「貴醸酒 (きじょうしゅ)」とはどんな日本酒? 甘味あふれる味わいの魅力や製法に迫ります
「貴醸酒」とは、仕込み水の一部を、水の代わりに日本酒を使用して造る甘口の日本酒のこと。今回は、貴醸酒の特徴や製法、高価になりがちな理由、甘くなる理由や後味がすっきりしている理由、貴腐ワインとの共通点、歴史、おいしい飲み方、おすすめ銘柄などを紹介します。
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「貴醸酒」はどんなお酒なのか、その特徴からみていきましょう。
「貴醸酒」は濃厚かつ気品のある甘味が特徴の日本酒
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「貴醸酒」とは、仕込み水の一部に日本酒を使用して造られるお酒のこと。希少価値が高く、濃厚で気品のある甘味を特徴としています。
長期熟成させたものが主流ですが、生にごり酒の貴醸酒などもあり、仕込みに使用される日本酒もさまざまで、バラエティー豊かな側面があります。
一般的な日本酒を熟成させると少し黒ずんだような黄色になることが多いのに対し、熟成させた貴醸酒は明るい琥珀色(こはくいろ)のものが多く、この色合いも個性のひとつとなっています。
「貴醸酒」の製法とは
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「貴醸酒」の造り方をチェックしていきましょう。
「貴醸酒」は仕込み水の代わりに日本酒を使って造るって本当?
「貴醸酒」を造る際、日本酒が使われているのは本当です。
貴醸酒の造り方は、一般的な日本酒の製法とほぼ同じなのですが、大きな違いは、醪(もろみ)造りの工程の一部で、仕込み水の代わりに日本酒が使われる点にあります。
日本酒の醪造りは一般的に、初添え・仲添え・留添えの3回に分けて仕込まれる「三段仕込み」で行われます。貴醸酒を造るときには、このうちの留添え(留仕込み)で日本酒が使われます。
使用される日本酒の種類や量の目安については、アルコール度数18~19%の原酒を、仕込み水のおよそ半量使用すると、留添え時のアルコール度数が、濃醇甘口の貴醸酒の酒質が得られやすい9%台になるとされています。
日本酒造りの一連の流れについては、こちらの記事も参考になります。
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「貴醸酒」が高価な傾向があるのは特定名称酒だから?
「貴醸酒」は、吟醸酒などの「特定名称酒」ではありません。8種類ある特定名称酒の条件にはあてはまらないため、特定名称酒以外の清酒(通称は普通酒)に該当します。
ぜいたくにも、水の代わりに、すでに製造コストがかかっている日本酒を使う貴醸酒は、当然ですが普通酒に比べて高価な商品になります。
なかには、特定名称酒のひとつである純米吟醸酒を使って造った貴醸酒もあるので、手に取る機会があれば、味わいはもちろん、価格もチェックしてみてくださいね。
特定名称酒についてくわしく知りたい場合には、こちらの記事がおすすめです。
「貴醸酒」はどうして甘いの?
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「貴醸酒」が甘口になる理由をみていきます。
「貴醸酒」が甘い理由
「貴醸酒」が甘口になる理由は、留添え時に日本酒を使用するためです。
ではなぜ、仕込み水の代わりに日本酒を使うと甘口になるのでしょう。
一般的な日本酒は、麹(こうじ)に含まれる酵素によって原料米のテンプンを糖に変え、その糖を酵母が食べてアルコールを生み出すことで造られます。
貴醸酒の場合、留添え時に日本酒を使うことで、醪のアルコール濃度が高まるため、酵母の活動が停滞。一般的な日本酒の場合なら酵母に食べられてしまうはずの糖が、醪のなかに残ることから甘口になるのです。
貴醸酒には糖分のほか、アミノ酸や有機酸などの成分も多く含まれていて、熟成しやすいともいわれています。熟成させることで甘味がふくらみ、さわやかな酸味や、レーズンやナッツを想わせる熟成香も生まれ、高級感が醸し出されます。
なお、酵母は日本酒を造る際、さまざまな役割を果たしています。くわしく知りたいときには、こちらの記事も参考になります。
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「貴醸酒」の味わいが濃厚なのにすっきりしているわけは?
「貴醸酒」は、糖分が多いほどマイナスの数値が大きくなる日本酒度でいうと、マイナス30以上のものもあるなど、甘口で濃厚な味わいの日本酒ですが、その一方、すっきりとした後味になる傾向もあります。
酸度が高めでキレを感じられることが、その理由として挙げられます。
また有機酸のうち、少しくどさがあるコハク酸より、リンゴ酸が多く含まれていることも、べたべたして甘いだけのお酒ではなく、すっきり品のよい味わいを生み出している要因と考えられています。
日本酒の甘口・辛口の目安のひとつである日本酒度については、こちらも要チェックです。
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「貴醸酒」が「貴腐ワイン」に似ているといわれるわけ
「貴醸酒」の味わいは、「貴腐(きふ)ワイン」にたとえられることがあります。
貴腐ワインとは、貴腐菌(ボトリティス・シネレア)というカビの働きで糖度が高くなった「貴腐ブドウ」から造られる甘口のワインのこと。
貴醸酒も貴腐ワインも原材料費が高く、希少性も高く、高価であるほか、琥珀色の色味や濃厚な甘味など、共通する点が多くあります。
甘味の成分に、アルコールの一種であるグリセリンが含まれているのも共通の特徴で、リッチで上品な甘味を生み出しています。
貴腐ワインの魅力については、こちらにくわしく掲載されています。
「貴醸酒」は意外に新しいお酒!?
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「貴醸酒」は、昭和48年(1973年)に、国税庁醸造試験場(現・独立行政法人酒類総合研究所)で開発されたお酒です。
きっかけとなったのは、国賓をもてなす晩餐会で供されたお酒が日本酒ではなく、フランス産のワインやシャンパンだったこと。
当時の日本酒には安価なイメージがあったため、晩餐会で振る舞われるにふさわしい、水の代わりに日本酒を使った高級な日本酒を造ろうと志したのです。
お酒でお酒を仕込む製法は、古くから日本にあったものですが、「貴醸酒」はそれらを取り入れて開発しようとしたものではなく、結果的に古代の製法に似てしまったというのが正解のようです。
なお「貴醸酒」は、貴醸酒協会の榎酒造の登録商標となっています。
「貴醸酒」という名称が使えるのは貴醸酒協会所属の蔵元のみのため、そのほかの蔵元が同じ製法で造ったお酒には「再醸仕込み」「酒仕込み」「三累醸酒」などの名称が使用されています。
貴醸酒を開発した国税庁醸造試験場の現在の姿である、独立行政法人酒類総合研究所については、こちらに参考記事があります。
「貴醸酒」のおいしい飲み方
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「貴醸酒」は、冷酒、常温、燗酒いずれでもたのしめる日本酒です。
新酒の貴醸酒なら、食前か食中に冷酒かオン・ザ・ロックで飲むのがおすすめです。
熟成させた貴醸酒の場合は、冷酒や常温、燗酒にしてもおいしく、とりわけ燗酒は、食後や寝る前の一杯にもぴったりです。
また貴醸酒には、味の濃いものや、甘味のある食材や料理がよく合います。なかでもチーズを使った料理やアイスとの組み合わせは絶妙で、バニラアイスに貴醸酒をたっぷりかければ、豊かな香りと品のよい甘味がたまらない大人のデザートとしてたのしめます。
「貴醸酒」のおすすめ銘柄を紹介
「貴醸酒」のおすすめ銘柄を4種紹介します。
八海醸造「八海山(はっかいさん) 貴醸酒」
画像提供:八海醸造株式会社
「八海山」で知られる新潟県の八海醸造の貴醸酒は、熟成前のできたてを瓶詰めしたもの。麹米に「五百万石」、掛米には新潟の米「こしいぶき」を使用。日本酒度はマイナス36.0で、さわやかな口当たりとやわらかで上品な甘さが特長です。購入後は手もとで熟成させ、色や味の変化をたのしむこともできます。
製造元:八海醸造株式会社
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新政酒造「陽乃鳥(ひのとり)」
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「きょうかい6号酵母」を生んだ秋田県の老舗蔵元・新政酒造の貴醸酒は、あらかじめミズナラの樽に入れて1年間追熟させた日本酒を使い、木桶で仕込んだ逸品です。「陽乃鳥」という酒名は、日本酒が醪のなかで生まれ変わる様を表現したもの。バニラのような香りがお酒の甘さをより引き立てます。
製造元:新政酒造株式会社
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黒龍酒造「黒龍(こくりゅう) 貴醸酒」
画像提供:黒龍酒造株式会社
江戸時代の創業以来、良質な日本酒を醸し続けてきた黒龍酒造が手掛ける貴醸酒は、上品な甘味に酸味がバランスよく調和した、ライトな味わいが特長の1本。地元福井県産の「五百万石」を原料米とする純米吟醸酒「黒龍 純吟」の原酒を使って仕込んだもので、熟した果物のような⽢酸っぱくリッチな味わいが堪能できます。
製造元:黒龍酒造株式会社
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寺田本家「木桶貴醸酒 『ささ』」
画像提供:株式会社寺田本家
蔵つき酵母や全量無農薬米を使用するなど、こだわりの酒造りで知られる千葉県の寺田本家の木桶貴醸酒。酒母(しゅぼ)は生酛(きもと)造りで、濃醇な味わいに定評がある「五人娘 純米酒」を使用。上品な甘味とまろやかな旨味、生酛ならではの酸味とコクが感じられる、凛とした味わいの無濾過酒です。
製造元:株式会社寺田本家
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希少価値が高いため、見かける機会が多いとはいえない貴醸酒ですが、商品ごとに個性があります。出会ったらぜひ手に取って、さまざまな味わいをたのしんでみてくださいね。