東京都・恵比寿『鳥幸 WINE PAIRING』/焼鳥とワインのペアリングを学ぶ

東京都・恵比寿『鳥幸 WINE PAIRING』/焼鳥とワインのペアリングを学ぶ

日本人にとって大変身近な料理のひとつである“焼鳥”。居酒屋や煙もくもくの専門店で、ビールや日本酒、焼酎などと楽しむイメージが強いですが、今回紹介するのはワイン。ひと串ごとにワインを合わせるペアリングコースで評判の『鳥幸WINE PAIRING(とりこう ワインペアリング)』に、その極意を伺いました。

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“焼鳥×ワイン”を掲げてオープンした『鳥幸』

2015年春にオープンした『鳥幸 WINE PAIRING』。2019年10月現在、『鳥幸』は国内11店舗、海外に1店舗を展開しています。

2015年春にオープンした『鳥幸 WINE PAIRING』。2019年10月現在、『鳥幸』は国内11店舗、海外に1店舗を展開しています。

リーズナブルな価格で、庶民的な酒の肴の代表格にあげられる焼鳥ですが、『鳥幸』は良い意味でそのイメージを裏切ってくれます。お店のコンセプトは、“都会の喧騒を忘れさせる「大人が愉しめる」空間”。高級鮨店を思わせるような白木のカウンターを中心とした店内には、非日常の時間がゆっくりと流れていました。

デートや記念日、接待など大切な人と過ごすのにふさわしい空間です。

デートや記念日、接待など大切な人と過ごすのにふさわしい空間です。

おもに使用しているのは、『八ヶ岳鳥幸地鶏』。八ヶ岳山麓の冷涼な気候と恵まれた地下水で鶏を育てる『中村農場』が『鳥幸』のためだけに作ったオリジナルブランド鶏で、通常の鶏の2倍~2.5倍の日数をかけて飼育。もちっとした歯応えと、肉汁の繊細な旨味が身上です。

部位ごとに火の通し方を加減しながら、丁寧に焼き上げられます。

部位ごとに火の通し方を加減しながら、丁寧に焼き上げられます。

『鳥幸』のもうひとつのコンセプトが、 “焼鳥×ワインを極める”。2011年に初めてオープンした乃木坂本店を含むすべての店舗で、ソムリエが世界から厳選したワインと焼鳥を楽しめます。なかでも2015年に恵比寿に開業した『鳥幸 WINE PAIRING』は名前が示すように、よりワインを探求。職人が精魂込めて焼き上げた焼鳥ひと串ひと串に、一杯ずつワインを合わせたオリジナルのペアリングコースが用意されているのです。

『鳥幸 WINE PAIRING』は、恵比寿神社のすぐそば。

『鳥幸 WINE PAIRING』は、恵比寿神社のすぐそば。

境内の裏手にあるビルの3階にあります。

境内の裏手にあるビルの3階にあります。

ペアリングの意図を選者にお聞きしました

ペアリングコースの監修者・大越基裕(おおこし・もとひろ)ソムリエ。

ペアリングコースの監修者・大越基裕(おおこし・もとひろ)ソムリエ。

焼鳥にどのようにワインを合わせているのかを教えてもらうため登場いただいたのが、ソムリエの大越基裕さん。バーテンダーからサービス業の世界に入り、ワインに魅せられてフランスに渡りました。2001年日本のフランス料理店の老舗『銀座レカン』に入社し、シェフソムリエを務めた後に独立、現在は、ワインテースターとして日仏を往復しながらワインの本質を多くの人に伝える活動をされています。

『鳥幸 WINE PAIRING』ではワインの監修をされていて、ペアリングコースのワインも大越さんがセレクト。どうしてその串にそのワインを選んだのか? 7本コース(7000円)に沿って、解説をいただくことに。

「焼鳥のひと串ひと串は小さいのですが、部位や味付けの違いなどで、それぞれがフレンチのひと皿に匹敵するほど個性豊かな味わいを持っています」。そう、フレンチのペアリングと焼鳥のペアリングの意図することはまったく同じ。ただ串の本数は多くなるので「グラスあたりのワインの量は、40ccにしています」。料理の味わいの多彩さに合わせやすいように、ワインも生産地を限定せず世界中のワインから選んでいるそうです。

※ペアリングコースは5本コース(5000円)から設定があります。

ねぎま×ソーヴィニヨン・ブラン(チリ)

ねぎま/肉とネギを交互にはさんだもの(塩で提供)。

ねぎま/肉とネギを交互にはさんだもの(塩で提供)。

「淡泊な肉と香ばしいネギの組み合わせ。フレンチのアミューズにあたり、スタートにぴったりな軽めの一品です」。7本コースのなかで、唯一野菜(ネギ)が使われている串で、「ネギの青い香りに、ソーヴィニヨン・ブラン特有の清涼感のあるハーブのような香りを合わせました」。チリの銘醸地サン・アントニオ・ヴァレーで造られたワインは、フルーティで飲みごたえもあり、塩味のしっかりついた肉にも負けないという印象です。

マテティック ソーヴィニヨン・ブラン(チリ)。

マテティック ソーヴィニヨン・ブラン(チリ)。

せせり×リースリング(フランス)

せせり/背中側の首周りの部分。弾力があってジューシー(塩で提供)。

せせり/背中側の首周りの部分。弾力があってジューシー(塩で提供)。

鶏の仕草ですぐ思いつくのが、首を振りながら歩き回る姿。「首肉であるせせりは、筋肉質で弾力に富み、歯応えがしっかりあります。このタイプにはレモンを搾るなど、ちょっと酸味を与えることで、味わいがさらに引き立ちますね」。そこで選ばれたのが、フレッシュな酸味を持つリースリング。「フランス・アルザス地方のリースリングは、酸がきれいなのはもちろん、しっかり熟しているので、先のねぎまと同じく肉の味の強さにも寄り添えるんです」。

マルク クライデンヴァイス アンドロー リースリング(フランス)。

マルク クライデンヴァイス アンドロー リースリング(フランス)。

ふりそで×シャルドネ(オーストラリア)

ふりそで/胸肉と手羽元の間、「肩肉」とも呼ばれます。柚子胡椒の利いた醤油ダレで。

ふりそで/胸肉と手羽元の間、「肩肉」とも呼ばれます。柚子胡椒の利いた醤油ダレで。

「胸肉の白身のような淡泊さに、手羽元の脂をあわせ持つ部位。イメージ的には白身をフワッと油でコーティングした感じです」。淡泊さにアクセントを与えているのが、醤油に柚子胡椒を加えたタレ。ペアリングはオーストラリアのシャルドネです。「やっぱり白身なので、白ワイン。脂を包みむような旨味とコクがあって、かつフレッシュな酸味と果実感もあるシャルドネは、柚子胡椒の清涼感と重なり、優しい余韻も感じられます」。

バトル オブ ボスワース シャルドネ(オーストラリア)。

バトル オブ ボスワース シャルドネ(オーストラリア)。

はつ×ムツヴァネ(ジョージア)

はつ/心臓。縦半分に切ることが多いが、こちらは丸ごと焼いて塩で。

はつ/心臓。縦半分に切ることが多いが、こちらは丸ごと焼いて塩で。

「鉄分の塊のような部位。香りも味もクセが強くて、正直ソムリエ泣かせの串です(笑)」。独特のフレーバーに負けず、鉄のようなニュアンスと適度な渋味も必要ということで選ばれたのは、白でも赤でもなく近年話題のオレンジワイン。ムツヴァネは聞き慣れない品種ですが、ジョージアで育つ代表的な白ブドウです。「“クヴェヴリ”という壺を用いた伝統的な製法で醸され、独特の旨味と渋味が表現されています。砂肝とも合いますよ」。

チョティアシュヴィリ ムツヴァネ(ジョージア)。

チョティアシュヴィリ ムツヴァネ(ジョージア)。

つくね×シュペートブルグンダー(ドイツ)

つくね/ひき肉と調味料などを団子状にまとめたもの(タレで提供)。

つくね/ひき肉と調味料などを団子状にまとめたもの(タレで提供)。

空気を含み、やわらかな食感が持ち味。「肉自体には強烈な個性はないので、タレで味が決まってきます。どのようなタレなのかを見極めて、ワインを合わせるのがポイントですね」。こちらのタレは醤油ベースで、甘さひかえめでサラリとしたタイプ。「粘性が低くライトな赤ワインがベストと判断し、ドイツのシュペートブルグンダーをチョイスしました」。ちなみにシュペートブルグンダーは、ピノ・ノワールのドイツにおける呼称です。

メイヤーネッケル シュペートブルグンダー(ドイツ)。

メイヤーネッケル シュペートブルグンダー(ドイツ)。

ハラミ×マスカット・ベーリーA(日本)

ハラミ/内臓をガードする横隔膜に相当する部位(タレで提供)。

ハラミ/内臓をガードする横隔膜に相当する部位(タレで提供)。

牛や豚が有名ですが、鶏にもハラミはあります。ただ一羽から取れる量は限られているため希少部位だとか。「しゃきしゃきとした歯応え、心地よい油脂、やや甘めのタレ…。渾然一体となって口の中の満足度が高い1本です」。タレの甘さがワインにも甘い香りを求めてくるので、「イチゴキャンディーのようなチャーミングな香りのあるマスカット・ベーリーAに。こちらの造り手のものは果実味も高く、料理の油脂とも同調します」。

ダイヤモンド酒造 YカレーキュベK マスカット・ベーリーA(日本)。

ダイヤモンド酒造 YカレーキュベK マスカット・ベーリーA(日本)。

レバー×プリミティーヴォ(イタリア)

レバー/肝臓で、「きも」とも呼ばれます(タレで提供)。

レバー/肝臓で、「きも」とも呼ばれます(タレで提供)。

「当店では肉厚のレバーを贅沢に使用し、“特上レバー”の名前で出しているスペシャリテ的な存在。フワトロの食感が好評です」。プリミティーヴォ(=ジンファンデル)に定評のあるイタリア・ファタローネ社のワインをパートナーに。「タレの甘さに対して辛口で合わせることも考えたのですが、フォワグラと貴腐ワインの組み合わせのように、上品な甘い香りがするプリミティーヴォで。食べた後の心地よい余韻が長く続きますよ」。

ジョイア デル コッレ プリミティーヴォ(イタリア)。

ジョイア デル コッレ プリミティーヴォ(イタリア)。

家庭でも焼鳥×ワインを実践しましょう

店で提供している焼鳥とワインのペアリングについて、大越さんにひととおり解説していただきましたが、最後にお願い。「商店街やスーパーの総菜コーナーで買ってきた焼鳥で、“おうちペアリング”できる方法はありますか?」との無茶ぶりに、「セオリーはありますよ」と笑顔でご指南いただけることになりました。

「家庭では、ひと串ごとに異なるワインを用意するのは難しいので、 “塩”と“タレ”に分け、2種類のワインで対応するようにしましょう」。塩は予想通り白ワインですが、「私はリースリングをおすすめしますね。ねぎまの時にもお話しましたが、ほどよい酸味がどの部位ともマッチします。レモンを搾ると、酸味でワインと料理がよりつながるので、ぜひ試してみてください」。

一方タレについては、「売られている焼鳥のタレって間違いなく甘さが際立っています。タレに負けずに甘い香りで合わせるとなると赤ワイン」。でも焼鳥はステーキと違って、ひと口にほおばる量が少ないので、「フルボディだとワインが勝ってしまうんです。ミディアムボディやライトボディがベター」だそう。「品種的にはほどよく香りに甘さのあるタイプがいいですね。マスカット・ベーリーAやジンファンデル、今回は登場しませんでしたが、南フランスのグルナッシュもぴったりだと思いますよ」。

焼鳥が好きで、学生時代は焼鳥屋でバイトしていたという大越さん。貴重なお話をありがとうございました。

焼鳥が好きで、学生時代は焼鳥屋でバイトしていたという大越さん。貴重なお話をありがとうございました。

鳥幸 WINE PAIRING
東京都渋谷区恵比寿西1-13-6 ブラッサムZEN3F
TEL/03-6455-3485
営業時間/ディナー17:00~23:30(L.O.22:30・ドリンクL.O.23:00)
定休日/日曜日(祝日は不定)


鳥幸 WINE PAIRINGの詳細はこちら

※金額などはすべて取材時のものです(税別)。

さて『鳥幸 WINE PAIRING』のペアリングは、いかがだったでしょうか? 興味を持ったら、ぜひ足を運び自身の五感で確かめてみてください。また、テイクアウトの焼鳥とワインを、家庭で楽しめる術も活用していただければ幸いです。

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ会員。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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