「粕取り焼酎」とはどんな焼酎? その魅力に迫る【焼酎用語集】
「粕取り焼酎(酒粕焼酎)」と呼ばれる焼酎を知っていますか? 芋焼酎や米焼酎、麦焼酎などと比べると、知名度は低いかもしれませんが、稲作の盛んな北九州などで多く造られ、その独特な味わいが人気です。そんな粕取り焼酎の魅力を紹介しましょう。
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「粕取り焼酎」の原料、酒粕とは?
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「粕取り焼酎」とは酒粕を原料に造られる焼酎
「粕取り焼酎」は、「酒粕焼酎」とも呼ばれるように、酒粕を原料に造られる焼酎です。
酒粕とは、日本酒造りの過程でできる醪(もろみ)を搾ったあとに残ったものを指します。いわば日本酒の副産物である酒粕には、お米や酵母の旨味成分や栄養分が豊富に含まれています。このため、粕汁などの料理に活用されるほか、美容成分を活かして化粧品にも用いられています。
醪からアルコールを含んだ水分を取り出したものが日本酒になりますが、酒粕にもアルコール分が8%ほど残っています。これを抽出して造るのが粕取り焼酎です。
粕取り焼酎は稲作や日本酒造りと密接なかかわりが
粕取り焼酎が造られるのは、福岡や佐賀など稲作が盛んな北九州が中心です。もともと酒粕は稲作の肥料としても活用されていましたが、肥料に加工する過程で偶然、生まれたのが粕取り焼酎だといわれています。このため北九州などでは、古くから田植えの労をねぎらうための「ふるまい酒」として親しまれてきました。
また、酒粕は日本酒の副産物なので、日本酒の蔵元が造るケースも多く見られます。このように、粕取り焼酎は稲作文化、日本酒文化と密接なかかわりを持つ焼酎といえるでしょう。
粕取り焼酎は戦後の粗悪な「カストリ焼酎」とは無縁のもの
粕取り焼酎に対し、戦後の闇市などで売られていた「カストリ焼酎」のイメージを重ねて、粗悪品のイメージを持つ人もいるかもしれませんが、これはまったくの誤解です。
戦後の混乱期に、原料不足から工業用アルコールなどを原料にした粗悪な密造酒が横行し、「カストリ焼酎」と呼ばれましたが、この呼び名は語呂合わせのようなもので、本来の粕取り焼酎とは無関係。粕取り焼酎はもちろん、焼酎全体にマイナスイメージを持つカストリ焼酎は、今では歴史の陰に消え去っています。
「粕取り焼酎」の人気は上昇中、その理由とは?
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粕取り焼酎の魅力は、凝縮された米や酵母の味わい
粕取り焼酎には、酒粕に含まれる米の甘味や酵母の旨味などが凝縮され、芳醇な味わいがたのしめます。加えて、酒粕ならではの香ばしい香りも、粕取り焼酎の魅力といえるでしょう。
クセのある独特の香りから、通好みの焼酎として愛されてきた粕取り焼酎ですが、一方で、この香りを敬遠する人も少なくありませんでした。近年になって、クセを抑えて飲みやすくし、さらに香りを高めた新製法の粕取り焼酎が誕生したことで、粕取り焼酎の人気が拡大しつつあります。
粕取り焼酎の2つの製造法とは?
粕取り焼酎のもともとの製法は、酒粕に、通気性をよくするためのもみ殻を混ぜて、蒸籠(せいろ)式の蒸し器で蒸溜するというもの。この伝統的な製法で造られる粕取り焼酎は「正調粕取り焼酎」と呼ばれます。
近年になった開発された新製法は、酒粕に水と酵母を加えて再発酵させてから蒸溜するというもの。「吟醸粕取り焼酎」と呼ばれ、日本酒のような吟醸香が漂い、スッキリした味わいがたのしめます。
どちらもそれぞれ異なる魅力があるので、飲み比べてみるのも一興です。
「粕取り焼酎」の人気銘柄
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粕取り焼酎の産地は米処が主体
粕取り焼酎の産地としては、福岡、佐賀など北九州が有名ですが、長野や新潟、島根、福島・会津など、全国の米どころで造られています。なかでも代表的な銘柄を紹介しましょう。
【吟香露(ぎんこうろ):杜の蔵(福岡)】
福岡県の焼酎蔵、杜の蔵(もりのくら)は、全国でも珍しい粕取り焼酎の専門蔵として明治31年(1898年)に創業。現在は日本酒の製造も手掛けています。「吟香露」は吟醸酒の酒粕のみを使った、上品でフルーティーな吟醸粕取り焼酎。若者や女性からも人気を集めています。
【SUMI(すみ)25:宮坂醸造(長野)】
宮坂醸造の「SUMI25」は、長野県を代表する日本酒「真澄(ますみ)」の酒粕で造る、吟醸粕取り焼酎。搾りたての酒粕を蒸溜窯に入れ、美酒の旨味をそのまま抽出しただけに、クセのないやわらかな味わいは絶品です。
製造元:宮坂醸造株式会社
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【御園(みその):武重本家酒造(長野)】
「御園」は厳密には粕取り焼酎ではなく、酒粕の風味を加えた米焼酎。醪を蒸溜する際に、蒸気となったアルコールが酒粕を入れた蒸籠(せいろ)を通っていくという独自製法により、独特の風味を持った焼酎に仕上げています。
粕取り焼酎は、日本酒造りの副産物である酒粕を有効活用した、ある意味で「エコロジーな焼酎」。自然の恵みを大切にする日本人の精神の象徴ともいえる味わいを、一度は味わってみてください。