日本酒本来の味が生きる、原酒の魅力と味わい方を紹介
日本酒の原酒とは「加水」をせずに 仕上げたお酒のこと。アルコール度数が高く、そのお酒本来の濃厚な香味がたのしめるという魅力を持っています。今回は原酒の特徴、たのしみ方、おすすめの銘柄や「無濾過生原酒(むろかなまげんしゅ)」についても紹介します。
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日本酒の原酒とは?
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日本酒の原酒の製造工程上の特徴と、原酒が売り出される時期についてみていきます。
原酒とは水を加えていないそのままの日本酒のこと
日本酒の原酒とは、水を加えないで 仕上げたお酒のことです。
「水を加える」と聞くと、「原酒以外のお酒はかさ増ししているのか」と驚く人もいるかもしれませんが、これにはちゃんとした意味があります。もろみを搾ったままの日本酒のアルコール度数は、蒸溜酒の焼酎やウイスキーほどではありませんが、一般に18~20度と高め。そのため原酒以外の日本酒では、水を加えて15~16度程度にして味わいバランスを調整し、飲みやすくしてから出荷されるのです。
裏を返せば、水を加えていない原酒は日本酒本来の味わいがたのしめるお酒といえます。
なお、この水を加える工程は、「加水」または「割り水」と呼ばれています。日本酒は通常、酒質を落ち着かせるため、搾ったあとにいったん貯蔵されます。加水の工程は貯蔵後に行われるのが一般的です。
日本酒の原酒が売り出される時期
日本酒の原酒にはいろいろな種類があり、その種類ごとに売り出される時期が異なります。そのうち、生酒の原酒=「生原酒」と「ひやおろし」の原酒の旬をみていきましょう。
◇「生原酒」の旬
「火入れ」という低温加熱殺菌処理をまったく行わない生酒(なまざけ)の原酒=「生原酒」の多くは、秋に収穫した新米を仕込む新酒の旬と同じく、真冬から春先にかけて市場をにぎわします。
◇「ひやおろし」の原酒の旬
アルコール発酵したもろみを絞ったのち、1回だけ火入れを行う生詰め酒をひと夏熟成させた「ひやおろし」の原酒は、9月あたりから晩秋にかけて売り出されます。
同じ原酒でも、みずみずしいフレッシュさを感じる「生原酒」と、熟成させることでまろやかな口当たりになる「ひやおろし」の原酒とでは味わいも異なります。季節ごとにさまざまな原酒の味わいをたのしんでみてくださいね。
四季醸造といって、酒蔵内やタンクの温度調整をおこない、一年中醸造している酒造メーカーは、このサイクル以外の時期にも「生原酒」を出荷しています。
日本酒の原酒の特徴
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日本酒の原酒のおもな特徴をみていきましょう。
日本酒の原酒は「高アルコール度数」のお酒
日本酒の原酒のアルコール度数は高く、18~20度が主流です。
日本酒は醸造酒のなかでもアルコール度数の高いお酒です。その理由のひとつに「並行複発酵」という方法を使ってアルコール発酵を進めていることが挙げられます。
並行複発酵とは、原料米のデンプン質が麹(こうじ)の酵素によって糖分に変化する「糖化」と、できた糖分が酵母に食べられることでアルコールを生成する「発酵」が並行して行われる発酵方法のこと。並行複発酵を用いれば、糖化と発酵を別々に行う「単行複発酵」のビールなどより、糖分を効率よくアルコールに変化させることができるため、清酒酵母のアルコール耐性の高さも相まってアルコール度数が高くなるのです。
さらに、原料を3回に分けて仕込む「三段仕込み」を行ってゆっくり発酵させることも、日本酒のアルコール度数の高さにつながっています。
日本酒は通常、加水して15~16度程度にアルコール度数を調整しますが、原酒は水を加えないためアルコール度数は高いまま。高いアルコール度数は、原酒の力強い飲み口を生み出す要素のひとつにもなっています。
日本酒の原酒は「濃厚な香りや味わい」がたのしめるお酒
加水には、アルコール度数を下げて飲みやすくするほかにも目的があります。それはお酒の香りや味をほどよく整えることです。
原酒は加水を行わないため、お酒が本来持っている濃厚な香味をたのしむことができます。とりわけ、原料米由来の旨味と甘味がしっかりと感じられる味わいは、原酒ならではの魅力といえます。
アルコール度数が低めの原酒もある
近年の低アルコール酒の人気を受けて、アルコール度数が15度以下の原酒も登場しています。アルコール度数が高まらないよう酵母のコントロールに試行錯誤したり、味わいが薄くなりすぎないよう麹造りにプラスアルファの手間をかけたりと、各蔵元が工夫を凝らして造り上げる「低アルコール度数原酒」。この新しい原酒スタイルにも注目してみてください。
日本酒の原酒の飲み方
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日本酒の原酒をおいしく味わうための、おすすめの飲み方を紹介します。
オン・ザ・ロックで飲む
日本酒の原酒は高アルコール度数と濃厚な香味が特徴ですが、一方アルコール度数が高く味も風味も強いため、やや飲みにくいと感じる場合があります。そんなときは、オン・ザ・ロックを試してみてはいかがでしょう。
氷を入れたグラスに冷やした日本酒を注ぐオン・ザ・ロックは、力強い味と風味が持ち味の原酒にぴったりです。氷が溶ける間にアルコール度数が少しずつ下がり、味わいもまろやかになって飲みやすくなります。移ろいゆく味わいの変化をゆったりたのしみましょう。
オン・ザ・ロックでおいしく飲むためのポイントは、大きめの氷を使うこと。コンビニエンスストアなどで購入できる市販の氷は純度が高く溶けにくいため、時間をかけてゆっくりお酒になじんでいきます。また、グラスに注ぐお酒の量は、氷が溶けないうちに飲みきれるくらいがおすすめです。
カクテルにして飲む
日本酒の原酒は、カクテルベースにもぴったりです。濃厚な香りと味わいを持つ原酒はフルーツジュースや炭酸などの割り材とも相性がよく、日本酒の風味を損なうことなくおいしいカクテルが作れます。
ライムやレモンの果汁と合わせればさっぱりとした飲み口のカクテルに、乳酸飲料などと合わせれば甘酸っぱくマイルドなカクテルに仕上がります。フルーツの果肉を入れれば、見た目も華やかになるでしょう。
また、原酒とトマトジュースを1:1で合わせて「レッドサン」にするのもおすすめです。
日本酒の原酒のおすすめ銘柄
日本酒の原酒のうち、おすすめしたい2銘柄を紹介します。
菊水(きくすい)酒造「生原酒 ふなぐち菊水一番しぼり」
出典:菊水酒造株式会社サイト
新潟県・菊水酒造のロングセラー商品「ふなぐち菊水一番しぼり」は、フレッシュな果実を想わせる香りとコクのあるしっかりとした旨味がたのしめる豊かな味わいの生原酒です。
蔵元は、火入れも加水もしていないしぼったままの生原酒を「ふなぐち」と呼んでいました。お酒本来の味わいがたのしめる「ふなぐち」は、かつては蔵を訪れた人だけに振る舞われていた特別なお酒だったとか。現在では蔵元の尽力により量産が可能に。コンビニエンスストアなどでもおなじみのアルミ缶入りをはじめ、スマートパウチやキャップつきボトル入りの商品も誕生。場所を選ばす気軽に味わえるようになりました。
アルコール度数19度で飲みごたえたっぷりの生原酒「ふなぐち」は、オン・ザ・ロックがよく合います。
製造元:菊水酒造株式会社
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■福光屋(ふくみつや)「加賀鳶(かがとび) 純米大吟醸 極上原酒」
出典:株式会社福光屋サイト
石川県金沢市の老舗蔵、福光屋はすべての日本酒を米と水のみで醸す純米蔵として知られています。
蔵を代表する銘柄のひとつ「加賀鳶」は、「粋」をコンセプトキーワードとするブランドです。純米造りの技術を徹底的に追求。選び抜かれた米を使い、旨味とキレのある辛口をめざして造られます。
「加賀鳶」ブランドの最高級原酒である「純米大吟醸 極上原酒」も、契約栽培した酒造好適米「山田錦」のみを使用し、伝統の技で丹念に仕込んだ逸品。華やかな吟醸香(ぎんじょうか)と、軽快かつさわやかな旨味、そしてキレが際立つ極上の純米大吟醸酒です。
化粧箱入りのため、贈答用にもおすすめしたい1本。
製造元:株式会社福光屋
公式サイトはこちら
日本酒には無濾過生原酒(むろかなまげんしゅ)という原酒もあり
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「無濾過生原酒」とは、日本酒を造る際、通常アルコール発酵後のもろみを搾ったあとに行われる「ろ過」「火入れ」「加水」の工程をすべて行わず、もろみを搾ったそのままの状態で出荷される日本酒のことです。
原酒との違いは、加水のほか、ろ過も火入れも行わないこと。原酒ならではの飲みごたえある香味の力強さに、無ろ過酒の若々しさや、生酒のフレッシュ感が加わった味わいがたのしめます。
無濾過生原酒には、生酒と同じく火入れをしていないことから、酒質が変わりやすいという特徴もあります。必ず冷蔵庫で保管し、酸化が進む開栓(開封)後はできるだけ早く飲み切りましょう。
お気に入りの銘柄があれば、ろ過と火入れ、加水を行った一般的な日本酒と、原酒や無濾過生原酒を飲み比べてみるのもおすすめです。それぞれの魅力を存分に味わってみてくださいね。