「獺祭(だっさい)」日本酒人気の火つけ役《きき酒師監修》
「獺祭」は、全国的に名酒として知られるようになった日本酒です。ある時期から急激に需要が増え、その人気から一時は「幻の酒」とも呼ばれました。山口県の定番酒「獺祭」の人気に迫ります。
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「獺祭」は獺(かわうそ)の里が生んだ酒
Maurice Volmeyer/Shutterstock.com
「獺祭」を醸している旭酒造は、山口県岩国市の獺越(おそごえ)にある酒蔵です。
獺越という地名には「獺(かわうそ)」の字が入っていますが、その由来は、古い獺が子どもを化かして村まで追いかけてきたという言い伝えからだそうです。
「獺祭」にはこの「獺」の字が使われていますが、これは所在地から取ったというだけでありません。
もともと「獺祭」とは古代中国からきた言葉で、詩や文を作るときに、周囲に多くの参考資料を広げている様子を意味しています。その理由は、獺がつかまえた魚を川岸に並べて、まるでお祭りをするように見える様子をなぞらえたものなのだとか。
明治時代の俳人、正岡子規は、この言葉にあやかり、自らを「獺祭書屋主人」と号しました。日本文学に革命を起こしたといわれる子規の精神に、酒造りの世界に革新をもたらそうとする想いを重ね合わせたことから、「獺祭」という名がつけられました。
「獺祭」という名前には、「従来の酒造りに安住することなく、変革と革新の中からより優れた酒を創り出そう」という旭酒造の熱い想いが込められているのです。
獺祭が人気になった理由とは?
出典:旭酒造株式会社
「獺祭」は、雑誌の特集などでもしばしば取り上げられ、その人気から一時期は品薄状態にもなりました。
日本酒に詳しくない人でも、「獺祭」という名前を聞いたことがあるという人も少なくないでしょう。ここまでの知名度をもつようになったのは、いくつもの理由があります。
理由1:初心者にも飲みやすいフルーティな味
「獺祭」が人気を博している最大の理由は、やはりその味です。
日本酒の概念を覆したともいわれるフルーティな飲み口は、若い世代や女性など、日本酒になじみがなかった層にも受け入れやすいものでした。
まるでメロンやバナナのような甘い香りと、すっきりとした後味から「ワイングラスで飲みたい日本酒」といわれたのもうなずけます。
これまでとは違う層にもアプローチできたことが、知名度アップにもつながったと思われます。
理由2:手頃な価格
「獺祭」シリーズは、すべてが純米大吟醸以上、さらに、原料米として使うのは「山田錦」のみ。こうしたハイスペックな日本酒でありながら、価格は抑えめです。
純米大吟醸クラスでは一升瓶で5,000円程度する銘柄が多いですが、「獺祭純米大吟醸50」は一升瓶で3,135円(税込)と手頃な価格です。
「名酒」と呼ばれる酒には高価なものも少なくありませんが、「獺祭」が高額路線を歩まない背景には「高くておいしいは当たり前、誰もがたのしめる酒を」という蔵元の心意気があるのでしょう。
※商品価格は記事執筆時点のものとなります。ご購入の際には価格が異なる場合がありますのでご注意ください。
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監修者
伊東幸一
(一社)日本ソムリエ協会認定ソムリエ、きき酒師、焼酎きき酒師、日本ビール検定1級、ビアジャーナリスト、フードアナリスト。
好奇心旺盛なため、お酒であれば何でも試してきました。いま最も好きなカテゴリーはビール。時間があれば飲食店や各種お酒関係のイベントに参加。