古い日本酒は飲めるの? おいしく飲める目安や劣化したお酒の活用法を紹介
古くなった日本酒はいつまで飲めるのでしょうか? 一般的に長期保存が可能な日本酒には賞味期限が設けられていませんが、おいしく飲むための目安や適切な保存の仕方があります。今回は、日本酒をおいしく飲める期間や保存方法、古い日本酒の活用方法などを紹介します。
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日本酒に賞味期限はない?
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日本酒には賞味期限ではなく製造年月が記載される
日本酒のラベルには、賞味期限の記載がありません。アルコールを含んでいる日本酒は長期間の保存が可能なため、食品衛生法による賞味期限の表示義務がないのです。その一方で、酒税法により「製造年月」をラベルに明記することが義務づけられています。
なお、ここでいう「製造年月」とは、日本酒を瓶や紙パックなどの容器に詰めた年月のことで、醪を搾った年月のことではありません。そのため、同じ時期に醪を搾ったお酒でも、熟成期間によって表示される製造年月が異なる場合があります。
古い日本酒は味わいや香りが変化する
日本酒に賞味期限はないものの、いつまでも味わいや香りが変わらないわけではありません。おいしく味わえる「飲みごろ」は存在するため、できるだけ正しく保管し、適切な時期にたのしみたいものです。
たとえば、直射日光に当たる場所や高温の環境、温度変化の激しい場所に放置したりすると、日本酒の色味や味わい、香りに以下のような変化が生じてきます。
◇色味
糖とアミノ酸によるメイラード反応により透明から徐々に黄色味を帯び、さらに進むと褐色へと変わっていきます。
◇香り
とくに保存時の温度が高かった場合などに生じるポリスルフィドにより、老香(ひねか)と呼ばれる劣化臭が生じてきます。
◇味わい
通常よりも酸味が強まるなど、本来の味わいから変化していきます。
とはいえ基本的には、アルコールの殺菌作用により日本酒は腐敗しにくいため、古くなった日本酒を飲んで健康を害することはあまりないといわれています。色味がやや黄色がかっているくらいなら、少量を試して香りや味わいに問題なければ、そのまま飲むのもよいでしょう。
ただし、酸っぱい匂いが強いものや、最初は澄んでいて透明に近かったのに液体が白く濁ってしまったもの、沈殿物が多くみられるように変化したものなど、劣化が進んでいると思われる場合は、無理に飲まず、処分するか別の用途に活用するほうが無難でしょう。
白濁している日本酒は「火落ち」の可能性も
日本酒が劣化する要因のひとつとして、「火落ち」という現象があります。通常、アルコール度数の高い日本酒のなかでは腐敗の原因となる菌は存在できません。しかし、「火落菌」という乳酸菌はアルコール耐性が強く、繁殖して日本酒を劣化させることがあります。
「火落ち」が生じた日本酒は白く濁り、鼻にツンとくる特徴的な強い匂いを発するため、健康にはとくに問題がなくても飲用にはあまり適していません。
ただし、お酒が白濁していても、「火落ち」ではなくお酒に含まれる酵素タンパクが固まった「タンパク混濁(白ボケ)」の場合もあります。この場合は味や香りに大きな変化はなく、温めると消えるのが特徴です。基本的に飲んでも問題ありません。
日本酒が白濁している場合は香りなどから、火落ちしているかどうか判断します。迷った場合は購入したお酒屋さんや専門家に相談してみるほうが安心ですね。
古い日本酒は飲めるのか?
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日本酒をおいしく飲める期間の目安とは
日本酒がおいしく飲める期間は、日本酒の種類や造り手の目指した酒質によっても異なります。また、保存状態などにも影響されるため一概にはいえませんが、だいたいの目安を知っておくと役立つでしょう。
【開封前】
日本酒の製造工程では、酵母の働きを止めるために「火入れ」という加熱処理を行います。多くの日本酒は貯蔵前と瓶詰め時の2度のタイミングで火入れが行われますが、種類によって火入れ回数が1回のものや一度も行われないものがあります。開封前の日本酒は、この火入れの回数によっておいしく飲める期間の目安が変わってきます。
◇火入れ2回
火入れが2回行われている日本酒は、酵母の働きが止められていて品質が安定しているため、製造年月から1年以内はおいしく飲めるでしょう。
◇火入れ1回
火入れが1回しか行われない「生貯蔵酒」や「生詰め酒」は冷蔵保存が基本で、おいしく飲める目安は6~9か月程度が目安となっていますが、購入後はなるべく早めに飲むのがおすすめです。なお「生貯蔵酒」のなかには常温保存できるものもありますが、やはり冷蔵保存がおすすめです。
◇火入れなし
火入れが1回も行われない「生酒」も冷蔵保存が基本。製造年月から6か月くらいのうちに飲むのがよいといわれていますが、0℃から-5℃などの氷温保存ができない場合(つまりほとんどの人)は、早めに飲み切るのがおいしくたのしむコツです。
ただし、これらの目安は銘柄や蔵元の酒質設計によっても異なり、保存の仕方によっても変わってきます。お酒専門店で購入する場合は、おいしく飲める期間や保存方法を教えてもらうと安心ですね。
【開封後】
日本酒の種類に関わらず、開封した日本酒はなるべく早く飲み切るようにしましょう。開封後の日本酒は空気に触れることで酸化が進み、一般的には品質が劣化していきます。一週間ほどで味わいが大きく変わってしまうこともあるため、その前に飲むのがおすすめです。とくに「生酒」は味の変化が早いため、開封後3日くらいのうちに飲み切るほうが安心です。
日本酒の適切な保存方法
日本酒のおいしさをどれくらいキープできるかは、保存方法によっても大きく変わってきます。未開封であっても、保存方法が適切でない場合は日本酒の劣化が早まります。未開封の日本酒を保存する際は、とくに以下の点に気をつけましょう。
【紫外線を避ける】
日光や蛍光灯の光による紫外線は、「日光臭」という不快な香りを発生させるなど、日本酒を劣化させてしまいます。できるだけ光の当たらない暗い場所で保管しましょう。特に「直射日光は短時間でも厳禁」とおぼえておきましょう。
【適切な温度を保つ】
温度管理も非常に大切です。日本酒は、保存する際の温度が高いほど劣化が早まります。「要冷蔵」の表示があるものは冷蔵庫で保存し、それ以外のものもなるべく低温の冷暗所で保存しましょう。温度が高いほど熟成・劣化のスピードが早まります。また、急な温度変化も日本酒の劣化につながるため、できるだけ一定の温度を保てる場所に保存するのが理想です。
古い日本酒を味わう「古酒」というジャンルも
日本酒のなかには、長期間熟成させた「古酒」と呼ばれるお酒もあります。「古酒」は、褐色がかった色味や独特の熟成香、複雑で深い味わいが特徴のお酒です。「古酒」には法律上の明確な定義はありませんが、「長期熟成酒研究会」では独自に、「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」を「熟成古酒」と定めています。
「古酒」は一般的に、あらかじめ熟成させることを見込んで設計された日本酒を、倉庫や雪室などの冷暗所で貯蔵することで造られます。貯蔵の期間や方法は蔵元によってさまざまです。
熟成させるお酒のタイプによっては、常温熟成させるものや、常温と低温熟成を併用して造られる場合もあります。なお、常温貯蔵された日本酒は褐色がかった色味が強く出やすいのに対し、氷温(0度から食品が凍り始めるまでの温度)貯蔵で熟成された日本酒は無色に近いことが多いといわれています。
愛飲家のなかには、自宅で熟成させた「古酒」をたのしんでいる人もいるようです。ただ、「古酒」は長期間にわたって適切な環境下で保存する必要があるため、家庭では少々難しい部分もあるでしょう。しかしながら、長期熟成に適した日本酒を正しく保管できれば、自宅でも熟成された古酒をたのしむことができます。
古い日本酒を有効活用する方法
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古い日本酒の活用法1:料理酒として使用する
自宅で長期間保存し、そのまま飲むにはやや味わいや香りが落ちてしまった日本酒は、料理に使用するのがおすすめです。
米、米麹、水だけを原料に造られる日本酒には、食材の臭みを消す効果が期待できるほか、旨味やコクを引き出したり、食材をやわらかくしたり、味を染み込みやすくするといった多くのメリットがあります。煮物や炒め物など、さまざまな料理の味わいをランクアップさせることができるでしょう。
日本酒を使った料理としてひとつおすすめしたいのは、日本酒を使った鍋。たとえば、日本酒と昆布を入れた鍋で具材を煮てしゃぶしゃぶのようにポン酢でいただく「常夜鍋」や、広島の蔵元で考案された、たっぷりの具材を日本酒と塩・胡椒で煮込む「美酒鍋」などが挙げられます。鍋は冬のイメージですが、冷房で冷えがちな夏場などにもぜひ試してほしい料理です。
古い日本酒の活用法2:炊飯に使用する
料理酒として重宝する日本酒は、炊飯でも効果を発揮します。ご飯を炊く際に少量の日本酒を加えれば、日本酒に含まれるアルコールと糖分の働きによって米の甘味が増し、つややかでふっくらと炊き上げることができます。アルコールには匂いを抑える効果があるため、この方法で炊けば、古くなって少し匂いの気になるお米もおいしく食べられるでしょう。
また、冷やご飯や冷凍ご飯をレンジで温める際に少量の日本酒を加えれば、ふっくらとした食感を取り戻すことができます。
ただし、炊飯やご飯の温め時に古い日本酒を使用する場合は、白米のよさを損なわないように、褐色になっているものや、香りが気になるものは避けることをおすすめします。
日本酒をおいしく味わうためには、飲みごろを踏まえてたのしむのが理想といえます。とはいえ、少し古くなってしまった日本酒を捨ててしまうのはもったいないもの。色味や香り、味わいが変化した日本酒は、料理に活用してみてはいかがでしょう。