アイラ生まれのシングルモルトウイスキー「アイラウイスキー(アイラモルト)」の魅力
アイラウイスキー(アイラモルト)とは、スコットランドのアイラ島で造られているスコッチウイスキーのこと。「スコッチの聖地」と呼ばれるアイラ島には魅力的な銘柄が揃っています。今回は、アイラウイスキーの特徴や歴史、選び方、飲み方などを紹介します。
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アイラウイスキーとは
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スコットランドのアイラ島で育まれている、アイラウイスキーの特徴や歴史から紹介します。
「スコッチウイスキーの聖地」と呼ばれるアイラ島生まれのウイスキー
アイラウイスキーは、スコッチウイスキーの6大産地のひとつアイラ島で生産されているシングルモルトウイスキーの総称です。「アイラモルト」とも呼ばれ、際立つ個性を持つ銘柄が多いことで知られています。
アイラウイスキーを育むアイラ島は、スコットランドの北西に連なるヘブリディーズ諸島の最南端に位置する島です。面積は約600平方キロメートルと日本の淡路島ほどの大きさで、島で暮らす約3,500人の住民の多くがウイスキー産業に携わっているといわれています。
アイラ島は「スコッチの聖地」や「スコッチウイスキーの聖地」と呼ばれますが、その理由は、この地にアードベッグやボウモア、ラフロイグ、ラガヴーリン、ブルックラディ(ブルイックラディ)、カリラ、ブナハーブン、キルホーマンと、スコッチウイスキーを代表する名門蒸溜所が集中しているからです。
名だたる蒸溜所が生み出すアイラウイスキーの味わいは、世界中のウイスキーラバーを惹きつけてやみません。
アイラウイスキーはスモーキーなピート香とヨード香が特徴
アイラウイスキーの最大の特徴は、スモーキーなピート香やヨード香にあります。これにはアイラ島の環境が大きく影響しています。
アイラ島は、島の約4分の1が厚いピート(泥炭)層で覆われた島で、古くから島の恵みともいえるピートがウイスキー造りに盛んに活用されてきました。スコッチウイスキーを象徴するピート香は、麦芽の乾燥時にピートを焚(た)き込むことで生まれますが、ピートが豊富なアイラ島では、ほかの地域よりも比較的ピートの使用量が多いのが特徴です。それに加えて、ピート層を通過した水を仕込み水としている蒸溜所が多いため、ピート香の強い銘柄が目立ちます。
また、海に囲まれたアイラ島のピートには、潮風によって運ばれた海藻などが多く含まれているのも特徴のひとつ。これを麦芽の乾燥に用いることで、「潮風が香るヨード臭(ヨードチンキのような匂い)」や「クレゾールのような薬品臭」などと表現される、強烈なヨード香がウイスキーにもたらされています。
もうひとつ特筆しておきたいのは、アイラ島の蒸溜所のほとんどが海沿いに建てられているということ。強い潮風が吹きつける熟成庫で長い年月をかけて熟成されるため、アイラウイスキーには潮っぽさを感じられるものが多いのも特徴となっています。
アイラウイスキーの歴史
隣国アイルランドからほど近い場所にあるアイラ島では、スコットランドのなかでも早くからウイスキー造りが行われてきたといわれています。
スコットランドはアイルランドと発祥を争うほどウイスキー造りの古い歴史を持つ国ですが、ウイスキーの製造方法は、アイルランドからスコットランドに伝わったという説が有力視されています。そのため、スコットランドでは、アイルランドに近いアイラ島で最初にウイスキー造りが始まったといっても、あながち間違いではないかもしれません。
アイラ島では2024年9月現在、10の蒸溜所が稼働しています。そのうち、もっとも古い蒸溜所は1779年創業のボウモア蒸溜所です。次いで19世紀になって、1815年にアードベッグ蒸溜所とラフロイグ蒸溜所、1816年にラガヴーリン蒸溜所、1846年にカリラ蒸溜所、1881年にブナハーブン蒸溜所とブルックラディ蒸溜所が創業。時代は下り、21世紀に入ってからも、2005年にキルホーマン蒸溜所、2018年にアードナッホー蒸溜所と、蒸溜所の新設が続いています。また、1824年に設立され、1983年から2度目の閉鎖となっていたポートエレン蒸溜所は、2024年3月に稼働を再開しています。
アイラ島でウイスキー造りが盛んな理由として、ピートや水に恵まれていること、ウイスキー造りに適した環境が整っていることなどが挙げられますが、その反面、アイラ島は主原料である大麦の生産にはあまり適していないともいわれています。しかし、近年は、キルホーマン蒸溜所やブルックラディ蒸溜所が大麦の生産を手掛け、アイラ産大麦100%のシングルモルトウイスキーも造られるようになっています。
アイラウイスキーの選び方
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ここでは、アイラウイスキーの選び方をいくつか紹介します。
蒸溜所の個性で選ぶ
アイラウイスキーの魅力は、蒸溜所ごとに個性の強い銘柄をたのしめること。シングルモルトウイスキーの風味には、蒸溜所の立地が大きく影響するといわれていますが、同じアイラ島内で造られていても、大麦の種類やピートの採取地、ピートを焚き込む量、仕込み水の採水地など、原料や材料が異なれば風味も変わってきます。
また、蒸溜所それぞれの製法へのこだわりも、香りや味わいに影響します。たとえば、ボウモアやラフロイグなどでは製麦工程で伝統的なフロアモルティングを採用していたり、アードベッグでは蒸溜設備に精溜器を設置していたりと、蒸溜所ごとに独自の製法を取り入れています。個性あふれるアイラウイスキーは、造り手のさまざまな工夫から生まれているのです。
以下で、各蒸溜所の特徴をかんたんに紹介します。選ぶときの参考にしてみてください。
【ボウモア蒸溜所】
アイラ島の中央にある、アイラ島内最古の蒸溜所。「ボウモア」はスモーキーさがありながら、華やかな香りやまろやかな口当たりを備えたバランスのよい味わいで、「アイラの女王」と称えられています。アイラモルトの初心者にもおすすめ。
【アードベッグ蒸溜所】
アイラ島南岸・ポートエレンの東側に位置する蒸溜所。アイラウイスキーのなかでもスモーキーさが強く際立ち、通好みのクセのある味わいが特徴です。世界中に熱狂的ファンがいることでも有名。
【ラフロイグ蒸溜所】
アイラ島南岸・ポートエレン港からほど近い場所にある蒸溜所。「ラフロイグ」には強烈なヨード香があるため好みが分かれます。1994年に、シングルモルトウイスキーでは初めて王室御用達の認定を受けていて、「アイラの王」と称えられています。
【ラガヴーリン蒸溜所】
アイラ島南岸・ラフロイグの隣にある蒸溜所。「ラガヴーリン」は「アードベッグ」に並ぶほどスモーキーさが際立ち、強烈なヨード香も感じられます。こちらも熱狂的な愛好家の多い銘柄です。
【カリラ蒸溜所】
アイラ島北部にある蒸溜所。「カリラ」はアイラらしいスモーキーさに加えて、フルーティーな甘味も感じられるのが特徴です。また、スパイシーで辛口の味わいを持つ銘柄もあります。
【ブナハーブン蒸溜所】
アイラ島でもっとも北の人里離れた場所にある蒸溜所。基本的にピートを焚かないモルトを使い、仕込み水にはピート層をとおらない川上の水を使用しているため、ピート香が軽めで飲みやすいのが特徴です。
【ブルックラディ蒸溜所】
アイラ島の西方、ボウモア蒸溜所の対岸に佇む蒸溜所。「アイラ島産」にこだわり、原料の調達からボトリングまですべて島内で完結させています。基本的にピートを焚かず、ライトな味わいが特徴ですが、近年はピートを焚いたモルトも生産しています。
【キルホーマン蒸溜所】
アイラ島西部にある蒸溜所で、唯一海岸沿いではなく内陸部に建っています。アイラウイスキーらしいスモーキーでピーティーな味わいが特徴で、大麦の栽培からボトリングまで、すべてアイラ島内で行ったボトルもリリースしています。
【アードナッホー蒸溜所】
アイラ島北部、ブナハーブンとカリラの真ん中くらいにある蒸溜所。2018年に蒸溜を開始した新しい蒸溜所なので、長期熟成されたものはまだ味わえませんが、アイラ島らしいピート香をたのしめるウイスキーが造られています。
【ポートエレン蒸溜所】
1824年に設立され、かつてはブレンデッドウイスキーにスモーキーな要素を与える役割でした。1930年に閉鎖され1967年まで休業、復活するも1983年に再閉鎖、その後ディアジオ社により2024年3月に蒸溜を再開した、いま注目の蒸溜所です。
ピートの香りや味わいの強さで選ぶ
アイラウイスキーを選ぶ基準はいくつかありますが、アイラウイスキーに特徴的なピートの風味の強弱で選ぶのも手です。一般的にアイラウイスキーは、北はピート香が軽く、南は重いといわれます。
麦芽に焚き込まれたピートの強さは、ppmという単位で表されるフェノール値で知ることができます。通常、10ppm以下はライトピート、約25ppmはミディアムピート、約40~50ppm以上はヘヴィリーピーテッドに分類されます。一方、ピートを焚いていないものは、ノンピーテッドといいます。
フェノール値が高ければ、ウイスキーのピート香が必ずしも高くなるというわけではありませんが、フェノール値を知ればウイスキーを選ぶ際の参考になります。
アイラウイスキーでいうと、ほどよいピート香をたのしむなら約25~30ppmの「ボウモア」、ピート香が強いものを求めるなら50ppmを超える「アードベッグ」や「ラフロイグ」「ラガヴーリン」、ピート香が極力少ないものが好みなら、ノンピーテッドの「ブナハーブン」や「ブルックラディ」の銘柄から選んでみてはいかがでしょう。
アイラウイスキーの飲み方
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アイラウイスキーのおすすめの飲み方を紹介します。
シンプルに香りをたのしむ
アイラウイスキーはピート香やヨード香などの香りが特徴的なものが多いので、まずはシンプルに香りをたのしめる飲み方で味わうのがおすすめです。
ストレートはもちろん、スポイトなどで常温の水を1滴ずつ加えてたのしむワンドロップや、ウイスキーと常温の水を1:1の比率で飲むトゥワイスアップ、大きめの氷を入れて飲むオン・ザ・ロックなどで、立ち上る香りをじっくりと満喫してみてくださいね。
ウイスキーはアルコール度数が高いので、チェイサーを用意することも忘れずに。
カクテルでたのしむ
アイラウイスキーはカクテルでもたのしめます。スコッチウイスキーをベースとしたカクテルレシピはいくつかありますが、それらはスコッチウイスキーの一種であるアイラウイスキーで作っても、おいしくたのしめるはずです。
たとえばスコッチウイスキーに、スイートベルモットとアロマティックビターズを加えれば「ロブ・ロイ」、アマレットを加えれば「ゴッドファーザー」、レモンジュースとシロップを加えてソーダで割れば「スコッチコリンズ」、レモンまたはライムジュースとジンジャーエールで割れば「マミーテイラー(スコッチ・バック)」になります。
また、ソーダや炭酸水で割るハイボールもカクテルのひとつなので、気軽にたのしむならハイボールで飲むのもおすすめ。
ベースとなるアイラウイスキーの種類を変えて、味わいの違いを飲み比べてみるのもたのしそうですね。
アイラウイスキーのおすすめ銘柄
アイラウイスキーには魅力的な銘柄がたくさんありますが、ここでは、比較的入手しやすい2銘柄を紹介します。
ラフロイグ
サントリーホールディングス株式会社「ラフロイグ」公式サイト
「アイラの王」と称される「ラフロイグ」には、アイラらしいスモーキーフレーバーに加えて強烈なヨード香があるのが特徴。オイリーで濃厚な味わいや、ドライな後味もたのしめます。独特の強い個性を持ち、好みが分かれるといわれますが、ハマる人はとことんハマる銘柄です。
輸入販売元:サントリースピリッツ株式会社
公式サイトはこちら
ボウモア
サントリーホールディングス株式会社「ボウモア」公式サイト
「アイラの女王」の名にふさわしく、洗練されていてバランスのよい味わいをたのしめるのが「ボウモア」。なめらかな口当たりがピート香をやさしく包み込んでいるので、初心者でも比較的飲みやすいのが特長です。アイラウイスキーが初めての人は、ボウモアから飲み始めてみてもよいかもしれませんね。
輸入販売元:サントリースピリッツ株式会社
公式サイトはこちら
「ウイスキーの聖地」と呼ばれるアイラ島には、世界中のファンをとりこにする個性豊かな人気銘柄が揃っています。アイラらしさを象徴するピート香にも強弱があるので、ぜひ複数の銘柄を試してアイラウイスキーの魅力を探ってみてくださいね。