「灘五郷」を訪ねました<後編> 若手が語る灘の今と未来。各蔵おすすめ銘柄にも注目!
都道府県別日本酒生産量第1位の兵庫県を支えてきた「灘五郷(なだごごう)」の探訪後編。前編では、阪神地方の海岸地域に広がるこの生産地の酒造りの特徴や魅力をレポートしました。今回はフードジャーナリストの里井真由美さんをゲストに迎え、未来を担う若手のみなさんに「灘の酒」の魅力と課題やおすすめ銘柄について語っていただきました。
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灘五郷の今は? これからは? 若手はどう捉えているのですか?
今回灘五郷のあまたある酒蔵を代表して参加していただいたのは、『大関』『菊正宗』『沢の鶴』『日本盛』『白鶴』の5蔵の若手の方々。ふだんはライバル関係にあるといっていいみなさんですが、「灘の酒」を思う熱い気持ちは同じようです。
清酒生産量全国1位の兵庫県。 その中心地「灘五郷」を訪ねました<前編>
日本一の生産量を誇る“灘のお酒”が勢揃い! 「灘の酒フェスティバル2017in銀座」取材レポート
若手のみなさんに語っていただきました ※酒蔵名50音順
「大関」
菅野洋一朗さん
自分で小鉢肴を作って飲むのが好きです。
「菊正宗酒造」
板井啓さん
趣味は釣り。釣ったアジなどは干物に!
「沢の鶴」
青木崇史さん
カメラが好きで、仕事にも役立っています。
「日本盛」
髙野将彰さん
週末は子どものリクエストで料理作ってます。
「白鶴酒造」
佐田尚隆さん
野球観戦が大好き。もちろん阪神タイガースファン!
ゲスト:里井真由美さん
全国47都道府県、着物で世界20カ国以上を食べ歩くフードジャーナリスト。1級フードアナリストや米・食味鑑定士、唎酒師など多くの食資格を持つ。
未来座談会のスタートです ※以下敬称略
――まず灘五郷(以下、灘)の現況をどのように捉えていますか?
髙野 灘は日本酒生産地としてシェアが日本ナンバーワンということから、全国で支持されているという認識も自負もありました。でも首都圏では認知度が低く、東北地方などの地酒のほうがずっと良いイメージが持たれていることに、少なからず衝撃を受けました。
――みなさんの様子から「同感」ということころでしょうか? 課題に入る前に、まず灘の良さからお聞きしたいと思います。
青木 やはり風土と立地ですね。これらの条件が整っていることに甘えず、私たちの先達は努力を重ね良質の酒を造って広めてきました。そのことは歴史的にもきちんと裏付けされています。
菅野 その結果として、私たちのような大手といわれるメーカーがいくつも育ち、多くの人々が従事して知恵を出し合い、技術が生まれ蓄積され継承されています。そこは誇りを持っていいと思いますね。
里井 誰もが知っているナショナルブランドがずらり。風土と立地に加えて技術も揃っているからこそ、現在の地位があるのだと思います。ただその反面、ブランド名ばかりが独り歩きしてしまって、それほどお酒に詳しくない消費者には、灘という土地と結びつかない。そこに地酒ブームが来て、その希少価値の方が高まっているというところでしょう。
板井 ジレンマですね。毎日飲まれる普通酒を全国にきちんと供給してきた実績が、今はむしろネックになっている感があります。リーズナブルな酒しか取り扱っていない印象が持たれているような…。安価で良質な普通酒を安定して生産できることの価値をもっと理解していただけるといいのですが。
佐田 灘の酒は、いわば「全国酒」になってしまったんです。でも灘の酒は灘の土地でこそ生産できる唯一無二のもの。兵庫県の地酒だと思っていただきたいのですが、それを伝える方法がなかなか難しくて。
髙野 灘に限らず、酒造業界の共通認識として次世代の消費者発掘という課題も。私たちの商品を飲んでくださっている方は50歳代以上が中心。若い人の酒離れも指摘されていて、とても危機感がありますね。
――みなさん、商品開発に携わっていらっしゃいますが、この現況に対して灘全体で何ができるとお考えですか?
板井 ふだんは個々に動いていますが、メーカーが力を合わせて灘というエリア自体の認識をプラスに上げていきたいですね。例えばワインでいうとフランスのブルゴーニュ地方やボルドー地方のように。
菅野 変な表現ですが、“協力して違うもの”を造りたいですね。
青木 その言葉はとても共感できます。それぞれの企画力や技術力を駆使して多彩なコンセプトの酒を開発していけば、訴求できる範囲がぐんと広がりますよね。
佐田 揃って昔ながらの「これぞ灘」という酒を生産して販売する一方、ちょっと変わったものやとても高級なものなども手がけ、どちらも「灘らしい酒」として発信していくことが大事ではないでしょうか。
髙野 後者の観点で弊社が新たに開発した缶コーヒーと間違えられそうな外観の商品は、これまでと違ったターゲットに届いているようです。みなさんもそれぞれに新しいコンセプトのもと開発されていますよね。それを灘全体で発信していける場をより増やしていきたいです。
里井 みなさんが本来の灘の魅力を持つ酒を大切にしていくと同時に、それぞれでアプローチの重ならないアイテムを開発するということですよね。会社の垣根を超えて取り組む“灘の伝統と革新”。灘を一本の樹に例えるとより幹がしっかりすると同時に枝葉が広がっていくイメージです。その下で幸せそうにお酒を飲む人の顔が浮かんできました(笑)
灘らしい酒、チャレンジの酒…。各蔵からおすすめの銘柄を紹介
座談会で導かれたのが、すべての酒蔵をあげて取り組む“灘の伝統と革新”。というわけで、各蔵からセレクトしていただいたおすすめ銘柄を、里井さんに試飲していただきました。それぞれ左側が「これぞ灘」の1本。右側が新しい試みとして創りだした「新しい灘」の1本です。※酒蔵名50音順
大関
左/上撰 「辛丹波」
「冷や」でも「燗」でも、実力を発揮する淡麗辛口の本醸造酒。最初の口当たりはややパワフルな印象ですが、旨味を残したまますっと引くキレの良さですっきりした後口です。
里井「炊き立ての白いご飯のようなお酒。食事の最初から最後まで1本で通せるタイプです」
右/純米酒 「醴RAI」
若手技術者と杜氏が挑戦した「味わい深いコク」と「飲みやすさ」を併せ持つ純米酒。濃厚な味わいと香りが広がるのに加えて、なめらかな口当たりと長い余韻が楽しめます。
里井「とても丸みのあるボディで、鰻の蒲焼のタレのような強い味も包み込めますね」
菊正宗
左/「純米樽酒」
吉野杉を100%使用した樽に手間のかかる生酛造りの辛口酒を詰めて、杉の香りがほどよく移ったところで瓶詰め。爽やかな香りと、きりっと引き締まった喉越しが特徴です。
里井「杉のアロマがきつ過ぎず弱過ぎず…。お酒を飲みながら森林浴をしている気分です」
右/「しぼりたてギンパック」
新開発の酵母によって、大吟醸を凌ぐような清冽な香りを創出。しぼりたての酒を生のまま低温貯蔵、パック詰めするときのみ加熱処理した普通酒で毎日が贅沢に過ごせます。
里井「こんな高品質のお酒が日常使いできるのに感激。パックもスタイリッシュです」
沢の鶴
左/特別純米酒 「実楽(じつらく)山田錦」
兵庫県三木市吉川町の実楽地域で栽培された高品質の山田錦100%。精米歩合70%とあまり磨かないことで米本来の旨味を最大限演出。生酛造りによるキレの良さも感じられます。
里井「きめ細かい口当たりですが、コクにふくらみもあり燗にしても美味しいでしょうね」
右/「SHUSHU」
くせがなく飲みやすい純米酒で、食事が進むタイプ。麹の量を増やすことで酒の美味さを失わずに10.5度の低アルコール度を実現。女性が手に取りやすいボトルも評判です。
里井「軽めですがしっかり米の旨味のあるお酒。SNS映えするルックスが最高です」
日本盛
左/純米吟醸酒 「惣花(そうはな)」
通常の吟醸酒は60%のところ、55%と大吟醸酒に近い精米歩合。さらに純米のふくよかさも重なりバランスの取れた味わいは、1世紀以上も日本のハレの日を彩ってきたのです。
里井「辛口でなく旨口。王道の美味しさで、からすみや牡蠣に合わせたいと思いました」
右/「生原酒」 ボトル缶(本醸造・純米吟醸・大吟醸)
鮮度と飲み方にこだわったボトル缶は飲み切りサイズ3種。味と香りの違いが分かるよう口は広く取られています。造りたての美味しさからも日本酒の原点を理解できる生原酒。
里井「本醸造はコク、純米吟醸はフルーティ、大吟醸は華やか。違いが明確にわかりますね」
白鶴
左/特別純米酒 「山田錦」
兵庫県産山田錦100%。米の良さをシンプルに活かした辛口。最初はなめらかでやさしい口当たりですが、ゆっくりと山田錦らしいコクが現れた後に軽快にきれていきます。
里井「酸味がとてもシャープで、冷奴などあっさりした料理とは間違いなく好相性です」
右/純米大吟醸 「白鶴錦」
白鶴酒造が独自に開発した「白鶴錦」100%。「山田錦」の兄弟にあたる「白鶴錦」を50%まで精米した純米大吟醸酒は、華やかさと爽やかな香りが口中でふくらみながら広がります。
里井「米の開発や商品化に10年以上かかった努力が伝わる、複雑で奥深い味わいです」
いかかでしたか?
“灘の伝統と革新”に対する取り組みは。まだ産声をあげたばかりですが、その未来を垣間見るうえでも、これらのラインナップをぜひ楽しんでみてはいかがでしょうか。もっと灘を身近に感じていただけるはずです。
清酒生産量全国1位の兵庫県。 その中心地「灘五郷」を訪ねました<前編>
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