日本酒は肉を柔らかくする!? お酒が肉にもたらす調理効果をチェック
肉を柔らかくする方法はさまざまありますが、日本酒などのお酒で下処理をすることで、硬いお肉も柔らかく仕上げられます。今回は、肉が硬くなる原因や、日本酒で肉が柔らかくなる理由を探るとともに、同じ効果が期待できる日本酒以外のお酒についても紹介していきます。
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目次
日本酒を使えば、肉を柔らかくすることができます。余った日本酒の活用法として役立ててみてはいかがでしょう。
日本酒が肉を柔らかくするって本当?
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肉を柔らかくする方法といえば、「たたく」「圧力鍋で下茹でする」「塩麹に漬ける」などを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、下処理に日本酒(清酒)を使うのも有効な手段です。
一般的に、日本酒は料理をおいしくするといわれ、
◇コクや旨味をつける
◇肉や魚のくさみを消す
◇味をしみ込みやすくする
◇素材を柔らかくする
などの調理効果が認められています。
最後の「素材を柔らかくする」の「素材」にはもちろんお肉も含まれています。
ひとくちに日本酒(清酒)といっても、吟醸酒や純米酒、本醸造酒などの特定名称酒、普通酒などさまざまな種類があります。基本的にはどの日本酒でもお肉を柔らかくできますが、料理の味にこだわるなら、醸造アルコールを使用していない純米酒がおすすめです。
そもそも肉が硬くなる原因は?
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日本酒を使って肉を柔らかくする方法を確認する前に、肉が硬くなる原因を探っておきましょう。
肉が硬くなる原因は熱を加える調理法にあった
牛や豚など、肉類には細菌やウイルスが付着していたり、人に害を与えるウイルスや寄生虫に感染している場合があります。
このような肉を生や加熱が不十分な状態で食べると食中毒を起こすおそれがあります。この危険を回避するために行われるのが「加熱」です。
お肉の種類によっても異なりますが、イノシシやシカなど飼養管理されていない野生鳥獣の肉を生で食べるのはとくに危険で、厚生労働省では中までしっかり加熱するよう注意を促しています。
(参考資料)
厚生労働省|お肉はよく焼いて食べよう
ただし、肉が硬くなったり、パサパサになったりする原因は、この「加熱」にあるといわれています。なぜなら、熱を加えることで、肉を構成しているタンパク質が変質し、凝固してしまうからです。
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肉が加熱で硬くなるプロセス
ここで、少しだけむずかしい話をします。
食肉(筋肉)はおもに以下のタンパク質で構成されています。
◇筋原線維タンパク質
筋収縮に関わるタンパク質で、筋肉タンパク質の約50%を占めています。
◇筋形質(筋漿・きんしょう)タンパク質
筋肉の内容物のうち、線維を除く酵素などのタンパク質。肉のタンパク質の約30%を占めています。
◇肉基質タンパク質
線維をつなぐ結合組織を構成するタンパク質で、コラーゲンやエラスチンなどが含まれています。
肉を加熱すると、筋原線維タンパク質とコラーゲンが変質して収縮します。これが、肉が硬くなるおもな原因です。筋形質タンパク質は肉の硬さに大きな影響を及ぼさないものの、熱を加えることで豆腐状に固まります。
煮込み料理の場合はさらに加熱を続けることで、収縮したコラーゲンがゼラチン化し、筋繊維がほぐれやすくなって肉の食感が柔らかくなりますが、調理法によっては肉が保持していた水分が分離して肉汁として流れ出てしまい、パサついた硬い肉に仕上がります。
日本酒で肉を柔らかくするカギは「pHコントロール」
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肉を構成するタンパク質は、一度加熱して凝固すると元の状態には戻りませんが、加熱前にしっかり下処理をすれば、柔らかく仕上げることができます。
肉を柔らかくするには保水性を高めることが大事
肉を柔らかくする方法には、おもに以下のような手法が挙げられます。
(1)タンパク質細胞をほどよく分解する
(2)熟成させる
(3)肉の保水性を高める
(4)温度調節で加熱による影響を最小限に抑える
上4つのうち、日本酒の活躍が期待できるのは(3)です。一般的に、食肉は保水性が高いほどジューシーに感じられ、逆に保水性が低下すると肉汁が流れ出て線維が多く残るため、硬くパサついた食感になるといわれています。
ここからは、肉の保水性を高めるのに日本酒が役立つ理由や具体的な方法をみていきます。
ちなみに、(1)の代表的な方法として、筋を切る、たたくなどの物理的な手法や、パイナップルやキウイなどの果物やきのこ、発酵食品といったタンパク質分解酵素を使用する化学的な手法が挙げられます。比較的かんたんな方法なので、こちらも試してみてください。
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pHコントロールに日本酒などのお酒が活躍!
肉の保水性を高めるうえで、重要なポイントとなるのが、肉のpH(ペーハー/ピーエイチ)です。
pHとは、水溶液などに含まれる水素イオン濃度を表す指数。0から14までの数値で示され、真ん中の7は中性、測定値が7より小さいほど酸性が強くなり、7より大きいほどアルカリ性が強くなります。
肉の種類や部位によっても異なりますが、一般的に肉がもっとも収縮しやすいのは、pH5.5〜6付近(弱酸性)といわれています。これは筋原線維タンパク質中の陽イオンと陰イオンの絶対値が等しくなる等電点。タンパク質が収縮することにより水分が抜け出すため、保水性がもっとも低い状態になります。
肉のpHをコントロールして等電点から離すことで、保水性が高まり、肉を柔らかくジューシーに仕上げることができます。pHはアルカリ性に傾けても酸性に傾けてもどちらでもかまいません。
肉のpHコントロールには、酸性のワインやマリネ液、アルカリ性の重曹などが使われますが、肉の等電点よりもpH値が低い日本酒に漬けることでも酸性に傾けることができます。
なお、肉を構成するタンパク質は、一度加熱して凝固すると元の状態には戻りません。日本酒などを使ったpHコントロールは、加熱前の下処理として行う必要があります。
日本酒に1時間~半日程度漬けるだけ! 肉が柔らかくおいしくなる
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銘柄や商品によって違いはありますが、日本酒のpHは4.3〜4.9程度。pH2.3〜3.8程度のワインと比べると少し高めですが、pH5.5〜6の肉を酸性に傾けるには十分に役立ちます。
下処理のやり方は、肉を日本酒に漬けておくだけといたってシンプル。時間の目安は1時間から半日程度です。ただし、肉の鮮度が落ちてしまうおそれがあるので、長時間の浸漬は避けたほうがよいでしょう。
漬け方はさまざまですが、お皿やトレーなどの器に肉を入れ、ひたひたに浸るくらいに日本酒を入れるか、チャックつきのビニール袋に肉と日本酒を入れて封をするのがかんたんです。
日本酒に漬けて下処理をすることで、肉の保水性を高めて柔らかくジューシーに仕上げることができるうえ、肉の旨味もアップします。
肉を柔らかくする日本酒以外のお酒をチェック
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肉を柔らかくするために日本酒がよく使われますが、日本酒以外のお酒も役に立ちます。
ビール
ビールのpHは4〜4.4程度と、肉のpHコントロールには申し分のない数値。1時間ほど肉を浸しておくだけで保水力を高め、柔らかく仕上げることができます。
近年はビール酵母に含まれる豊富な栄養に注目が集まっていますが、ビール酵母を肉に加えることで柔らかくジューシーに仕上がり、旨味も増します。
ただし、ビール酵母の効果が期待できるのは、無ろ過(無濾過)・非加熱ビールのみ。一般的なビールは熱処理またはろ過(両方の場合も)の工程を経ているので、酵母は残っていません。
ワイン
白ワインにも肉を柔らかくする効果が認められていますが、肉料理に活躍するのはおもに赤ワイン。肉を柔らかくしてくれるだけでなく、よい香りやコク、酸味などを付与してくれます。
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焼酎
焼酎も肉を柔らかくする効果が期待できるほか、味をしみ込ませたいときにも重宝します。甲類焼酎、本格焼酎など種類は問わないので、余った焼酎があれば、ぜひ使ってみてください。
ウイスキーやブランデー
ウイスキーやブランデーにも肉を柔らかくする効果があるといわれています。日本酒と同じように肉を漬けるほか、ステーキなどの仕上げにお酒をふりかけて火をつけ、アルコール分を飛ばして香りづけをする「フランベ」という調理法に重宝します。
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料理酒
肉を柔らかくするだけでなく、コクや旨味をつけたり味をしみ込ませやすくするなど、さまざまな調理効果が期待できるのが料理酒のメリット。酒税対象外の加塩タイプと料理用清酒などの無塩タイプがあり、どちらを選ぶかで味つけが若干変わってきます。
肉を柔らかくする方法はいくつかありますが、日本酒などのお酒を使えば、旨味が増すなどプラスαの調理効果も期待できます。余ったお酒があったら、ぜひ一度試してみてください。