです。

元々は鉄工所だったという物件。造りが頑丈なのでワイン醸造にも適しています。1階のシャッターは普段は閉ざされていますが、ブドウの搬入時には開かれるそうです。

日本のブドウで醸す、優しい味わいのワイン

「ブドウ本来の味わいを表現できるワイン造りを意識しています」。

「ブドウ本来の味わいを表現できるワイン造りを意識しています」。

ワイン造りについては、醸造スタッフの佐久間遥(さくま・はるか)さんにお聞きすることに。鉄工所を営んでいたという頑丈な物件の1階が醸造所です。日本産のブドウのみで醸しているため、取材に伺った2月は仕込みなどがすべて終わった状態。醸されたワインは、タンクや樽、あるいは瓶詰めされて熟成や出荷に向けて眠りについていました。

「大阪では自社畑のブドウも使っていますが、東京では100%委託農家さんから届くブドウで醸造しています。産地ごとのブドウの持ち味を活かすために、極力人の手を加えないスタイルを心がけているんですよ」。ちなみに酸化防止剤の添加も、最低限度に抑えているのだとか。

日常の食卓に寄り添えるワインを目指した結果、和食の繊細さにも合う優しい味わいに。補糖は行わないため、アルコール度数が9~10%といったライトボディのワインが主流です。「果実味のチャーミングさを活かすため、ステンレスタンクで貯蔵するものが多いですね。樽で貯蔵する場合でも樽香を控えめにしたいので、フレンチオークを使用しています」。

家賃が決して安くない都内ならではの、コンパクトな空間を最大限に活かしたマイクロワイナリー。

家賃が決して安くない都内ならではの、コンパクトな空間を最大限に活かしたマイクロワイナリー。

香りが穏やかなフレンチ―オークの樽を使用。奥にはステンレスタンクが並んでいるのが見えました。

香りが穏やかなフレンチ―オークの樽を使用。奥にはステンレスタンクが並んでいるのが見えました。

清澄白河 フジマル醸造所でボトリングしたワインの特徴がキャップ。2015年のファーストヴィンテージは、すべて王冠だったそうです。「コルクを用いるよりコストが抑えられ、その分リーズナブルなお値段でご提供できます。ブショネ(品質劣化によるコルク臭)も防ぐことができますし、メリットは大きいですね」。2016年からはスクリューキャップも導入されたようですが、この愛らしい王冠はぜひ見ておきたいものです。

現在王冠(手前)は、スパークリングタイプのワインに施すことが多いようです。

現在王冠(手前)は、スパークリングタイプのワインに施すことが多いようです。

『テイスティングルーム』でゆったり試飲を

広々としたテイスティングルームでは、試飲を楽しんでワインを購入できます。

広々としたテイスティングルームでは、試飲を楽しんでワインを購入できます。

醸造所から階段を上ったところにあるのが、木目を基調としたカジュアルな装いのテイスティングルーム。午後1時から夜の9時30分まで営業しています。試飲(有料)はもちろん、簡単なつまみ(有料)も味わうことができるので、食事との相性を確認しながら、気に入ったワインを購入できるのも魅力です。

「当方のワインはブドウの個性を尊重していますので、単一品種で醸造しているものが多いですね」と室谷さん。ボトルの小売価格は2000円台前半から3000円台前半が中心。比較的リーズナブルな『テーブルトップ』シリーズや、ブドウの造り手を限定した『ファーマーズ』シリーズなどのブランドがよく売れているようです。

おもだったワインのエチケット(ラベル)は、 “七宝(しっぽう)”と呼ばれる同じ大きさの円を重ねた和の文様があしらわれていました。「円満を表した和柄なのですが、円と縁をかけ、農家さんとお客さま、そして造り手の私たちによいご縁があって欲しいという想いも重ねています」。

※商品価格は記事執筆時点のものとなります。ご購入の際には価格が異なる場合がありますのでご注意ください。

取材当日テイスティングが可能だったワインを並べていただきました。

取材当日テイスティングが可能だったワインを並べていただきました。

それぞれの円を彩るカラーは、ブドウ品種からイメージしているそうです。

それぞれの円を彩るカラーは、ブドウ品種からイメージしているそうです。

テイスティングは一杯からOKですが、やはり『フジマル醸造所テイスティングセット』がおすすめ。1080円で10種類ほどのリストから3種をチョイス。それぞれ40ccを試すことができるので、とてもリーズナブルです。ワイナリーでしか味わえない生樽ワインは必飲。出来たて注ぎ立てのフレッシュな味わいなので、最初の一杯にいただきましょう。

この日の生樽ワインはデラウェアのオレンジワイン。キリッと冷えているうえ、微発泡していたので、喉ごしに優れていました。

この日の生樽ワインはデラウェアのオレンジワイン。キリッと冷えているうえ、微発泡していたので、喉ごしに優れていました。

住宅地の中に、こっそりたたずむレストラン

自然光あふれるレストランが、隠されるように存在していました。

自然光あふれるレストランが、隠されるように存在していました。

大阪と同じく、こちらのワイナリーにもレストランがオープン当初から併設されています。ワインは食中酒、料理と合わせて味わうことで、よりいっそう魅力を増すと考えているからだとか。しかし駅前や大通りに面した商業エリアでなく、小さな工場や住宅が建ち並ぶという不思議な立地。飲食店のサイトで必ず上位にランクしているという高評価に、じつは訪れる前は疑問を抱いていました。

1階の醸造所のシャッター近くには、テープで貼りつけただけのシンプルな案内が。

1階の醸造所のシャッター近くには、テープで貼りつけただけのシンプルな案内が。

見上げると確かに温かい照明が灯り、人影も確認できました。

見上げると確かに温かい照明が灯り、人影も確認できました。

分譲マンションのようなドア。奥にレストランがあることを知らなければ、開けるのを躊躇してしまうことでしょう。

分譲マンションのようなドア。奥にレストランがあることを知らなければ、開けるのを躊躇してしまうことでしょう。

鉄製のドアの向こうには、木の温もりとコンクリートのクールさが融和したスタイリッシュな空間が広がっていました。

鉄製のドアの向こうには、木の温もりとコンクリートのクールさが融和したスタイリッシュな空間が広がっていました。

「本当にここであっているのだろうか?」と、初訪問なら誰しも不安を感じるようなシチュエーションですが、「一度いらっしゃった方は、お知り合いを初めてお連れするのを楽しまれているようですよ」(室谷さん)というエピソードに共感。リピーターが多いのもうなずけます。

供されるのは、厳選した日本の食材を活かしたイタリアンベースの料理。フレッシュなスタイルの自社ワインに加え、国内外の個性豊かなワインが約200種もオンリストされていて、多彩なワインとのペアリングを楽しむこともできるのです。今回はふた皿の料理を、それぞれに室谷さんがチョイスした自社ワインと一緒にいただくことができました。

ランチメニューはとくに設けてなく、ディナーと同じメニュー。昼夜を問わず、前菜をつまみに軽く飲めたり、しっかり食事を取ったりすることもできるのが魅力です。ちなみにレストランを利用したゲストには、ワイナリーを無料で見学させてくれるのも嬉しいですね(時期によっては厳しいことも)。
※金額などはすべて取材時のものです(税込)。

『モッツァレラ・ブッファラ&パルマ産プロシュートの彩り野菜サラダ』(1728円)。10種類以上の食材が散りばめられた“お花畑”のようなサラダです。

『モッツァレラ・ブッファラ&パルマ産プロシュートの彩り野菜サラダ』(1728円)。10種類以上の食材が散りばめられた“お花畑”のようなサラダです。

フレッシュさが身上の料理には、軽快な酸味が特徴の『デラウェア』を。

フレッシュさが身上の料理には、軽快な酸味が特徴の『デラウェア』を。

たっぷり使用した黒トリュフの香りがたまらない『黒トリュフとパルミジャーノチーズのリゾット』(2700円)。

たっぷり使用した黒トリュフの香りがたまらない『黒トリュフとパルミジャーノチーズのリゾット』(2700円)。

『ファーマーズ・メルロ』のタンニンの滑らかさが、リゾットのとろりとした食感を引き立てます。

『ファーマーズ・メルロ』のタンニンの滑らかさが、リゾットのとろりとした食感を引き立てます。

ブドウ生産者、醸造者、そしてワイン愛好家が繋がる幸せを願うアーバンワイナリーのレポートはいかがでしたか? 清澄白河 フジマル醸造所とはまた異なる魅力を持つ都心のワイナリー取材を今後も続けますので、続編をお楽しみにお待ちください。

清澄白河 フジマル醸造所
東京都江東区三好2-5-3
TEL/ 03-3641-7115
テイスティングルーム・販売/13:00~23:00(L.O. 21:30)
レストラン ランチ/(水~日・祝) 11:30~14:00(L.O.)・ディナー/17:00~23:00(L.O. 21:30)
定休日/月・火(祝の場合は翌水)
アクセス/東京メトロ半蔵門線清澄白河駅より徒歩5分・都営大江戸線 清澄白河駅より徒歩8分。

清澄白河 フジマル醸造所の詳細はこちら

<“Urban”ワインを巡る①>東京・練馬区/東京ワイナリーはこちら
<“Urban”ワインを巡る②>東京・江東区/深川ワイナリー東京はこちら
<“Urban”ワインを巡る④>横浜・中区/横濱ワイナリーはこちら
<“Urban”ワインを巡る⑤>大阪・中央区/島之内 フジマル醸造所はこちら

※紹介した情報は記事執筆時点のものです。購入・サービス利用時に変更になっている場合がありますのでご注意ください。

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ会員。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

おすすめ情報

関連情報

ワインの基礎知識