日本酒造りに欠かせない「酒造好適米」とは?個性豊かな原料米を紹介!
日本酒造りに使われる「酒造好適米」には食用米とは異なる特徴があることをご存知ですか?酒米は、食用米に比べて育てにくく、生産量が少ないためとても貴重です。ここでは、普通のお米との違いや、「山田錦」など、酒造好適米の代表的な品種について紹介します。
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酒造好適米は日本酒の原料に使われるお米
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日本酒の原料となる酒造好適米の特徴と、食用のお米との違いについてみていきます
酒造好適米とは?
「酒造好適米」とは、日本酒造りに適した特性を持つお米のことで、「醸造用玄米」または「酒米(さかまい/しゅまい/さかごめ)」とも呼ばれています。なお「酒米」と呼ぶときには、酒造好適米に限らず、日本酒造りに使われるお米全般を指している場合もあります。
酒造好適米は全国で100品種以上が栽培されています。粒の大きいものがよいとされていることから、時間をかけて育てる必要があり、収穫時期が遅い晩生(おくて)の品種が主流となっています。
しかし寒冷地で晩生の品種を育てると、収穫できる状態にならないうちに寒くなってしまうため、開花や結実の時期を早めた早生(わせ)や中生(なかて)の品種が改良によって生まれています。
また、「山田錦」や「雄町(おまち)」といった酒造好適米の人気品種は背が高いものが多く、倒れやすいことなどから、食用米に比べて育てにくいという特徴もあります。そのため生産量は少なく、平成30年(2018年)の農林水産省の統計によれば、日本の米の生産量の1%ほどにとどまります。じつはとても貴重なお米なのです。
酒造好適米と普通のお米との違いは?
日本酒造りに特化している酒造好適米には、普通の食用米とは違った特性があります。食べるお米とは異なる、酒造好適米ならではの4つの良米ポイントをみてみましょう。
(1)大粒で割れにくいこと
酒造好適米は、大粒で割れにくいものがよいとされています。これには精米歩合が関係しています。
精米歩合とは、精米前の玄米に対する、精米後の白米の重量の割合を指し、「精米歩合60%の白米」といったときには、玄米の表層部を40%削っていることを意味しています。
お米をご飯として食べるときの精米歩合は、一般に92%ほどで、米粒の1割程度しか削りません。
一方、日本酒を造るときには、タンパク質や脂質など雑味のもととなる成分を少なくするため、米の外側をしっかり削る必要があります。とりわけ、酒造好適米がよく使われる特定名称酒の純米大吟醸酒や大吟醸酒の場合、精米歩合は50%以下と決められています。半分以上も削るためには、削る余地のある大粒で割れにくいお米が望ましいのです。
(2)ほどよい大きさの「心白(しんぱく)」があること
酒造好適米は、食用米に比べて「心白」の発現率が高いお米です。
「心白」とは、お米の内側にある白く不透明な部分のこと。デンプンの密度が粗く、麹菌(こうじきん)が入り込みやすいため、質のよい麹ができます。また仕込みのとき、醪(もろみ)に溶けやすく、アルコール発酵が適度に進みやすいという特徴もあります。
一方、食用米では、心白のあるお米が多いと見かけ上の品質が劣るとされることがあります。
なお、大きすぎると精米のときに割れやすくなり、削る余地も少なくなるため、心白はほどよい大きさがよいとされています。
(3)タンパク質と脂質が少ないこと
タンパク質は分解されると旨味のもとのアミノ酸となりますが、多すぎると雑味の原因になり、脂質は香り成分の生成を阻害したり、酸化するとよくない香りを生み出したりします。そのため日本酒造りにおいては、タンパク質や脂質の含有量が少ないお米がよいとされています。
一方、タンパク質は旨味のもとのアミノ酸を、脂質はツヤを生み出すため、酒造好適米に比べて、一般的な食用米には多く含まれています。
(4)吸水性がよいこと
酒造好適米をはじめ、心白があり、タンパク質の含有量が少ないお米は、吸水性がよくなる傾向にあります。
日本酒造りでは、原料となるお米は食用米のように炊くのではなく、蒸されます。吸水性がよいお米は炊いたときにはやわらかくなりすぎてしまいますが、熱い蒸気で蒸した場合は外側が適度に硬く、内側はやわらかい「外硬内軟(がいこうないなん)」の状態になりやすいのです。
外硬内軟の蒸米(じょうまい)は、麹菌の菌糸がお米の内側に伸びていきやすく、また醪などにほどよく溶けやすくなります。
代表的な酒造好適米
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日本酒造りに特化した酒造好適米にはたくさんの種類があります。そのなかから代表的な4品種を紹介します。
「山田錦(やまだにしき)」酒造好適米の王者
「山田錦」は、大正12年(1923年)に兵庫県で交配され、昭和11年(1936年)に品種登録された晩生(おくて)の酒造好適米です。
東北から九州まで幅広い地域で栽培されていて、生産量は酒造好適米の品種中トップを誇ります。なかでも兵庫県三木市および加東市の「特A地区」で収穫されたものは品質が高いことで知られています。
倒れやすく病気になりやすいという、生産者には困った一面がある一方、大粒で、「線状心白」と呼ばれる割れにくい形の心白をしています。加えて、タンパク質の含有量が少なく、日本酒の造り手にはうれしい特性を兼ね備えています。
「山田錦」で醸した日本酒は、総じて香り高くバランスのよい味わいに仕上がるといわれ、知名度、人気とも高く、「酒造好適米の王様」と呼ばれています。
「五百万石(ごひゃくまんごく)」酒造好適米の東の横綱
「五百万石」は、昭和13年(1938年)に新潟県で交配された酒造好適米です。昭和32年(1957年)、新潟県の米生産量が昔の単位でいうところの五百万石(約75万トン)を達成したことから「五百万石」と名づけられ、新潟県の奨励品種として登録されました。
早生(わせ)品種で寒さに強く、新潟や北陸を中心に東北から九州まで栽培されています。平成13年(2001年)に「山田錦」に抜かれるまで酒造好適米の作付面積第1位だった品種で、今も「東の横綱」として西の横綱「山田錦」と並び称されています。
心白が大きく、50%以上を削るのはむずかしいため、純米大吟醸酒や大吟醸酒といった高級酒には向きませんが、麹(こうじ)の造りやすさには定評があります。また、やや硬めで溶けにくいため、すっきりとしてキレのある「淡麗辛口(たんれいからくち)」の味わいになりやすいという特徴もあります。
雄町(おまち)」栽培が難しい“幻の酒米”
「雄町」は、江戸時代末期に発見されて以降、栽培され続けている品種。「山田錦」や「五百万石」などのルーツにもなっている、岡山県の代表的な酒造好適米です。
晩生で、倒れやすく病気になりやすいうえ、収量も少ない品種であることから、一時期生産量が激減。「幻の酒米」と呼ばれていました。その後、地元の蔵元の要望もあって岡山県で栽培の復活が推奨されると増加に転じ、再び注目されるようになりました。
大粒で、心白の発現率が高い品種ですが、心白が大きくやわらかいため、高精白には不向き。その一方、溶けやすいことからコクのある力強い味わいを生む傾向があります。「雄町」ならではの濃醇な香味に魅了された「オマチスト」と呼ばれる熱狂的なファンも存在しています。
「美山錦(みやまにしき)」突然変異で生まれた比較的新しい品種
「美山錦」は、昭和53年(1978年)に開発された比較的新しい品種です。中生(なかて)で寒さに強く、この品種が誕生した長野県をはじめ、東北や北関東、北陸の一部で栽培されています。
「美山錦」という名前には、長野の美しい山々の頂(いただき)にある雪のような心白がある酒造好適米という意味が込められています。
また「美山錦」を醸した日本酒は、さっぱりとキレのある味わいになる傾向があります。
話題の酒造好適米
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話題となっている酒造好適米4品種を紹介します。
「愛山(あいやま)」酒造好適米の注目株
「愛山」は、兵庫県の一部地域で生産されている品種です。栽培が難しいことで知られ、長い間、灘の老舗蔵元・剣菱(けんびし)酒造が契約栽培で守ってきた秘蔵の米でしたが、近年ほかの多くの蔵元にも注目され、需要が増えています。
「山田錦」以上に大粒ですが、心白も非常に大きいことから高精白には向かず、また溶けやすい性質も持っているため雑味が出やすい傾向があるなど、「愛山」の扱いには高い技術が必要となります。その一方、「愛山」の特性を活かした醸造ができれば、独自の香味と飲みごたえのあるお酒に仕上がるといわれています。
「越淡麗(こしたんれい)」新潟待望の地元生まれの酒造好適米
「越淡麗」は、新潟県生まれの酒造好適米です。新潟県で広く栽培されている「五百万石」は高精白にはあまり向かないため、精米歩合50%以下の大吟醸酒にも使える県内産の酒造好適米を目指して開発されました。
晩生で倒れやすい一方、大粒でタンパク質の含有量が少なく、小さめの線状心白を持つ「越淡麗」は、新潟県待望の高精白に耐えられる県内産酒造好適米として誕生。やわらかなふくらみのある味わいのお酒を生み出しています。
「雪女神(ゆきめがみ)」世界を目指す山形県生まれの新品種
「雪女神」は、山形県産米100%で世界に誇れる日本酒を造りたいという地元蔵元の想いに応えるため、開発されました。
平成29年に品種登録されたばかりの「雪女神」は、純米大吟醸酒や大吟醸酒といったハイクラスの日本酒の原料米として誕生。全国新酒鑑評会の出品酒にもすでに使用され、いくつかの蔵元では金賞を受賞しています。
心白が小さく50%以上の高精白が可能で、タンパク質含有量が少ない「雪女神」は、「山田錦」に引けを取らないきれいな酒質に仕上がると評判です。
「吟風(ぎんぷう)」北海道から全国へ
北海道産の酒造好適米第2号。第1号の「初雫(はつしずく)」は心白の発現率が低くかったことから、やや大粒で心白発現率が高く、心白が大きくはっきりした見た目の「吟風」の誕生は北海道にとって待ち望まれてきたものでした。
吟醸酒のイメージでつけられたという名前のとおり、芳醇な香りのお酒が醸されます。
また「吟風」は、北海道産米を原料とした酒造りが広がるきっかけとなった品種としても知られています。
お酒選びに迷ったときには、個性豊かな酒造好適米に注目して日本酒をチョイスみるのもおすすめです。同じ銘柄で原料米が違うパターンや、原料米が同じで蔵元が違うパターンなど、さまざまなたのしみ方を試してみてくださいね。