「生酛(きもと)」造りは稀少な日本酒、そのワケは? 【日本酒用語集】

「生酛(きもと)」造りは稀少な日本酒、そのワケは? 【日本酒用語集】
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「生酛」や「生もと」とラベルなどに書かれた日本酒を見たことがあるでしょう。よく見かけるけれど、きちんと理解している人は意外に少ない「生酛」。その定義や特徴などを、わかりやすく紹介していきます。

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「生酛」とは、そもそも何?

「生酛」とは、そもそも何?

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「生酛造り」は昔ながらの伝統的な日本酒造りの技法

「生酛(きもと)造り/生もと造り」と呼ばれる製法で醸した日本酒が、愛好家を中心に注目を集めています。
「生酛造り」には、手間を惜しまず、昔ながらの伝統的な手法による酒造りとのイメージがありますが、具体的にはどのような手法でしょう? その定義を理解するために、まずは「生酛」という言葉の意味から説明してきましょう。

「生酛」の「酛」は、酒造りの母=「酒母」のこと

「生酛」の「酛」という漢字は、見てのとおり「酒」の「元」を意味していて、同様に「酒の母」を意味する「酒母(しゅぼ)」のことです。
酛、すなわち酒母とは、酒造りに欠かせない酵母を大量に培養したもの。日本酒は、原料となる米から、デンプンを糖に変える米麹(こめこうじ)と、糖をアルコールに変える酒母(酛)を造り、この3つを仕込み水に入れて、日本酒のもとになる醪(もろみ)を醸造します。

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「生酛造り」は、天然の乳酸菌を取り込んだ酒母造りの技法

酛(酒母)は、蒸米と米麹に少量の酵母を加えて培養しますが、ここで重要なのが適量の「乳酸」を含ませること。乳酸には、酒母を酸性に保ち、酵母を育てるとともに、雑菌を抑えるはたらきがあるのです。
酛(酒母)に乳酸を含ませるにあたり、蔵の空気中にある天然の乳酸菌を取り入れて、じっくり時間をかけて増やすのが「生酛造り」。江戸時代に確立されたとされる、伝統的な酒造りの技法です。

生酛造りの日本酒が稀少なそのワケは?

生酛造りの日本酒が稀少なそのワケは?

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生酛造りには多くの手間と時間がかかる

生酛造りは、江戸時代から続く伝統的な製法ですが、近年、この製法を守り続けている蔵元は非常に少なくなっています。その理由は、多大な時間と手間を要するからです。
生酛造りでは、天然の乳酸菌を取り込み、じっくりと酵母を育てるため、酒母(清酒造りのベースとなるのも)の完成までに約4週間もの時間がかかります。その間の作業負担も大きく、なかでも2~3人がひと組で米と麹を混ぜ合わせ、すり潰す「山卸(やまおろし)」は、大変な重労働でした。
このため、山卸の工程を略した「山廃(やまはい)造り」と呼ばれる手法が派生しましたが、それでも約4週間を要することに変わりはありませんでした。

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「生酛」の日本酒は、今では全体の1割!?

生酛造りの負担の大きさから解放され、より効率的な酒造りを実現するため、明治以降になって確立されたのが「速醸酛(そくじょうもと)/速醸酒母」と呼ばれる酒母造りです。
人工の乳酸を添加して酒母を仕込むことで、約2週間で酒母造りが完了し、品質も安定しやすいことから、速醸酛に切り替える蔵元が急増。生酛造りは次第に姿を消してしまいました。
現在では、速醸酛、山廃、生酛の割合が、90:9:1と言われているほどで(※)、非常に希少な存在となっています。

※出典:J.S.A.SAKE DIPLOMA教本(一般社団法人日本ソムリエ協会)

「生酛」の日本酒の特徴とたのしみ方

「生酛」の日本酒の特徴とたのしみ方

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生酛造りの日本酒にしか出せない魅力とは?

生酛造りの日本酒が少なくなったとは言え、今も守り続けている蔵元も存在します。それは、生酛造りにしか出せない独特の魅力があるからです。
生酛造りの日本酒の特徴は、コクとキレのある辛口の飲み口や、奥行きのある香味など。これは、厳しい環境下で、さまざまな微生物の影響を受けて造られた酵母のたくましい生命力によるものです。

生酛造りと速醸酛造りで日本酒の味にも違いが

速醸酛で育った酵母は、発酵末期のアルコール度数が高まった環境下では死滅しやすく、雑味成分をもたらしがち。しかし、生酛で育った酵母は最後まで生き残り、余分な糖分を残さず発酵するため、キレがよく、雑味成分が少なくなると言われています。

生酛造りの日本酒をおいしく味わうなら

生酛造りの日本酒ならではの野性的で力強い味わいは、「燗上がり」と言って、燗にするとより魅力を発揮します。
濃醇かつ複雑な味わいは、味つけが濃い料理にも負けないので、食中酒としてもオススメです。

「生酛」造りの大変さと魅力が少し伝わったでしょうか。時間も手間もかかりますが、生酛のよさを次世代に伝えようとこだわる蔵元があります。ぜひ飲んでみてください。

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