<J-CRAFT SAKE蔵元探訪その④>新潟県新潟市・今代司酒造 蔵を開放し、日本酒を広めていく

<J-CRAFT SAKE蔵元探訪その④>新潟県新潟市・今代司酒造 蔵を開放し、日本酒を広めていく

2018年春に誕生、飲食店で料理とともにたのしめる“生酒(なまざけ)”ブランド『J-CRAFT SAKE』。非加熱・無濾過という難易度の高い清酒造りに取り組む「今代司(いまよつかさ)酒造」を、フードジャーナリストの里井真由美さんとともに訪ねました。

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“発酵食の町”で育った“昔と今をむすぶ”酒蔵

新潟駅から歩いても15分ほど。“新潟駅から最も近い酒蔵”というキャッチフレーズに偽りはなし。もし杉玉がなければ、和菓子店などと間違えてしまいそうな佇まいです。

新潟駅から歩いても15分ほど。“新潟駅から最も近い酒蔵”というキャッチフレーズに偽りはなし。もし杉玉がなければ、和菓子店などと間違えてしまいそうな佇まいです。

1767年の創業ですが、当初は酒の製造ではなく、酒の卸し業や旅館業、飲食業を営んでいたそうで、本格的に酒造りを始めたのは明治中期に入ってから。阿賀野川の澄んだ伏流水と、栗ノ木川(現在の国道49号栗ノ木バイパス)の水運に恵まれた沼垂(ぬったり)の地に蔵を構えてからは、120年余りが経っています。

今でこそ数は減っていますが、古くから沼垂には数多くの酒蔵や味噌蔵、醤油蔵などがあり、“発酵食の町”としても有名。また新潟には江戸や京都と並ぶ日本三大花街があったため、一流料亭の祝人さんたちの厳しい要求などに鍛えられるなど、味や品質の向上を目指していく環境が整っていったようです。

ちなみに「今代司」の名前は、本来「今の時代を司る」の意味ですが、蔵では「今の時代に合った酒のたのしみ方を創造する」と解釈。酒造という古くから続く産業をわかりやすい形で伝えながら、トレンドを先取りした試みも行うことで、より新潟の地酒に親しんでもらえるように努めています。

「本蔵」は現在貯蔵庫として使用されていました。

「本蔵」は現在貯蔵庫として使用されていました。

今では現存するものが少ない貴重な一斗瓶。「もしもお酒が入っていた(内容量は10升)ら、持ち上げるのは不可能ですね(笑)」。

今では現存するものが少ない貴重な一斗瓶。「もしもお酒が入っていた(内容量は10升)ら、持ち上げるのは不可能ですね(笑)」。

全国的に珍しい木樽での仕込みも、長い歴史のある蔵ならでは。

全国的に珍しい木樽での仕込みも、長い歴史のある蔵ならでは。

酒蔵見学は、愛好家はもちろんビギナーにも人気

酒蔵見学は、愛好家はもちろんビギナーにも人気

「フォトジェニックな展示が多くて、飽きることなく見学できます」。

訪問した際にまず驚かされたのは、ゲストの姿が多いこと。ざっと拝見したところで20代~30代の若い女性を中心に、みなさんとてもイキイキとした表情で試飲したり、買い物にいそしんだりしていました。少人数なら予約不要で、営業時間内の1時間ごとに酒蔵見学を催行しているとのこと。

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新潟の地酒を現地で親しんでいただきたいという想いから始めたそうです。

それならばと私たちも参加したのですが、半被をまとってスタンバイした里井さんは「記念写真も撮れるし、女性にはこういう気づかいが嬉しいですね」と満面の笑顔。コースの所要時間は約20分と短からず、長からず。蔵の酒造りはもちろん、新潟や沼垂地区の歴史についても蔵人が丁寧にガイドしてくれます。

日本酒の醸造工程は大変複雑なのですが、そこには細かく踏み込まず、わかりやすい解説を心がけているのが特徴。ひと昔前の看板や、古くから残る貴重な道具などが醸すノスタルジックな雰囲気に浸れた時間も、日本酒への興味を喚起してくれました。スポットを多用した暖色系の照明も風情があって、まるでテーマパークのアトラクションのようです。

昭和の時代に使用されていたと思われる、レトロな燗酒の自動販売機。

昭和の時代に使用されていたと思われる、レトロな燗酒の自動販売機。

順路の最後はショーケース。SNSに投稿したくなってしまうビジュアルです。

順路の最後はショーケース。SNSに投稿したくなってしまうビジュアルです。

無料の酒造見学ツアーの後は試飲とショッピング。酒造りのコンセプトやそこにかける想いを蔵人から聞いた直後とあって、みなさんの全身からは「早く味わって確かめたい」というオーラが。ワンコイン(500円)で10数種類が利き酒できるテイスティングコーナーがこれから混雑しそうです。

試飲用の酒器もスタイリッシュ。持ち帰れるので自分のお土産にも。

試飲用の酒器もスタイリッシュ。持ち帰れるので自分のお土産にも。

「ノンアルコールや低アルコールのアイテムも充実。アルコールが苦手な方や、ドライバーが一緒でもたのしめるのが嬉しいですね」。

「ノンアルコールや低アルコールのアイテムも充実。アルコールが苦手な方や、ドライバーが一緒でもたのしめるのが嬉しいですね」。

“米どころ新潟”で、純米にこだわった酒造り

使用米の玄米と白米が、銘柄ごとに展示されています。

使用米の玄米と白米が、銘柄ごとに展示されています。

今代司酒造の酒造りのコンセプトは、ずばり、“全量純米仕込み”。2006年に酒どころであると同時に米どころである新潟で、アルコール添加を一切行わない米のみによる造りに切り替えたそうです。前提にあるのは、地元の米農家をリスペクトし、新潟オールで発展していきたいという想い。さらに米以外の副原料を使えず、最後に味や香りの調整ができないという現場の緊張感ゆえ、より品質の高い酒を醸せると考えてのことでした。

「今では純米大吟醸、純米吟醸、純米酒と、純米だけを作る純米専門の酒蔵となりました」と杜氏を務める高杉修さん。ほぼすべての酒において、酒造好適米を100%使用しているのも特徴。タンクで発酵中の醪を覗かせてもらった里井さん、「純米酒の醪は香りが清々しくて、大変ピュアな印象ですね」という感想です。

このタンクで仕込まれていた醪が『J-CRAFT SAKE』に。

このタンクで仕込まれていた醪が『J-CRAFT SAKE』に。

下に掲載したのは、とある見学可能ゾーン。近づいて見ると看板からは「森酒舗」「森乃司」が読み取れ、今代司酒造とは一見無縁のように思えます。が、じつはこちら、この酒蔵でロケをした、『降りていく生き方』(武田鉄矢さん主演)という映画のセットの一部。奇しくも本物の純米酒作りにかけるというストーリーに、奮闘する自分たちの姿を重ね合わせた先代が共感、職人気質のため普段なら撮影の申し入れを断っていたところを了承。出来あがった映画を観賞して、純米酒造りへの活力を養ったと察せられます。

劇中に登場する純米酒「森乃司」を追求したそうです。

劇中に登場する純米酒「森乃司」を追求したそうです。

斬新なデザインやコンセプトのアイテムも

斬新なデザインやコンセプトのアイテムも

「お祝い事や海外へのお土産などにぴったりですね」。

長い歴史を持つ老舗蔵ですが、進取の精神に富んでいるのも特徴。例えば昨年創業250周年を迎えた記念事業として発売したのが、『IMAシリーズ』。IMAとは蔵の名前のイニシャルであると同時に、「Innovation(革新・発明)」「Masterry(司・熟練)「Art(芸術・美術)」の頭文字でもあります。

昨年11月に発売された『IMA牡蠣のための日本酒』は、直球なネーミング通り牡蠣と合わせるために醸した酒。まるで白ワインのような甘酸っぱくジューシーな味わいと、日本酒ならではの旨味が、生はもちろん、燻製やフライした牡蠣の複雑な味わいとマッチします。牡蠣の貝殻は描かれたボトルはスタイリッシュで、パーティーに持参すれば注目を集めそうですね。

生牡蠣に直接かけていただくのもおすすめだとか。

生牡蠣に直接かけていただくのもおすすめだとか。

ボトルデザインの斬新さでは、『錦鯉』にも触れないわけにはいきません。パッケージを横置きにして上から見ると、悠々と泳ぐ錦鯉の姿が。こちらは「グッドデザイン賞」をはじめ、世界中で20を超えるデザイン賞を獲得、蔵のシンボル的な商品になっています。

「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」で銀メダルに輝くなど、味も折り紙つき。

「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」で銀メダルに輝くなど、味も折り紙つき。

『J-CRAFT SAKE 紅(くれない)とき』

天然記念物である「とき」が、ラベルで挨拶しています。

天然記念物である「とき」が、ラベルで挨拶しています。

取材時は、温度を徹底管理できるサーマルタンクⓇで、絞られるのを待っている状態。先の『IMA牡蠣のための日本酒』をベースに、さらにコクと甘味を表現したタイプの清酒で、「28号酵母由来のやわらかな酸味と、青リンゴのようなさわやかな香りが出てくるはずですよ」高杉さん。

発酵は最終段階にあり、もう少しで飲める状態。

発酵は最終段階にあり、もう少しで飲める状態。

さて、『紅とき』に合わせるとしたら、どんな料理がおすすめなのか?をうかがいました。「やっぱり牡蠣ですが、コクと甘味が増幅されている分、ややクセのある青魚の刺身や酢締めなどとも合うのではないでしょうか」。

一方で里井さんは「レモンのような香りと酸があるので、牛タンとかもいいですね? そう焼き上がりにレモンを絞るイメージです」。割水なしの生原酒で、低アルコールの14度を実現。飲み口に軽快さも期待できそうです。

『紅とき』
■純米 無濾過生原酒
■使用米/五百万石
■精米歩合/65%
■アルコール度数/14度

今代司酒造の詳細はこちら

今回ご同行いただいた、里井真由美さん

今回ご同行いただいた、里井真由美さん

全国47都道府県、着物で世界20カ国以上を食べ歩くフードジャーナリスト。1級フードアナリストや米・食味鑑定士、唎酒師など多くの食資格を持つ。世界の高級レストランから和食・デパ地下グルメスイーツなど幅広い分野で情報発信し、テレビ出演も多数。現在、農林水産省 食料・農業・農村政策審議会委員、フードアクション・ニッポンアンバサダー、フランス観光開発機構オフィシャルレポーターにも任命され、国際的に活躍中。

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ会員。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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