甘味と香りが魅力の芋焼酎、飲みやすく香ばしい麦焼酎、その違いを徹底解説
本格焼酎には芋、麦、米、そばなど、さまざまな種類が存在しますが、昭和・平成の焼酎ブームを牽引したのは芋焼酎と麦焼酎でした。トレンドを生み、時代を変えてしまうほどの魅力を持つ芋焼酎と麦焼酎の魅力を、両者の違いにフォーカスを当てながら検証していきます。
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芋焼酎と麦焼酎の違い1:原料
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芋焼酎の原料
芋焼酎の主原料はさつまいもです。40を超えるさつまいもの品種が原料として使われていて、焼酎の味わいに大きく影響しています。
数ある品種のなかでも多く使われているのが、黄金千貫(こがねせんがん)やシロユタカ 、ジョイホワイトといった焼酎用に開発された品種です。多くの人気銘柄に、これらのさつまいもが使用されています。
もっとも、最近では赤芋や紫芋、焼き芋などを用いた銘柄や、希少な品種で醸すこだわりの芋焼酎にも注目が集まっています。華やかな香りと甘味を持つさつまいもで造られた銘柄は、焼酎ビギナーにも親しまれています。
しかし、芋焼酎の味わいを左右するのは品種の違いだけではありません。産地や出来ばえ、生産者によっても風味や香りが変わってくるため、原料の情報は飲み手にとっても銘柄選びの重要なポイントになります。なお、麹は米麹を用いるのが一般的です。
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麦焼酎の原料
麦焼酎の主原料はおもに大麦。大麦には穂の形状の異なるいくつかの品種が存在しますが、麦焼酎では二条大麦や六条大麦を使用します。二条大麦は大粒大麦、六条大麦は「小粒大麦」とも呼ばれていて、麦焼酎造りで重宝されるのは粒の大きい二条大麦です。
麹は、長崎県壱岐地方の「壱岐焼酎」にはおもに米麹が使われていますが、「大分焼酎」の多くは麦麹を用いた全量大麦仕込みで造られています。
芋焼酎と麦焼酎の違い2:産地と歴史
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芋焼酎の産地と歴史
焼酎の伝来は15世紀ごろといわれていますが、鹿児島で芋焼酎が造られるようになったのは、さつまいもが中国から琉球王国を経由して薩摩地方に伝わった17世紀以降のこと。薩摩の漁師であった前田利右衛門が1705年に琉球からさつまいもを持ち帰り、研究を重ねた結果、庶民の食べ物として普及し、芋焼酎が造られるようになっていったのです。かつては、一般家庭でも当たり前のように造られていたといいます。
薩摩地方には農作物が育ちにくい土壌が広がっていますが、さつまいもはやせて乾いた土地でも収穫できるため、度重なる飢饉をしのぐ食物としてこの地に定着しました。現在も圧倒的生産量を誇る鹿児島県を焼酎王国たらしめたのは、自然のなりゆきだったといえるでしょう。
ちなみに、鹿児島県で製造される芋焼酎のうち、鹿児島県産の原料や水を使い、瓶詰めまでの全工程を県内で行ったものにのみ「薩摩焼酎」の地理的表示が認められています。
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麦焼酎の産地と歴史
麦焼酎は、16世紀に長崎県の壱岐(いき)島で誕生したといわれています。当時の壱岐島は、日本とアジアの国々を結ぶ海上交通の重要拠点だったため、焼酎造りにもその影響が見られます。また、麦や米の生産も盛んに行われていたことから、島特有の製造技術や焼酎文化が根づいていったのです。現在、壱岐島で伝統製法によって造られる麦焼酎は、「壱岐焼酎」の産地呼称で世界的に知られています。
一方、昭和の時代には、清酒文化が根ざしていた大分県で「麻地酒(あさじざけ」」というにごり酒を造っていた二階堂酒造が、米麹に代わる麦麹を開発し、麦100%の焼酎を発売。数年後には三和酒類が「いいちこ」を発売します。オール麦の焼酎の人気に火がつくと、第二次焼酎ブームが巻き起こりました。「大分麦焼酎」が地域ブランドとなった現在も人気は衰えることなく、平成30年度(2018年度)の大分県の乙類焼酎生産量は、全国3位を誇っています(国税庁調べ)。
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芋焼酎と麦焼酎の違い3:香りと味わい
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芋焼酎の特徴とその魅力
芋焼酎の特徴は、さつまいも特有の甘味や香りにあります。芋の品種や製法によって印象は異なりますが、なかでも黄金千貫で造られた芋焼酎は、上品な甘さと香りに定評があります。麦焼酎と比べると、全般的に芳醇でコクのある味わいが際立って感じられるでしょう。
芋焼酎は、仕込む麹によっても風味が違ってきます。芋の個性を堪能するなら黒麹、甘味や香りに加えて飲みやすさを重視するなら白麹仕込みのものをチョイスするとよいでしょう。また近年は、甘味の強い品種を使った銘柄やフルーティーな風味をもたらす黄麹仕込みの芋焼酎にも注目が集まっています。いろいろ飲み比べて、好みにピッタリの銘柄を探してみてください。
なお、食事と一緒にたのしむ場合は、しっかりとした味つけの料理と合わせるのがポイント。さつま揚げや煮物など、芋の個性に負けないおつまみを選ぶとよいでしょう。
麦焼酎の特徴とその魅力
麦焼酎の魅力は、麦の香ばしさと飲みやすさ。すっきりとキレのよい味わいのものが主流ですが、なかには香ばしさを際立たせ、麦チョコのような香りを引き出したこだわりの銘柄もあります。
麦焼酎と一口にいってもさまざまなタイプが存在しますが、麹の違いによって飲み分けるのも手。麦の香りとともに甘味をたのしみたいときは米麹を使用した壱岐焼酎、麦らしさを味わいたいなら麦100%(全量麦)の麦焼酎をセレクトするとよいでしょう。
麦焼酎は、芋焼酎に比べてクセが少ない分、どんな料理にも合わせやすいお酒。とくに、素材の味を大事にした薄味の野菜料理や、魚介のカルパッチョなど、さっぱりした味わいのおつまみと合わせると、麦の香ばしさが引き立つのでおすすめです。
焼酎とおつまみの相性を、さまざまな視点から考える
国内で生産されている本格焼酎のうち、約45%以上を芋焼酎、約40%近くを麦焼酎が占めている現在(2019年度、日本酒造組合中央会調べ)、そのおいしさを知らずに過ごすのはもったいないこと。機会があったらぜひ飲み比べて、好みの銘柄を見つけてみてください。