「酒は濁れど想いは一点のにごりなし」、にごり酒文化を発信し続ける、岐阜・三輪酒造

「酒は濁れど想いは一点のにごりなし」、にごり酒文化を発信し続ける、岐阜・三輪酒造

今や「白川郷 純米にごり酒」を醸す“にごり酒の酒蔵”として、全国的に有名な岐阜県の三輪酒造。同じ岐阜県内ではあるものの、地元から離れた飛騨地方の白川郷の名でにごり酒を造り始めることになった経緯や、製造のこだわりなどについてお話しを伺いました。

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歴史と文化が色づく街、大垣市

1878年(明治11年)の大火で焼失し、その後、再建された酒蔵。路地からは通りに面した南蔵を眺めることができます。

1878年(明治11年)の大火で焼失し、その後、再建された酒蔵。路地からは通りに面した南蔵を眺めることができます。

今から300年以上前、江戸を出発してから約5ヶ月間に渡り旅を続けた松尾芭蕉が紀行を終えたのが、岐阜県大垣市。歴史と文化が息づく「奥の細道むすびの地」として、また、市内には15本の一級河川が流れていることから、水の都としても知られるこの街に、三輪酒造は誕生しました。

創業は1837年(天保8年)。初代、三輪徳次郎が奉公先から独立し、造り酒屋を開業したのが始まり。鉄道が通る前、大垣の玄関口だった川湊のある船町を本拠地に選び、船の発着によって賑わう街で事業を発展させました。その後、大火事や大震災、戦中戦後の厳しい時代などさまざまな困難を乗り切り、創業時と変わらず大垣市船町の同じ地で180年に渡り酒造りを続けてきています。

酒蔵は歴史的な街並みの景観に寄与するものとして、平成23年に国の登録有形文化財に認定。この辺りの地域は昔から川の氾濫による水害が多く、二棟あるうちの南蔵は酒蔵としては珍しい三階建ての造りとなっており、さらに、石垣の上に建てられるなど、土地柄を考慮した工夫がされています。

北蔵・南蔵ともに戦災を免れ、明治期の建造蔵の形態をそのままに残しており、登録有形文化財に認定されました。

北蔵・南蔵ともに戦災を免れ、明治期の建造蔵の形態をそのままに残しており、登録有形文化財に認定されました。

15年前に環境が一転、日本酒業界へ

現在社長を務めるのは、八代目の当主、三輪研二さん。2003年に三輪家の婿養子として、また、後継者として迎えられ、三輪酒造に入社。2013年に代表取締役社長に就任しました。大学院を卒業後、繊維業界の企業に就職し、数年間の海外生活を経験するなど、日本酒とは縁遠い世界にいた三輪社長ですが、15年前に、大きく環境が変わりました。

「入社することが決まったときに、前社長である義父(三輪高史さん)に、『これからは、日本酒は飲むものじゃなく“売るもの”だぞ』といわれたことにとても驚きました。てっきり、“造るもの”といわれると思ったので(笑)。でも、酒蔵を維持し、そして発展させていく立場になることを考えると“売るもの”になるのは当然ですよね。その言葉で自分の中でギアチェンジが起こり、日本酒に対しての目線が大きく変わりました」。

日本各地のそれぞれの酒蔵で生まれる日本酒は、その一つひとつがこの世で唯一無二の存在であること、さらに、日本の伝統と文化を背負っている、尊い奥深さがあることなど、商品としての魅力に溢れていると語る三輪社長。自ら積極的に営業も行っており、現在は海外の販路も広がり、忙しく飛び回っています。

先祖代々続く三輪酒造の八代目として、蔵を率いる三輪研二社長。「三輪家と三輪酒造を大切に守っていくことが自分の使命です」。

先祖代々続く三輪酒造の八代目として、蔵を率いる三輪研二社長。「三輪家と三輪酒造を大切に守っていくことが自分の使命です」。

「どぶろく祭り」がきっかけで生まれた純米にごり酒

三輪酒造の看板商品といえば、「白川郷 純米にごり酒」。白川郷の合掌造りがデザインされた、版画調のデザインが目を引くボトルは、グリーンのガラス瓶越しに、お酒が白く濁っている様子が分かり、透明のお酒が瓶詰めされている一般的な日本酒とは一風違った、独特の存在感を放っています。
最初に誕生した「純米にごり酒」を発売したのは今から40年以上前。先々代である六代目の春雄氏が、親交のあった岐阜県白川村の元村長に、「どぶろく祭り」で土産用に販売できる“どぶろくのような酒”の製造を相談されたことがきっかけだったといいます。

「白川村では1300年前から、五穀豊穣や家内安全などを祈願する「どぶろく祭り」が開催されており、村民や観光客に御神酒である“どぶろく”を振る舞っていました。神社では御神酒として「どぶろく」を製造することはできますが、販売はできないため相談されたようです」(三輪社長)。
本来であれば、地元の白川村の酒蔵に製造販売を依頼するところですが、村内に酒蔵がなく、また、引き受けてくれる近隣の酒蔵も見つからなかったことから、相談を受けた春雄氏は自社で製造することに。

どぶろくは、「搾り」や「濾し」を行っていないお酒ですが、酒税法上は日本酒に分類されず、一般的な酒蔵が持つ清酒製造免許とは別の製造免許が必要なため、ほとんどの酒蔵で製造を行っておらず、当時、三輪酒造でもどぶろくは製造できず(その後、製造免許を取得)できるだけ“どぶろくに近いお酒”をイメージして生まれたのが「白川郷 純米にごり酒」だったそうです。

誕生した当時は、清酒(一般的に飲まれている澄んだ日本酒)の製造量も多く、にごり酒には特化してはいませんでしたが、1995年に白川郷が世界遺産に登録されたあたりから、「白川郷 純米にごり酒」の出荷量が増え、販路も広がり、徐々ににごり酒を中心に製造していくようになった三輪酒造。現在では製造量の9割以上がにごり酒となり、蔵の顔ともいえる商品となりました。

「白川郷 純米にごり酒」

「白川郷 純米にごり酒」

醪(もろみ)の発酵中、アルコール分が17~18度に達した時点で四段目の仕込みとして糖化した米を投入し、甘味をつける手法(甘酒四段仕込み)で造られたにごり酒。
甘味と酸味のバランスがよく、氷を浮かべてロックでも飲むのも人気です。
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上槽(じょうそう)には3mmのメッシュを使用

にごり酒の製造は、一般的な日本酒と違う特別な製造方法がある訳ではないと話す三輪社長。ただ、にごり酒としておいしく味わえるための、原料の選別や醪(もろみ)づくりへの工夫、技術の向上などのこだわりは大切にしていると語ります。

「麹米は岡山県産のアケボノ、醪に投入する掛米には岐阜県産の食用米を使用しています。研ぎ澄まされた味わいを出してくれる酒造好適米ではなく、普通に炊いて食べる食用米を、精米歩合70%と、磨き過ぎずに使用することで、醪を含んだにごり酒として、ちょうどよい旨味や酸味を含んだ味わいが生まれるんです」。

澄んだお酒とは醪(もろみ)を発酵させていく工程までは同じですが、上槽(じょうそう)と呼ばれる、お酒を搾る作業に大きな違いがあるにごり酒。一般的な日本酒は自動圧搾濾過機(通称:ヤブタ式)を使用して醪を酒粕と液体に分けますが、三輪酒造では、3mm方眼の網を使って濾しています。
網目を通らなかった米粒は取り除かれるため、濾した醪は滑らかな飲み口のにごり酒となります。

醪(もろみ)を搾る(上槽)際に使用する濾し器。

醪(もろみ)を搾る(上槽)際に使用する濾し器。

この網目を通るくらいの、しっかりと発酵をして米が溶けている醪づくりを行っています。

この網目を通るくらいの、しっかりと発酵をして米が溶けている醪づくりを行っています。

貯蔵によって、“鍛えられた”お酒に

また、火入れや貯蔵の工程にも、三輪酒造ならではの工夫が。溶けた醪を多く含んでいることから、火落ち(日本酒特有の劣化)を防ぐため、一度目の火入れの温度を通常よりも高めの70℃まで上げてしっかりと行います。その後、瓶詰をするまでの一定期間、タンクにて常温で貯蔵を行いますが、この工程を経ることが、安定した酒質に繋がっていると三輪社長は語ります。

「火入れ後に常温貯蔵をすることで日本酒には馴染まない表現ですが、お酒が鍛えられて丈夫になるんです。醪の時にしっかりと発酵をしてきているので、充分貯蔵に耐えられます。ここで鍛えられたことで、醪を多く含んでいるお酒でも、出荷後、売り場での劣化もなく、安定しておいしく飲むことができるんです」。

上槽、火入れの後、タンクにて常温で一定期間貯蔵することで、安定した酒質のお酒に。

上槽、火入れの後、タンクにて常温で一定期間貯蔵することで、安定した酒質のお酒に。

食感もたのしめるにごり酒のさまざまな商品開発を

一方、ニ度の火入れの工程を経た「純米にごり酒」とは逆に、火入れや貯蔵を一切行わない、「純米にごり酒 白川郷 出来たて生」や、瓶内二次発酵させた「炭酸純米 白川郷 泡にごり酒」という商品を誕生させるなど、さまざまなシーンでたのしく飲めるにごり酒の展開を積極的に行っています。

「にごったお酒には、味、香りに加えて、“食感”という三次元の感覚があります。澄んだお酒にはない“にごり酒ならでは”の、味わいのおいしさやたのしさを感じてもらいたいですね」。(三輪社長)

「純米にごり酒 白川郷 出来たて生」

「純米にごり酒 白川郷 出来たて生」

火入れを行っていない、できたての「純米にごり酒」をそのまま瓶詰めし、0℃より低い温度で貯蔵し、発酵を静めたお酒。
微発泡しているため、醪がなめらかなクリームのように感じます。
濃醇な味わいながらも、口の中に甘味が残らず、フレッシュな風味をたのしめます。
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「炭酸純米 白川郷 泡にごり酒」

「炭酸純米 白川郷 泡にごり酒」

発酵段階で発生するガスを閉じ込めて、瓶内で二次発酵させた発泡にごり酒。
アルコール度数は11度なので、マイルドな飲み口。
やさしい甘みが爽やかに弾けながら、口の中に広がります。
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地元・大垣市、そして、国内、海外の日本酒ファンの元へ

今後も、にごり酒やどぶろくの奥深さを極めながら、日本の文化を後世に伝えていくことも念頭におき、国内のみならず海外へ向けて発信し続けていく三輪酒造ですが、歴史や文化的な資源の多い地元の大垣市での、街づくりへの貢献も行っていきたいと三輪社長は語ります。

「かつて、幕末の頃、大垣藩の危機を救った小原鉄心氏が、三輪酒造の酒を飲み交わしながら、仲間と未来を語っていたというエピソードがあります。にごり酒ではない澄み酒も、長く地元で愛されている大切な商品。質のよい澄んだお酒を造るための技術の向上も、蔵にとってはとても重要ですので、今後もにごり酒だけに偏らず、大垣の歴史と共に歩んできた澄み酒の製造も続けていきます」。

日本の歴史や文化と向き合い、その想いを日本酒に乗せ、たくさんの人の元へ送り届ける使命を持って、三輪酒造はこれからもおいしい日本酒を造り続けます。

創業180年を記念して、今年4月に発売された「大吟醸 デューク 鉄心」。にごり酒ではなく、澄んだ日本酒です。

創業180年を記念して、今年4月に発売された「大吟醸 デューク 鉄心」。にごり酒ではなく、澄んだ日本酒です。

株式会社 三輪酒造
岐阜県大垣市船町4丁目48番地
TEL 0584-78-2201
http://www.miwashuzo.co.jp/

ライタープロフィール

阿部ちあき

日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会認定 きき酒師 日本酒・焼酎ナビゲーター公認講師
全日本ソムリエ連盟認定 ワインコーディネーター

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