日本酒造りに欠かせない「酵母」とは? 役割と種類を知っておこう

日本酒造りに欠かせない「酵母」とは? 役割と種類を知っておこう
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日本酒造りにおける「酵母」とは、アルコールや香りの成分を生み出す微生物のこと。日本酒を造るうえで欠かせないものです。今回は、酵母の役割や酵母が日本酒にもたらす魅力、大きく3つに分けられるおもな酵母の特徴、さまざまな酵母を使ったおすすめの日本酒銘柄などを紹介します。毎年6月30日は「酒酵母の日」です。

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日本酒の酵母とは?

日本酒の酵母とは?

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日本酒を造るときに使われる酵母とはどういうものなのでしょう。日本酒造りにおいての役割や酵母がお酒にもたらす魅力もみていきます。

毎年6月30日は「酒酵母の日」

6月30日は酒酵母の日。「酒造年度 / BY」が7月1日から翌6月30日までとなっており、その最終日に清酒業界全体で美味しい酒造りに欠かせない清酒酵母に感謝し、来期も美味しいお酒ができるよう願う日とすることが目的。岐阜県飛騨市古川町の老舗造り酒屋・渡辺酒造店が制定し、2019年に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録されたそうです。

ちなみに11月5日は「いい酵母の日」。「い(1)い(1)こ(5)うぼ」(いい酵母)の読む語呂合わせ。

さらに4月15日は「よい酵母の日」。「よ(4)い(1)こ(5)うぼ」(よい酵母)と登録されています。

そもそも酵母とは?

日本酒造りに使われる「酵母」とは、目には見えない微生物の一種で、英語では「イースト」と呼ばれています。樹液や花の蜜、果物などに多く見られるほか、空気中や水中、土の中など、いたるところに生息しています。

酵母は、多くの場合、糖を分解してアルコールと炭酸ガスに変える働きをします。この働きは「アルコール発酵」と呼ばれています。

また酵母は多種多様で、数百種類以上が存在しているといわれています。日本酒などの酒類をはじめ、味噌や醤油(しょうゆ)造り、パン作りにも欠かせないもので、それぞれに適した酵母が使われています。たとえば、加糖されたパン生地を使う菓子パンにはショ糖を分解する性質が強い酵母を使ったり、味噌には食塩に強く、味噌特有の風味が出る酵母を用いたりするなど、製造するものによって相性のよい酵母は変わってきます。

酒類を造るときに使われる酵母にもたくさんの種類があり、一般にワインには「ワイン酵母」、ビールには「ビール酵母」、日本酒には「清酒酵母」が使われています。清酒酵母にも多くの種類があり、造りたいお酒や目指す酒質によって異なる酵母が選ばれます。

日本酒造りでの清酒酵母の2つの役割

日本酒造りで使われる清酒酵母には、おもに2つの役割があります。「アルコールの生成」と「香り成分の生成」です。

◇日本酒造りにおける酵母の役割(1):アルコールの生成
日本酒は、原料米に含まれるデンプンを麹(こうじ)の働きで糖に変え、その糖を酵母の働きで分解し、アルコール発酵させることで造られます。

清酒酵母は、醸造酒としてはかなり高濃度のアルコールが生成できるという特徴を持っています。

◇日本酒造りにおける酵母の役割(2):香り成分の生成
日本酒特有の香り、とりわけ吟醸酒(ぎんじょうしゅ)系のお酒のフルーツを想わせる香りの成分は、清酒酵母の働きによって生まれます。

吟醸酒系の日本酒は、よく削った高精白米を5~10度前後の低温で仕込み、じっくり発酵させて造ります。居心地のよい温度が25~30度という酵母にとって過酷な環境ですが、一方で清酒酵母にはストレスが多い環境に置かれると香りの成分を生み出すという特徴があります。低温での発酵にも適しているため、吟醸造りにぴったりな酵母といえます。

酵母が日本酒にもたらす魅力

清酒酵母が日本酒にもたらしている魅力といえば、なんといっても香り。とくに「吟醸香(ぎんじょうか)」とも呼ばれる吟醸酒系のお酒のフルーティーな香りは、清酒酵母の働きで生み出されるものです。

吟醸香の代表的な成分には、「カプロン酸エチル」と「酢酸イソアミル」が挙げられます。カプロン酸エチルはリンゴのような香り、酢酸イソアミルはバナナのような香りを特徴としています。華やかな香りのお酒が人気となっている近年は、酵母の開発も進み、カプロン酸エチル高生産酵母や酢酸イソアミル高生産酵母も登場しています。

日本酒の酵母は大きく3つのグループに分けられる

日本酒の酵母は大きく3つのグループに分けられる

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日本酒造りで使われる酵母には、大きく分けて「協会系酵母」「開発酵母」「花酵母」の3つのグループがあります。それぞれの特徴をみていきます。

協会系酵母

協会系酵母とは、公益財団法人日本醸造協会が頒布している酵母のこと。ブランド名は「きょうかい酵母(R)」で、「清酒用」のほか「焼酎用」や「ぶどう酒用」の酵母などの頒布も行われています。

協会系酵母は、基本的に酒類製造などの免許を持つ蔵元だけが入手できるもので、日本酒造りが安定して行えることから広く使用されています。

1900年代の初めに協会系酵母の頒布がスタートする前は、それぞれの蔵にすみつく「蔵つき酵母(家つき酵母/自社酵母)」を使った日本酒造りが行われていました。良質な日本酒が造られる酒蔵には優良な酵母が存在するといわれ、今も変わらず自社酵母で醸造を行っている蔵元もありますが、その一方、偶然に頼るところが大きい蔵つき酵母には、安定した酒質のお酒を造り続けることが難しく、培養にも手間がかかるという一面があります。

多くの蔵元で安定した日本酒造りが行えるよう、醸造特性に優れた酵母や品評会などで高評価を得た蔵元の酵母を採取し分離、さらに純粋培養して頒布したのが協会系酵母の始まりです。

協会系酵母の1号は1906年に兵庫県の酒処・灘(なだ)の櫻正宗(さくらまさむね)から分離されたもの、2号は1912年に京都府の酒処・伏見(ふしみ)の月桂冠(げっけいかん)から分離されたものですが、2022年4月現在では3~5号などとともに頒布は行われていません。

現在、清酒用の協会系酵母には、秋田県の新政(あらまさ)酒造から分離された6号、「真澄(ますみ)」を造る長野県の宮坂醸造から分離された7号、「香露(こうろ)」で知られる熊本県の熊本県酒造研究所から分離された9号といったスタンダードな酵母のほか、香り成分の生成能力がより高い酵母や、発酵中に泡が生じない「泡なし酵母」、味わいにも影響するリンゴ酸を多く生成する酵母、赤色色素を生み出す赤色清酒酵母など、多種多様な酵母がラインナップされています。

開発酵母

開発酵母とは、自治体や大学などの研究機関などが手掛けた酵母のこと。多くの開発酵母は、その土地の水と米で造られる地元産の日本酒の質を高め、地域振興につなげることを目的として開発されています。

よく知られている開発酵母には、品のよい香りが特徴の「山形酵母」や、リンゴのような香りのカプロン酸エチルを多く生成する「長野酵母」、酢酸イソアミルを多く生み出す「静岡酵母」などが挙げられます。

また、開発酵母が全国的に使われるケースもあります。秋田県と秋田県酒造組合によって1987年から共同研究が始まり、1990年に誕生した「秋田流花酵母(AK-1)」は、ほどよい吟醸香とさわやかで軽快な飲み口を生み出す開発酵母で、1991年の全国新酒鑑評会では金賞26点を受賞。その優れた特性が認められ、1996年に協会系酵母に採用。「1501号」として頒布が開始されました。

花酵母

「花酵母」とは、さまざまな花の蜜に集まってきた酵母から日本酒の醸造に適した酵母を分離したもので、東京農業大学短期大学部醸造学科酒類学研究室の中田久保(なかたひさやす)教授(現・名誉教授)の研究から生まれました。近年ナデシコ、ヒマワリ、コスモス、イチゴ、サクラなど多くの「花酵母」が実用化されていて、基本的に「花酵母研究会」に所属する蔵元で使われています。

花から分離したといっても花の香りがするわけではありません。たとえばナデシコの「花酵母」なら、洋ナシを想い起させるフルーティーな香りとバランスのよいふくよかな味わいをもたらすなど、それぞれが個性豊かな香味を生み出します。

さまざまな酵母を使ったおすすめ銘柄

さまざまな酵母を使ったおすすめ銘柄を紹介します。

サクラの花の酵母を使った日本酒:盛田(もりた)「盛田 純米 AR4」

サクラの花の酵母を使った日本酒:盛田(もりた)「盛田 純米 AR4」

出典:盛田株式会社サイト

愛知県の蔵元、盛田が手掛ける、甘口の白ワイン感覚で飲める純米酒。名古屋大学農学部のサクラの花から採取、分離した「名大桜酵母」で、68%まで磨いた愛知県産の酒造好適米「若水」を仕込んでいます。

「名大桜酵母」は蔵元と名古屋大学農学部、あいち産業科学技術総合センターとの共同開発で生まれたオリジナル酵母です。

ほんのり甘酸っぱくジューシーなその味わいは、クリームソースのパスタなどと合うほか、チーズやチョコレート、ドライフルーツにもぴったりで食後のデザート酒としてもたのしめます。

製造元:盛田株式会社
公式サイトはこちら

リンゴ酸酵母を使った日本酒:名城(めいじょう)酒造「白ワインのような純米酒」

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リンゴ酸酵母とは、リンゴ酸を多く生み出す「リンゴ酸高生産性酵母」のことです。

リンゴ酸はリンゴやブドウなどの果実の中に含まれている有機酸の一種で、日本酒の味わいに関係しています。あとに残らないさわやかな強い酸味が特徴で、量が増すことで甘味と酸味の調和を手助けします。

リンゴ酸高生産性酵母を使用したこの純米酒は、兵庫県の蔵元、名城酒造が醸造しています。酒名そのままの白ワインを想わせるさわやかな酸味と甘味が特徴で、日本酒らしい日本酒が苦手な人でも飲みやすく、食前酒にぴったり。よく冷やすのはもちろん、レモンやライムを搾って飲むのもおすすめです。

製造元:名城酒造株式会社
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ワイン酵母を使った日本酒:高野酒造「ワイン酵母仕込み WiWi (わいわい) 純米吟醸酒」

ワイン酵母を使った日本酒:高野酒造「ワイン酵母仕込み WiWi (わいわい) 純米吟醸酒」

出典:高野酒造株式会社サイト

新潟県の高野酒造が、清酒酵母ではなく白ワインを造るときに使われるワイン酵母で仕込んだ、新感覚の純米吟醸酒。

ワイン酵母はブドウ果汁のアルコール発酵に向いている酵母で、日本酒を清酒酵母で仕込むときよりアミノ酸の量が少なくリンゴ酸の量が多くなり、すっきりさわやかな味わいになる傾向があるといわれています。

このお酒もさわやかな酸味と優しい甘味が特徴で、ワインと同じく洋食によく合います。アルコール度数が13度以上14度未満とやや低めなため、日本酒に飲みなれていない人にもおすすめ。冷やして、またはオン・ザ・ロックで飲むとおいしさがさらに引き立ちます。

製造元:高野酒造株式会社
公式サイトはこちら

アルコールを生み出すだけでなく、お酒の香りや味わいにも影響を与える酵母は、種類が多く個性も豊か。日本酒を選ぶときには、酵母の違いもぜひチェックしてみてくださいね。

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