日本酒の醪(もろみ)とは? 酒母との違いや、醪を造る三段仕込みの工程などをわかりやすく説明
日本酒の醪(もろみ)とは、原料をタンクなどに入れて発酵させた、白濁した液体のこと。今回は、醪の概要、醪造りの目的、酒母(しゅぼ)との違い、三段仕込みをはじめ、四段仕込みや五段仕込み、吟醸造りといった醪造りの製法の特徴などについて紹介します。
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まずは醪がどういうものかみていきましょう。
日本酒の醪(もろみ)とは?
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日本酒の醪とは、原料の蒸米(むしまい/じょうまい)・米麹(こめこうじ)・酒母(しゅぼ)・水をタンクなどに入れて、アルコール発酵させたもの。どろどろしていて泡立ちのある白濁した液体で、発酵が進むにつれ、どろどろの具合や泡の状態が変化していきます。
発酵が終了した醪を漉(こ)すと、液体と酒粕に分かれます。この液体が酒税法上の「清酒」、つまりは日本酒となります。
ちなみに、醪を漉さないものが「どぶろく」です。どぶろくは、酒税法上の「清酒」の定義から外れるため、「その他の醸造酒」に分類されます。
醪(もろみ)造りの目的と「酒母(しゅぼ)」との違い
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醪造りの目的は、本格的なアルコール発酵です。
日本酒の醪造りでは、蒸米に含まれるデンプンを、米麹に含まれる酵素によって糖化させ、その糖を微生物である酵母が食べてアルコール発酵を行います。
これは「並行複発酵」と呼ばれるもので、中国の紹興酒(しょうこうしゅ)など、米を原料とする酒造りを行う東アジア特有の発酵方法といわれています。
一方の酒母造りは、アルコール発酵に必要な酵母を培養し、増殖させることをおもな目的として行われる工程です。
酒母については、以下の記事にくわしい情報が掲載されています。ぜひ確認してみてくださいね。
醪(もろみ)造りの基本「三段仕込み」とは?
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「三段仕込み」とは、原料を3回に分けて仕込む、醪造りの基本ともいえる方法です。以下でくわしくみていきましょう。
「三段仕込み」は日本酒で主流の仕込み方法
「三段仕込み」は、日本酒造りにおいて主流となっている、醪造りの方法のひとつ。原料の蒸米、米麹、酒母、水を、4日間かけ、3回に分けてタンクなどに投入して仕込みます。
酵母には、雑菌が繁殖できない酸性の環境でも生きられるという特性があります。そのため酒母は、おもに乳酸を用いて、酸性になるように造られます。
醪造りの際、タンクなどの容器に原料の米や水を一度に入れると、容器内の酒母の濃度が一気に薄まり、酸性が保てなくなることで、雑菌が繁殖するリスクが高まります。それを防ぐため、原料を3回に分けて投入するのです。
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「三段仕込み」の具体的な工程は?
三段仕込みの工程は、4日間かけて初添え、踊り、仲添え、留添えの順に行われます。具体的にどんなことが行われているのか、順を追ってみていきましょう。
◆1日目:初添え(はつぞえ/添え仕込み)
醪(もろみ)全体の7パーセント程度に相当する酒母を入れたタンクなどの容器に、蒸米、米麹、水を加えてしっかりかき混ぜ、発酵させます。初添え時に入れる蒸米、米麹、水は、醪全体の15~20パーセント程度が目安とされます。
◆2日目:踊り
何も加えず、よくかき混ぜて酵母が増殖するのを待ちます。
◆3日目:仲添え(なかぞえ/仲仕込み)
醪全体の30パーセント程度に相当する蒸米、米麹、水を加えます。仕込み量はこれで全体の半分ほどとなり、発酵がさらに進みます。
◆4日目:留添え(とめぞえ/留仕込み)
残りの蒸米、米麹、水を投入し、仕込みは完了。その後、3~5週間ほどかけてアルコール発酵が行われます。
アルコール発酵中の醪には発酵熱が生じることから、温度管理が重要となります。温度は一般に15度前後かそれ以下になるよう調節されます。
醪(もろみ)の仕込み方は香味に影響する?
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仕込み方法など、醪の造り方の違いは、日本酒の香りや味わいに大きな影響を与えます。
甘味が増す「四段仕込み」
甘味を増したいときには、仕込みの回数を増やした「四段仕込み」が行われます。
四段仕込みは、三段仕込みが終了した上槽(じょうそう/醪〈もろみ〉を搾って日本酒と酒粕に分ける工程)前の醪に、さらに原料を加えて仕込むもので、「蒸米四段」「粕四段」「酵素四段」など、加える原料によっていくつか種類があります。
上槽前の醪は、発酵で生み出されたアルコールによって酵母が働かなくなっている状態です。酵母が働かないと、酵母のえさとなる、デンプンの糖化などでできた糖が醪のなかにそのまま残り、アルコール発酵も行われないため、醪に甘味がもたらされます。
なお仕込みの回数は、四段仕込みがいちばん多いわけではありません。四段仕込みよりもさらに仕込み回数を増やした「五段仕込み」や「十段仕込み」も存在します。
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華やかな香りを生む低温仕込みの「吟醸造り」
醪造りの際の、アルコール発酵するときの温度は、香りや味わいに影響を与えます。
なかでも華やかな吟醸香を生むことで知られているのが、よく磨いた米を、フルーティーな香りを生成する酵母を使って、10度前後の低温でゆっくり発酵させる「吟醸造り」です。
吟醸造りは、低温によるストレスを受けると吟醸香のもととなるエステルを生成するという酵母の特性を活かした製法で、特定名称酒の「吟醸酒」「大吟醸酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」の要件のひとつになっています。
一方、濃醇な味わいの日本酒を造る場合には、醪造りの際の温度は15~18度くらいが目安とされるようです。
日本酒の醪そのものを目にする機会は、普段の生活のなかではほとんどないかもしれません。しかし、日本酒造りの重要な工程を表した「一麹、二酛、三造り」という言葉にも、「造り」として醪造りがピックアップされています。旨い日本酒の陰には、よい醪あり。銘酒を味わいながら、各蔵元の酒造りに思いをはせてみるのもよいでしょう。