「山田錦」とは? “酒米の王様”の異名を持つ酒造好適米のルーツや産地、日本酒の味わいの傾向を紹介
「山田錦(やまだにしき)」とは、日本酒造りに適したお米「酒造好適米(酒米)」の代表的なの品種で、“酒米の王様”と呼ばれています。今回は、「山田錦」が高く評価されている理由や、「山田錦」で造った日本酒の味わい、ルーツ、代表的な銘柄などを紹介します。
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「山田錦」の酒米としての評価や特徴、「山田錦」を使用した日本酒の味わいの傾向などをみていきます。
「山田錦」は酒米の代表格
shige hattori / PIXTA(ピクスタ)
日本酒造りに適したお米を「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」「酒米(さかまい)」「酒造米」などと呼びます。「山田錦」はその代表的な品種で、多くの日本酒の原料として使われています。
「山田錦」が“酒米の王様”と呼ばれる理由
酒造好適米にはさまざまな種類があり、現在100種ほどの品種が銘柄指定されていますが、なかでも「山田錦」は、知名度や人気、作付面積などでトップを誇る品種で、“酒米の王様”と呼ばれています。
山田錦は食用米より粒が大きく、粒の中の白濁している「心白(しんぱく)」も大きいため精米しやすいこと、日本酒の雑味のもとになるたんぱく質が少ないこと、吸水性に優れていることなどの理由から、めざす酒質に仕上げやすいお米として、造り手の間で根強い人気を誇っています。20世紀後半の吟醸酒ブームなども手伝って、作付面積も次第に拡大。平成13年(2001年)には「五百万石」を追い越し1位になりました。
生産量も群を抜いていて、令和3年産の品種別生産量では、
1位:山田錦:27,609トン
2位:五百万石(ごひゃくまんごく):13.612トン
3位:美山錦(みやまにしき):3,816トン
4位:雄町(おまち):2,289トン
5位:秋田酒こまち:2.245トン
と、「山田錦」が2位以下に大きく差をつけています。この年の総検査数量は74,756トンなので、「山田錦」の生産量は全体の約37%を占めていることがわかります。
(参考資料)
農林水産省「令和4年産酒造好適米の生産状況等」
KEY-BO / PIXTA(ピクスタ)
「山田錦」を原料に使用した日本酒の味わい
日本酒の味わいは、原料に使うお米の品種によっても変わります。
精米歩合や仕込み水、酵母や製法などの要素による違いはありますが、「山田錦」を原料に使った日本酒は一般的に、ふくよかで芳醇な味わいに仕上がりやすいといわれています。高精白が可能なことから大吟醸などの原料に使われることも多く、また雑味の原因となるタンパク質の含有量が少ないことから、キレイな香味を持つバランスよいお酒に仕上がる傾向があります。
酒造好適米の特徴やふつうのお米との違い、「山田錦」以外の酒造好適米で造ったお酒の味わいの傾向ついて知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。
「山田錦」のルーツとおもな産地
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ここで、「山田錦」のルーツやおもな産地を確認しておきましょう。
「山田錦」は「雄町(おまち)」の系譜を引く酒造好適米
「山田錦」は、「山田穂(やまだほ)」を母、「短桿渡船(たんかんわたりぶね)」を父として人工的な交配を行い、選び抜かれた品種です。「短桿渡船」は、酒造好適米のなかでもっとも歴史のある「雄町」の遺伝子を受け継ぐ「渡船」から系統分離された品種といわれています。つまり、「山田錦」は「雄町」の子孫ということになります。
「山田錦」が兵庫県立農事試験場(当時)で誕生したのは、大正12年(1923年)。その後も遺伝的な固定を行うなど研究は続き、「山田錦」の名で兵庫県の奨励品種に指定されたのは、昭和11年(1936年)のことでした。
なお、「山田錦」を親に持つ酒米も複数開発されていて、「五百万石」と掛け合わせた「越淡麗(こしたんれい)」は、両親の長所を併せ持つ品種として注目を集めています。
「越淡麗」を原料に造られた日本酒は、ふくらみのある香味を持つお酒に仕上がるといわれています。興味がある人は、「山田錦」や「五百万石」を原料に使用した日本酒と飲み比べてみてください。
NOV / PIXTA(ピクスタ)
「山田錦」の産地は兵庫県から全国へ
「山田錦」の原産地は兵庫県。おもに兵庫県や岡山県、山口県などの西日本を中心に栽培されてきましたが、近年は、南は沖縄や鹿児島を除く九州地方、北は東北地方の宮城県や山形県まで、広いエリアで栽培され、令和3年には全国40府県に産地が拡大しています。
※前出の農林水産省「令和4年産酒造好適米の生産状況等」より
九州から東北まで広範囲で栽培される「山田錦」ですが、現在も全国総生産量の約60%を占めるのは、原産地の兵庫県産。なかでも品質に定評があるのが、「特A地区」と呼ばれるエリアで育まれる「山田錦」です。
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最高品質の「山田錦」が育まれる兵庫県の「特A地区」とは?
「特A地区」とは、最高品質の「山田錦」が生産される超優良地帯に兵庫県が付与した格付けで、ワインでいう「グラン・クリュ(特級畑)」のようなニュアンスで使われます。
「山田錦」の故郷である兵庫県では、明治時代から、おもに灘五郷の蔵元が酒米栽培農家と直接栽培契約を交わす「村米(むらまい)制度」が存在していました。この制度によって集落で競争が生まれ、農家は互いに切磋琢磨しながらより品質の高いお米作りに取り組むようになります。
需要が増え、栽培地域が拡大すると、ワインにおけるテロワール(生産地の気候風土)の観点から土壌や気候などの栽培条件から栽培適地が見極められるように。戦後には食糧庁によってA地区・B地区と地域別格差が設けられ、その後、兵庫酒米地域振興会の働きによって従来のA地区が「特A-a地区」「特A-b地区」「特A-c地区」とさらに細分化されました。
現在、「特A地区」と呼ばれているのは、かつて「特A-a地区」「特A-b地区」に区分されていたエリア。なかでも「特A-a地区」とされていた六甲山の北側に位置する以下の3地域は、「山田錦」の最高峰の産地とされています。
◆加東市社(やしろ)地区
◆加東市東条(とうじょう)地区
◆三木市吉川(よかわ)町
出典:株式会社 本田商店ホームページ
「特A地区」には、「日当たりがよい」「昼夜の気温差が大きく降水量が少ない」「東西に開けた谷(または南北に開けた谷)」といった理想的な条件がそろっているといいます。この「特A地区」独特のテロワールこそが、「山田錦」の最高峰の産地といわれる理由です。
地域が違えば土壌や気候風土が異なるため、同じ「特A地区」で栽培された「山田錦」でもお酒にしたときの味わいは変わってきます。
なお、社地区産は穏やかな香りとまろやかな味わいを持つお酒に、東条地区産はなめらかでバランスのよいお酒に、吉川町産は濃厚な味わいのお酒に仕上がる傾向があるといわれています。
「山田錦」らしさが光る日本酒を紹介
「山田錦」は多くの人気銘柄に使われる酒造好適米。各種コンクールで入賞する日本酒は「山田錦」を原料に造った銘柄が圧倒的に多いことでも知られています。
ここでは、数々の人気銘柄のなかから、「山田錦」らしさを感じ取れるおすすめの商品を紹介します。
本田商店「龍力テロワール 社・東条・吉川Yashiro・Tojo・Yokawa」
出典:株式会社 本田商店ホームページ
兵庫県の本田商店は、特A地区の山田錦を40年以上使い続けてきたこだわりの蔵元。「龍力(たつりき)テロワール 社・東条・吉川Yashiro・Tojo・Yokawa」は、「特A地区」のなかでもかつての「特A-a地区」に当たる社、東条、吉川の「山田錦」を土壌別に醸したセット商品です。じっくり飲み比べて、気候風土のごとの味わいを堪能してみては?
製造元:株式会社 本田商店
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本田商店「特別純米生酛仕込み Kimotojikomi」
出典:株式会社 本田商店ホームページ
本田商店の代表銘柄「龍力(たつりき)」の特別純米生酛仕込み。原料に「山田錦」を使い、時間をかけ自然に乳酸菌を培養する昔ながらの酒造法で仕込み、お米本来の魅力を引き出した、酒通垂涎の純米酒です。
燗酒コンテスト 2012 極上燗酒部門で最高金賞受賞。
製造元:株式会社 本田商店
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白鶴酒造「特撰 白鶴 特別純米酒 山田錦」
出典:白鶴酒造株式会社サイト
兵庫・灘の老舗蔵元、白鶴酒造が手掛ける「特撰 白鶴 特別純米酒 山田錦」は、兵庫県産山田錦だけを使用したぜいたくな味わいの特別純米酒。なめらかでやさしい口当たりと「山田錦」らしいふくよかなコク、軽快な後味がたのしめます。
International Taste Institute 2023年 最高位 3ツ星(通算10回) 、全国熱燗コンテスト2022お値打ちぬる燗部門金賞受賞。
製造元:白鶴酒造株式会社
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月桂冠「山田錦純米」
出典:月桂冠株式会社サイト
華やかな香りと「山田錦」ならではのふくらみのある味わい、すっきりとした後味が魅力の純米酒。京都・伏見の老舗蔵元が、原料米の55%に「山田錦」を使用し、日常酒のコスパと飽きのこない上質の味を実現した革命のパック酒です。
製造元:月桂冠株式会社
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山田錦といえば「獺祭」! 山田錦だけで造る純米大吟醸を極める蔵元・旭酒造とは
出典:旭酒造株式会社サイト
めざす酒質にあわせてお米を使いわける蔵元が多いなか、「獺祭(だっさい)」で名高い山口県の蔵元・旭酒造は、酒造りに「山田錦」のみを使用。
酔うため、売るためのお酒ではなく、味わうお酒を求めて、品質にこだわり抜いた日本酒造りを行っています。
一時は麹米に山田錦を、掛米に五百万石や雄町などの酒造好適米を合わせるなど、試行錯誤を繰り返したそうですが、おいしさを追求し、工夫を続けていくうちに山田錦だ100%という答えにたどり着いたといいます。
山田錦で造る日本酒といっても、お米の産地や製法上の工夫によって味わいが変わってきます。写真の「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分」は、山田錦を23%と極限まで磨いて造ったこだわりの逸品。機会があったらさまざまな「獺祭」を飲み比べて、山田錦の奥深さを堪能してください。
旭酒造株式会社
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“酒米の王様”の異名を持つ「山田錦」は、造り手がめざす酒質を実現しやすいお酒。おいしい日本酒がたくさん造られているので、産地の違いや精米歩合の違い、仕込みの違いなどに着目しつつ、飲み比べをたのしんでみてください。