佐賀の日本酒【東鶴(あずまつる):東鶴酒造】若き蔵元杜氏が復活させた日本酒ブランド

佐賀の日本酒【東鶴(あずまつる):東鶴酒造】若き蔵元杜氏が復活させた日本酒ブランド
出典 : 東鶴酒造公式フェイスブック

「東鶴」は、佐賀県多久(たく)市の蔵元、東鶴酒造の日本酒銘柄です。一時休業していた蔵を、現在の蔵元杜氏が見事に復活させ、家族ぐるみで酒造りを行っています。チャレンジ精神にあふれる多彩なラインナップを含め、「東鶴」の魅力をたっぷり紹介します。

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「東鶴」の蔵元の歩み

「東鶴」の蔵元の歩み

出典:東鶴酒造株式会社

「東鶴」を復活させた6代目現当主

「東鶴」は、佐賀県のほぼ中央に位置する多久市の蔵元、東鶴酒造の日本酒ブランドです。

東鶴酒造は、江戸時代後期の天保元年(1830年)に創業した老舗蔵で、長年にわたり地元の人々に愛飲される酒を造ってきました。しかし、日本酒の需要低迷のあおりを受け、平成に入るころから酒造りがあまり行われなくなり、いつしか休業状態になったといいます。

蔵を復活させたのは、先代当主の長男で、現6代目当主の野中保斉(やすなり)氏です。当初は日本酒が好きではなく、蔵を継ぐ気もなかったという野中氏ですが、知人に紹介されて佐賀県唐津市の小松酒造の日本酒を飲んだところ、その味わいに感銘を受けたそう。そうして、「自分も旨い日本酒を造りたい」という想いが高まり、酒造りを始めたのです。

「東鶴」の試行錯誤

「東鶴」の復活をめざし、酒造りの世界に飛び込んだ野中氏は、山口県の蔵元、永山本家酒造場での修業を経て、平成21年(2009年)に自らが杜氏を務める形で東鶴酒造の蔵の歴史を再スタートさせました。

初年度は特別純米酒と純米吟醸酒を仕込んだそうですが、もともとの「東鶴」との味の違いが受け入れらなかったことから、蔵元は試行錯誤を重ねます。仕込み水と相性のよい米を探し、日本酒造りでもっとも重要とされる製麹(せいきく)の工程を見直して味を追求する一方で、販路も広げていったそう。

そうして少しずつ評価を高め、3年目には造った酒が足りなくなるほどになりました。初年度わずか25石(一升瓶で2,500本)だった生産量は、6年目には220石にまで増え、経営を軌道に乗せることができたのです。

「東鶴」の恩返し

「東鶴」の名が、全国の日本酒ファンに知られるようになった令和元年(2019年)、東鶴酒造は再び廃業の危機に直面します。記録的な大雨が佐賀県を襲い、甚大な被害をもたらしたのです。

8月28日に大雨特別警報が発令されたこの豪雨は、蔵のすぐそばを流れる川をあふれさせました。これにより蔵全体が浸水し、冷却装置などの機械類をはじめ梱包資材まで泥水に浸かり、約1,000本の商品が出荷できなくなったそうです。

蔵元は、大打撃を受けつつも、佐賀県内外の酒販店など多くの人たちに助けられて、約1か月後に酒造りを再開させました。そうして、被災時に出荷できなかった酒をブレンドし、再びろ過と火入れを行って仕上げた「つるのおんがえし」を発売します。旨い酒を造り、酒造りへの意欲を示すことで、復興支援への感謝の気持ちを表したのです。

「東鶴」はどんな酒?

「東鶴」はどんな酒?

出典:東鶴酒造株式会社
蔵元杜氏・野中保斉氏

「東鶴」の原材料は?

「東鶴」に使われている仕込み水は、蔵を構える多久市の山々から流れる伏流水。この水は、やわらかくすっきりとした味わいの良質な軟水です。

米は、酒米の王様「山田錦」をはじめ、「雄町(おまち)」「さがの華」「美山錦(みやまにしき)」「雄山錦(おやまにしき)」、そして栽培がとても難しく「幻の米」とも呼ばれる「愛山(あいやま)」など、日本酒造りに優れた特性を持つ酒造好適米がおもに使われています。

なかでも「さがの華」は、佐賀県農業試験研究センターで育成された地元生まれの酒造好適米です。「さがの華」で醸した「芽吹き うすにごり 生」などは、まさに佐賀を代表する地酒といえるでしょう。

「東鶴」の蔵元杜氏のこだわりは「伝統と革新」

東鶴酒造が平成の初めころに一時休業する前は、冬になると福岡県柳川市からやってくる杜氏と蔵人が、酒造りの中心を担っていました。当時は、木製の甑(こしき)などを使う昔ながらの酒造りで、口当たりのよい芳醇な味わいの日本酒を造っていたといいます。

現在の東鶴酒造は、6代目当主の野中保斉氏が杜氏も兼ねる「蔵元杜氏」の蔵で、野中氏を中心に家族ぐるみで酒造りを行っています。

野中氏の酒造りに対するこだわりは「伝統と革新」です。こだわりの根底にあるのは、「昔ながらのいい部分を継承しながら、自分たちで新しいことに挑戦していく」という想い。甑(こしき)は金属製に変わっても、搾りで使う槽(ふね)は健在であるなど、昔ながらの道具を使った酒造りも大切にしながら、革新的な「東鶴」を醸しています。

「東鶴」の多彩なラインナップ

「東鶴」の多彩なラインナップ

出典:東鶴酒造株式会社

「東鶴」のラインナップ~「レギュラー」酒

「東鶴」の多彩なラインナップのなかから、まずは定番のレギュラー酒2本を紹介しましょう。

【純米吟醸酒】
地元佐賀県産の「山田錦」を55%までていねいに磨き上げ、低温でゆっくりじっくり発酵させた純米吟醸酒。上品な香りと繊細な旨味が味わえます。食事をたのしくする「東鶴」のレギュラー酒です。

【純米酒】
「美山錦(みやまにしき)」を精米歩合65%で使用し、米の旨味を引き出すことと、キレのよいあと味を追求した「東鶴の顔」ともいえるレギュラー酒。なめらかな口当たりで、するりと飲めます。

「東鶴」のラインナップ~シーズン酒

続いて、季節ごとに発売されるシーズン酒を紹介します。四季折々の味わいをたのしめるのが魅力です。

【実のり 生酛(きもと)つくり】
「山田錦」と「雄町(おまち)」を精米歩合65%で使用。昔ながらの「生酛造り」で醸した秋の純米酒で、やわらかな酸味と旨味のバランスがよく、熟成した深味のある味わいがたのしめます。

【冬支度 おりがらみ 生】
「雄山錦」を精米歩合60%で使用し、搾りたてを手早く瓶詰めした、フレッシュな冬の純米生酒。タンクの底に沈殿した「おり」をあえて残した、ジューシーな旨味が広がる「おりがらみ」です。

【芽吹き うすにごり 生】
佐賀生まれの酒造好適米「さがの華」と一般米ながら酒造りに向いている「レイホウ」を精米歩合60%で使用した春のうすにごり酒。ふんわりやさしい甘口でジューシーな味わいの純米吟醸です。

【蝉しぐれ スパークリング 生】
等外の「山田錦」を55%まで磨いて使用した“純米規格”の夏酒。生きた酵母が生成する炭酸ガスを含んだ、のどごしのよさが魅力で、ほどよい香りと軽やかな旨味がさまざまな料理によく合います。

「東鶴」のラインナップ~意欲的な日本酒

蔵元にとって、意欲的でチャレンジングな日本酒も造られています。そのなかからいくつか紹介しましょう。

【結晴(むすばれ)】
希少な酒米「愛山(あいやま)」を精米歩合50%で使用した純米大吟醸酒。「愛山」由来の上品な甘味、穏やかな酸と香り、雑味のない旨味が味わえます。「この酒が酒縁となり素敵な出会いが生まれてほしい」「絆で結ばれている方へ改めて感謝の思いを伝えてほしい」という想いを込めて命名された「結晴」は、専用木箱入りで、贈答品としても人気です。

【純米吟醸生 WHITE】
精米歩合55%の「さがの華」を使用した純米吟醸生酒。日本酒は通常、黄麹で仕込みますが、この酒には焼酎用の白麹が使われています。白麹から発生するクエン酸由来の酸味により、さわやかで軽やかな甘さに仕上がっています。

【純米吟醸生BLACK】
「さがの華」を精米歩合55%で使用した純米吟醸生酒。こちらは、焼酎で使われる黒麹で仕込んだコクのある酒で、すっきりとした口当たりとさわやかな旨味、余韻がたのしめます。ほのかな梅酒系の香りが特徴的な1本です。


東鶴酒造は、さまざまな原材料や製法に挑戦し、旨い日本酒造りに邁進している蔵元です。過去には廃業の危機もありましたが、困難を乗り越え、意欲的に酒造りに取り組んできました。蔵元がこだわる「作り手の顔が見える酒」を、ぜひ味わってみてください。


製造元:東鶴酒造株式会社
公式サイトはこちら

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