ウイスキーの製造方法【モルトウイスキー編】 製麦から瓶詰めまでの工程を詳しく解説
モルトウイスキーの製造方法は、原料の大麦麦芽(モルト)から造ったもろみを蒸溜して、木製の古樽で熟成させるという流れが一般的です。今回は、スコッチウイスキーを例に モルトウイスキーの製造方法について、製麦から瓶詰めまでの工程を紹介します。
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ウイスキーとはどんなお酒なのかおさらいしておこう
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モルトウイスキーの製造方法を紹介する前に、ウイスキーとはどんなお酒なのかをかんたんにおさらい。スコッチウイスキーについても改めてみていきます。
そもそもウイスキーとは?
ウイスキーは、大麦麦芽(モルト)やトウモロコシ(コーン)などの穀類を原料に、単式蒸溜機や連続式蒸溜機で蒸溜して造られる蒸溜酒のひとつ。その定義は国によって異なりますが、一般的には、原料の穀類を仕込んで糖化、発酵させ、蒸溜して得た無色透明のスピリッツ(ニューポット/ニューメイク)を木樽に詰めて熟成させたものをウイスキーと呼びます。
ウイスキー市場の中心に位置するスコッチウイスキー
数あるウイスキーのうち、スコッチウイスキー(スコットランド)やアイリッシュウイスキー(アイルランド)、アメリカンウイスキー(アメリカ)、カナディアンウイスキー(カナダ)、ジャパニーズウイスキー(日本)は、「世界5大ウイスキー」と呼ばれています。
5つの生産国のなかでもスコットランドは、ウイスキーの発祥をアイルランドと争うほど古くからウイスキー造りが盛んに行われてきた名産地です。生産量は世界でもトップクラスを誇り、ウイスキー市場の中核をなしています。
スコッチウイスキーは製造方法により3種類に分類される
スコッチウイスキーは製造方法によって、大麦麦芽のみを原料としたモルトウイスキーと、トウモロコシなどの穀類を原料としたグレーンウイスキー、この2つをブレンドしたブレンデッドウイスキーの3種類に分類されます。
モルトウイスキーは香味成分が豊かで個性が強く、グレーンウイスキーはクリアで穏やか、両者を掛け合わせたブレンデッドウイスキーは、個性と飲みやすさを併せ持っているのが一般的な特徴です。
今回はこのうちのモルトウイスキーの製造方法にフォーカスして、造り方の工程を紹介します。
モルトウイスキーの製造方法
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モルトウイスキーの製造は、製麦という工程から始まります。瓶詰めまでの一連の流れを、順を追って説明していきます。
製麦・仕込み・発酵
まず製麦工程で大麦麦芽を作り、粉砕した麦芽に温水を加えて 糖化させ、そこに酵母を加えて発酵させてもろみ(発酵液)を造ります。
【製麦(モルティング)】
モルトウイスキーの主原料である大麦から、大麦麦芽(モルト)を作ります。一般的な製麦工程は、大麦の収穫に始まり、風乾、保管、選粒、浸麦、発芽、乾燥、除根の順に進めていきます。
収穫後、乾燥させた大麦を1~2カ月ほど保管したのち、粒の大きさ別に分けて仕込み水に浸します。数時間おきに水を抜いて空気にさらし、再び水に浸すことを繰り返す作業を数日間行い、大麦から根が出てきたら発芽室に運びます。床などに並べた大麦を攪拌(かくはん)して空気に触れさせる作業を5日から1週間ほど続けて発芽を促し、値が一定の長さまで伸びたら、発芽を止めるために熱源を当てて乾燥させます。
伝統的な製法では、水に浸した大麦を攪拌して発芽させる「フロアモルティング」という作業を職人が行い、発芽した大麦は「キルン」と呼ばれる乾燥塔でピートを焚いて乾燥させます。ただし、近年は製麦専門のモルトスターという業者から大麦麦芽を仕入れるのが一般的で、製麦を行っている蒸溜所は、スコットランドでも数少なくなっています。
なお、大麦をわざわざ麦芽にする理由は、大麦のままでは糖化・発酵しにくいため。大麦を発芽させることで糖化酵素が活性化して、大麦が糖化に適した状態になるといわれています。
【仕込み(糖化/マッシング)】
仕込みの工程では、大麦麦芽に温水を加えて 糖化させ、「麦汁(ウォート)」を抽出します。
「マッシュタン」と呼ばれる糖化槽に、ゴミなどを取り除いて粉砕した麦芽と温めた仕込み水を入れて攪拌し、おかゆ状にします。麦芽をおかゆ状にすると、酵素が働き出し、デンプンが低分子の糖へ分解されます。
糖化を終えたのち、ろ過して「ウォート」と呼ばれる麦汁を抽出します。抽出した麦汁は、冷却して20度程度まで冷やします。
麦汁の中には、糖類やアミノ酸、ビタミン、ミネラル、酵素類、麦芽やピート由来の成分などが含まれていて、さまざまな香味成分を生じさせるもとになるといわれています。
また近年の研究では、麦汁の清澄度が蒸溜で得られるニューポット(ニュースピリッツ)の酒質に関係していることが明らかになっています。清澄度が高いと香気成分であるエステル量が多く軽やかな酒質に、清澄度が低いとエステル量が少なく重みのある酒質になりやすいようです。
【発酵】
発酵工程では、酵母を加えてアルコール発酵させ、アルコール分7~9%ほどのもろみ(発酵液)を造ります。
仕込みの段階で冷却した麦汁を「ウォッシュバック(発酵槽)」に移し入れます。一般的にステンレス製のウォッシュバックが使われますが、伝統的な木桶を使う蒸溜所もあります。
麦汁の入ったウォッシュバックの中に酵母を加えて発酵させます。酵母には麦汁に含まれる糖類を、アルコールと二酸化炭素に分解する働きがあります。酵母の働きが終わると乳酸菌などが働き出して、残った糖類を分解して香味を生みます。
なお、酵母の種類やその土地に生息する乳酸菌の種類によって、さまざまな香気成分が生まれるといわれています。
蒸溜・熟成・ブレンド
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次に、もろみを蒸溜して得た蒸溜液を、木樽に詰めて熟成させ、ブレンドして酒質を調整します。
【蒸溜】
蒸溜工程では、発酵工程で造ったもろみを、蒸溜機で蒸溜して蒸溜液を抽出します。蒸溜液は、ニューポットまたはニュースピリッツと呼ばれます。
蒸溜とは、水とアルコールの沸点の差を利用して、アルコール成分を分離・濃縮させる技術。水の沸点は100度、アルコールの沸点は約78.3度なので、先に揮発した蒸気を冷やすとアルコール分の高い液体を抽出することができます。この時点でのアルコール度数は、65~70%ほどです。
蒸溜に使う蒸溜機は、モルトウイスキーの場合、銅製で丸い形の「単式蒸溜機(ポットスチル)」を使うのが一般的。単式蒸溜機は、1回ずつ蒸溜を行うタイプの蒸溜機で、原料由来の成分が残りやすいのが特徴です。
スコットランドのモルトウイスキーでは、単式蒸溜機にもろみを入れて蒸溜する作業を2回繰り返すのが一般的で、1回目を初溜、2回目を再溜といいます。
なお、例外的にオーヘントッシャン蒸溜所の銘柄「オーヘントッシャン」とスプリングバンク蒸溜所の銘柄「ヘーゼルバーン」は、3回蒸溜で造られています。ちなみに、3回蒸溜はアイリッシュウイスキーの伝統製法で、今ではほとんど見られませんが、タラモアデューやジェムソンなどの製造工程ではこの伝統を守り続けています。
【熟成(マチュレーション)】
熟成工程では、ニューポットに加水してアルコール度数を63%前後に落とし、貯蔵樽(カスク)に詰めて熟成させます。できたてのニューポットは無色透明ですが、貯蔵庫で長期間熟成させることで、樽由来の成分が液体の中に溶け出し、美しい琥珀色へと変化します。
貯蔵樽には、バーボンの貯蔵に使用したバーボン樽またはシェリー樽を使うのが一般的です。
熟成はウイスキーらしさを形作るうえで欠かせない重要な工程です。使用する樽の種類や大きさ、貯蔵庫のタイプや場所、熟成期間など、さまざまな条件が重なり合うことで、ウイスキーの香りや味に多様な個性が生まれます。
【ブレンド】
ウイスキーの仕上げの工程で行われるのがブレンドです。ブレンドの工程では、「ブレンダー」と呼ばれる職人が、原酒をブレンディングまたはヴァッティングして味わいを調整します。
なお、モルトウイスキー原酒とグレーンウイスキー原酒をブレンドすることをブレンディング、モルトウイスキー原酒同士またはグレーンウイスキー原酒同士をブレンドすることをヴァッティングといいます。
後熟(こうじゅく)・加水・瓶詰め
ブレンド後に再び樽に詰めて熟成させる場合もあります。この工程を終えたら、加水してアルコール度数を調整し、最終工程の瓶詰めに移ります。
【後熟(マリッジ)】
ブレンド後に、再び樽に詰めて熟成させることを「後熟(マリッジ)」といいます。本来はブレンデッドウイスキーの製法で使われる言葉でしたが、モルトウイスキー同士をヴァッティングした場合にも用いられています。
後熟は、ブレンドした複数の原酒をしっかりとなじませることで、風味を高めて品質を安定させるために行われます。後熟期間は、一般的に数カ月から1年ですが、長いものだと2年ほど寝かせるものもあります。
【加水】
加水の工程では、瓶詰め前のウイスキーに水を加え、アルコール濃度を40~43%程度に調整します。スコッチウイスキーでは、瓶詰め時の最低アルコール度数は40%と定義されているため、これ以下になることはありません。
ウイスキーのなかには加水せずに瓶詰めされるものもあります。加水していないカスクストレングスやシングルカスクのアルコール度数は約60%。無調整ならではの力強い味わいがたのしめるため、ツウに好まれています。なお、カスクストレングスは一切加水せずに瓶詰めされますが、シングルカスクのなかには加水したものもあります。
【瓶詰め(ボトリング)】
完成したウイスキーを瓶に詰めます。このとき、一般的には澱(おり)や白濁を取り除く「冷却ろ過(チルフィルタリング)」という作業が行われます。
一方で、発酵や樽由来の成分を少しでも味わえるように、あえて冷却ろ過を行わずに瓶詰めされるものもあります。これらは「ノンチル(ノンチルフィルター)」と呼ばれます。
ちなみに、ワインとは異なり、ウイスキーは瓶詰め後に熟成が進むことはほとんどありません。
モルトウイスキーの製造方法を改めて見返してみると、じつに多くの工程を経て造られていることがわかります。これを機に、グレーンウイスキーやほかのウイスキーの製造方法を調べてみれば、よりいっそうウイスキーに対する理解が深まりそうですね。