「天吹(あまぶき)」花酵母によって醸される香り豊かな天吹酒造の酒【佐賀の日本酒】
「天吹」は、佐賀県の老舗蔵、天吹酒造の代表銘柄です。天吹酒造は300年以上の歴史を持つ蔵で、脊振山系の伏流水、吟味した米、そしてさまざまな花から純粋分離した「花酵母(はなこうぼ)」を使って「天吹」を醸しています。個性あふれる「天吹」の魅力を紹介します。
- 更新日:
「天吹」を造る歴史ある蔵元
出典:天吹酒造合資会社
「天吹」の蔵元と名の由来
「天吹」は、佐賀県東部のみやき町に蔵を構える天吹酒造の主要日本酒ブランドです。
天吹酒造は、「生類憐みの令(しょうるいあわれみのれい)」で知られる、第5代将軍・徳川綱吉が統治していた江戸時代の元禄年間(1688~1704年)に創業。以後、300年以上もの間、日本酒を造り続けてきた老舗蔵です。現在は、11代目の木下壮太郎氏が当主を務め、弟・大輔氏と兄弟で蔵を牽引しています。
「天吹」の名は、蔵の北東に位置するという天吹山に由来。その姿に思いを馳せて命名したと伝わります。
「天吹」は国の重要文化財の蔵で造られる
天吹酒造の建物は、いずれも明治期から大正期に建てられたもので、そのうちの一部が、国の「登録有形文化財(建造物)」となっています。
「仕込蔵」をはじめ、「貯蔵庫(旧白米倉庫)」や「瓶詰工場(旧仕込蔵)」といった日本酒造りに関する建物のほか、伝統的な住宅形式を伝える「主屋(しゅおく)」や造作が瀟洒(しょうしゃ)な「離れ屋敷」などの居住部分、イギリス積み煉瓦造りの「旧酒造蔵煙突」など、計9つの建造物が登録されています。
なお、2020年10月現在は休止されていますが、天吹酒造では事前申込のうえで「仕込蔵」などの見学ができる「酒蔵見学」を実施しています。※再開時期などの詳細は、蔵元の公式サイトを確認してください。
「天吹」は自然の恵みが活きる酒
出典:天吹酒造合資会社
「天吹」を生む水と米
「天吹」の仕込み水は、福岡県と佐賀県との境にある脊振山(せふりさん)系の伏流水で、地下約85メートルから汲み上げて使われています。この水はミネラル分が少ない軟水のため、まろやかな「天吹」の味わいを生み出すのに役立っています。
米は、「山田錦」「雄町(おまち)」のほか、「愛山(あいやま)」「壽限無(じゅげむ)」「秋田酒こまち」といった酒造好適米や、一般の食用米「夢しずく」や「ヒノヒカリ」「日本晴(にっぽんばれ)」など、さまざまな米を用いて、米の個性が活かされる酒造りが行われています。
「天吹」に使われる「花酵母」とは
「天吹」の大きな特徴は、東京農業大学の中田久保教授が生み出した「花酵母」が、仕込みに使われていることです。
日本酒造りにおいては「清酒酵母」を使用するのが一般的。近年は、公益財団法人日本醸造協会により選抜、育種された協会系酵母が広く使用されているほか、それぞれの蔵に棲みついている「蔵つき酵母」なども使われています。
これらとは異なり、自然の花々から純粋分離した酵母が「花酵母」です。
「花酵母」は、花の種類によって、以下のような香りや味を生むといわれています。
◇リンゴや洋ナシのような香り
ナデシコ、オシロイバナ、アベリア、リンゴ、蔓薔薇、ヒマワリ
◇バナナのような香り
ベゴニア、シャクナゲ、マリーゴールド、イチゴ、月下美人、蔓薔薇、ヒマワリ
◇リンゴ酸によるさわやかな味
リンゴ、アベリア、月下美人、イチゴ、マリーゴールド、ヒマワリ
「天吹」の造り手と「花酵母」の出合い
天吹酒造の当主木下壮太郎氏と、弟の大輔氏は、東京農業大学農学部醸造学科(現・応用生物科学部醸造科学科)の出身で「東京農大 花酵母研究会」に所属しています。
2人が「花酵母」で醸した日本酒を初めて口にしたのは、平成11年(1999年)のこと。その華やかな吟醸香と味わいは、普段日本酒を飲まない学生たちにも大好評だったことから、2人は「天吹」に「花酵母」を使うことを決意したそうです。
それから、どの「花酵母」がどの米と相性がよいのかを見極めるため、組み合わせを変えて何度も仕込み、3~4年かけてようやく発売に至ったといいます。当初は、「花酵母」で造った「天吹」に対して、得意先からの風当たりが強かったそうですが、蔵元はさらに試行錯誤を重ねることで、ファンを増やしていきました。
「天吹」でさまざまな「花酵母」の個性をたのしむ
出典:天吹酒造合資会社
「天吹」は国内外で認められている日本酒
かつて「天吹」は、普通酒を中心とする地元志向の強い日本酒ブランドでした。しかし、「花酵母」を使った特定名称酒中心の造りに方向転換してからは、平成16年(2004年)の全国新酒鑑評会入賞を皮切りに、12年連続で入賞を果たし、そのうち7度も金賞に輝くなど、実力のある蔵として全国に知られるようになりました。
さらに近年は、フランスで開催された日本酒コンクール「Kura Master 2018」や、イギリス・ロンドンで開催された「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2019」といった海外の品評会でも、高く評価されています。
このように、「花酵母」で醸す「天吹」は、日本のみならず世界でも認められる日本酒ブランドのひとつとなっています。
それでは次の項目以降で、「天吹」の個性的なラインナップを、使われている「花酵母」の種類とともに紹介しましょう。
「天吹」の彩り豊かなラインナップ:リンゴや洋ナシのような香りの銘柄
【天吹 純米大吟醸 中汲み/アベリア】
精米歩合40%の「愛山」を使い、質が高い中汲みの部分だけを集めた贅沢な1本。果実酒のような甘味とフルーティーな香りが調和するアベリア酵母を使用した、本物志向の逸品です。
【天吹 純米大吟醸 50/オシロイバナ】
佐賀県産米を精米歩合50%まで磨いて使用した、香り豊かでまろやかな味わいが堪能できる1本。オシロイバナ酵母由来の、リンゴや洋ナシのような香りが特徴です。「Kura Master 2018」の純米大吟醸酒&純米吟醸部門金賞受賞酒。
「天吹」の彩り豊かなラインナップ:バナナのような香りの銘柄
【天吹 生酛(きもと)純米大吟醸 雄町/シャクナゲ】
「雄町」を40%まで磨き、昔ながらの生酛造りで醸した、白ワインを思わせる純米大吟醸酒です。シャクナゲ酵母はバナナのような甘味と香り、しっかりした味わいが特徴。穏やかな香りもたのしめます。
【天吹 超辛口特別純米 火入れ/ベゴニア】
フルーティーな香りとしっかりとした味わいが特徴のベコニア酵母を使い、60%まで磨いた「山田錦」の旨味を存分に引き出した特別純米酒。完熟した味わいとあと味のキレが素晴らしい超辛口の酒です。
「天吹」の彩り豊かなラインナップ:さわやかでキレのある味わいの銘柄
【天吹 純米吟醸 ひまわり酵母/ヒマワリ】
「秋田酒こまち」を55%まで磨き、フレッシュな果実を思わせる香りとさわやかな清涼感を感じさせるヒマワリ酵母で醸した辛口純米吟醸です。ひんやり冷やしてスパッとキレのあるあと味をたのしめます。
【天吹 純米吟醸 いちご酵母 生/イチゴの花】
フレッシュさと爽快なキレが特徴のイチゴの花酵母を使用。精米歩合55%の「雄町」を軽やかに仕上げた純米吟醸生酒で、みずみずしい甘味、ほどよい旨味、きれいな酸味のバランスが絶妙です。スライスしたいちごを酒の肴に飲むと、おいしいマリアージュをたのしめます。
花酵母と米、そして造りの違いで、多種多様な香りと味わいを生む百花繚乱の「天吹」ブランド。紹介した銘柄以外にも、さまざまな花酵母の日本酒が造られています。花酵母の種類ごとに、飲み比べてみるのもおすすめです。
製造元:天吹酒造合資会社
公式サイトはこちら
佐賀に行って飲んでみたい! おすすめの日本酒(地酒)【九州編】